2.
今から約十年前、20代後半の頃、僕は横浜市鶴見区にある会社社員寮に住んでいた。
この寮は長い坂の途中にあるのだが、ほぼ毎日、坂の下からはるか上まで
エロ本のページが撒き散らかされていた。
まるで誰かが道に迷わないようにそうしたのではないか?と思われるほど
几帳面にエロ本が撒き散らかされていた。
寮の管理人のおばちゃんが「一体、誰が、何のために?」と、まるでナスカの地上絵か何かに対する感想のようなことをつぶやきながら、寮の前を掃除していたのを思い出す。
ある日、僕は一体これはどこまで続くのだろうか?と痕を辿ったが、
坂を登りきったところにあるバス停でエロ本は途切れていた。
バス停で途絶えた誰かの痕跡は、そうする事で存在した事を強く示しているようだ。
誰かが僕に問いかけるのを想像する。
「ねぇ、これ何かおかしくない?」
「おかしくないよ。僕にも一つ撒かせてくれないか?」
そう答えたかったのだ。