「実はこれ作った頃 J-RAPにはまってて」
松田 : 私は実はツネさん(ツネグラム・サム)がブログでヴィヴィアンのことを熱く書きはじめてから興味を持ったんです
H : そうなんだ
松田 : そんな感じでツネさんがヴィヴィアンに夢中になってから、わりとすぐ『一緒にやろう!』みたいになったんですか?
H : いや、ぜんぜんそういう話ではなくて、なんかたまたま偶然誰かの誘いで一緒になって
T : そっからは要所要所で。例えばうちの10周年の時に出てもらったりしてますね。忘れられないのが、震災直後の自粛ムードながれるなかで深夜に2マンやったことで。あの時、節電の問題とかもあったし、けっこうやっちゃいけないような雰囲気だったんですが、強行することを決めたんですよ。SHELTERもキャンセルが相次いで困ってたし。そんな時に、本多さんに予定通りやりますね、つったら、「芸術は長く 人生は短し」ってかっこいいメールいただいて賛同してもらって
H : あん時は、やめようかなみたいな気分は微塵もなかったね
T : まさかあの時は後にSPLITを出すとかは思ってもみなかったですけどね
松田 : いや、実はもうあの日のライヴの時からずっとこれは決めてたんです
T : そうだったんですね。なんかお互いにシンパシーを感じてはいるけど、こういう話が来るとは思ってなかったんでちょっとびっくりしました
H : やっぱりSPLIT出すならヤングパリジャンしか考えられないよ。あとは意外性もないし。ぜんぜん違う音楽やってるけど、でも、なんかしら共通点があるんだよね
松田 : まずはやっぱステージのただごとじゃないかんじと……
T : なんだろ? ベルリン期的な(笑)? 私はやっぱロックに恋焦がれてるからボウイの気分でいると、自分にとってのルー・リードやイギーやイーノに値する人を探しがちなんですよね。そうなるとフラッシュライツのレオさんだったり、本多さんだったりにそれを求めがちで。そんなこんなで凄い似てるわけでもないけど、なんか共通の匂いがあるんでしょうね
H : 表面の奥で共通してるとこがあるんだよ
T : だからどっちも好きって言う人けっこういますよね
松田 : 本多さんはよく、ナチュラルなもんが嫌いって言ってますよね
H : そうそう、そういうことなんだよ。作りものっぽいのが好きだね
T : アンチ・ナチュラリズムがグラムロックですからね。人工甘味料みたいな
H : (両バンドは)人工的なとこはすごい共通してるかもね
T : 歌詞にしても、自分の魂のメッセージ伝えたいとかないですもん
H : そうそう、ジョニー大倉だってそうじゃない? 自分の私生活を詞にしてみてみたいな、そういうジェームス・テイラー的なのもないしね
T : 考えられないです。もしそうなってたら誰かに注意してもらいたいくらいですよ(笑)
H : いや、そうなってもいいけどさ、別に心境の変化で。だってジョン・レノン好きじゃん?
T : 大好きですね
H : 俺も大好き。あの人はもう垂れ流しじゃないかってくらいに……
T : ジョンの魂垂れ流し(笑)。あれはもうもしかしたらそういう設定なんじゃないかっていうくらいに
H : だからわかんないよね、その辺は
松田 : 今回収録の『BOYS FROM HAWAII』はジョンレノンを殺した犯人のことを歌ってるんですよね?
H : そう、マーク・チャップマンはハワイに住んでたからね
T : あぁ、そうだったんですよね! そういやお互いビートルズの話はよくしますよね
H : ヤングパリジャンのメンバーはどうなの?
T : ギタリストふたりはストーンズ狂ですけど、最近はなぜかバンド内でビートルズが流行ってますね
H : 俺もストーンズもすごく好きだけどね。俺の一番好きなギターリストはキースだもん
T : あ、そうなんですか。意外といえば意外ですね
H : あんまりみんな支持してくれないけどね。また冗談いって!みたいなこと言って笑われるんだけど、ほんとなの
T : 言われてみれば、ちょっと髪型も60年代のキ―スみたいですね(笑)
松田 : 顔も似てますよ
H : いや、似てないよ(笑)。岸田森は似てるかもしれないけど、キースは似てない
T : まぁ、それはさておきまして(笑)。猛毒とか人間ホルモンより、そしてインテグレイテッド・スリィよりも本多さんがやりたかった音楽はヴィヴィアン・ボーイズってことでしょうか?
