勝負作であり、また勝利を約束された作品。オーストラリアのポスト・メタルバンドSUNDR(サンダー)の、およそ3年ぶりの2nd『SOLAR SHIPS』は、そんなアルバムだ。4曲と曲数こそ少ないものの、どれもじっくりと長い時間をかけて音世界を構築していく大曲ばかり。まさにポスト・メタルの、さらにその先へと到達した彼らの姿が収められている。このとてつもない作品の制作経緯と内容について、スコット・カーティス(vo)に、存分に語ってもらった(実際、インタビューは2時間に及びました)。
なお彼には2年前、REDSHEERとのスプリットEPのリリース時にもインタビューを行っている(https://liveage.today/sundr_redsheer/)。結成からスプリットまでを語ったこちらと、その後を語った本記事を併せて読むことで、よりSUNDRというバンドへの理解を深めてほしい。
Interview by MOCHI
Translation by Sachiko Yasue
Photography by Zo Damage
Special Thanks:Riuji Onozato (REDSHEER)
――今、世界中が新型コロナウィルスの影響を受けているし、各地の音楽シーンでも作品のリリースやツアーがことごとく延期や中止に追い込まれている状況だよね。オーストラリアではどう?
「僕たちも、本当ならもっと早くこのアルバムをリリースして、日本はもちろん、まだ攻めこんだことのないヨーロッパにも行きたかった。それができなくなったのは残念だよ。とはいえ、リリースの予定がすべて白紙になったバンドもいるから、まだマシだけどね。SUNDRのメンバーは全員、幸運にも普段の仕事を失うことはなかったし、みんな問題なく過ごしているよ。だから状況を悲観するばかりでなく、できるだけポジティヴでいるように意識している。例えば、今はみんな外出がなかなかできないだろ?時間がある分、アルバムを最初から最後までじっくりと聴いてもらえることに期待しているよ」
――いつの間にか、ベーシストが交代したよね。新しいメンバーの加入経緯と、どんな人なのか教えてもらえる?
「2018年の11月に、ベルギーのAMENRAのオーストラリア公演をサポートすることになったんだけど、その3か月前にアダム(・トゥルカート)がいろんな事情で抜けることになって、急いで新しいベーシストを探さなければならなくなったんだ。それで何人か知り合いをあたったんだけど、その中でいつも候補に挙がっていたのが、レイヤー・ボーケラーだった。彼は普段ストリークっていうニックネームで呼ばれているんだけど、ダン(・ニューマン/ds)の地元の幼馴染で、いっしょにパンクバンドをやっていたこともあったらしくてさ。ベーシストとドラマーの息が合っているならいいと思って誘ったんだ。正直、ストリークはSUNDRのようなバンドをやったことがなかったから、ちょっと大丈夫かなという気持ちはあった。しかもAMENRAのサポートなんていう大舞台が控えていたし。でも本人はものすごく努力して、その役割を務めてくれた。新作についても、ストリークがいろんなアイデアを持ち込んでくれたおかげで、制作もスムーズに進んだんだ。結果的に、彼が加入してくれて本当によかったと思うよ」
――ストリークは、どんなアイデアでバンドに貢献してくれたのかな。
「ストリークはいろんな音楽を聴くレコードコレクターで、ブルースなんかもやっていたことがあるらしいんだ。僕らとはバックグラウンドもアプローチも違うから、僕たちが普段聴かないような音楽の要素やアレンジ方法を教えてくれるのが新鮮だよ。それに、彼自身もSUNDRでプレイするのをものすごく楽しんでくれているんだよね。トロイ(・パワー/g)とも意気投合して、普段からよくいっしょに飲みに行ったりしているみたいだよ。ダンとの関係はさっき言った通りだし、いろんな意味で貢献してくれているよ」
――2018年のREDSHEERとのスプリットをリリースするときのインタビューで「アルバムの制作をしていたけど、一旦スプリットに集中することにした」と言っていたよね。最終的に今回のアルバムは、そのスプリットと地続きになっているのかな。
「その頃はごく初期の、断片的なアイデアがある状態だったけど、REDSHEERとのスプリットを制作するにあたって、そういったものを頭の片隅に追いやって、まずは目の前のことに集中することにしたんだ。そのときに、作品を最初から最後までしっかりと聴けるように、曲と歌詞の流れを意識することを学んだ。どんな曲を書きたいのか、どうやって書きたいのかがハッキリしたんだよね。それをもって、もとあったアイデアを発展させていった。全体的に、すごく自然でポジティヴな流れで作ることができたと思う。前のアルバム『THE CANVAS SEA』(2017年)は、結成からずっと書き溜めていた曲をアルバムにまとめた感じだった。曲を作りながら、自分たちのアイデンティティを模索していたんだね。でも今回はアルバムを作る前提で、1曲にあれもこれもとを詰め込むのではなく、流れを意識して、1曲目はこうだから、次はこうしよう…みたいに、曲ごとに込めるテーマを絞り込んで、全体の流れを考えながら作れたと思う」
――スコットは「曲を通して、自分のパーソナルな面を正直に表現しようと挑戦してきた」と言っていたよね。今回はそれが達成できたと思う?
