ブレーメンコア誕生
さて、この3つの要素これがブレーメンコアにどのような影響を及ぼすのでしょうか?
人口50万人強の中核都市、ブレーメンで近所に住むキッズが音楽に目覚めました。最初はSLAYERやMEGADETHから、やがてハードコアを知るようになります。
DISCHARGEやCIRCLE JERKSやBLACK FLAGなどパンクベーシック1から始まり、前述のSouth Of Heavenはヤバい刺激を求めるキッズにぶっ刺さり、己のアイデンティティにちょっとした優越感を与えてくれる大切な触媒となります。10-15歳くらいなんてジャンルなんて気にせず目に入るかっこいいものをなんでも取り入れていくわけで、このメタルとハードコアの同時啓蒙は後の彼らを作る重要な要素となります。
地元のハードコアシーンに出入りするようになり、陸続きのEU各国からツアーを行う国外のバンドのパフォーマンスをも目撃しながら、やがて92年のRORSCHACHとBORNAGAINSTのヨーロッパツアーでRORSCHACHと出会います。
日本ではBORNAGAINSTとCitizensArrestばかりがモテるのですが、RORSCHACHは特にヨーロッパでは90年代のクロスオーバーの優れたアプローチの一つとして受け止められており、日本では考えられないくらいの人気があります。
ブレーメンのショーではありませんが当時のツアーの映像がこちらで見られます。
(この時ボーカルのCHARLESはホジキン病で化学療法開けなんですよね。それでこの気合はヤバい)
そして昔のことを振り返ると、80年代のジャーマンハードコアバンドの有名どころとしてはUPRIGHT CITIZENSや(日本のEXCUTEとsplitを出した)INFERNO、PORNO PATROL、SPERMBIRDS、EMILSなどがいますが、正直イギリスやアメリカのハードコアバンドと比べると爆発力に劣っていると言わざるを得ませんでいた。特にEARACHEやMANIC EARS、Peacevilleといったレーベルの躍進と所属するイギリスバンドのクオリティに対して、ドイツの生真面目さ故か、政治性やメッセージはともかく、音楽的に突き抜け切れていなった印象があります。 これは80年代の、メタルとの融合が進んでいなかった時代の印象ですが、一方でドイツはジャーマンメタルというジャンルが確立されているように、メタルに関しては良質なバンドを数多く輩出していました。思えばクラシック大国であるドイツ人の感性はクラシックの影響を多く受けているヘビーメタル領域でこそ才能を発揮しやすかったのかもしれません(完全に主観です)
さて、92年はもう一つ、ドイツのAGEとDOWNCASTのツアーもありました。
80年代から始まっていた欧州協力体制が92年に正式にEUという共同体として発足し、超国家的な枠組みでヨーロッパ各国の行き来が自由になった時代に、多くのバンドに触れる羨ましいほどの機会が彼らに与えられました。その豊潤な果実の中に、Agnostic FrontやCRO-MAGSといったメタリックな要素を持ったNYHC勢やNOFXやBAD RELIGIONなどのメロディックハードコアのオーバーグラウンド化(より多くの観客を惹きつけたこと)ひいては商業化に対して異を唱える一派が含まれていました。90年代のハードコアシーン随一の皮肉屋SamMcPheeters率いるBORN AGAINST、社会主義的思想を背景にDIYやジェンダー問題などを新たな視点で提示し客のMoshを禁じ、血の気の盛んな男のエクササイズタイムではなく考える時間としてのステージパフォーマンスを提示したDowncastがこぞってEUツアーを行い、改めてハードコアとは何を意味するのかを各地に投げかけていくことになります。かねてからリベラルであったユーロハードコアシーンは、DIYであるとは何か?自立した状態でいることとは何か?女性を平等に扱うとはどういうことかを改めて問い、オープンマインドかつリスペクトの精神から様々な音楽スタイルがスクワットやハウスショーで交流することで、これまでの様式から外れた多くの音楽スタイルを生むことになりました。
これまでのメタルとハードコアの音楽的嗜好の蓄積、そこにBOLTTHROWERとRORSCHACHという強烈な新時代クロスオーバーの見本を見せつけられたブレーメンのハードコアキッズは、独自の感性でメタルとハードコアのブレンドを試みます。ハードコアを基本に置きながらメタルの要素を混ぜる。不協和音による陰鬱さと迫力をRORSCHACHから、破壊力をBOLTTHROWERをお手本として組み合わせることで、ブレーメンコアの基本フォーマットが出来上がりました。
ブレーメンコアの始祖ACME
ブレーメンコアで一番知られているのはACMEでしょう。
93年のデモ録音が編集盤となったこの一枚は当時にしては珍しく、アメリカのEDISON RECORDINGから発売され14000枚のセールスをたたき出します。今となっては想像つかないですが、アメリカのバンドはユーロ盤が出ても、ユーロ圏のバンドがアメリカから音源を出す(コンピ参加はともかく)といったことは非常に少なかったのです。そうした非対称性のあった時代に、それを打ち破った功績と実力はSEEIN REDなどと合わせて称賛されるべきです。
当初New Dealという名前でスタートしたACMEは、前述の3要素によってスピードに頼らない破壊力を追求し、同時にメンバーの情報を極力明かさないという秘密めいたポリシーのもと活動を行います。アメリカで始まっていたSICK OF IT ALLやEARTH CRISISの路線を継承したメタリックハードコアとは一味違う情念が感じ取れると思います。これがブレーメンコアの最初にして至高のフォーマットとして知れ渡り、CONVERGEや初期CaveInなどもACMEの影響を公言しています。そしてACMEは3年という短い活動期間で解散します。
CAROLCAROLはACMEに続いてブレーメンハードコアシーンに登場し、97年まで活動を続けます。
フランスのFINGERPRINTと並びハイトーンボーカルが際立つバンドですが、曲間のキメやイントルードなどはまさにRORSCHACHなどを彷彿とさせますし、ACMEとの共通項である不穏な旋律も聞けます。また当時のスクリーモだと珍しい2バスなのもタム回しやブレイクのオリジナリティを出しており、メタルインフルエンスを強めていますね。
彼らのファイナルショーがこちら
あーこれが見れると思うと楽しみすぎる!!
