DIRTY SATELLITES 2ndアルバム”EIGHT SHADES OF BLUE”リリース記念インタビュー!生活と地続きに鳴らされた音の記録 by 板垣周平(perfectlife)

・今作のアルバムタイトル「EIGHT SHADES OF BLUE」、恰好いいです。タイトルに込めた思いは?

矢田:「FIFTY SHADES OF GRAY」というアメリカでヒットして、映画化にもなった官能小説があって、そこからとったんだよね。その原作や映画の内容には自分はピンと来なかったんだけど、「50段階の灰色の色調」っていう意味が恰好いいなと思って。で、アルバムに収録した8曲ほぼすべてが、青春だったり、ブルーな何かを感じる内容だと自分では感じたので、「エイト・シェイズ・オブ・ブルー」で行こうと。元ネタがSM小説なのもウチららしくていいかなと(笑)。

・格好いいタイトルに対する照れ隠しもありつつ、ですね(笑)。

矢田:そうそう。あと曲数も、アルバムとして成立する最小単位が自分は8曲とだと思っていて。自分達の集中力の限界って意味でも8曲にしてよかったと思ってる。

足達:ジャケの話しもしといたら?

矢田:そうですね。ジャケットの写真と、インナーの写真もすべてウチの奥さんが撮影したものを使ったんだ。

・素敵です。今作のフォーマットはCDのみですか?配信は?

矢田:CDのみだね。配信はやらない予定。前のバンド(THIS WORLD IS MINE, LINE)で配信を試みてみたんだけど、採算が取れないと感じてしまったので。ブラジルとか、アメリカとか世界中からリアクションが来るのは励みになるし、楽しかったんだけど…現時点ではウチらには見合わないかな。

・それでは、具体的に内容について聞いていきたいと思います。今作で一番印象的だったのは、ボーカルの録音とボーカリゼーションの変化です。今まで矢田さんの声や録音は艶っぽさや伸びやかな感じの印象が強かったのですが、今回は乾いていてアグレッシブな印象です。上手く言葉に出来ないですが、パンクロック的な何かへの原点回帰というか…

矢田:そう?それはたぶん、BEA POT STUDIOじゃなくなったからかな。BEA POT STUDIOのハンヤさんにはいつも同じダブルトラックボーカルの調整をお願いしてたから。でも1曲目は確かにガナって歌った部分もある。録音では、何回も録り直して、曲ごとにも違う歌い方しようと心がけたりもしてみたんだけど、でも歌に関して今回はテクニック的な部分よりも、精神的な変化が大きい。今回はじめて、「誰に届けるか」「どう伝えるか」ってことを考えて歌入れして。今まではそんなこと考えたこともなかった。今までやってきたバンドはどちらかというとコンセプト優先で「これが最新のエモロックだ!」とか「俺たちのオルタナカントリーの解釈はこうだぜ!くらえ!」みたいな事を考えて録音してたので。自分のマイブームだったり、自分内の音楽的なMAX値に向かって歌っていただけというか、聞き手の事は全く考えてなかった。

・変わったきっかけは何だったのでしょう。

矢田:歌録りをしている時に出たKOHHのアルバムをたまたま聞いて、「俺の歌と全然違うな」と思ったのがきっかけとしてあって。宇多田ヒカルの「Fantome」を聴きこんでいる時に、すでに歌の力みたいなのは感じていて。あとアヴリル・ラヴィーンの最近のアルバムの歌もすごく良くて。自分の中でその3人が重なって。そんな中、某インディーバンドのスプリットを聞いて決定的に感じたのが、「この人達には伝えたいことがあるし、伝えるテクニックがある」という事だったのね。で、自分を振り返った時に、自分は今までライブでも音源でも「伝える」ってことを考えて演奏したり歌ったりしたことが一度もなかったなって。で、そんな聴き方で今回の録音した自分の歌を聞いてみたら、何も感じない曲が何曲かあって。「自分が何も感じないなら、聴いてくれる人も何も感じないだろう」という基準を設けて、そういう(何も感じない)歌は何回も録り直した。それこそ、50回以上リテイクした曲もあるくらい。歌録りの後にやったライブも、「伝える」ってことを意識して演奏したら、すごくいいリアクションが返ってきたんだよね。不思議だけど。

・「伝える」って言葉がめちゃくちゃ出てきました。そもそも、「伝える・伝わる」という言葉自体、あいまいで危ういものです。伝えるという意味をもう少し掘り下げてみたいです。伝えたいのは、歌詞?曲?

矢田:そうなんだよね…そもそも歌詞も英語だし、俺の作る歌詞の内容も、あいまいとしている部分を大切にしたりしている。俺がもうひとつやっているWEIGHTというユースクルー・ハードコアバンドのメンバー、高山にも「伝えるとは…」って話をしたら、「何を伝えたいの?」ってすごい突っ込まれて。「いや、歌詞で伝えたい事はない」って答えたら、「それは矛盾している!」って言われたんだけど、「矛盾はしてない!だって歌詞が分かんないハードコアパンクのライブ見てお前だって感動することあるだろ!それは何かが伝わって受け取ってるってことなんだ!」みたいな返しをし、白熱したんだけど…

・いい感じで核心に近づいてきました(笑)。

矢田:結局何が言いたいかというと、「伝える」っていうのは究極、男性と女性の関係に近いと今は考えていて。

・どういうことでしょう?「FIFTY SHADES OF GRAY」感もやはり、あると?(笑)。

矢田:いや、なんていうか伝えるってことは結局、「自分の存在を認めてもらうために、相手の心をこじ開ける行為」なのかなと。自分がアヴリル・ラヴィーンの「Head Above Water」って曲に歌詞も分からず感動しているのは、曲を通じて彼女の存在にヤラレて自分の心に刺さった結果なんじゃないかと。

足達:でもライブでも「この曲はこんな事を歌っています」ってMCしてから始める曲とそうでない曲があるよね。矢田さんの中でその辺は切り分けて演っているのかなと俺は思ってたけど。

矢田:今回レコーディングする前まではそうだったです。英詞なんで歌詞の内容を伝えてから演奏した方がいいかなと思っていた時期もあり…でも今は、どうやったら聞き手の心を開けられるかって事に重きを置いているというか。自分が聴き手として好きなバンドのライブを観ていても、感動する日もあればそうじゃない日もある。その心の動きの変化は何なのだろう?とずっと考えていて。答えがない事だから、送り手としては、自分の心を解放して「曲を通じて人の心を開いて自分の存在を伝える」って事をやっと意識した感じで。「自分の心に届かなければ、他人に届くはずはない」ってやっと気付いた。多分、売れているミュージシャンなら18才くらいには気づいている事を、バンドを20年以上やってきて初めて気づき始めたという(笑)。

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