メンバーがステージに現れサウンドチェックをする。Baのクリスはふくよかな体型になっていて赤いパンツとTシャツを着用、Drのアダムは黒いTシャツとキャップを、そしてVo/Guのブレイクは先日のいいお父さん風情を払拭するような黒いジーンズに黒いTシャツというストイックな出で立ちだ。
びっしりのオーディエンスに手短な挨拶を済ませると、あのコードストロークが鳴り響く…。そう、あの90年代パンクのアンセムBoxcarである。その瞬間、前後左右からガタイのいい男たちがぶつかってくる。ブレイクの前という絶好のポジションを死守すべく、僕も負けじと押し返す。One, Two, Three, Four, Who’s Punk? What the Score? というサビでは、周囲全員が拳を付き上げて大合唱!
Fuck this country! とのMCの後に続けた2曲目は、DEAR YOU収録のミドルテンポのSlutteringだ。渡米前にYoutubeでアップされていた動画では、ブレイクの歌とギターがおぼつかないところがあって、ちょっと不安だったのだが、そんな心配を吹き飛ばすタイトな演奏。しかもギターの出音が、適度なディストーションによって図太い感触になっていたし、リズム隊の演奏は文句なく正確でずっしりと重い。ちょっとしたMCの後に続けたのは、UNFUN収録のキラーチューンWantである。オーディエンスの熱狂は早くもクライマックス。あの「アイアイヤー、アイアイヤー、アーイウォーンチュー」がこの耳で聴けたのだ。続けざまに24 HOURS収録のBoat Dreams From the Hillという、珠玉のアップテンポナンバーが!
まさか、こんなに早い順番でこの2曲を披露するとは思わなかったので、面食らってしまう。モッシュピットする場所すらないほど密集したスペースで、周囲の全員が左右に大きく揺さぶられ、僕も誰かに捕まっていないと立っていられないほどだった。ここでクラウドサーフィン決行を考えたが、こんな序盤にそれをやってしまうと、もうこのベストポジションに戻ってくるのは不可能だと考えたので、ここはポゴダンスで我慢。
そうこうしていると、誰かの足に踏まれてスニーカーが脱げてしまった。すぐに片足を探そうとして足元を探したが、もうどこにいったのか見えなくなってしまった…。ソックスの片足で芝生に立つと、ちょっとテンションが下がってしまうが、そんなこと気にしていても仕方がない。気を取り直して、ステージに集中する。
ちょっとテンポを落としたWest Bay Invitationalで場内が落ち着いたが、5曲目のSave Your Generationのイントロが聴こえた瞬間、またもや押し合いへし合いになり、大合唱が始まる。このメジャー作となる4枚目のアルバムは、商業的には失敗したはずなのに、なぜみんな歌詞覚えているんだろう? 熱心なファンならいざ知らず、20代前半くらいのキッズたちでさえ、嬉しそうにシンガロングしているのだから不思議に思える。
中盤からは、ロッカバラード調の名曲Jet BlackやAccident Proneが続く。暴動のような盛り上がりから次第にオーディエンスも沈静化し、誰もがその一音一音を聞き逃すまいと耳を澄ましていた。僕も片足はソックスのまま、メンバー3人の動きとブレイクの歌に意識を集中する。やはりこのバンドの楽曲の素晴らしさは、こうしたスローテンポな楽曲に分かりやすく現れる。ちょっと驚いたのは、後半に披露したParabolaだ。この曲はセカンドアルバムのBIVOUACに収録されており、FUGAZI的なグルーヴ感にハードコア的なエッセンスを独自にブレンドさせたアクの強い曲だ。