スクリーモの守護者SILVERSTEINが、10作目で見せた矜持と挑戦。『MISERY MADE ME』リリース記念インタビュー!

2002年前後に、それまでのニューメタルにとって代わるような形で、メタルコアとともに勃興したスクリーモ。多くのバンドが早々に脱スクリームしたり、ダンスミュージックと結びついたり…と音楽性の変化を余儀なくされてきたなか、頑固一徹とばかりに初期のスタイルを守り続けてきたのが、カナダのSILVERSTEINだ。そんな彼らも、いつしか結成22年とベテランの域にたどり着いたが、音楽性は相変わらず「守りつつ攻める」を貫いている。その姿勢は5月にリリースされた新作『MISERY MADE ME』でも健在だが、今回はこれまでで最も多様性のある作風だ。怒号と歌を行き来する往年のスクリーモから、跳ね回るグルーヴあり、艶やかなバラードあり、トラップ~エモ・ラップまで取り入れた実験ありと、アイデンティティとチャレンジのギリギリのバランスを狙った快作に仕上がっている。バンドのこれまでと、スクリーモの守護者としての矜持、そして今回の挑戦について、シェーン・トールド(vo)が語った。

Interview by MOCHI
Translation by Sachiko Yasue
Photography by Juan Angel

――SILVERSTEINは結成から22年、『WHEN BROKEN IS EASILY FIXED』でデビューしてから、もう19年になりますね。音楽シーンも世界情勢も大きく変わっていく中、解散せずにここまで続けてこられたことを、どう思いますか?

「素晴らしい気分だよ!でも、こんなに長続きするとは完全に想定外だった。実は初めはサイドプロジェクトとして、ただ楽しむためにスタートしたバンドだったからさ。当時“エモ”はちょっと目新しいトレンドみたいな感じだったから、試してみるような感じで。でもシーンの大半のバンドは、アルバム1、2枚しか持たなかった。俺たちは10枚目のアルバムを出したばかりで…なかなか聞かない話だよね。でもこれは努力、自然な進化、そして世界の変化に合わせてアプローチを変えてきたことが、相まってこうなったんだと思う。プロモーションの方法も、できるだけ最新のものについて行くようにしているしね。2000年はウェブサイトを作ることが大事だった。2005年はmyspaceの時代だったし、そして2022年の今はTikTokとメタバースの時代だ」

――2002年頃から、FINCHやTHE USEDといったバンドがデビューし、いわゆる「スクリーモ」「ポスト・ハードコア」と呼ばれるムーブメントが起こりました。SILVERSTEINもその文脈の中で紹介され、名前が知られるようになりましたが、当時、あなたたちはそれをどう思っていたんでしょうか?

「THE USEDは、スクリーモが世間に通用するきっかけになった、超重要なバンドだった。彼らの曲は、当時ラジオでものすごくOAされたからね。アルバム自体も、すごくいい作品だったし。このシーンはTAKING BACK SUNDAYやMY CHEMICAL ROMANCEといったバンドが出てくるまで、しばらくはTHE USED主導だったのは間違いないと思う。でも、俺たちはいつもそこまで大きな存在じゃなくて、もっとアンダーグラウンドだったから、同じチャンスは与えられなかった。まずラジオでOAされることはなかったしね。だからもっとカルトなファンベースを築いていったわけだけど、結果的にはそれで良かったと思う。時流に飛びつく、ありふれたトレンディなバンド以上の存在として見てもらえたし、ファンとも本物の関係を築いてこられたから。振り返ってみれば、俺たちの名前は、ゴールドやプラチナ・ディスクに認定されたアルバムを出したたくさんのバンドと、同列に名前を出してもらえる。そういうバンドとツアーしたことはないんだけどね(笑)」

――またその「スクリーモ」「ポスト・ハードコア」バンドたちのほとんどは、2枚目のアルバムから早々に音楽性を変えていきました。でもSILVERSTEINは、音楽性を変えるのではなく、自分たちのスタイルをより掘り下げていきましたよね。バンドの進化と変化、ファンが求めることと自分たちのやりたいことのバランスというのは、意識していたことだったんでしょうか?

