南半球の小国で生まれた、壮大な音像。CITY OF SOULS、デビューアルバムリリース記念インタビュー

Interview by MOCHI

Translate by Sachiko Yasue

オーストラリアの東に位置する小さな島国、ニュージーランド。千葉県より人口が少ない(なんなら人間より羊の方が多い)国ながら、近年はラグビーで注目された国だ。同時に、その小ささに対し、かつてはMETALLICAのメンバーさえビビらせたSHIHADに始まり、THE DATSUNS、STERIOGRAM、JAKOBU、ULCERATE、ANTAGONIST A.D.と、各ジャンルで良質のバンドを世に送り出してきた国でもある。なかでもニューメタルのムーヴメント終盤、DEFTONES直系のサウンドが話題を呼び、サマソニ出演も果たしたBLINDSPOTTや、DARKEST HOURやAT THE GATES直系のメロデス/メタルコアに、envy等激情ハードコアの要素をブレンドし、2015年と2016年に来日したIN DREAD RESPONSEあたりは、日本でも名が知られているだろう。そのBLINDSPOTTから1人、IN DREAD RESPONSEから3人が参加しており、次に打って出るのがCITY OF SOULSだ。5月に初のアルバム『SYNÆSTHESIA』をリリースした彼らだが、DEFTONESやBRING ME THE HORIZONといったバンドの影響を昇華しつつ、重厚かつ多層的なポスト/オルタナ/プログレッシヴ・メタルを展開。時代の空気と独自性を両立したサウンドで、天下を取る気満々だ。そんなCITY OF SOULSから「日本の人たちに聴いてもらいたい」というオファーを受け、トラジャン・シュウェンケ(g:IN DREAD REPONSE)とのインタビューが実現。親日家でもある彼が、日本でのこと、バンドのこと、そして地元ニュージーランドの音楽シーンについて話してくれた。

――IN DREAD RESPONSEとして2015年、2016年と連続で来日したよね。あれから4年も経ったけど、日本でのことは覚えている?

「もちろん!日本は、僕の音楽人生において最高の経験をさせてくれた場所だからね。実は2014年頃、バンドのメンバーが立て続けに脱退することになって、IN DREAD RESPONSEとしての活動を続けられるかわからなくなっていたし、僕自身、バンドから少し離れていた時期でもあった。でもどうにか新しいメンバーを探してアルバムを作った後、Serenity in Murderが日本ツアーを持ち掛けてくれたし、その次の年も日本でアルバムをリリースした上で、またライヴをやりに行くことができた。妥協せず、しっかりと地に足をつけて音楽を作ることで、新しい出会いや評価を得ることができたんだ。その経験はCITY OF SOULSでもすごく生きているよ。とにかく楽な近道をせず、アーティストとして自分たちが納得できるアルバムを作ることが大切だと学んだ。しっかりとやれば、ちゃんと結果がついてくると教えてくれたのが、日本なんだ」

――その経験を踏まえて、CITY OF SOULSのデビューアルバム『SYNÆSTHESIA』を今年の5月にリリースしたね。

「リリースするまですごく長くて濃い時間を費やしたから、ものすごくほっとしたよ。でも、たしかに結成から5年間の経験や成長をすべてアルバムに込めることができたから、こうして形になってくれて本当によかったと思っている」

――結成は2015年ということだけど、どうやって始まったの?

「このバンドは僕とスティーヴ(・ボーグ/g:IN DREAD REPONSE)といっしょに始めたんだ。二人ともDEFTONESやLINKIN PARK、それにOASISといった、曲の構造が明快なバンドが大好きで、そういった音楽にフォーカスしたい気持ちがあった。そこに友だちが何人か集まってデモを作ったとき、ちゃんとしたバンドにするべきだと考えるようになったんだ。気が付けばIN DREAD RESPONSEのメンバーが3人も集まっていたけど(笑)。もともと同じバンドをやっていたこともあって、影響を受けてきた音楽もお互いわかっている。そのうえで、それぞれ持っている違った要素やセンスを組み合わせてみたいと思ったんだ」

――レイヤーを何層にも重ねた音作りが特徴の一つだけど、『SEMPITERNAL』以降のBRING ME THE HORIZONにも通じる部分があると思う。

「BRING ME THE HORIZONは昔から聴いていたし、影響されたバンドだよ。2012年に彼らがニュージーランドに2日間ライヴをやりに来たんだけど、初日を観に行ったらあまりにもよかったものだから、その場で翌日のチケットも買ったくらい、ものすごく衝撃を受けた。そのライヴが終わった後、興奮状態で書いた曲が“Water”の原型になったんだ。それをスティーヴに聴かせたのが、このバンドの始まりだね。ほかにも、僕たちは子どもの頃からMETALLICAやMESHUGGAH、ほかにもALICE IN CHAINSのようなバンドを聴いてきたから、その影響をよりモダンなサウンドと組み合わせるのはというのは、挑戦していることでもあるよ」

