――スタッフの間で、評判の声を一番多く聞いたのはどなたですか?
オークラ「いろいろな感想を聞きましたが、やっぱり〈MOMENT JOON〉さんですね。ライブを観たスタッフも口々に『凄かった』と言ってました」
――私もそうでしたが、初見の人が多かったのもあるでしょうね。オークラさんがブッキングしてくれたおかげで、ほんとに凄いライブに立ち会うことができました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。
オークラ「いえいえ、私はただプッシュしただけですので(笑)。でも、本当に開催後の反響は大きかったですね。『MOMENT JOONのライブで泣いた』という感想を複数の友人から聞きました。トークセッションにも飛び入りで参加していただいたのですが、ステージのイメージとは違って、控えめで謙虚で礼儀正しい好青年でした」
――オークラさんの推薦で〈MOMENT JOON〉さんの出演が決まったとお聞きしましたが、オークラさんのなかで決め手となった魅力はどこだったのでしょうか。
オークラ「ドキッとするようなダイレクトな言葉、知性、それを豊かな感情表現によって高いレベルに昇華しているところが魅力だと思います。加えて、〈THE M/ALL〉の全体をみたときに、彼のような表現者がいた方がラインナップとしてのバランスが良いなというのがあって、そこが決め手にはなりましたね。〈MOMENT JOON〉さんの表現って、ある意味ハードコアじゃないですか…」
――人によっては、クラストコアよりも衝撃を受けるかもしれませんね。ほかのラッパーが敬遠しがちなトピックに対しても真っ向勝負を挑んでますし、内角エグめのストレートをばんばん放り込んでいくタイプのラッパーなので、ハートの強さを感じました。オーディエンスも最初はデッドボールを受けないように仰け反ったりしますが、だんだんその球威に慣れていき、最後は内角エグめでも逃げずに心の芯でとらえようとするような、そんなスリリングなライブでしたね。
オークラ「魂が揺さぶられ、胸をすくような瞬間が何度も訪れますよね。そういうアーティストがいないと、全体的にもう少しおとなしくまとまってしまうかもと思いました。そうはしたくなかったのでプッシュさせてもらいました」
――〈THE M/ALL〉でかなりのプロップスを得たと思うので、これからほかのフェスに引っ張りだこになっちゃうかもしれませんね。
オークラ「引っ張りだこになっちゃってほしいですね(笑)」
――まだまだ話は尽きませんが、そろそろまとめに入りたいと思います。第1回目を開催して見えてきた課題などはありますか。
オークラ「そうですね。GALLERY Xで行ったトークセッションと、WWWやWWW Xでの音楽ライブが完全にセパレートしちゃっていたので、もう少し連動性が生まれる仕掛けをつくりたかったなと思っています。たとえば、GALLERY Xでやっているトークの映像をWWW側にプロジェクターで映して、その映像を見て気になった人はGALLERY Xに移動して、逆にGALLERY Xのほうでライブ映像を見て気になった方はWWWへ移動するなど、各会場がもう少しリンクするようにしたかったですね。あともう一つは、託児所やキッズスペース、バリアフリーなど、そういったホスピタリティ面を充実させたかったという思いはありますね。それが無くて困ったというお客さんの声を聞いたわけではないのですが、そういった打ち出しによって、今まででフェスなどから足が遠のいていた人にも参加してもらえるようなイベントにしていきたいですね」
――最後に〈THE M/ALL〉の今後の展望についてお聞かせください。
オークラ「“今後も続くとすれば”という仮定の話ですが、オンライン上にもモールを創りたいというのは、なんとなくあります。クラウドファンディングはそれなりの額を集めても、“それなりの手数料を持っていかれてしまう”というデメリットがあります。そういった運営資金を補えるような、自分たちの手で運営するオンラインモールみたいなものをやっていってもいいかなと考えています。あと、〈THE M/ALL〉は金銭的な利益はもちろんゼロですが、社会的・文化的な利益を中長期的に求めていくイベントだと思うんです。そういう価値観を共有できる、一緒にがんばってくれる新たなメンバーを探したいですね」
――クラウドファンディング以外の資金調達にもチャレンジしていきたいと?