「ファンが次に聴きたい音楽を作ると同時に、自分たちだけの自然な進化を模索するというのは、常に大事にしてきたことだった。2000年代半ばになっても、ラジオは依然としてスクリームしているバンドをほとんどOAしていなかったというのが大きかったね。MTVも気に入ってくれなかったし。それで、ビッグになるためにスクリーモを捨てようとしていたバンドが多かったんだ。でもメインストリームに歩み寄るために、自分たちのスタイルを変えるというのは、ファンを侮辱することになるし、ただただ愚かなことだっていう気持ちが、俺たちにはずっとあった。それに俺たちがやったなかで最高のライヴだったと言えるものは、特に一番ヘヴィな曲をやっていた時期だったりもする。そういうこともあって、俺たちの活動方針は決まっていったんだ」

――2019年に『REDUX: THE FIRST TEN YEARS』、2020年に『REDUX II』という、リレコーディングのベスト盤をリリースしましたね。バンドがいい意味で昔と変わっていないことが、よくわかりました。逆にリレコーディングを通して新たな発見や、見つめなおしたようなことはありますか?

「テクノロジーと同じように、レコーディングの仕方に対する俺たちの理解も大きく発展してきた。ファーストアルバムを録音したときは、自分たちが何をやっていたのか、文字通り見当がついていなかった(笑)。だから昔の曲をやり直して、もっといい音にするというのは重要なことだったんだ。2019年の1枚目のときは、オリジナル盤と同じヴァイブを確実に維持するようにした。同じテンポ、同じキー、同じリード、同じドラムフィルでね。再考じゃなくて、音的なアップデートをしたかったんだ。逆に『REDUX II』の方が再考だった。どちらのプロジェクトも本当に楽しかったし、ファンも、俺たちが彼らのために微調整をしていたのを喜んでくれたと思う。19年も経った曲なのにね(笑)」

――「スクリーモ」というものは、元々90年代にハードコア・パンクから派生した、非常にアンダーグラウンドなものでしたよね。そこからFINCHやTHE USED等によって、2002年頃に大きなムーブメントになりました。これによって、スクリーモという言葉が二つの方向に分かれる形になり、90年代からの元々のスタイルを「Skramz」「Emoviolence」と呼んで区別する動きもあります。分岐したシーン、バンド同士でもほとんど関わりがない状態です。でもSILVERSTEINは、2012年のEP『SHORT SONGS』で、ORCHIDの“Destination: Blood!”をカヴァーしていますよね。デビュー以降、大きなフィールドで活躍するようになったあなたたちにとって、「Skramz」「Emoviolence」と呼ばれる音楽は、どのようなものになりますか?

「色々枝分かれしたのは間違いないし、興味深いことだよね。俺たちはPORTRAIT、JOSHUA、FOUR HUNDRED YEARS、GRADE、MINERAL、ELLIOT、THE PROMISE RING、CAP’N JAZZ、CAVE IN、ORCHIDといったバンドの影響を受けてきた一方で、THE GET UP KIDSや初期のJIMMY EAT WORLD、SAVES THE DAYみたいな、もっとポップなバンドも大好きだった。それにBURIED ALIVEやTURMOIL、SONS OF ABRAHAMのようなバンドの出る、ハードコアなライヴにも行っていた。そういう影響のすべてが、俺たちをこのサウンドに導いたんだ。これが俺たちだけじゃなかったのも面白いよね。THE USEDやSENSES FAIL、FINCHほかと、俺たちはみんな音が似ていたけど、デビューするまで、お互いの音を聴いたことはなかったんだ。多分、シーンの中で先に進むための、論理的なステップだったんだろうな。そして君が言うように、シーンが分かれてしまって以降、それぞれのバンド同士の交流はあまりなかった。商業的な話になるけど、“Skramz”や“Emoviolence”と呼ばれる初期のバンドは、インデペンデントで小規模なレーベルにいたから流通が十分でなかったり、そもそもメインストリームで成功する気なんて毛頭なかったりしたからね。そういったバンドたちから、俺たちがやっているようなことはダサいと思われていたし。人によって評価が変わるのは、ジャンルを問わず音楽の歴史の中ではよくあることだから、それは別にかまわない。ただのポップ・パンクなのに、エモのレッテルを張られたバンドが、一時期あまりにも多かったよね。それと同じようなことが、俺たちにも起こったんだと思う」

――新作は、バンドにとって10枚目のアルバムになりますよね。こういった節目は気にするタイプですか?

