11月、東京1公演のみながら、実に12年ぶりの来日を果たしたインダストリアル・メタル・レジェンド、FEAR FACTORY。今や唯一のオリジナルメンバーとなったディーノ・カザレス(g)以外のメンバーが総入れ替えとなったとはいえ、精緻な機械のごときサウンドはかつて以上の激しさを放つ、さすがのものだった。
今回はその総帥であるディーノに、サウンドチェック後インタビューを実施。さすがに元メンバーとの法的な争いを掘り下げるのも…と思い、それを踏まえてのディーノがFEAR FACTORYにかける思いや今後について聞いてみた。実は当日昼過ぎまで、インタビューを受けてくれるかわからない状況だったものの、いざ許可が出て始まってしまえばそこはプロ。簡潔かつ的を射た、それでいて短すぎない言葉で回答してくれた。
Interview by MOCHI
Translation by Sachiko Yasue
Photography by Kota Aoki
Special Thanks:Realising Media & TMMusic
――ディーノは2022年にSOULFLYのサポート・ギタリストとして日本に来て、DOWNLOAD FESTIVALに出演しましたよね。でもFEAR FACTORYとして日本で演奏するのは、2012年のヘッドライン公演以来12年ぶりになります。
「日本にまた来るのを、ものすごく楽しみにしていたんだ。日本はファンも食べ物も素晴らしい、100%大好きな国だ。前回ヘッドラインで来させてもらったとき、東京の会場は渋谷のCLUB QUATTROだったけど、今回のこのエリア(赤羽)はいろいろともう少しリーズナブルだね。楽しんでいるし、良い感じのライヴができそうだよ」
――FEAR FACTORYは2015年にも日本ツアーが発表されましたが、バンドの都合でキャンセルが発表されました。ただ僕が聞いた話では、メンバーが知らない間に発表されたということだったんですが、実際はどうだったんでしょうか?
「本当に?それは俺もまったく記憶にないな。その頃は特に日本に行けないような状況ではなかったはずだし。実は2017年にも日本ツアーのオファーがあったんだけど、残念ながら2016年頃から法的なことトラブルが起こっていたせいで、実現しなかったんだ。その2015年のライヴが会場も決まって発表されていたとしても、俺たちにはなにも伝わっていなかった」
――わかりました。それからようやく実現した今回の来日は、ディーノ以外のメンバーが新しくなるだけでなく、主催したプロモーターも初めてですよね。
「そうだね。今回プロモーターをしてくれた彼(Hayato Imanishi/Cyclamen、Realising Media)とは、日本に着いて初めて会って話した。でも状況の違いは関係なく、さっきも言ったように日本に来るのは楽しみにしていたよ。ミロ(・シルヴェストロ/vo)、ピート(・ウェバー/ds)といっしょに、本当ならトニー(・カンポス/b)も来られればよかったんだけど、アイツはSTATIC-Xのツアーが入ってしまったからね。ヘルプとしてLIONS AT THE GATEのスティーブン(・ブルワー)がプレイしてくれるよ」
――トニーに他のバンドや仕事のスケジュールが入ってしまった場合には、そちらを優先できるようにしているんですか?
「STATIC-Xは今、アメリカでかなり成功しているからね。そっちの予定が入ったら、トニーもかかりきりにならざるを得ないんだ。だからアイツは常にFEAR FACTORYにいられるわけではない。せっかくバンドがうまくいっているんだし、そのことは尊重しているよ」
――今回のヘルプメンバーのスティーブンがやっているLIONS AT THE GATEは、ILL NINOを脱退したメンバーが始めたバンドです。あなたもSOULFLYでギターを弾いたりと、90年代から2000年代にかけてRoadrunner Recordsで活躍したレーベルメイトとは、今も変わらず付き合いがあるんですね。
「もちろん。みんな昔からやってきた仲間だ。今LIONS AT THE GATEにいる元ILL NINOの連中…クリスチャン(・マチャド/vo)、アールー(・ラスター/g)、ディエゴ(・ヴェデュスコ/g)とは、ずっと仲良くやっているよ。特にクリスチャンは、俺がRoadrunner United(注:Roadrunner Recordsの25周年企画)で書いた曲でも歌ってもらったしね」
――メンバーチェンジについて、実は僕もバートン(・C・ベル/vo)の脱退にはショックを受けていたんですよ。でもミロが加入した後のライヴ映像を見たらものすごくうまくて、納得せざるを得ない感じになりました。ミロはオーディションで選ばれたそうですが、彼を採用した決め手はなんだったんでしょうか?
