入場無料の都市型フェス〈THE M/ALL〉を実現させたオークラ氏にインタビュー (後編)

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――そうだったんですね。私はHIP HOP系のアクトを中心に観ていたので特に強く印象に残ったのですが、いろいろなラッパーやDJがECDさんへの敬意をステージ上で表現してましたね。Bullsxxtのベーシストは“ECD IN THE PLACE TO BE”とプリントされたロンTを着ながら演奏してましたし、MOMENT JOONさんや田我流さんも曲間のMCでECDさんとの思い出話を熱く語ってました。あと、行松陽介さんがDJプレイの終盤にECDさんの曲をかけたときはフロアが物凄い高揚感に包まれて、『ECDさんの音楽はこれから先も“never die”だな』と、胸に込み上げてくるものがありました。もしあの場にECDさんがいたら、きっと後輩たちの意気を汲んで、生き様を刻印するような物凄いライブをかましてくれたと信じていますが、オークラさんにとってECDさんはどんな人物でしたか。

オークラ「ECDさんはやはり、路上と音楽シーンを繋ぐアイコンだったと思います。実際にECDさんがいるからデモに行くという人もいっぱいいたと思います。ECDさんって、日本のパンクの黎明期を知っている人物でもあったじゃないですか。東京ロッカーズのライブ写真にオーディエンスとして写っていたりとか。パンクは歴史的にみても、社会運動の延長線上にある音楽でありスタイルだと思うんです。そういった基本的な姿勢をずっと崩さず、体現し続けた人ですよね。〈THE M/ALL〉に出演してくださった演者さんがECDさんへのリスペクトを表したのは、そういった姿勢に魅せられてきたからだと思います。書籍やツイートなどからはもちろんですが、やはりECDさんの“行動”からみんないろんなことを学んだのではないでしょうか。これからもその精神はずっと生き続けていくんだろうなと。本来ボクなんかが軽々しく語れる人物ではないですよね…。デモの参加者の中にも、そしてラップミュージックやPUNKを愛する人たちの中にも、精神的な支えとして存在していて、これからも皆の心の中で生き続けていくんだろうなと思います」

――本当にそう思いますね。さきほども少し触れましたが、MOMENT JOONさんはMCのなかで、次のようなエピソードを話されていました。

「韓国での兵役を終えて日本に戻ってきた最初のライブを東京でやったのですが、お客さんが十数人しか集まりませんでした。そんな閑散としたフロアにECDさんが観にきてくれてたんです。ライブ後、初めてお話をさせていただいたのですが、彼がレジェンドだということは知っていたので、とても緊張しました。残念ながら今年の1月に他界されましたが、亡くなられた後に知人から、『ECDさんがラッパーとして復活したのはMOMENT君のあの日のライブに感銘を受けたからだよ』というエピソードを聞かされて、本当に驚きました…」(筆者回想)

このMCの直後に、ECDさんが感銘を受けたとされる“Racistには片方の中指 権力には両方の中指”というパンチラインが印象的な〈レッドバンダナ〉という曲をラップしたんですよね。あの一連の流れを現場で観ていましたが、WWWのステージにECDさんのスピリットは確かにあったなと感じました。物語性を強調したいわけではないですが、言葉を武器にしているラッパーだからこそ表現してみせた“魂の会話”だったり、カウンターカルチャーに積極的にコミットしてきた先輩からの“以心伝心”の答え合わせだったりを、あの日のMOMENT JOONさんのライブでは見せつけられたような気がします。

オークラ「そうだったんですね。実はボクはその時間、ちょうどトークセッションに参加していたので残念ながら居合わすことができなかったのですが、そういったお話を方方から聞いて、ほんとにブッキングして良かったなと思っています。それから、ECDさんの人脈というと、田我流さんにはWWWのトリを務めてもらいました」

――田我流さんは2nd(2012年リリース)の客演時に初めて会った頃の思い出話を語ってくれました。当時、ECDさんと初めてデモに行ったそうですが、普段は寡黙なECDさんが国会議事堂前で大きな声でシュプレヒコールを上げている姿をみて感化されたそうです。社会を変えるにはまず行動することが大事だということを、ECDさんから学んだともおっしゃってました。そういった経験を踏まえて会場のオーディエンスに向け、次のようなことも言ってました。

「オレなんか今月、車両税だわ、市民税だわ、たくさん徴収されてマジで生活大変だけど、今の政治をみてたら、税金の使い道とかに物言いたくなんない? なるっしょ? なにか主張したいことがあるならデモに行けばいいんだよ…」(筆者回想)

このMCの後に、ECDさんが客演した〈Straight outta 138〉を歌ったんですが、SEALDsのシュプレヒコールとしても一躍有名になった“言うこと聞かせる番だ俺たちが”というラインがくると、会場のお客さんが一斉にシンガロングしてたのが印象的でした。あの現場に居合わせた一人として証言させてもらいますが、日本のコンシャスラップでも十分にフロアを熱く沸かせられるし、スワッグなライブとして成立させることができるのだなと、改めて田我流さんのラッパーとしての資質の高さを再確認しました。

田我流さんもMOMENT JOONさんも、ECDさんへの賛辞の言葉をただ社交辞令的に述べるのではなく、楽曲やパフォーマンスとしてしっかり昇華させていて、ステージ上でECDさんと“魂の会話”を交わしている感じが最高にかっこよかったです。帰路の電車に揺られながら、もしECDさんの名曲〈ECDECADE〉に続きがあるなら、50代になる10年後(TEN YEARS AFTER)も私の“でかい頭が痛むことなく 動いてほしい”なと切に思いました。それと、〈THE M/ALL〉のような意志ある人たちがD.I.Yで作り上げたステージ上で、社会の腐った部分にスピットし続ける田我流さんやMOMENT JOONさんのようなコンシャスなラッパーのショウを、50を過ぎても観続けていきたいなと心から思いました。

オークラ「うれしいお言葉をいただき、ありがとうございます。今おっしゃっていただいたようなメッセージを汲み取ってもらえたのであれば、主催者冥利に尽きますね」

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