SWARRRMが自身を、そしてグラインドコアを塗り替えるのは何度目か。ニューアルバム『焦がせ』考察&レビュー!

8月25日に7枚目のアルバム『焦がせ』をリリースし、大阪でのレコ発ライヴも終えた神戸産グラインドコアの雄、SWARRRM。ここ数作でたどり着いた音楽性から、さらなる進化を遂げた彼らのこの新作について、初期の苛烈なサウンドからの変遷とともに再考察をしてみました。言ってしまえば、好き勝手に書いたライナーノーツといったところでしょうか。考察のヒントのために、KAPO(g)氏からコメントもいただきました。
すでに活動開始から四半世紀以上となるものの、常に振り返ることなく、前だけを向いて進み続けるSWARRRM。知らなかったという人も、今からでも遅くない…いや、現在進行形で最前線を更新中なので、とにかく現行のバンドということで、新鮮な気持ちでぜひ向き合ってみてください。
というわけでいってみましょう。

text by MOCHI

photo by yuma kikui

96年に神戸で結成されたSWARRRM。彼らが「CHAOS & GRIND」を掲げ、すべての曲にブラストビートを必ず盛り込むことを信条として、今日まで活動を続けてきたことは、もはや説明不要だろう。日本のグラインドコアを代表する存在として認知されるSWARRRMだが、同時に彼らが典型的なグラインドコアだったことは一度もない。

リーダーであるKAPO(g)によれば、SWARRRMは結成した最初のスタジオから曲作りをしており、その時点で変拍子やずらしたリズムを取り入れる等の試みをやっていたという。つまり、当時からグラインドコアの王道からは距離を置き、独自性を模索していたということだ。デスメタルと親和性の高いグラインドコアにおいて、KAPOがメタルに興味がないと言い切っているのも、要因のひとつと見ることができるだろう。いずれにせよ「〇〇のようになりたい」という憧れから結成され、少しずつ個性を確立していくバンドが大半のなか、SWARRRMはその成り立ちからして異質で異形の存在だった。

現在とはまた違った方法論で表現された、初期SWARRRMの特異性は『AGAINST AGAIN』(2000年)、『偽救世主共』(2003年)といったアルバムのほか、様々なスプリット作で存分に感じることができる(スプリット音源は2016年の『20 YEAR CHAOS』にまとめられている)。KAPOはSWARRRMの楽曲アレンジやアンサンブルを「悪意的」「暴力的」「アンバランス」と語ったことがあるが、いわゆるカオティック・ハードコアを通過した今の耳で聴けば、混沌としていつつも決して破綻しておらず、意外なキャッチーさも見いだせるはずだ。
ちなみに「全曲でブラストビートを入れる」という信条については、バンドの特徴を定義付けると同時に、作曲時の足かせとならないのか?という疑問をぶつけたところ、KAPOはむしろブラストビートは必要なものだと正面から答えてくれた。

「単純に、SWARRRMはブラストビートが入っていると曲が締まって、勢いがついて、不思議な高揚感も生まれるのでいいと思っています。たしかに演奏は難しいし、リズムがズレる危険性は常に付きまといますが、そのギリギリ感も好きなのかもしれません。それに、ブラストビートにはまだ可能性があると思っています」

そんなSWARRRMにとって大きな転機だったのは、やはりTSUKASA(vo)の加入だろう。元々はHELLCHILDやATOMIC FIREBALLで活動し、壮絶なヴォーカルを披露していた彼に声をかけたことからも、SWARRRMが次のステージに向かおうとしていたことは明白だった。
TSUKASAを迎えたSWARRRMは、まずは過去のスプリット等に提供していた楽曲を再録した『BLACK BONG』(2007年)をリリースし、それまでの歴史を一度清算。改めて新しい一歩を踏み出したのが『FLOWER』(2014年)だ。

『FLOWER』で驚かされたのは、日本語の歌詞を、ハッキリと聞かせる形でフィーチャーしたことだ。それまでのSWARRRMしかりTSUKASAが在籍したバンドしかり、言葉を聞き取ることがほぼ不可能な、化物じみたヴォーカルが持ち味のひとつだったが、それを敢えて減退させ、清濁飲み込んだ歌を強調。同時に『AGAINST AGAIN』時点から垣間見せていた和音の響きを増幅することで、グラインドコアに「わびさび」を顕現させた。いつの間にか激情ハードコア(エモヴァイオレンス)との近似値を指摘されるようになったSWARRRMが、比類なきスタイルにたどり着いた瞬間だった。そしてここから、SWARRRMはさらに凄みを増していく。