「まず第一に、君も言った通りヴォーカルとして素晴らしいこと。第二に、人間的にも良いヤツだということ。そして第三に、昔からのFEAR FACTORYの大ファンだということ。正直に言うとオーディションには、ただ単にヴォーカリストを探しているバンドがいるとか、キャリアと名前のあるバンドだからという理由で応募してきたような連中がほとんどだった。でもミロは初めて会って話したとき、マジでFEAR FACTORYのことを何でも知っていたんだよ。“ディーノ、あなたは昔こう言っていましたよね”なんて、20年前のインタビューのことを持ち出してきたりさ。そんなこと覚えているはずないのに(笑)。とにかくFEAR FACTORYのインタビューも、YouTubeに上がっている映像もほぼ全部チェックしているし、俺よりもバンドに詳しいくらいなんだ」
――では新しいドラマーのピートはどうでしょうか?
「ピートはHAVOKっていうバンドでもプレイしていて、2010年にヨーロッパでいっしょにツアーをしたんだけど、その時からこいつはすごいドラマーだと目を付けていたよ。今回新しいドラマーが必要になった時、声をかけたら即OKしてくれた。本当に細かい部分まで正確にプレイできるし、ライヴでのパフォーマンスもエネルギッシュで華がある。アイツが入ってくれて本当によかったよ」
――今のFEAR FACTORYですごいのは、ミロがバートンにそっくりな歌い方で、かつ音源以上の歌唱力があることなんですよね。バンドにフィットするような歌い方をするようにとか、彼に何かオーダーしたんでしょうか?
「いや、俺からミロに、歌い方とかヴォーカルのアプローチを指示したことは一度もないよ。アイツはもともとバートンにものすごく影響を受けているし、FEAR FACTORYの曲がレコーディングされた時のサウンドを尊重してくれているんだ。ところどころでミロならではのアイデアや歌い方も取り入れているけれど、それだけFEAR FACTORYを大切に思ってくれているということだね」
――先日ポッドキャストで、FEAR FACTORYが昔のラインナップで活動できない法的な理由を話していましたよね。それ以外にも、ディーノは一度バンドを追い出されていた時期もあったわけで。普通なら、もう復帰しないで新しいバンドをやって、ときどきFEAR FACTORYの曲をやるという形でも充分ファンは納得すると思うんです。でもディーノがFEAR FACTORYにこだわり続ける理由はなんでしょうか?
「俺はFEAR FACTORYを愛している。それが全てだよ。俺が始めたバンドであり、人生をかけてやりたいことなんだ。とはいえ、FEAR FACTORYから一度距離を置いてよかったこともある。もちろん最初に離れた時は悲しかったし、ツラかった。でもミュージシャンとしてもモチベーションは持ち続けていたし、それまでと違うメンバーと一緒にDIVINE HERESYのような新しいプロジェクトをやることで、より自由に音楽を作れるようになった面があるんだ。それに結局、俺がいない間にFEAR FACTORYは2枚アルバムを出したけど、最後にツアーをやったのが2006年で、それからはバンドとして何も動きがなかった。その後2010年頃にバートンとまた話すようになって、また戻ってこないかと言われたんだ。でもその時点でメンバーの間でいろいろと問題が起こっていたこともあって、俺も迷ったし、返事を待ってもらった。それから6ヶ月くらい経って、やっぱりまたFEAR FACTORYをやりたいという気持ちが強くなって、復帰することにしたということなんだ」
――離れて活動し、自分のいないバンドを外から見ることで、FEAR FACTORYのあるべき姿を再確認したような部分はありますか?
「そこはちょっと違うかな。というのも別のプロジェクトでは、FEAR FACTORYでやっていなかったようなことを積極的にいろいろ試したからね。そこで学んだことを今度はFEAR FACTORYにフィードバックしたから、より多様性が生まれる結果になったと思う」
――デスヴォイスとクリーンを織り交ぜたヴォーカル、バンドサウンドを基軸にプログラミングを混ぜる手法、バストラムをシンクロさせたギターリフ等、今のシーンで当たり前に採用されていることの多くは、FEAR FACTORYが始めた、もしくは確立したことですよね。後進のバンドを聴いて、自分でもそういった影響力を実感することはありますか?