「曲の書き方から変化したからね。その瞬間に思っていることを、正直に反映することができるようになったと思う。今振り返ると『THE CANVAS SEA』は少し考えすぎたというか、複雑にしすぎたように思う。でも今は、自分の正直な心を楽曲で表現することにやりがいを感じられるようになった。なんというか、以前は物語を書いていたけど、今回は詩を書いているような感じだね。言葉をやたら並べるのではなく、しかるべき言葉をしかるべき場所に置くことで、少ない言葉で多くのことを語れると思った。ほかにも、影響を受けるものも変化したね。ヘヴィなものを追求するときに、ただ音を激しくするのではなく、逆に静かなスペースを使うことで、よりヘヴィなことを表現できるのではないかと考えるようになったんだ。曲が何を必要としているかによるけど…例えば音は静かだけど内容は重苦しいとか、違った色やスタイルで表現したいと思うようになったと思う」
――どの曲も、ひとつのフレーズを繰り返しながら少しずつ変化させていくような形だね。展開するというより、曲が膨らんでいくというか、発展していくような感じがした。
「このメンバーになってから、お互いの役割が以前よりも大きくなったし、みんなの意識も高まったように思う。リズムパターンやフレーズの新しいアイデアがどんどん出てくるようになった。例えば曲を作るとき、ダンとストリークがジャムを初めて、それに刺激された僕とトロイが加わっていく…という感じで。それも言葉で話しているんじゃなくて、みんなで思わず顔を見合わせて“これはいいぞ!”となるものばかりでさ。最終的に、全員が納得する形がアルバムとして集約されていると思う」
――アルバムの各曲について教えてもらえるかな。まず1曲目“Younger Dryas”は、氷河期の終わり時期のことだよね。これはスコットのパーソナルなテーマと、どう繋がっているの?
「ヤンガードリアス期は氷河期とリンクしていて、人類が絶滅に瀕したような、トラウマティックというか、世界がリセットされたような時期なんだよね。もしかしたらそれが、人生の中でも起こることなんじゃないかっていうところから始まったんだ。悲劇を通じて真実にたどり着くプロセスが曲になっている感じかな。実はメンバーの家族に、今ガンで闘病中の人がいてね。ガンという大きな出来事をきっかけに人生が変わって、悲劇的なことから真実を見出すというのがもともとの話になっている」
――2曲目“I’ve Forgotten How To Be Alone”は、日本語に直訳すると「孤独になる方法を忘れたという意味だよね。SUNDRはバンド名がもともと分裂や分断を意味する言葉で、スコットの書く歌詞の多くも何かが壊れたり、絆が絶たれたりしてしまうことがテーマと言っていたから、逆に「孤独になれない」と歌うのはすごく意外に思った。
「僕の書く歌詞は、どれも深い部分でパーソナルなことだけど、誰もが通る道を表現していることが多いんだ。僕はよく瞑想をするんだけど、自分と向き合うというのは、意外と難しいことでね。どうしてもどこかに邪念があるし、漠然とした不安が邪魔になることがある。そういう、なかなか自分だけになれないという意味でこのタイトルをつけたんだ。東洋ではどうかわからないけど、西洋人は自分のなかの不安を、あまり表に出さないようにする傾向にある。そうやって抑え込んでしまうことで、自分と向き合うことができず、いつもどんよりとした不安が心に残っているような感じなんだ。それもあってか、以前は壮大で劇的な曲を書こうとしていた。でも今回曲の書き方が変わった結果、ドラマ性を重視しなくても自分の心と向き合い、不安を表現することができるようになったんだ」
――3曲目“Inherit”は「受け継ぐ」という意味だよね。何をどこから受け継ぐとか、モチーフはある?