続く『こわれはじめる』(2018年)では、メタルやハードコア、ひいてはロックにおける必殺武器であるギターのディストーションを抑えることで、より曲の中での音の重みの落差、ダイナミックさを強調。『ゆめをみたの』(2021年)では数値的な激しさや重さにとらわれず、歌はもちろん口笛まで用いることで、さらに豊かな表現力を手に入れた。そして今回の『焦がせ』では、さらなる進化を遂げたSWARRRMの姿が提示されている。

もはやSWRRRMを聴いて、これは「グラインドコアなのか否か」を問うのは野暮の極みだ。KAPOがよく口にする「Your rule is not my rule(お前のルールは、俺のルールではない)」の通り、SWARRRMは他人にとってのではなく、自分たちにとってのグラインドコアをやり続けている。誰もが認める形ではないにせよ、結果的に独自性を放つだけでなく、グラインドコアの可能性を拡張する形になっており、その姿勢は不変だ。しかし姿勢が不変ゆえに、変化し続けるのがSWARRRMでもある。

今回も『こわれはじめる』以降の音楽性をさらに発展させた作風ではあるが、最初に聴いたときに驚いたのが、曲の展開の滑らかさだ。急激かつ予測不可能な場面転換の多用による緊張感こそ変わらないが、ひとつひとつに無理がない。前述の「悪意的」「暴力的」「アンバランス」なアレンジは後退。自らに課した「全曲にブラストビートを入れる」という信条も含め、自然かつ必然性のあるものになっている。

前作『ゆめをみたの』について「激しいとか軽いとか新しいとか一切かまわず、良い曲を作りたかった」というKAPOの発言があったが、今回の制作におけるテーマは、驚くことに「メジャー感」だったという。ミックスおよびマスタリングに、BABYMETALを筆頭としたメジャーアーティストを多数手がける原浩一氏を起用したのも、その表れだろう。KANDARIVASやkamomekamomeとのスプリットに提供した楽曲(“サガシダスマデ”は“蜉蝣”に曲名まで刷新)も、リマスタリングで別の曲かというほどの印象の変わりようだ。
この出来栄えにはKAPOもかなりの自負を持っているようで、以下の発言にも、その心情が強く込められている。

「近年、SWARRRMではハードコアの世界の中でしか通用しない、もしくは理解されない音楽や価値観から脱却したいと強く思っていましたが、今回は楽曲のクオリティ、歌の性能ともに飛躍的に向上させることができたのではと感じています。現時点では満足していますが、まだ伸びしろが残っているなとも思いますね」

たしかに言葉を選ばなければ、聴きやすく耳になじむ曲ばかりだ。“向こうへ”や“青い花”での叙情性には感動すら覚えてしまうし“わかってるはずさ”や“棘”といったミッド~スローテンポの曲の中でも、。出自ゆえの地下臭は払拭されているが、日和ったようには聞こえない。むしろどこまでアイデンティティを崩さないまま、メジャーな世界でも通用する普遍的な「良い曲を作る」という挑戦の結果だと感じられる。そのうえで、早くも次の進化への意欲も見せる貪欲ぶりだ。『こわれはじめる』のインタビューで「このバンドにあとどれだけの時間が残されているのかわからない」と言っていたが、まだまだやるつもり…いや、終わりがいつ訪れるかわからないからこそ、とにかく進み続けたいということなのかもしれない。

いくらメジャー感がテーマだったからといって、ここで「SWARRRMがメジャーデビュー」とはさすがにならないだろうが、より大きな舞台に打って出ることも可能なポテンシャルを十分に秘めたアルバムだ。それこそ、いわゆる「邦ロック」のイベントに出ても、実力をいかんなく発揮できるのではないかとさえ思える。孤高すぎるがゆえにフォロワーを生まないSWARRRM。しかし風穴をあけるのは、いつだって彼らのようなアウトサイダーなのだ。

<Live Schedule>

SWARRRM new album “焦がせ” release show

11/4(sat)新大久保EARTHDOM

開場 17:00/開演 17:30/終焉 21:15頃想定

チケット:前売り 3000円+1ドリンク

予約フォームhttps://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSc0oZRGue3nue97Jo6aA6kVyjgfczyR0JIRR2p8qIm7evuPjg/viewform

SWARRRM (from Kobe)
kokeshi
SeeK (from Osaka)
Gensenkan
THE BORNBARFRUST (from Osaka)

<Link>

SWARRRM:https://twitter.com/SWARRRMofficial

LongLegsLongArms(3LA):https://twitter.com/3LA_Disc