2023年5月Disc Review!

梅雨ですね。暑いし空気もペッタペタで嫌になります。しかもこの記事を準備している間、めっちゃ雨がすごいです。

そんなときこそメタルですね。ガツっとした音を聴いて夏本番を待ちましょう。

■THE AMITY AFFLICTION『NOT WITHOUT MY GHOST』

オーストラリアのメタルコア/ポスト・ハードコアバンドの8作目。日本での知名度はそんなに高くないバンドですが、本国ではこれまで4作がチャート1位、それ以外も上位にランクインするほどの人気バンドです。今作も当然のように初登場2位だそう。
同じオーストラリア産で大物ながら、ミッドテンポのハードロック的な方向に変化していったPARKWAY DRIVEに対し、彼らはメタルコアをベースとした突進力のあるサウンドにこだわり続けてのし上がってきたバンドでもあります。作風も毎回オーケストレーションやプログラミング、キャッチーに歌い上げるメロディを組み込んだものが基本でした。が、ここ最近はメロディアスすぎるというか、メタリックな獰猛さが薄まっていたんですよね。悪くないけどちょっとヌルすぎるというか、置きにいったような感じがしていました。
今回はその反動か、いきなりブラストビートでかっ飛ばすだけでなく、メタルコアらしいゴリゴリした音に回帰。近作では出番が控えめだった噛みつくようなスクリームも増量されています。甘めのクリーンヴォーカルとの対比で剛柔を強調しつつ、オーケストレーションによる装飾もクサみは抑えめながらきらびやか。むしろ前作までのメロディアスな作風のおかげかメロディの練度も上がっており、大幅なバージョンアップのうえで集大成を見せる形になりました。これでまた人気が出るだろうし、もう来日はキツそうな感じがしますね。日本でちゃんと評価できなくてもったいないことになったバンドのひとつだなと思います。

 

■DEFILED『THE HIGHEST LEVEL』

国産デスメタルバンドの7作目。92年結成と30年以上のキャリアと実績を持つバンドですが、自信のほどが伺えるタイトルですね。
実際、これがかっこいい。いわゆるオールドスクール・デスのドロっとしたテクスチャではなく、カチっとした硬めかつ粒立ったクリアなサウンドで、空気を細断するかのような手数の多い音がガシガシ突き刺さってきます。インタビューにもある通り、複雑なテンポチェンジや変拍子といったをはじめとしたトリッキーな小技がふんだんに盛り込まれているんですが、ハイファイな音のおかげで、バンドのテクニックの高さがよくわかります。しかもそれがまったくいやらしくない。素直にスゲー!かっこいい!と聴くもよし、あちこちに張り巡らされたこだわりを分析するもよしです。
音のミックスについて「ドラムとヴォーカルの音が大きすぎる」と賛否両論あるみたいですが、たしかにドラムの音はほかよりも大きい気はしますね。ただほかのパートが極端に引っ込んでいるわけでもないし、むしろこの音作りの方が、今作においては何をやっているのかハッキリ伝わるんじゃないでしょうか。バンドの意図が、典型的なものとは違ったということだと思います。
重鎮といえるポジションのバンドですが、自分たちの方法論を大切にしつつ、試行錯誤も忘れない姿勢が素晴らしい1枚でした。何年も前に観たきりなので、またライヴも観てみたいです。

 

■SLEEP TOKEN『TAKE ME BACK TO EDEN』

UKの覆面プログレッシヴ・メタルバンドの3作目。最近SLIPKNOTのサポートが決定したりと、リリース少し前からいきなり注目度が爆上がりした出世株です。
スタイルとしては、MESHUGGAH以降の重厚なグルーヴを押し出しつつ、映画のサウンドトラックやインディー・ポップ、チャート上位に食い込んできそうなR&Bまで取り込んだ、ヘヴィながらポピュラリティの高いサウンドです。うるさい音楽にチャートものの要素を取り入れるという手法そのものは昔からあるし、彼らも初期から徹底してきたので、目新しさはないです。が、とにかくクオリティが高い。簡潔でスッキリしつつもスケール感が大きく、耳当たりの良いサウンドと、細部まで行き届いた作曲力と構成力は目を見張ります。裏に作家とかのプロが絡んでるかなにかですかね。曲のバリエーションも幅広く、捨て曲もないので、文句を探す方が難しいほど。
意地悪に考えればちょっとあざとすぎるとか、メタルならではのエクストリームさやザラつきが足りないとかは、ストイックな人に言われそうな感じはします。たしかに小奇麗にまとまりすぎているきらいがあるのは否定できないけど、クオリティの高さの前には黙るしかないですね。プロフェッショナルな仕事に惚れ惚れするアルバムです。

 

■THE OCEAN『HOLOCENE』

ドイツのプログレッシヴ/ポスト・メタルバンドの9作目。以前からコンセプトを掲げたアルバム制作に力を入れてきたバンドですが、今回は2018年、2020年にリリースした連作『PHANEROZOIC』で表現した地質学に関するコンセプトの最終章になるとのこと。
こういったコンセプトだったり、プログレッシヴ何某、ポスト云々と言われるとどうしても難しそうというか、敷居が高いように見えますが、THE OCEANの場合、そういった心配は無用です。NEUROSISに端を発するポスト・メタルに影響された、アトモスフェリックなアプローチやスラッジ感のあるリフも含みますが、あくまで緩急をつけるためのいち要素にとどまっています。むしろインテリジェンスな空気をはらみつつも、むしろスピード感のあるアレンジでガツガツ進んでいく様は「ハードコアなプログレ」とでも言いたくなる、筋肉質なサウンド。CONVERGEやGOJIRA、BOTCHといったIQの高さに裏打ちされた攻撃的なバンドが好きな人には向いていると思います。実際ライヴでも、メンバーがフロアをガンガン煽りまくりながらダイブしてくるくらいです。本人たちの根本にハッキリとフィジカルなハードコアがあるということを踏まえると、聴こえ方も変わってくるんじゃないでしょうか。
ちなみに彼ら、自分たちをアート集団と捉えており、映像等音楽以外を担当するメンバーも含めて、THE OCEAN COLLECTIVEと称する場合もあるそうです。今作はアートワークにバンド名もタイトルも記載されていないので、どちらが正しいのかはわかりませんが(笑)、部門という感じなんですかね。

<LINK>

THE AMITY AFFLICTION:https://twitter.com/amityaffliction

DEFILED:https://twitter.com/defiledjapan

SLEEP TOKEN:https://twitter.com/Sleep_Token

THE OCEAN:https://twitter.com/OceanCollective