2025年10月Disc Review!

10月が終わると、急に1年の終わりを意識するようになります。毎年このくらいのタイミングでなんやかんや忙しくなるし、年間ベストとかも頭をよぎるんですよね。にしても1年が早い。

あと寒くなってくると、ライブハウスに行くときの服装に悩みます。上着は脱ぐにしても、中にどんだけ着こむとかどうしたらいいんだか。

というわけで今月もいってみましょう。

■BIOHAZARD『DIVIDED WE FALL』

ニューヨーク・ハードコアの重鎮にしてラップコアの先駆けのひとつでもあるBIOHAZARDの10作目。
2012年に前作をリリースした後にエヴァン・セインフェルド(b,vo)が脱退。見た目も声もエヴァンにちょっと似ているスコット・ロバーツ(THE SPUDMONSTERS等)を迎えて活動するも、結局2022年にエヴァンが復帰…という経緯がありました。
結局クラシックなメンバーで制作された今回ですが、これがめちゃめちゃいい。BIOHAZARDに求められる要素が全部入ったアルバムです。ニューヨークらしい肉厚さなグルーヴを軸に、ヒップホップ経由のまくしたてるヴォーカルに縦にハネるリズム、メタル由来の刻むリフ回しや渋めなソロが斬りこんでくる様は、名盤『URBAN DISCIPLINE』の流れにあるもの。ストリート由来の治安の悪さも相変わらずで、過去作の焼き直しと言えばぶっちゃけそうなんですが、パワーダウンを一切感じさせないんですよね。マジで90年代と同じテンションで、あの音を出しています。やってほしいことを、やってほしい水準でちゃんと出力したうえで、古臭さを感じさせない謎のバランス感覚。というか、彼らが90年代にやっていたことがいまだ色褪せていないことの証明にもなっています。初期のメタルコアや今様のグルーヴメタルにも負けない(というかお手本になっている)サウンドは、時代を作ったバンドの一端として評価されるべきでは。
来日は2008年に、あれこれ問題を指摘されたプロモーターが企画して以来ですかね。なんかかわいそうというか、やっぱりちゃんとした環境でやってほしいし観たいので、今こそ来日に期待したいです。

■SOULFLY『CHAMA』

ブラジルのトライバル/エクストリーム・メタルバンドの13枚目のアルバム。
最初にごめんなさいしておきたいんですが、個人的にはRoadrunnerを離脱して以降のアルバムにあんまり興味が持てず、リリースされても数回流し聴きで終わっていた(関連のCAVALERA CONSPIRACYも同じ)バンドです。今回も事前にリリースを把握しておらず、いきなりサブスクにあがってきたので「まぁとりあえず…」と思って聴いたんですが、ここ12年で一番やれてるアルバムでした。
基本的な路線は変わらずなんですが、いい意味で濁った、テンションの高さと勢いを感じさせるプロダクションになっています。そのうえで各曲スパっと短めにまとめられており、アルバム全体でも32分という、過去一番短い収録時間。そのうえでリフ、グルーヴともに破壊力充分かつトライバル成分も控えめなおかげで焦点がハッキリしているし、ダレることなく一気に聴けます。ゲストもやたら自己主張するのではなく、曲の盛り上げ役に徹しているのが好印象。
クレジットを見ると、御大マックス・カヴァレラ(vo,g)の息子であるザイオン・カヴァレラ(ds)がプロデュースに関わっている様子。ドラムという全体を見る立場で、かつ絶対的リーダーの息子ということもあってか、バンドの、そしてなにより親父の立て方が分かっているんでしょうか。
マックスはSEPULTURAから数えて40年超、SOULFLYとしても28年にもなりますが、ちゃんとしたバックアップがあればまだまだやれますね(手厚いサポートが必要とも言えるんですが)。正直舐めてました。これからもぜひ頑張ってほしいです。

