PUNKSお仕事探訪 vol1:安藤直紀(フリーWebディレクター・プロデューサー)編

安藤直紀

LIVEAGE:「情報をまとめて伝える」っていうのが安藤さんのキーワードですよね。当時、MISSON UNDONEは八王子の大学生の必読書でしたから。「これ読めないとウチのサークル入れない」くらいのことやってましたもん僕。馬鹿だから(笑) 法政大学は左翼のたまり場だったんでそういう行動も当然でした(笑)スターリンが昔、学館でライブやって、川瀬さん(BLEW)がいて、ENVYが新歓ライブやってって相当刺激的な大学でした。

安藤: 八王子には法政大学以外もあるだろ(笑)法政がそういう大学って東京出てくるまで知らなかったんだよな。まあとにかく情報をまとめる以前にコミュティを作るという事に意識が向いていたんだろうね。
元を辿ると俺、Maximum Rockn’ Rollに記事を書いていた事があるのだけど。

LIVEAGE:えー!知らなかったです!何書いてたんですか?

安藤: 日本のシーンレポートとか。ネオハードコアテールとかジャパコアの現況を伝えてた。俺だけじゃなくて木内くん(SAP)も書いていたよ。それ読んで世界中から手紙が届いたりトレードしたりリップオフされたりして、この世界の熱量を知るんだよね。このハードコアって音楽自体が一個の大きな生命体のように感じてた。どんどん大きくなっていく中に色んな色の細胞があって、自分もその細胞の1つで。自分が何か活動すると、他の細胞が反応する、みたいな今まで経験したことのない生命体って捉え方してて。そんなの面白いと思わない?面白いよね?
だからプレイヤーと観客という普通のロック音楽のポジションに染まる前にシーンとか共同体の存在あっての音楽を意識した。これこそがハードコアなんだって。それがパンクの革新的たる所以だと思うけど、多分これって相当レアな感覚で。今でも他人と話すときはこの共同体の感覚を共有できてない前提で話すよ。
そんなわけで自分が特定の共同体の中で対象に向き合うというフレームワークでなんでも考えてるから、俺がどんなことをすれば皆が居心地のいい場所になるかって考え方をするんだ。これは音楽でもWeb業界でも変わらない。
シェアの概念が好きなんだけど、それは昔Maximum Rockn’ Roll を読んで、世界中の人が、自分の持つ能力をシェアするのを見てたからだねきっと。
自分の力を自分のために使うことと同じくらい共同体のために使う力配分も真似るようになった。そうした仕事を厭わないっていうのかな。裏方仕事も結構好きで。
で、話を戻すと、居心地のいい場所を作るのが俺の仕事でもあると思ってて。なぜならWeb業界の人は会社を超えて色んな知恵を共有してくれて。技術系blogとかすごいのあるじゃん。黙ってれば差別化要因にできることを積極的に共有するじゃん?こんなバカにでもだよ?
じゃあそれに対して俺は何ができるんだろうって考えて、すごい人のノウハウをパッケージ化して講義として学べるようにして、そのすごい人がした努力がギャラや知名度として対価を得られるようにしようとか考えた。
矢田君も何度か来てくれたWebSig24/7(ウェブの最新技術が学べる勉強会)もずっとこの仕事を続けていけるようにって考えた場所。

LIVEAGE:安藤さんはWebSig24/7の発起人なんですか?

安藤:いや、発起人ではないけど、初回の集まりの話をウチの副社長から聞いた時にメンバーとして参加することをもう決めてた。日本にも、ウチの副社長以外にもこんなすごい奴らがいるじゃんって。発起人は4人いて、5,6番目くらいに入ったほぼ初期メンバーかな。
だから仕事でも趣味でも共同体の裏方をやることが多いんだけど、どうにもマネタイズが下手で(笑)どうにかならないかねえ(笑)

LIVEAGE:WebSig24/7は為になりました。そのあと、デジハリの大学の講師になるんですか?

