2022年7月Disc Review!

「不定期でやる」と宣言した月イチレヴュー、2回目のアップです。(いきなりできなくなるとかはどうにか回避できた)

このほかにもいい感じのアルバムはあったんですが、時間的な制約もあり、今回も4枚。でもほぼ月末にリリースされた明日の叙景には、かなりやられましたね。

これから大物の新譜が控えているので、また何かしらやりたいと思っています。とにかく新旧問わず聴くこと、探すことは忘れずにいきたいです。

■Greg Puciato『MIRRORCELL』

解散から早5年が経過したTHE DILLINGER ESCAPE PLANの元ヴォーカル、グレッグ・プチアートのソロ名義2作目。TDEP解散以前からゴシック/インダストリアルなTHE BLACK QUEEN、人脈を生かしたエクストリームなメタル/ハードコアをかますKILLER BE KILLEDでも活動している彼ですが、ソロではグランジ/オルタナからニューウェイヴ周辺も取り入れた、より幅広い音楽性を展開しています。
実験的な要素が多かった前作に比べると、今回はジェリー・カントレル(ALICE IN CHAINS)のソロに参加した影響が見える…というかモロにアリチェンじゃん…となる場面が多いです。ほかにもCODE ORANGEのリーバ・マイヤーズ(vo,g)参加曲はU2愛が溢れ過ぎていたりと、他名義でやっていない、できないことをそのまま出したようなアルバムになっています。そういった意味で独自性は置いておくにせよ、1曲1曲のクオリティは非常に高いだけでなく、グレッグのヴォーカルの力量の高さにも改めて唸る内容です。
これは邪推ではありますが、TDEPでハチャメチャを極めたパフォーマンスを展開したグレッグが、年齢等も加味して「いつまでもできる音楽」を追求しつつ、自身のイメージも塗り替えようとしているように感じます。40歳を超えたグレッグの次のキャリアには期待ですね。

■PROMPTS『FRACTURE』

東京発、日韓メンバーが混在するメタルコアバンドの、結成10年越しの1st。メンバーチェンジを重ねて現在の編成に落ち着き、やっとですね。
以前はUK的な叙情感を取り入れたデスコアという印象だったのが、去年リリースされた2曲のシングルで、もはや何音下げかわからない異次元チューニングを武器に、病的で逃げ場のないヘヴィさを押し出したニューメタルコアに行きついた彼ら。てっきりアルバムも全編殺人的な音で埋め尽くすのかと思いきや、初期の叙情感を2020年代メタルコア/デスコアで解釈しつつ、LINKIN PARK以降の歌ものニューメタルにも通じるメロディに、スクラッチまで取り入れるという「その手があったか!」と膝を打つ仕上がりになりました。ニューメタルはもちろん、メタルコア以前のニュースクールや叙情ハードコアをちゃんと消化していなければ出せない音だし、情報過多にならずコンパクトにまとめているのも見事。テクニックを駆使して、もっとプログレッシヴな方向に行くこともできたと思うんですが、小難しさを排除したのは英断だと思います。海外のレーベルもリスナーも注目するだけのことはある、会心の1枚です。
現在、本作をもってのレコ発ツアー中の彼らですが、PK(vo)が持病の治療のため不参加、サポートメンバーを起用しています。本人たちもやきもきしていると思いますが、早くフルメンバーに戻れることを祈っています。

■GOGO PENGUIN『BETWEEN TWO WAVES』

マンチェスター産ピアノトリオのデジタル限定EP。前からバンド名だけは見たことがあって「なんつー名前や」くらいにしか思っていなかったんですが、たまたまサジェストされたのを聴いてみたらこれがめちゃめちゃよくてビビりました。ジャズ~エレクトロニカを土台にしたピアノ、ベース、ドラムの三人組なんですが、ジャズ出身だけある超絶技巧をいかんなく発揮しつつ、滑らかで穏やかなサウンドがものすごく心地よいです。激しさはゼロなんですが、いつでも、どんなテンションでもすっと体に馴染むタイプのバンドです。過去作を聴いてみると、もう少し楽器同士のスリリングなぶつかり合いが多かったりもするんですが、今作から新ドラマーが加入したとのこと。基本的な路線は変わっていないものの、雰囲気がより柔らかくなったのは、そういった部分も多そうです。
やっぱりジャズが主戦場になっていて、他のフィールドに届いていないのかなという気がしますが、AMERICAN FOOTBALLに代表されるエモ~マスロック、POLIPHIAあたりのわりと新しいプログレ~マスメタルが好きな人にはブッ刺さりそう。過去に2度来日しつつ、2020年のフジロックに出演するはずがコロナで中止になっているそう。次の来日が決まったら、絶対行きます。

■明日の叙景『アイランド』

東京拠点のブラックメタルバンドの2nd。ALCESTやDEAFHEAVENによって浸透した「ポスト・ブラック」の流れを汲みつつ、激情ハードコアとも近似値の高いバンドという認識だったんですが、別次元に到達した感があります。
これまでは激情~カオティック方面とリンクしているところがありましたが、今回はJ-POPやV系(LUNA SEAやL’Arc-en-Ciel等を引き合いに出す声も)、90年代アニメの影響をブレンド。かつブラストビートのみならず、四つ打ちをはじめとしたリズムのバリエーションにこだわり、加速度をつけることで、アルバム全体で統一感がありつつ、楽曲に幅と粒立ちを実現(歌心のあるベースラインがまたいい仕事をしている)。またブラックメタルというと寒々しさや悲痛さが前面に出がちですが、本作は「夏」をテーマに、しかも日本の湿気と情緒、ノスタルジー含めて完璧に表現しきるという離れ業も見せています。
正直、ポスト・ブラックって数年前から飽和状態になっていたと感じていたんですが、このアルバムはポスト・ブラックのその先と「こんなのもアリ」という多様性、そして日本人にしか作り得ない独自性を同時に提示した作品だと思います。こういう、歴史に楔を打ち込むであろう音源がリリースされる瞬間に立ち会えるのも、音楽を聴き続ける醍醐味ですね。今年の夏は例年以上に暑いですが、このアルバムが彩ってくれるなら、少しはマシになりそう。地下の狭いライヴハウスももちろんいいですが、入道雲が浮かぶ青空の下でも見たいです。

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Greg Puciato

PROMPTS

GOGO PENGUIN

明日の叙景