「答える前に、そう思ってくれていることに感謝をさせてほしい。俺にとって最高の賛辞だし、めちゃくちゃ気分が良いよ(笑)。実際、俺たちよりも後に出てきたバンドを見て、影響を受けているなと思うことはある。ただ長い時間が経ってシーンも変わったせいか、俺たちが始めたことだと知らないバンドも多いのが実情じゃないかな。まぁ、さすがにそれで怒ったりはしないけど(笑)。でも初期のFEAR FACTORYがああいったスタイルを提示していなかったら、今ある音楽のスタイルやジャンルが別のものになったり、こうして形になるまでにもっと時間がかかっただろうね。そういった自負は持っているよ」
――昔はCHIMAIRAやSTATIC-X、SPINESHANKといったバンドを発掘して、ツアーのサポートに起用したりと、名前を上げる後押しをしていましたよね。今はそういった若手のフックアップのようなことはしていないんですか?
「昔とは違うからね。CHIMAIRAたちみたいな感じでのバンドのサポートはしていない。それよりもむしろ、個人レベルでの相談を受けることがあるよ。まぁ、俺もキャリアのなかで法的な面倒ごとはいろいろ経験しているからさ(笑)。“こんなことがあったから、相手を訴えようと思うんだけどどうだろうか”とか“音楽業界において、こんなことは珍しいことではないのか”とか、そういった業界を生き抜くうえでの法的な対処法や、立ち回りについてアドバイスを求められるんだ」
――改めてFEAR FACTORYのアルバムを聴くと、曲の構成が綺麗なんですよね。以前ディーノはU2のファンという発言を見たことがありますが、音を整理して、曲をコントロールするプロデュース的なことは、メタル以外の音楽に影響を受けたり、学んだことが影響しているんでしょうか?
「たしかに、メタル以外にもいろんな音楽を聴いてきたよ。70年代の古いロックバンドや、80年代のスラッシュメタルやニューウェイヴにシンセポップ…ゲイリー・ニューマンなんか“Cras”をカヴァーしたくらい大好きだったし、ものすごく影響された。特に80年代の音楽の影響が一番大きいんじゃないかな。とはいえ、プロダクション面についてはほぼ独学だね。そもそも参考になるような前例がなかったし。例えばMINISTRYやNINE INCH NAILSは、インダストリアル・ミュージックにメタルを取り入れるスタイルだっただろ?だけど俺たちは真逆で、メタルにインダストリアルの要素を取り入れる形だった。もちろん彼らに影響された部分はあるけれど、成り立ちが全然違うから、自分たちでやるしかなかったんだ」
――ちなみにギターとバスドラムをシンクロさせる手法は、METALLICAの“One”に触発されただけでなく、バンドが駆け出しの頃はサンプリングを使う予算がなかったから、機械的なサウンドを出すために思いついたと、以前インタビューで話していましたよね。
「そう、1995年くらいまでは活動費を捻出するのも大変だったから、サンプリング用の機材なんて買えなかった。1stの『SOUL OF A NEW MACHINE』では、当時スタジオにいたレイナー・ディエゴというヤツが、一部でちょっとしたサンプリングに近いものを入れてくれたけど、すごく原始的というか、今では考えられない機材とやり方だったもんだよ(笑)」
――最後に今後について教えてほしいんですが、そもそも今のFEAR FACTORYの正式なメンバーは、ディーノとミロだけになるんでしょうか?
「いや、正式なメンバーは俺とミロ、ピートの3人だね。トニーはさっきも言ったように、STATIC-Xがかなりうまくいっているし、わざわざほかのバンドでベースを弾く必要はない。でもアイツは、FEAR FACTORYでプレイしたいという気持ちひとつで、いっしょにやってくれているんだ。だからメインのベーシストではあるものの、やれる時に来てもらうという感じかな。ミロはマルチプレイヤーで、ギター、ドラム、キーボードができるし、プロダクションまでいける。だから次のアルバムでは、アイツのアイデアや個性もいろいろと取り入れたものになっているはずだよ。しかもうまいパスタを作る料理の腕まである(笑)」
――ということは、作業の大部分をメンバーだけで行えるし、次はほとんど外部の声や手が入っていない、純度の高いFEAR FACTORYのアルバムになるということでしょうか?
「アルバムの制作も始めたいところだけど、今のツアーが終わったら、ホリデーシーズンに入るからね。年が明けてから本格的に動き出すことになると思う。ピートがドラムを叩いて、ミロが歌って…まぁトニーはSTATIC-Xの予定が入らなければ、かな(笑)。実は曲はもうできあがっていて、レコーディングそのものはできる状態だから、2025年の秋頃を目途にリリースできたらと思っている。まさにFEAR FACTORYっていう感じだから、楽しみにしていてほしい」
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