SYSTRAL
SYSTRALはACMEとCAROLのメンバーが合体したバンドですが、よりメタル色を強め、ブラストビートを取り入れたりツインボーカルツインギターとプレイヤーも増え、楽曲もよりデスメタルへのアプローチを取ったブルータルな出来に進んでいきます。
余談ですがSYSTRALは後期にDeath’nRoll的アプローチを打ち出し、それがまたカッコいいんですよね。
ENTOMBEDしかりBlack Breathなりロックンロールを少し取り入れてるバンドは総じてカッコいい。80年代、ハードコアに飽きてハードロック化するとショボくなってたのと雲泥の差です。
MORSER
ドイツの巨大迫撃砲の名を持つMORSERですがその名にたがわず、ボーカル3人、ベース2人ギタードラムの7人編成。
ACME/SYSTRALのギター、CAROLのドラム、MINIONのギターなど、ブレーメンコアの集大成的なバンドとして今も活動を続けています。
彼らも日本来たがってるのですが7人が立てるステージなんぞ限られててどうにもならんべw
ここまでがブレーメンコアの4KINGSです。 よく見かけるこのデザインにしても美しい。。。Graniphで絶対このTシャツ売ってる。そしてこの4kingsに続く形で、ご当地ブレーメンから多くのブレーメンコアが登場します。
Metoke
ブレーメンのクロマチックアルペジオの旋律をカクカクしたリズムに無理に組み込んでて正直なんだこれ?的なイントロなのですがボーカルが入るパートになるとおおーとなる隠れた名バンド。こういうグルーブの作り方、なんでしょうね。最初にFive Kinds Square見た時がこのイメージでした。
MINION
ACMEから派生したハードコアバンドですがDROPDEAD的というかよりストレートなハードコアアプローチの中にやはりあの旋律が入ってきちゃうわけです。ブレーメンを隠し切れない。とはいえChuiggaChuggaしたりメロディックナインタールードも盛り込んだりと意外な展開もあり聞き込むほどに味わいが出るバンドです。
Degarne
短命のバンドだったようですがブレーメンコアの中でも陰鬱ステータスに振ったスタイルですね。
そして彼らブレーメンコアのサウンドを支えるのがSYSTRALのギターDirkによるレコーディングスタジオKuschelrock Studiosです。東京におけるNOISE ROOMやVoidスタジオのような役割と言いますか、プレイヤーが自らの地元の音を支える立役者としても活躍するようになるのは世界どこでも同じですね。 後に紹介するSHIKARIなどもわざわざブレーメンコアのサウンドを求めてここでレコーディングしたほど。 SHIKARIのサイトにKuschelrock Studiosの様子が載っています。 SHIKARI recording at kuschelrock-studio なんて環境なの!
あえてブレーメンコアを音楽的に定義するならば
- メタルの暴力性とハードコアの暴力性を俺たちの地元流にミックス
- クロマチックアルペジオをメインとした陰鬱な雰囲気
- 音の間から滲むエモ感(日本で”激情”と称される感覚とは少し違う気がします)
- リズムのグルーブの作り方が一般的なハードコアの美学より大き目
- ブレイクやインタールードでRORSCHACHやDIE KREUZENあたりを参考にしつつ勢いは壊さない
- 勢いを重視し弾き込みすぎない
こんなところでしょうか。このブレーメンのスタイルはニュースクールハードコアやデスメタルとも異なり、メタリックでありながらI hate myselfやHoneywell、Heroinといったクラシックスクリーモと共通するエモっぷりを滲ませ、私のような人間だけでなくCONVERGEやZANNなどのバンドも影響を公言する至高のスタイルとして確立します。