安藤: 講師として勤めてたわけじゃないし、講師専業の人ってほとんどいないんだよデジハリは。バリバリの実務家ばかり。で、俺は大学の方ではなくオンラインスクール(通信教育)の講師だね。今でも俺の動画が売られてるよ(笑)

LIVEAGE:でそのあと独立ですか?フリーになって食っていける自信はありました?

安藤直樹

安藤:正直全然自信はなかった。でもこれで生きていく方法を考えることも仕事の1つと思えばいいやって。とりあえず、このフリーランスとして生きるってこと自体が新規事業みたいなものだしやってみてから考えようと。
さっきも言ったけど教師と会社員の家系だったからそんなセンスは持ってないんだけど、だからこそこれできたら凄いんじゃないかって。
やってる仕事は、この業界に入った時と同じで、企業の事業計画に合わせてWebサイトを作ることを上流からお手伝い、それと講師業少々、というバランス。
で、PUNKに無理やりつなげると資本主義批判しながら自分が雇用されてるのって変じゃないの?社長や会社に文句言うなら自分でやってみてからじゃないの?なんなら自分で人を搾取しない最高の会社を作ればいいんじゃないの?最高の商品作っれば皆が買うだろうし、最高の会社なら優秀な人が集まるだろうし、消費者もバカじゃないから優れていれば支持するよね?会社に文句だけ言ってるのガキっぽくてなんかダサいなって感覚も持ち続けてて。
この業界に入った時には既に「資本主義が悪」で「俺たちは搾取されてる」って感覚が全然なくなってるんだけど、俺も「インディペンデントに生きる」ことを体験してみてからにしよう、手本見せてみようって思ったことも大きい。
灰色のサラリーマンを馬鹿にする凡庸なメジャーアーティストの喉元にカウンターを突き付ける気持ちもあるっちゃあった(笑)
お前らの曲作りはR&Dで、リハーサルは会議で、ライブはプレゼンだよ。メッセージがビジョンで。顧客満足度がギャラとして返ってくる。たくさんの人の人生を背負ってて、たくさんの人と協力して生きてる。会社員とたいして変わらねーだろって。会社員舐めんなって。だって資本家、社長ってピンキリで、すごい人をたくさん知ってるんだもの。音楽業界だって、ハードコアの世界だって変わらないでしょ?見下せるのかよ?それともそもそもいない敵に対して憤ってるの?って。
そんな考えもあってフリーでやってみることが自分には必要だろうと。看板がない状態で、自分に価値が作れるのか?インディって言いながら自分自身の人生をインディペンデントにつくっていけるか?
そんなこんなで丁度8年目?9年目?に入ってる。

LIVEAGE:順調にいってそうですよね。高い海外のアンプとか買ってますもんね(笑)

安藤:ご褒美です(笑)でも、別に俺は優秀なわけではなくて、人柄だけで生き延びてるなーって思う。全然成果でなくて凹むことも多いもん。けど、それでも俺に仕事を発注してくれるクライアントがいるって事に凄く感謝している。
皮肉なもので、フリーになって、あらためて、共同体とか仲間とかの大切さを余計感じるようになったし、会社や看板の存在ってありがたいと思う。逆にそうしたものがない分、自分自身も社会も生き方も俯瞰して考えるようになったり、とにかく主体性が違うよね。「良い社会をつくる」「良い共同体を作る」ということに対しても。だから震災のボランティアなどに関しても積極的に参加するようになった。
自主独立をもとめると逆に共同体に対しての重要性が見えてくるんだ実体験として。
「アンチソーシャル」みたいな事を言うことがバカバカしくなってきた。そして物事の見方も統括者として考える癖がついてきたなー。社長の立場だとこういう視点で考えるんだな、とかわかった。