「もちろん!俺たちはこれまでにリリースしてきたアルバム1枚1枚、1曲1曲に大きな誇りを持っている。何が最高かって10枚アルバムを出したことじゃなくて、10枚の本当にいいアルバムを出したってことなんだ。まぁ1、2枚は、戻ってちょっと手直ししたくなるかもしれないけど(笑)、8、9枚は一音も変えるつもりはないよ。しかも驚くべきことに、みんな最新作が今のところ最高傑作だって言ってくれるんだ。だから俺たちはすごくワクワクしているよ」

――新作のタイトル『MISERY MADE ME』は、コロナウィルスのパンデミックを意識しているように感じます。加えて、この後に言葉が続きそうなタイトルですよね。“Misery Made Me Sad”とか“Misery Made Me Strong”とか、リスナーが自身の状況をあてはめられるようになっているんでしょうか?

「実はそうじゃないんだ。タイトルは歌詞の”Misery made me, nothing can break me”(みじめさが俺を作った、俺を壊せるものは何もない)から来ている。だから結構気分がアガるタイトルというか、俺たちはこの状況、この悪いところから必ず抜け出すんだっていう意味なんだよね。でも、君が言うようにタイトルを文脈から解釈することも可能だってことは認識しているし、それもまたクールだと思う。俺たちも好きなことだよ。今回“Live Like This”という曲があるけど、キーになるフレーズは”I don’t wanna die but I can’t live like this”(死にたくはないが、こんな生き方はできない)なんだ。文脈から抜き出すと、違ったひねりが効くのはたしかだね」

――新作についてのコメントに「自分たちのこれまでのキャリアで初めて、本当にすべてを出し切った」とありましたが、結果的にそうなったのは、どういった要因があったんでしょうか?曲の作り方、世の中の情勢、レコ―ディングの方法や環境、メンバーの状況等、制作につながっていることがあれば教えてください。

「自分たちの音楽の作り方にまつわる、すべての“ルール”をひっこめたんだ。さっきの質問にもあったけど、俺たちはDIYなパンク/ハードコアのシーン出身で、曲にシンセを入れたり、ドラムをプログラミングしたり、ヴォーカルの多重録音なんかはやってこなかった。まぁ、その理由の一部は当時のテクノロジーもあったんだけど(笑)、自分たちの目指すゴールに辿り着くのを阻止するようなパラメーターというか、“こうしてはならない”というルールで自分たちを縛り付けていたような気がした。それで今回は、とにかく何でもやってみたんだ。この曲には何が必要なのかを考えて、“SILVERSTEINはそんなことしない”なんて言うより、その必要なものを与えてみよう。しない手はないだろ?俺たちは何だってできるんだ、ってね。とても自由になった気がしたよ」

――“Die Alone”のように緩急の激しい曲もありますが、新作はこれまでよりもスピード感が抑えめで、音の厚みとグルーヴ感を強調しているように感じました。“Ultraviolet”や“Don’t Wait Up”の跳ねるようなリズムは、これまでの作品ではなかなかなかった要素ですよね。

「いやいや、抑え目とはまったく思わないよ(笑)!このアルバムには、ものすごく多様性があると思う。“Die Alone”、“The Altar”、“Our Song”は、どれも猛烈なだしね!でも…そうだね。“Misery”は独特のヴァイブがあるし、ほかにもグルーヴ感のあるミッドテンポのいい曲もいくつかある。俺たちは今までも、ちょっととっ散らかったアルバムを作るバンドだったからね。そっちの方が楽しいと思うしさ。リスナーは次にどんなものがやってくるか見当がつかないだろうけど、さっきも言ったようなバランスのこともあるし、いつも気が抜けないんだ」

――“Cold Blood”なんかは、例えば“Discovering The Warterfront”にも通じるようなバラード曲ですね。そのなかで、あなたの歌声と、トレヴァー・ダニエルの少し冷めたような歌の対比が面白いと思いました。この曲に限らず、「クラシックなSILVERSTEINらしい曲に、新しい要素を混ぜる」というのは、作品全体でも意識されているととなのではないでしょうか?

