数々の困難を乗り越え、シーンに復帰したTHE GHOST INSIDE。5年に渡る復活までの道を語る――

2015年11月19日、ツアーバスがトレーラートラックと衝突事故を起こし、双方の運転手が死亡するという悲劇に見舞われたロサンゼルスのメタルコア/叙情派ハードコア・バンドTHE GHOST INSIDE。バンドメンバー全員も重傷を負い、なかでもアンドリュー・トカチク(ds)は片足を切断することに。この事故は世界中のメタルコア・シーンのみならず音楽シーン全体に衝撃を与えた。バンドの行く末も暗礁に乗り上げたかに思われた…が、メンバーは根気よく治療とリハビリを続けるだけでなく、片足でもドラムをプレイできるよう、独自の機材を開発。2018年7月に復活ライヴを行うまでになった。そして今年の6月、自身の名を冠したアルバム『THE GHOST INSIDE』で見事カムバックを果たし、祝福をもって迎えられた。その痛ましい事故とそこからの復活、そしてリリース後のストーリーについて、ザック・ジョンソン(g)が語ってくれた。

Interview by Yoshiyuki Suzuki

Photography by Jonathan Weiner

 

――まず初めに、2015年に起こった事故からの復活作となる『THE GHOST INSIDE』のリリース、心から嬉しいです。この最新アルバムに関しては、いつ頃から構想を抱き、制作に着手したのでしょう?事故からまだ間もない頃、リハビリ中からすでに思い浮かんでいたところもあったりするのでしょうか?

「ありがとう!まずは新作をリリースすることができて、とても嬉しい。ずいぶん久しぶりだし、みんなで一生懸命取り組んできたからね。5年以上前に製作を始めた曲もいくつかあって、“Aftermath”もそのひとつだ。この曲は事故の前にはすでに書いていて、あの事故にあったバスの中でも作業をしていた。アルバムがようやくできあがって思うのは、自分に起こったことすべてをこうして明確にするのは、僕たちにとってものすごく重大だということ。アルバム『THE GHOST INSIDE』は、身体的にも精神的にも、僕らがやり遂げた最大のリハビリだった」

――困難をくぐり抜けたメンバー同士、絆も深まったでしょう。レコーディングの雰囲気も、やはり以前とは違うものになっていたのではないかと思います。レコーディング作業中はどんな様子だったか、また印象に残っているエピソードなどを教えてください。 

「このアルバムのプロセスは、これまでとはまったく異なるものだった。まず、みんなで集まって作業を始めることができたのが、夢のようだったよ。実はロサンゼルスのThe Shrineで行った復活ライヴ(2018年7月13日)以来、5人が同じ部屋に集うのはレコーディングが初めてだったんだよね。僕らは腰かけて、なんというか…ある意味呆然としながら“あぁ、またみんなで活動できるんだ!”って口にした。ここ数年の生活について、メンバーそれぞれの視点や感情を聞くことができたのは本当に良かったし、それを各楽曲や歌詞、アイデアに取り入れた。僕はメンバーみんなをとても誇りに思う。アンドリュー(・トカチク)がこのアルバムの全曲でドラムを叩いたのは、本当に凄いことだった。彼は最高だよ」

――ギタリストがアーロン・ブルックス(g)からクリス・デイヴィスに交代してから初レコーディングということにもなりますが、クリスは本作に置いて、どのような貢献を果たしましたか?

「クリスは素晴らしいギタリストでありミュージシャンだから、加入してもらえたのはラッキーだったよ。音作りにも貢献してくれるし、バンドとしての僕らに、メタル的なテクニックや、より良い雰囲気をもたらしてくれている。それに、彼は自分のスタジオの経営もしているから、作曲はもちろん、レコーディングもプロダクションも、あらゆる角度から対応できる。彼は伝説的な存在であり、音楽関係の機材の第一人者だと言えるよ」

――アルバムでは、以前の作品もプロデュースしていたジェレミー・マッキノン(A DAY TO REMEMBER/vo)に加え、これまでにBODY COUNTやEVERY TIME I DIEをはじめ数多くのバンドの作品を手掛けてきたウィル・パットニーを、初めて共同プロデューサー/ミキシング・エンジニアとして迎えています。ウィルとの仕事はどうでしたか?彼を起用した理由と、彼がアルバムにどんなことを持ち込んでくれたのか教えてください。

「ウィルと手を組んだのは、とても自然な流れだった。同じ世界で活動しているし、僕らの友だちや同業者たちと、彼は親しかったからね。バンドとしても、僕らは彼が手掛けてきた作品が大好きだったから、彼がこのレコードにメッサージやヴィジョンを生み出す手助けをしてくれることはわかっていた。まったく何もないところから最後の音符まで、これを最高の作品にするために彼は貢献してくれたよ」

――アルバム収録曲の歌詞に、ここ数年の経験が反映されていることはもちろんですが、それ以外にも作曲や演奏面などで、何か以前とは変化したと感じているところはありますか?