LIVEAGE:選挙に対しても僕はtwitterでストレートに左翼的な事を書いてますが、安藤さんは違いますよね。舛添さんの件についても。

安藤:社員と経営者の立場があるとして、社員の立場というより、経営者の立場で世の中をみるようになったね。例えばアホノミクスって言うけど、じゃあ俺が総理大臣の立場だったら、どういう経済政策を取るだろう?
リーダーって配下の組織を永続させかつ発展させていくことが役割だよね。その役割を果たす際にどんな協議事項でどんな選択肢を選ぶだろうって考えると、単に誰かの下で言われたことをこなすだけでは見えてないこと考慮しなければいけないことってたくさんあって。何が正しいのか?勉強した上で今の意見が出来上がってて、それが正しいって自信がある。
脊髄反射で局所最適するよりも全体最適化を前提に各々をどうするかを考えないと。「合成の誤謬」という言葉があって。良いことをしてきたつもりが結果として最悪になる、ということを避けるには、あえて一見辛いこちらを選択しなければならない、ってことが矢田君とかとの違いに感じるんじゃないかな。ネットって誰が信用おけるかも重要な意見も可視化されるから、耳障りのいい言葉に惑わされなくていいね。大切な人とだけ議論していけばいいし。
国力弱まると弱い人から死んでく。そんな社会に自由なんかない。ダブルスタンダード、ポジショントークに騙されちゃいかんよ。言いたいのはそれだけ。
まあハードコアで自主自立って概念学んで、仕事や音楽でも実践して、改めて「共同体の大切さ」を感じているね。スティーブジョブスのスピーチじゃないけど、点でしかなかった出来事は全てこの意識でつなぐことができて。線になってるんだよね。だから今の仕事にも、この音楽を選んだことにも凄く満足している。正直、どっからどこまでが仕事で、どっからどこまでがOFFかもう分からなくなっている。毎日3時過ぎまで何かやってるけど、それで死んでやろうって思ってる。ワークライフバランスなんて知りません(笑)できれば柔術行く時間を増やしたいなーとは思ってるけど。

LIVEAGE:では仕事の話は大体聴けたので。tokyo unlearnedについて聞きたいんですけど。あんなに更新してつづけていける情熱ってどこから来ているんですか?今、70回とか超えてますよね。

安藤:うーん。それがまさに俺のいる場所にとって役に立つとおもっているから。10年後、20年後でもアーカイブが残ってるのは大事じゃん。今だからこそすごく意味のあることだと思うし。
そして日本は現時点では世界一の高齢化先進国じゃん。で、バイクでもサッカーでも古典芸能でも同じなんだけど、自分の好きなものがジリジリ衰退していくっていうのが嫌で。特にDIYハードコアシーンが廃村直前の村みたいに見えてね。すごいことやっててもアピールもしません内省もなく同じことだけ繰り返してたら、限界集落になるだけ。
それを見てるだけなのかな?これでいいんだ最近の若い奴はセンスがないって老害みたいなことだけ言って年取ってくのかな?
で「アメリカにあるカレッジラジオって日本にないな」とずっと思っていたんだけど、自分がやるという考えに及ばなかった時に、上杉くんが「podcastやろうと思うんです」って。そこで初めて「そうだ!自分がやればいいんじゃないか!なんで気づかなかったんだろう」って「やろう!一緒にやろう!俺をまぜろ!」と強引に上杉君が漕ぎ出そうとした船に乗りこんだ形。
これもやりたいことは一貫していて「居心地のいい場所をつくる」そのためにこのpodcastがどんな役割を果たさなければいけないのか?ってことを考えてやってる。好きなジャンルの特集回だけ聞いてくれてもいいし、気になる人のインタビュー回だけ聞いてもいいし、とにかく知らないバンドの情報を集めるために聞いてもいいし。何なら社内BGMに使ってもいいし朝の通勤時間の暇つぶしに聴いてくれてもいい。
サードウェーブコーヒーが流行って、ヒップスターのライフスタイルが浸透して、大量消費社会を離れるライフスタイルを選ぶ人がたくさんいる。新しい職業が生まれて、社会起業家もたくさん登場している。世界は確実によい方向に変わってて、大衆はもはやバカじゃないし、画一化してないし、盲目でもない。
すごいのに大衆に届いてないか、賢くなった大衆にとって選ぶ必要のないダサいものか、そのどちらかなんだよ。インターネット以降の世界とはそういうもの。だからまず届かせることをしたいなって。届いたうえでダサいカッコ悪いと思われるならそれは仕方がないじゃん。まぁとにかくTULは絶対に誰かの役に立つと思っているよ。打つ手が見えているのにそれをしないまま衰えていくのが嫌なんだよね。老害にもなりたくないし、もっと若い世代の支援もしたい。それで色々と考えたことをやってるのが現状だね。
誰の指示も受けない、自分の考えたことを実現していくだけ。それってハードコアの基本理念でしょ?