H : やりたいことはこっちだね。でも、人間ホルモンは人間ホルモンでやりたいことではあったけどね
T : あと、本多さんのソロ10インチ(「GHOST RIDER ON THE TRACKS」本多雄介/2002年)は凄いですよね
H : そうかなぁ
松田 : 俺はその前のギュ―ンから出てるカセット(– ロゴパグ 〜本多雄介の世界II)持ってますよ。あれはめちゃくちゃやばいです!
T : おぉ、それは聴きたいですね
H : いや、それはあんまり聴かせたくない(笑)
T : しかし、あの10インチはもうヴィヴィアンに通じるものはありますよね。インテグレイテッド・スリィもヴィヴィアン好きになって聴き直してみたら、すでにヴィヴィアンの片鱗はあるし
H : でも、違うんだよ。インテグはやっぱ、なかこう……アングラ臭が……
T : ギャルド?
H : いや、ギャルドを目指してるくせにそうなりきれてない。なんつったらいいのかな・・・・和モノ臭?
T : 和アングラ? ですかね。 そこは忌み嫌うとこなんですか?
H : いや、というより目指してるものはそうじゃないのに、曲作る時にギターでコードを弾いて歌いながら作ってると、その時点ではまだリフがないからフォークソングみたいになるんだよ。やっぱアレンジに気を付けないとね、そのままやると岡林信康みたいになっちゃう
T : あぁ、なるほど
H : そうなっちゃまずいからね。ギターでコード弾きながらなんの捻りもなくそのままバンドでやったらやっぱ岡林になっちゃうんだよ、誰でも
T : 私も初期の曲はアコギでコード弾きながら作ってるのが多かったですが……
H : でも、アレンジでバンドにのせる時にリフ入れるからそうならないでしょ? そこでアレンジしないと岡林になっちゃう。それはやだねえ
T : なるほど、では、そういう和風なところがヴィヴィアンになって払拭できたと。だからこそ今が一番やりたいことがやれてるって感じですかね
H : そうだね
T : ヴィヴィアンが一番ポップな……ポップアート的なポップさがありますね」
H : それもやっぱナオナオ(Dr/Vo)とやり始めたのがデカいかな。それで、そういう岡林的な和臭が一切なくなったからね、それが一番大きい。っていうのも、今までは俺が歌う曲だけだったし、自分が歌う曲を自分で作ってたんだけど、今はナオナオが歌うってことを考えて作ってる。他のヴォーカリストが歌う、しかも女性が、ってことですごい幅が広がったね。だから「ヒートウェーヴ」の歌詞にしても自分で歌うとなると恥ずかしくて歌えないですよ。あと、さっき「歌に魂をのせたりしない」って話をしたけど、ナオナオがまたそういう人で
T : すごいプラスチックですもんね
H : 歌詞を作って歌ってねっていうと一字一句間違えずに歌うんだけど、内容は自分には関係ないっていうか、別に内容を理解して情感を込めてとかじゃないからね
T : そんな感じですよね。私はそれを自作自演してます。私がツネグラム・サムに歌わせてるかんじです
H : あぁ、じゃあ分身ってことね
T : ああいうギラギラの衣装きたキャラがシャンソンっぽく歌ったら面白いだろうなとか、想定しながら
H : じゃあ作曲家としてのツネさんもいるわけだ
T : ですね。完全に別
H : 今、しゃべってるのは?
T : プロデューサー的、コンポーザー的な方ですね
H : じゃあ役柄みたいな感じですね
T : だから他のメンバーが歌った方がいいような曲だったら他の人に歌ってもらう、なんだったらメンバーじゃない人でもよい。ってなことも考えつつ今回はナオナオさんにコーラスで参加していただきました
松田 : 今回の2曲はどんな感じで選んだんですか?
T : ホントは早く音源にしときたい曲とか勝負曲を入れたいとこだけど、ヴィヴィアンとのSPLITにふさわしい曲ってので選んで。「ZIGGY BOY ZIGGY GIRL」は14年くらい前に2個目に出来たオリジナル曲なんですけど、そのまま1stに入れずに眠ってた曲で。今回引っ張りだしてきました
H : それはなんで入れなかったの?