「この曲の歌詞は僕とダンで書いたんだけど、ここで表現している受け継ぐものというのは、不安や神経症といったものなんだ。誰かから受け継いでしまったネガティヴなものが、自分のなかに長く残ってしまうようなことだね。受け継ぎ元は人かもしれないし、自然現象かもしれない。でもネガティヴな曲ではないよ。不安を自分に与えたものと一体化して、そういった感情と戦っていこうという内容なんだ。その戦いが、曲の後半でどんどん変化していくギターリフとともに始まる。この曲に限らず、ネガティヴなことを知ったとしても、それと強い絆を作り上げながら、絶対的な真実を追及していく、というのが大きなテーマになっているよ」
――最後の4曲目にしてタイトル曲“Solar Ships”では、歪んだ音が一切使われていないよね。スコットのヴォーカルもスクリームではなく、囁くような、語るようなものになっているし。
「瞑想を通して、無限の世界を垣間見ている自分と、ネガティヴなことがたくさん起こる現実との間で引っ張られている自分をSolar Ships(太陽の船)になぞらえているんだ。実はこれが最後にできた曲でね。他の曲が、それぞれトラウマになるようなことを取り上げているとしたら、この曲ではそれが終わった後の安らかな気持ちを表現している。ダンがタンバリンを叩いたり、僕がピアノを弾いたり、これまでなかった要素も追加しているんだけど、よりアトモスフェリックにアルバムを締めくくられているし、このアルバムの制作で学んだことが、集大成として結実したと思う」
――太陽の船というのは、古代エジプトのクフ王が作らせたものだよね。「クフ王の魂が天空を旅するために作られた」という説があるらしいけど、死や旅立ちといったものと関連しているのかな
「旅立ちとは少し違うけど、死とは関連しているね。クフ王の船については天国行きの船という意味合いもあるから、天国をさっきも話したような無限の世界のメタファーにしているんだ。例えばいろんなトラウマを乗り越えた後の心の平穏とか、スピリチュアルな境地にたどり着くことを目指すけど、人として現実の悲劇に気を取られてしまって、宙ぶらりんになるような意味もある。もちろん死というものを受け入れるとか、死んだらどうなるのかとか、そういったことにも思いをはせているよ。死の向こうだけじゃなくて、人間としていろんなことに気を取られてしまう自分のことでもある。でも最終的には、心が満たされる状態を目指して生きたというのが、このアルバムのラストになっているね」
――今回のアルバムは、スコットが立ち上げたCrucibleからのリリースだね。
「Crucibleは、自分で作ったものを自分の手でみんなに届けるために立ち上げたレーベルなんだ。今までのリリース経験で少しかじったことがあるから、どんなことをやらなきゃならないのかはなんとなくはわかるとはいえ、まだ試行錯誤しているし、学ばなきゃならないことも多いけどね(笑)。まずはSUNDRの作品をリリースするけど、今後価値観の合うバンドがいれば、何かしらサポートもできるんじゃないかな。例えば日本のバンドの作品をオーストラリアでリリースするとかね。そういうのも夢のひとつだよ」
――まだこれといった予定を立てられないと思うけど、今後はどんな活動をしていくつもりでいる?
「最初に言ったけど、まずはみんなにアルバムをじっくり聴いてもらえたらうれしいな。もちろん状況が整えば、ライヴもすぐにやりたいけどね。でも、実はアルバムのレコーディングからもしばらく時間が経ったから、次のアイデアも溜まってきているんだ。それを曲として仕上げようとしているよ。バンドとしても生まれ変わったような感覚だし、次に向けてどんどん動き出していきたい。とにかく音楽は作り続けていくよ。そのうえで近い将来、また日本に戻りたいし、REDSHEERといっしょになにかをやるのを最優先にしたいね」
<各種リンク>
Crucible:https://www.crucibleart.com/
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