オークラ「第1回目を終えた今、クラウドファンディングだけが必ずしも正解じゃないかも?と何となく思っているくらいの感じでしょうか。いろいろなやり方を模索していきたいですね」
――長時間のインタビュー、ありがとうございました。〈THE M/ALL〉に参加させてもらい、さまざまなことについて考えるきっかけやヒントをいただきました。フリーエントリーさせていただいた者の義務として、思考を前に転がしながら、今後も社会のいろいろな問題に積極的にコミットしていきたいなと、改めて思いました。第2回目の開催もぜひ期待してます!
オークラ「そう言っていただけると開催した甲斐があります。〈THE M/ALL〉をヒントにいろんな人が考え出して、新しいことをどんどんMAKEし始めたらいいですよね。こちらこそありがとうございました」
【インタビューを終えて・・・】
オークラさんはとても誠実で、気持ちのいい人だった。私は愛媛県今治市で開催している〈ハズミズム〉という音楽フェスの運営にも携わっているので、「フェスを興すことの難しさ」を多少なりとも知っているつもりだが、もうひとつ、「フェスを成功させるために必要なこと」も知っている。それは、私利私欲から遠いところに身を置き、いろいろな人の話をよく聞き、他人がやりたがらないことを率先してやるメンバーが複数いること、これに尽きる。おそらく5年以上続いているフェスは、そういったメンバーが多く参加していて、結束や絆も固いと思う。インタビューを通じて、オークラさんがその成功因子たり得る人物だということが分かったし、〈THE M/ALL〉において欠くことのできないキーパーソンだということも分かった。それともうひとつ分かったことがある。〈パンク/ハードコア〉のポジティブ・アティチュードがベースにある人は、歳を重ねても“実践者”であり続けるということ。ここで言う実践者とは、どちらかといえば哲学的な意味における“実践”を行う人で、倫理観のバランスに長けていて、モラルのある行動を実行に移せる人を指す。社会の風潮や事象などを冷笑している類の人間とは無縁の気丈さが、オークラさんからは伝わってきた。
繰り返しになるが、フェスを興すことは想像以上の労力を要し、新しい試みにチャレンジするのであれば、なおのこと困難がつきまとう。多くのフェス運営者は、日常のなかで僅かに余った貴重な時間をそれに充て、情熱とやりがいを混合燃料に変えながら自らを駆動させて、まだ出会っていない“だれか”に喜んでもらったり、楽しんでもらったり、何かをはじめるためのきっかけになってもらえたらいいなと思いながら、祭りの準備をしている。少なくとも〈THE M/ALL〉からはそういった姿勢が感じられたし、オークラさんとの対話でも確認することができた。
もしこの記事を読んでいただいた方のなかで、自分の地元でも「フェスを興したい!」という方がいたら、臆することなく実践してもらいたい。もしかしたら赤字が出るかもしれないが、大火傷をしないぐらいの持ち出しで済むのであれば、フェスに参加するお客さん側だったときには味わえない“対価”がきっと得られるはずだ。別にフェスでなくても構わない。友人とZINEを創ったり、街角で『BIGISSUE』を売っている方から雑誌を買ってみたり、地元のこども食堂に食材を寄付したり、支援したい署名運動に一筆添えたり…etc. 自分ができる範囲で何かを実践すればいいと思う。そのアクションがポジティブなものであれば必ず社会にコミットできるはずだし、まだ出会えていない“だれか”の力になれるはずだ。「MAKE ALL(すべてをつくる)のマインドで、この社会をいまより少しでもマシなものにするために」、私も自分が実践できることを、これからも考えていきたい。
ホンモノの実践者は、時間がないことを言い訳にはしない。〈THE M/ALL〉に出演したラッパーの〈仙人掌〉さんは、〈MOMENT JOON〉さんから受けたポジティブなヴァイブスを鮮度よくラップに昇華させ、アンサーソングをたった2日で作り上げた。“無知の知”を知り、学ぶことを止めない実践者こそが、社会を好転させていくと信じている――
【仙人掌氏が〈THE M/ALL〉出演後に発表したフリースタイルラップも必聴!】