T : なんかちょっと歌謡グラムみたいだなと思って。日本語日本語した歌詞だし。1stはもっと洋楽っぽくしたかったんで
H : 全然そんな風には思わなかったな。まぁ、たしかにヤングパリジャンにしては日本語詞感はあるね。でも、ほんとに70年代のそれを再現したようなヤングパリジャンのパブリックイメージそのままの曲ですごいなと思ったけど
T : 15年たってやってみたら今の方がしっくりきたんですよね。実はこれ作った頃 J-RAPにはまってて
H : J-RAP!? ECDとか?
T : J-RAPっていうとアレだな……日本のヒップホップですよ。ECDは今でも大好きですけど一番はまってたのはライムスターですね。だから『Glitter Satelliter』もそうですけど、韻を踏んだ日本語詞を作るのがおもしろくなっちゃって出来たんです。あの頃、ヒップホップすごい聴いてたなぁ……
H : え、そんなの初めて知ったよ。なんでなの? それは怖いもの見たさってかんじとか、キッチュなものを楽しむみたいな感覚じゃなくて?
T : いや、違いますね。元々子供の時からRUN DMC とかBEASTIE BOYSとか好きだったんで。80年代に洋楽ヒットチャート音楽聴きはじめたらテクノもヒップホップもブラコンもヘヴィーメタルも抵抗ないじゃないですか?
H : いや、俺もそれはそうだった。ヒップホップはすごい好きだったのよ
T : 今でもグランドマスターフラッシュとかは好きですね
H : 俺もドクター・ドレーまではきいたな
T : で、なんでJ-RAP? ってとこででしょ? 日本のラップって ♪DA YO NE, DA YO NEみたいなのばっかりだと思ってたけど、ライムスター聴いたら普通にかっこよくて好きになっちゃったんですよね
H : J-RAPは俺が高校生の時に日本の人がやってたやつがどうも駄目でね。なんかこうお説教みたいで
T : 文字通りWALK THIS WAY だったんですね(笑)
H : なんだか、うるせーなぁ……って思ってて
T : わははは。まぁ、そんなわけで一曲目の「ZIGGY BOY ZIGGY GIRL」 は実はそういう古い曲で。ヤンパリの歌詞は日本語でも日本語っぽく聞こえないようにしてるのが多いんですけど、これは日本語日本語してて。でも、今は逆にこういうのがいいような気もしてます
H : 出来れば英語でやりたいかんじ?
T : そうですね。それはもう昔っから
H : やっぱり“日本語はダサい”って感じだから?
T : いや、というよりも小学校の時から洋楽聴いて育ったから、ロックは英語だろうってのがありますよね
H : 俺もそうだけどね。でも、スターリンとかジャックスは好きでしょ?
T : スターリンはあんまり日本語感じさせないスピード感があるでしょ。やっぱ日本語にひきづられる旋律ってあるじゃないですか? あれが嫌で。あ、日本語うんぬんっていうか歌謡曲とかJ-POPみたいになりたくなかったんでしょうね
H : あぁ、なるほど
T : まぁ歌謡曲も元をたどれば洋楽からメロをもってきたりしてるから、あんまり気にすることないのかもしれないけど……。例えばやっぱスターリンとかっておもいっきり日本語でやってるけど、そういう臭みがないでしょ?
H : それはやっぱり言葉の選び方なんだろね
T : 本多さんの歌詞もそうですもんね。ヴィヴィアンボーイズも日本語日本語した感じしないもんな
H : そのさじ加減が難しい
T : 『HEAT WAVE』を日本語詞にしてる人なんか山ほどいそうですけど、ヴィヴィアンのはそういうのと明らかに違いますもんね
H : うん、だからそこは難しかったんだよね、さじ加減
T : 私はあの詞を読んだ時、もうこの人 天才だなと思いました
H : あれはわかりやすいラブソングにしたくて。いやもちろん人工で“つくりもん”だから、俺がその時だれかに恋してたとか全くないんだけど、フィクションとしてそういうわかりやすいラブソングにしたくて。でも、ダサくなるのは嫌じゃん? だからダサくならないようにするのはひとつの試練だね