2024年9月Disc Review!

5月以降、わりと連続してインタビューをさせてもらう機会があったので、そのままぬるっと休んでいた月イチディスクレビュー、久しぶりに更新です。

時間が空いたこともあって、9月に…というより、最近よく聴いていたアルバムをピックアップ。合間を縫ってメモ程度書いていたものを清書した感じなので、それぞれリリース時期はバラバラです。

インタビューも現在2、3本調整しているものがあるので、年内にもう少し出せそうな気がしています。今年は来日案件が特に多かったですが、来年はどうなるやらですね。

というわけでいってみましょう。

■JUTES『SLEEPYHEAD』

カナダのソングライターによる(おそらく)3枚目のアルバム。もともとエモラップ界隈から登場しながら、グランジをはじめとしたロックに接近した楽曲も積極的にリリースし、ジャンルに縛られない活動を展開していたようです。ポップパンク作でブレイクしたMACHINE GUN KELLYと同じような感覚ですね。
んで今作ですが、これまで見せていたグランジ要素的なスタイルからさらに進み、完全にニューメタル化。本人もSNSで繰り返し触れている通り、初期LINKIN PARKと『WHITE PONY』以降のDEFTONESの影響を色濃く反映させた作風になっています。とはいえ、現在メタルコアの中でも小さくない潮流になっている「DEFTONESCORE」とは一線を画す仕上がり。たしかにすき間多めのタメを意識したドラムや、うるさくもコードの響きを重視したギター、ぬめりのあるメロディ等、フォーマットだけを挙げればDEFTONESの影を追っていると言えます。が、やはりヒップホップ出身だけあって、曲の組み立て方が明らかに違います。良くも悪くも人力にこだわっていないというか、生楽器もあくまで素材のひとつとして捉えている印象。おかげでバンドサウンドを軸にしつつも、良い意味でアグレッションや熱量が皆無で、むしろ無機質で冷たい質感が際立っています。向かう先は同じDEFTONESなのに、メタルやハードコアではなく、ヒップホップ側からアプローチすることで、ここまで違いが浮き出るかという驚きのアルバム。
ちなみにInstagramだと、本作について「Work in progress(作業中)」と記載されているので、これからまだトラックが追加になる可能性も。エモラップというかヒップホップ勢は単体で曲を作っては出しなので、ちょいこちょこチェックしておくと良いと思います。

■OCEANO『LIVING CHAOS』

アメリカ、イリノイ州出身のデスコア・バンドの6作目。正直に言うと、新作が出るという情報を見て「まだやってたんか!?」と驚いたバンドです。2009年に、メタルコアの暴虐性を高めたデスコアの第二世代に並べられるバンドとしてEaracheからデビュー。その後2ndくらいまでは話題に出ることがありましたが、実はコンスタントにリリースを重ねて、前作でSumerianに移籍。そこから7年ぶりのリリースになるとのこと。
改めて旧作から順を追って聴いてみると、デスコアのブルータルさはキープしながらも、2010年頃から盛り上がったDjentへの匂わせも忘れないという、なかなかしたたかな変化を遂げています。今回も持ち前の演奏力を活かした、テクニカルさとブルータルさはしっかりキープ。最古参メンバー(結成メンバーではない)のアンディ・ウォレンの怪物じみたヴォーカルも健在で、Earacheに見初められただけあるデスコアらしさは不変です。一方で、Djentへの目配せがてら取り入れられたエレクトロニクスが、かなりうまく作用しています。シンフォニックともインダストリアルとも違うアンビエント音やグニョっとしたノイズを付加することで、スケールの大きさと不気味さを演出。浮遊感が気持ちよいというよりも、地に足のつかないような不穏さが表現されており、Sumerian所属ながら他との違いと独自性をふてぶてしくアピールしているようにも見えます。5月にリリースされたCRYSTAL LAKEの新曲とも近からずも遠からずなアプローチで、同時多発的に色んな試みがなされているんでしょうか。
とはいえバンドの根幹を揺るがさず、新しいアプローチも入れながら、32分ちょっとにパチっとまとめた1枚。勝手にシーンの荒波に飲まれたのかなと思っていた己を恥じる結果になったのでした。

