2023年7月Disc Review!

暑すぎる…。

先月はライヴリポートをアップして、そのまましれっと過ごしてしまいました。

もう今年も後半戦ですが、秋くらいにインタビューもまたやりたいと思っています。とにかく夏を乗り切りましょう。

■PUPIL SLICER『BLOSSOM』

UK、ロンドン出身のマスコア/カオティック・ハードコアバンドの2作目。
2021年にデビューした時に名前は見たことあるかな…程度で、つまりスルーしていたし完全に乗り遅れたんですが、たまたま自動再生で流れて来てビックリしました(6月リリースなので、連続で遅れている)。超かっこいいじゃんこいつら。
THE DILLINGER ESCAPEPLANやBOTCHを通過しつつ、CODE ORANGEやVEIN.FM以降の不協和音やインダストリアル的な電子音を盛り込んだマスコア…とはよく言われるようですが、そんな簡単な話ではないですね。ポストブラックやシューゲイザーの影響も加味することで、悲痛さや内省的な要素が強く出ています。強靭で頑強な要素と引き立て合う…というか、このナイーヴさの方が本質なんじゃないかという気がしてくる。考えてみれば、初期NINE INCH NAILSしかりSKINNY PUPPYしかり、インダストリアルってもともとは重苦しさが特徴ですからね。そのあたり要素を原点レベルまで掘り下げるなか、UKならではの湿り気も自然と反映されており、じっとりとメランコリックで、陰鬱な雰囲気が全体を覆っています。誤解を恐れずに言うと、KORNの1stや4thあたりの、暴れ回ってもむしろ不気味なまでの静けさを感じさせる部分にも通じるように思います。
いっしょに1st『MIRRORS』(2021年)も聴いてみたんですが、今よりももっと根っこが見える感じですね。今回で正当かつ一気に進化しているし、今後もさらにのし上がっていきそうで、楽しみなバンドがまた増えてしまいました。

■WILL HAVEN『VII』

カリフォルニアの「ノイズ・メタル」を自称するバンドの7作目。
DEFTONES、FARと並ぶサクラメントを代表する存在ですね。中でもWILL HAVENはミッド~スローに進みつつ、圧倒的に重く、暗いべっとりとしたテクスチャーが特徴。初期からずっと変わらぬスタイルを貫いているんですが、今回は一瞬だけではあるもののブラストビートを取り入れみたりと、意外なチャレンジ精神を見せる場面も。それ以上に、これまでよりも閉塞感のある不穏な空気が目立っています。とはいえブラッケンドとかともちょっと違った、むしろTODAY IS THE DAYとかKEN MODEあたりにも近い、もっと別方向にねじ曲がった感触です。振り切れたテンションのヴォーカルと相まって、周囲のものをジリジリと焦がすような音世界は圧倒的。
WILL HAVENって、なんだかんだメジャーで注目され続けているDEFTONESや、エモ由来のポップさも評価対象のFARに比べると、モッシュを誘発するよりもフラストレーションが噴火を起こしたようなタイプだし、とっつきにくいバンドなんですよね。それ故になかなか正当に評価されにくいというか「知る人ぞ知る」に収まりがちではあります。でもゲスト参加(する・される問わず)の人脈は豊富だし、知られればちゃんと刺さる人がいる存在でもあります。CONVERGEやNEUROSISといった並べられやすいシーンはもちろん、VEIN. FMやkokeshiといった、ニューメタルの系譜も持つバンドのファンにも刺さると思うので、そろそろ逆襲のタイミングとして打って出てほしいです。

■SeeK『故郷で死ぬ男』

大阪のハードコアバンドのアルバム。これまでEPやスプリットをリリースしており、フルアルバムとしては初となりますが、とんでもないのができましたね。
まずもってレンジがめちゃめちゃ広く、音量以前の問題として、とにかくデカく、強く、重い音が出ています。土石流を思わせる音の波がブラストビートとともに一気に押し寄せて来て、なすすべもなく飲まれるのみ。通常、ブラックメタルらしくコード感を出しながらブラストビートまでスピードを上げると、どうしても音の重みがなくなっていくんですが、むしろハードコア由来のドスのきいた重低音がコードを潰さないまま幅を利かせていて、結果濃厚な地下の匂いが漂いつつ、スケール感がデカくなっています。レコ発を観た際にも感じたことですが、人は想像を超えたデカいものに出くわすと、畏怖の念さえ抱くんだと思い知らされます。もはやブラッケンドだとかスラッジだとか激情だとかいう細かいカテゴライズが邪魔になるというか、むしろそれら全てであり、そのうえでどれでもない。様々な文脈や歴史を踏みしめて生まれた、唯一無二のアルバムです。
かつてはギターレスかつツインベースと特殊な編成でしたが、今回はヴォーカル、ギター、ドラムでレコーディングされたとのこと(ライヴではベースも含む4人編成)。わりとオーソドックスな編成に近づいたことで、かえって特異性と底力が浮き彫りになったような印象があります。とにかく可能な限りの大音量で聴くべきアルバムであり、絶対にライヴを観るべきバンドです。今年のベスト候補の1枚。

■kokeshi『冷刻』

東京のブラックメタル~ハードコアバンドの2nd。
リリースそのものは4月ですが、ツアーファイナルを経てサブスクでも公開されたということで改めて聴いてみると、SeeK同様、バンドとして一気に突き抜けるきっかけになるアルバムですね。
ブラックメタルからの影響を指摘されることの多いバンドですが、単にブラッケンド〇〇という言葉では言い表せないものになっています。そもそもブラストやトレモロで押し切る、露骨にブラックメタル的な場面はそこまで多くないです。むしろ不気味なほど静かなアルペジオと、輪郭のハッキリした重厚なリフとグルーヴでメリハリをつけながら進行していく様には、初期のKORNをはじめとするニューメタルやハードコアの影響が感じられます。そのうえで中期以降のDIR EN GREYにも近い変幻自在のヴォーカルがのたうつことで、悲痛ながらフィジカルの強さも際立たせてある。ホラー等日本的な雰囲気の取り入れ方の巧みさも相まって、いろんなバンドとの近似値を感じさせつつも、異物感に満ちたサウンドが完成しています。
既存のポストロックやシューゲイザー的解釈も踏まえつつ、ブラックメタルをニューメタルのグルーヴ感と衝突させるというのは、誰かがやっていそうで意外となかったスタイル。明日の叙景とは違う形での、国産のブラックメタル経由作の基準のひとつになるかもしれないです。

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WILL HAVEN:https://twitter.com/willhavenband

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