1.
太陽がすべてを暴露するように光を投げつけている。
僕はその光を避けるようにして、小さな魚屋の脇にある石段を登っていく。
中ではおばさんが黙々と干物を並べているのが見えた。
頭上では大きな木が全てを隠すように枝葉を広げている。
石段を登り切ったところから魚屋の黒ずんだトタン屋根を見ていると、その波打った表面を強く撫でて大きな音を立てたい衝動にかられる。あるいは大量の木の実やら石ころやらをトタン屋根にひっきりなしに叩き付けるのはどうだろうか?いや何だったらトタン屋根の一部を引きはがして、そこから顔をつっこみ、中の様子を一日中見つめ続けるのはどうであろうか?目が合った魚屋のおばさんはどんな顔をするだろう。
すべてを知る太陽の死角のようなその場所で、真下で働く女の妄想にしばしふけった。
僕は立ち上がり奥にある大きな木の根元に近づいた。脈動しているような太い幹の曲線を目で追うと、やがてエネルギーがそこいら中に放出されるように枝葉が広がっていく。圧倒されて眩暈をおぼえる。僕はその根元に視線を戻し、そこに十円玉をそっとおいて、そして祈った。
「人並みに、人並みに・・・」と。