「これまで以上に、すべてのことに感謝するようになったよ。バンドとして、僕らはいつだってポジティヴなメッセージを発信してきたし、ここ数年は、そのメッセージを自分たちでも実践することを、私生活で試されてきた。パフォーマンスには、もちろんフィジカル面で限界がある。でもステージに立つ度に僕らは学び、自分自身を駆り立てようとしている」

――アルバムを聴くと、以前と変わらぬパワフルな歌や演奏を聴かせてくれているだけでなく、バンドとしてさらにたくましくパワーアップしているとさえ感じられました。事故後、どのようにして元通りの自分たちを取り戻していったのか、リハビリ期間どんなことを思いながら過ごしていたのかなどについても話してもらえますか?

「全員が100%乗り越えられるかはわからないけれど、僕らはみんなできる限り前進を続けてきた。とても幸運なことに、友人、家族、そしてなによりもバンドのファンのみんながすばらしいサポートをしてくれたんだ。それがなかったら、僕らは今、どこにいるだろうって思う。僕個人としては最初2週間入院して、その後ここ何年かはあちこちで数週間入院したりしている。好きなことをまたやりたいっていう気持ちが、大きな原動力だった。たしかに、疑問を持ったり不満がたまったりすることはあったよ。でもそんなときは、とにかくたくさん音楽を聴きながら、またこの世界へ戻る日を夢見ていた。それで気を取り直すことができたよ」

――冒頭の力強いドラミングを聴いただけで、アンドリューにはただ敬服するばかりです。あの強力なビートをいかにして叩き出しているのか、そこにはどんな努力があったのかも教えてください。

「ここまでくるには長い時間がかかったけれど、アンドリューが今のようにドラムを演奏できるようになったのは、彼の父親のラリーがかなりの創意工夫をして、あの“The Hammer”(義足なしでペダルを踏めるオリジナル機材)を作ったからだ。本当に凄いことだよ。ドラムキットに戻ってきた彼の姿を見ると、いっそう心が揺さぶられる。特に、父親が彼のために作った装置を使っているんだと思うとね。ラリーもまた伝説と言えるよ。アンドリューのハードなビートに関しては、僕も君たちと同じように度肝を抜かれた。意気消沈したり困難を感じたりした時期もあったけれど、彼はキットの奥に腰かけて、気力で成し遂げた。今もイントロを聴くたびに気持ちが高揚するよ!」

――先行公開された“Aftermath”のMVでの事故当時の映像や、事故現場に立つジョナサンの姿には震えました。事故現場を再び見たとき、どんな気持ちがしていたのでしょう。

「実は僕らは、事故現場には戻っていないんだ。MVに写っているのは、僕とジム(・リレイ/b)とジョナサン(ヴィジル/vo)が暮らしているラスベガスの郊外でね。たしかに事故現場っぽく見えるね。僕らからすると不気味なくらいだよ」

――すでにアルバムを聴いた多くの人から、感動した!というメッセージが届いていると思います。人々からの反応をどのような気持ちで受け止めていますか?

「とにかく、心を打たれるばかりだよ。これ以上のサポートはない。本当にありがとうという言葉しかないね」

――今改めて、アルバムを生み出すまでの数年間は、バンドにとってどんな時期であったと捉えていますか?

「ローラーコースターのように、気持ちがアップダウンしていた。とても辛くて、真っ暗闇の中にいたかと思えば、その後にものすごく明るくすばらしい瞬間がやってきたりね。個人的に学んだのは、人生の中の小さな勝利を祝うことの重要さだ。『THE GHOST INSIDE』のリリースは、僕らにとって常に最終目標だった」

――この4年間、バンドを支えてくれたのは、もちろん周囲の人々だったと思いますが、そのほかに音楽や書籍などで何か救いになったものがあれば教えてください。

「デイヴィッド・クラークという友人が『Out There: A Story of Ultra Recovery』という本を執筆した。作業をしていたとき、肉体的にも精神的にもこの本が大きなインスピレーションになったよ」

――現在アメリカ全土が「BLACK LIVES MATTER」で揺れており、あなた方もその流れから、ジムが過去の発言に責任を取る形で脱退ということになりました。この決断に至った経緯を日本のファンにも説明していただけますか?また、代わりのベーシストは探しているのでしょうか?

「この問題をそのままにすることはとても難しかったけれど、ジムと別れる決断を下すのはさらに大変なことだった。でも、ジムはいつだって僕らの兄弟だし、彼がいないと同じバンドとは思えない。今のところ彼の代わりは探していないよ」

――世界的なコロナ禍によって、音楽業界全体に様々な制限がかかっている状況下、あなたたちはどのように過ごしているのでしょうか?誰もが先の見通しが立たない状況ではありますが、今後どう活動していきたいと考えているのかを教えてください。

「この数ヶ月、できるだけポジティヴな気持ちを持って、安全を保てるように努めている。ホームジムを作ってワークアウトしたり、山にハイキングに行ったり、今までよりもずっと長い時間、家の周りでアコースティック・ギターを弾いたりね。それと子犬を飼い始めて、Fangっていう名前をつけたんだ。この子の存在がとても助けになっているよ」

――日本のファンは、THE GHOST INSIDEの来日公演が再び実現することを心から待っています。最後に、彼らへのメッセージをいただけますか?

「どこが一番とか言うことはできないけれど、日本は大好きな場所のひとつであることは間違いないよ。みんなの安全が確保され次第、また行きたいと思っている。どうか体に気をつけてくれ!」

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