■Vesper the Aerial『Devote Eternal』

大阪のメロディック・デスメタルバンドの1st。写真を見てなんか既視感があるな…と思ったら、DeGraceが改名したバンドなんですね。けっこう前ですがライヴを観た記憶があります。
そんな前提を脇に置いて、今作。もうお手本のような「メロデス」ですね。AT THE GATESやEBONY TEARS(本作にカヴァーも収録)、ほかにもDIMENSION ZEROあたりの、スラッシュメタルを発展させたリフの切れ味と泣きのメロディの欲張りセット。全編爽快にドタバタと駆け抜けていきつつ、隙あらば慟哭のクサメロをぶち込んでくる様は、まさに在りし日のイエテボリ・スタイルを継承…というか、過剰なまでに誇張していると言った方が正しそう。世代から考えるとメタルコア等も通っていそうですが、むしろブレイクダウンやサビの歌メロ等を極力排除(一部で女性ヴォーカルが参加)し、むしろメロデスとしての純度を高めることに心を砕いたように感じられます。ヴォーカルは野太いグロウルやハードコアなマッチョイムズとは無縁で、全編吐き捨てるというかわめき散らかす、テクニックよりも感情優先タイプ。これがまたスピード感のある楽曲や泣き過ぎのメロディと馴染みながら、初期のメロデスらしさを際立たせています。各曲で微妙な加速度を付けながら、随所に配置された3曲のインストで最後まで美味しく聴かせる構成も見事。スパっとキレよく、40分足らずが一瞬で終わります。
とにかくムダな枝葉を削ぎ落として「メロデスをやるのだ」という気概にあふれた1枚。往年のバンドたちが年齢を重ねて円熟したり、原点回帰をうたいつつも立ち返りきれない状態のなかで、一番聴きたいメロデスの正解が提示されています。ちょっと現時点で発表されているライヴには行けそうにないんですが、近いうち絶対に観ておきたいバンドです。

■DEFILED『HORROR BEYOND HORROR』

国産デスメタルの揺るぎない重鎮による8作目。前作『THE HIGHEST LEVEL』から約1年4ヶ月と、かなり早いスパンでのリリースです。しかもキッチリ14曲入りの、濃厚なフルアルバム(CDは1曲ライヴ音源を追加)。勢いに驚くとともに、ただただ頭が下がります。
今回も安定的かつ高い技巧のもとで、プログレにも通じる変拍子やトリッキーな展開を盛り込んだ、ブルータルなデスメタル・アルバムです。ところどころ中期以降のDEATHに近いタッチもありつつ、小難しさを感じさせず、貫禄とともに突進力満載。スパニッシュ・ギターのようなソロをさらっと取り入れる等の柔軟性を見せる場面もありながら、1曲1曲を簡潔にパリッとまとめつつ、残虐さを強調しながら聴きどころもしっかり設けていく練り上げ方はさすがの一言です。
ただ今回特に驚いたのが、音の生々しさ。特にドラムが素晴らしく、一瞬のすき間も許さんとばかりに叩きだされる一音一音が、ドラムセットの配置まで把握できそうなほど。同時にギター、ベース、ヴォーカルも装飾をできるだけ排除した音に仕上げられているように感じられます。レコーディングした音を可能な限り空間込みでそのまま出されているかのようだし、そのうえでリフ等もクリアに聴こえて、アルバムの輪郭をクッキリと描きだしています。
若干物議をかもした前作と同様のサウンドプロダクションですが、前作以上に腹落ちしたような感覚です。なによりこの音だからこそ、バンドの地盤となっているテクニックや表現力、アイデアが活きていることがよくわかるんですよね。デスメタルらしからぬファクターがあれど、最終的には強固なアイデンティティを持つデスメタルバンドであると雄弁に証明するアルバムです。

<LINK>

JUTES:https://x.com/jutesmusic

OCEANO:https://x.com/Oceanoband

Vesper the Aerial:https://x.com/vespertheaerial

DEFILED:https://x.com/defiledjapan