■ORBIT CULTURE『DEATH ABOVE LIFE』

10月にLOUD PARKで初来日を果たした、スウェーデンのメロディック・デスメタルバンドの5作目。Century Mediaに移籍し日本盤もリリースされる等、いろいろな意味で飛躍となった1枚です。
スウェーデンのメロデス…といっても、土地も年代も離れているせいか、典型的なイエテボリ・サウンドにならずにキャリアを重ねてきたバンドで、前作は乱暴に言えば今様のグルーヴメタルをEMPEROR的なシンフォニックさで装飾した作風でした。今回はこれまでの流れを汲みつつ、明らかに「出世作を作る」という意気込みを感じさせるようになっています。まずプロデューサーにHUMANITY’S LAST BREATHほかのバスター・オデホルムを起用することで、音の硬さ、密度、重さが格段にアップ。かつシンフォニックさを減退させる代わりにインダストリアル的なプログラミングで武装しており、Djent以降氾濫したサウンドを踏まえていながら、そこから距離を置いたサウンドになっています。一部で「STRAPPING YOUNG LADを思い出す」と言われているのを見ましたが、たしかにこの情報量の多さとスケールの大きさは近いものがありますね。結成12年を迎えて、やりたいことと実力、貫禄がちゃんと噛み合ったアルバムだと思います。
LOUD PARKでライヴを観た印象としては、曲もサウンドも大舞台で映えるものの、ちょっと一本調子かなという気がしないでもないものでした。初見の人をを巻き込むにはまだ足りないものの、このままいけば次作で大化け、トップバンドになるポテンシャルは充分にありそう。まだまだいきそうなバンドだし、今後への期待が高まるになる1枚でした。

■ovEnola & untold『loveless』

東京出身のovEnolaと、名古屋拠点のuntoldという2バンドのスプリットEP。untoldは今作で初めて名前を知りましたが、Runs In Bone Marrowのメンバーが在籍しているんですね。
まず先攻3曲はuntold。グニョグニョとしたグルーヴ感を強調しつつ、ヴィジュアル系にも通じる耽美な歌メロが目立つ1曲目で幕を開けたかと思えば、2曲目ではスクラッチにブレイクビーツにとぶち込んだごった煮ニューメタル。3曲目は不協和音とドゥーミーなブレイクダウンに陰鬱な声とエレクトロニクスを絡める等で、安易にモッシュ製造機にならない気概を感じさせます。あえてくくるならメタルコアとなりそうですが、音楽的にはSLIPKNOT以降…というか、ショーン・クラハンがプロデュースしたバンド群を思い出させる質感で、初めて聴いたバンドなのになんか懐かしくなりました。
そしてuntoldのアウトロから繋げる粋な演出で、後攻のovEnolaへ。3曲とも終始インダストリアル由来の不気味な雰囲気をまとった凶暴なメタルコア/エクストリーム・メタル…という点ではこれまでの延長線上にあるものの、今回はねぶるようなミッド~スローテンポを主体にするとともに、エレクトロニクスとバンドサウンドのバランスが整理された印象。音にすき間を作ってスッキリさせながら、インダストリアル・メタルに限らず往時のEBMも導入しモダンにアップデート、かといってDjentの匂いはほぼしないという、巧妙な立ち回りを見せています。
両バンド通じ合いつつも、ちゃんと互いの違いが分かる組み合わせの好スプリットでした。10月に本作のレコ発企画があった(出演バンドの大量キャンセルで大変だったそう)ものの行けず、untoldが未見なんですよね(ovEnolaも、先日OCEANOがキャンセルになった公演に行けずでご無沙汰)。ぜひもう一度企画を打ってほしいところです。

<LINK>

BIOHAZARD:https://x.com/biohazardDFL

SOULFLY:https://x.com/TheSoulflyTribe

ORBIT CULTURE:https://x.com/orbitculture

ovEnola:https://x.com/ovEnolaJP

untold:https://x.com/untold_unloved