LIVEAGE:tokyo unlearnedはEndzweckという安藤さんのいたシーンとは違う上杉君(Endzweck)と組むとこで相乗効果が生まれてますよね。若い人にとってみては宝物だと思いますよ。最後、安藤さんが率いているkowloon ghost syndicateというバンドについて一言もらってもいいですか。

安藤:上杉君と組めたことが本当に正しかったなって思う。世代も少し違うしそれで相乗効果もあるし、押しかけたのも正解だったし、2人で先輩後輩関係なく意見を交わせることも彼だったからこそ。
バンドに関してはやるべきことをやりきって死にたいと思ったからなんだよ。東日本大震災がやっぱすごく大きい出来事で。
俺、ハードコアに30年関わっていながら、バンドだけやれてなかったんだよ。で、たくさんの人が津波で亡くなったりしたじゃない?当たり前のように来ると思ってる明日は当たり前のことじゃなかったって事実に改めて気づいて。震災で死んだ人ももっとやりたいことがあったと思うんだよ。俺なんかより立派ではるかに価値のある事を考えてたかもしれない。でもその人たちに明日は来なかった。そして、自分は生き残ってる。じゃあ死んでいった人たちに怒られないためにも、自分のやりたいこと、やるべきことは全部やらないといけないだろうって。そもそもお前が明日生きてると当たり前のように考えてる自信はどこからくるの?って。
でSOONに加入はするんだけど、クビになって(笑)ヤバいよねクビって(笑) だったら、自分の理想のバンドをやってやろうと。でOttawaとLEFT FOR DEADを組み合わせた音からスタートしたいって。この後の進化の方向性も自分の中ではあるんだけど、ソロプロジェクトではないからね。どうなるかわからない。

LIVEAGE:Kowloon Ghost Syndicate、松田さんのコーラスパート、凄いですよね。なんか、観てはいけないものを観たような。(笑)

安藤:まっちゃんはKowloon Ghost Syndicateの秘密兵器だから。ノドン6号だから。
まぁ趣旨に沿って最後まとめると、自分の元々あった価値観がハードコアや仕事の選び方に影響してるんだけど、逆にその選択が自分の価値観を変えることも多々あって。それが今の生き方や人生の実績に繋がってるような気がする。そして俺はこうやって生きてきてとても幸せだなと思う。この音楽に出会えて、楽しめて、そして自分の望む仕事ができて。そして柔術というこれもまた幸せになれる格闘技も楽しんでて。
いつ死んでもいいように、100%の力尽くして、惜しまれながら死にたいな。まだ死なないけど。
これを読んでくれた人に何か言うとしたら「仕事は大変だからこそ金がもらえる。社長は赤の他人。あなたの面倒を見る義務なんかない」「モラトリアム抱えてるって言うけど悩む量も工夫も足りてないよ」「泣き終わったらまた立て。ダサいから」「半ばは他人の幸せを」これは少林寺拳法創始者の宗道臣の言葉だからググって込められた意味を調べてみて。そんな感じです!インタビューありがとう!

LIVEAGE:LIVEAGE初インタビュー、いかがでしたでしょうか。PUNKから学び、それを仕事で実践し、また、PUNKに還元していく安藤さんの動き参考になった人もいるのではないでしょうか。
次回は筆者の大学時代のPUNK友達でもあり、現在は所沢市議会議員の島田かずたか君(民進党)をインタビューの予定です。こちらもお楽しみに!

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