「この曲のオープニングのギターは、ジョシュ(・ブラッドフォード/g)が思いついたものなんだけど、初めて聴いたとき、とてもノスタルジックな気分になった。俺たちの初期の作品を思い出させたのは間違いないね。だからトレヴァーみたいな新しいアーティストに参加してもらって、この曲に新しい光を与えるというのは、いっそう特別でクールなことだった。彼の視点を入れることで、歌詞的にもとても特別になった。と言いつつ、どの曲もそれぞれ特別だと思っているよ。こういうことをやるためにアルバム作りに入ったわけじゃなくて、その軌跡の中で自然に起こった出来事なんだ」

――“The Altar / Mary”の後半には驚きました。中盤でカットアップされたような、デジタルなサウンドにエフェクト処理されたヴォーカルが入ってきて、一瞬再生機器がおかしくなったのかと思ったほどです。前半が激しいだけに、余計に対比が強調されていますね。

「ありがとう!たしかに、これは俺たち史上最高に興味深く、実験的なトラックのひとつだよね。聴いてくれた人はみんな驚いてくれるし、本当に喜んでくれているよ。ただ、ライヴでやってのけるのは大変だろうね(笑)」

――“Live Like This”は、これまでよりも格段にスケール感のある楽曲に仕上がっていて、これまでのSILVERSTEINとはタッチが違った、新しい曲だと思いました。これにはNOTHING, NOWHEREが参加していますが、彼らが曲作りから関わったことで、これまでと違った曲になった等はありますか?

「この曲は俺にとって、初めからちょっと不気味な感じだった。ポール(・マーク・ルソー/g)が書いたデモを聴いたとき、これがSILVERSTEINに合う曲なのか確信が持てなかったんだ。でも歌詞にものすごく共感できたから、なんとかうまくいくようにしたかった。微調整がたくさん必要だったけど、結果的には超クールな曲になったよ。NOTHING, NOWHEREのジョー(・マルヘリン)は間違いなく最高の仕事をしてくれたし、俺たちとは違ったヴァイブを与えてくれたのは間違いないと思う。でも彼に自分のヴァースをやってもらう前から、なかなかぶっ飛んだ曲だったんだよね(笑)」

――最後の“Misery”は、ドラムやベースを取り去った曲ですね。タイトルとアルバム内の配置から、新作を象徴する曲になっていると思いますが、バンドサウンドで表現をしないというのが意外でした。後半、3分あたりから15秒ほどほぼ生音になるのも面白いですよね。

「これは俺が、アコースティック・ギターをかき鳴らしながら書いた曲なんだ。キャンプファイヤーみたいな雰囲気が強いなかでね。元々は最後にバンドを登場させようと思っていたけど、ある日フィンガーピッキングで弾いてみたら、そっちの方が曲に感情が多く与えられた気がした。それでその方向で詰めていって、それから過去に“Toronto”や“Replace You”みたいな曲で使ったのと同じトリックを使う代わりに、他の要素を曲に織り込むことにした。それとあの生音の部分は、俺がフロアで色々やっていたのをそのまま使っている。元々ああいう音だったんだ」

――日本には、これまで何度もツアーで来ていますよね。それこそ小さな会場から、アヴリル・ラヴィーンのサポートとして東京ドームに立ったこともありました。

「日本は大好きだ。そして本当~~~に恋しく思っているよ。みんなの素晴らしい国では、今までに指折りに素晴らしい経験をいくつかすることができたんだ。とても美しい国であると同時に、とても楽しい国で、みんなとてもフレンドリーだし、音楽に胸躍らせてくれる。死ぬほどそっちに行きたいと思っているよ!いろんなことが落ち着いたら、また会おう!」

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