2.
2017年2月。38歳の僕は東名高速道路を走っている。
名前も知らないどこかの町が視界から過ぎ去っていく。
そこで誰かが暮らしている事を想像すると何とも言えない不思議な気分になる。
僕は10年住んだ名古屋を離れ、この4月から再び埼玉で暮らすことになった。
住む家を探しに行った帰り道、すっかり遅くなった深夜。夜の奥に向かって
高速道路を走っている。
疲れた頭で遠い向こうの光を見ていると、今にも車が浮き上がり空を飛んでいく
ように思える。重々しい地面から解放されればどんなにか気分がいいだろう。
目の前を走るトラックは、その重々しい体を呪うように唸りを挙げている。
僕はウィンカーを出してアクセルを踏み込みトラックを追い抜いていく。
すれ違い様に運転手が腕を窓の外に出し、親指と人差し指をこするようにして、
何かを外に捨てたのが見えた。
指先から放たれたのは、チン毛で、風に乗ってどこまでも飛んでいくことを想像してとても嬉しくなった。僕はいつかのように曖昧にうなずいた。
あのすべてを暴露する太陽の光が降り注ぐ日々は、まるで誰かが気まぐれに思い出した
いつかの夢のように遠くで明滅していた。