――ギタリストが3人いるけど、マーカス(・パウエル/g:BLIDSPOTT)が7弦で低音を、スティーヴがアンビエント的なテクスチャーを、トラジャンはその間をといった形で振り分けているみたいだね。

「誰がどの音を担うのかは、自然に振り分けができているんだ。メンバー間でディスカッションとかは、ほとんどしていない。みんなで集まった時に、お互いに足を踏まないようにするというか、誰かのやっていることに干渉しないようには意識しているけどね。それにリッチー(・シンプソン/vo)は曲を聴いたら、自分はどんな歌い方をすればいいのかすぐに理解できるタイプ。だからそこまで大変ではないよ。6人全員が納得するまでは完成としないことにしているから、時間こそかかっているけどね」

――加えてエレクトロニクスも使いつつ、音の配置やバランスにはかなり気を使っているよね。情報過多にならないように曲の構造を考えるのは、大変な作業なのでは?

「音のレイヤーを何層にも重ねて分厚い音を作ることは、これまでほかのバンドでもやろうとしていたけど、それをより突き詰めたのがCITY OF SOULSなんだ。特にスティーヴはアンビエントな音作りにも才能があるし、音はいくらでも重ねていける。でも一歩間違えると、音が混ざり合って何も伝わらなくなってしまうんだよね。エモーショナルで力強い音のレイヤーは意識しているけど、さっきも言ったように曲の構造を第一にしたいから、プロデューサーも交えて、どの音が大事なのかは整理している。テクニックや音がどれだけ重なっているかよりも、しっかりと曲を明確にすることが大事だからね」

――活動開始後、“Water”、“Sleep”、“Long Gone”の3曲をシングルとしてリリースしたよね。その3曲はDEFTONESやA PERFECT CIRCLEといったバンドの影響が強かったけど、アルバムではよりシューゲイザーやポスト・ハードコア、ポスト・ロックの要素が強くなった感じがする。

「このバンドは僕のほかに、5人の才能あるメンバーが揃っている。コリィ(・フリードランダー:IN DREAD REPONSEほか多数)なんか、ニュージーランドでもトップクラスのドラマーだしね。その中でも、みんなで顔を合わせて曲のアイデアを練っていくのが好きな奴もいれば、家で一人で考えたものを持ち込む奴もいる。そんな僕たちが初めてひとつにまとまったのが、1曲目の“Lifeblood”なんだ。これ以降、バンドの方向性が固まったのは間違いない。ほかにも、当時の僕はBURIED INSIDEみたいなポスト・メタル系のバンドをよく聴いていたから、その影響もあるかもしれないね。それとリッチーはFAILUREとか、ほかにも僕があまり通ってこなかったスペース・ロックやグランジの大ファンで、低い声で歌うのが得意なんだ。それをスペーシーなサウンドと組み合わせて“Long Gone”を作った。いろんなことに制限なく挑戦するのはすごく楽しいし、サウンドにも現れていると思う」

――JOY DIVISIONの“Love Will Tear Us Apart”をカヴァーしているよね。淡々とした原曲を、よりドラマチックにアレンジしているのが、すごく意外だった。

「僕自身、この曲は昔のバンドのメンバーから教えてもらったんだけど、重苦しい歌詞に比べてプロダクションが控えめというか、ちぐはぐな気がしていたんだよね。そういう意図がバンドにあったのかもしれないけど、歌詞の内容とリンクするように、曲をヘヴィにしてみたいとはずっと考えていた。もちろんメロディックな部分は生かして、原曲のファンががっかりしないように気を付けた。日本では、JOY DIVISIONやNEW ORDERはすごく人気があるんだよね?気に入ってくれるといいな(笑)」

――アルバムの最後は、インストゥルメンタルのタイトル曲だね。ヴォーカルの代わりに、同郷のHEAVY METAL NINJASのリッチー・アレン(g)が参加しているけど、彼はギターじゃなくてオーケストレーションを担当しているんだね。

「アルバムを作ることになったとき、最後はインストで締めたいというアイデアがあったんだ。この曲の原型を僕が作ったとき、リッチー…うちのヴォーカルのほうね。彼が“これは俺が歌う必要ないんじゃない?”って言うからさ。それじゃあこの曲を最後のインストにして、HMNのリッチー・アレンにオーケストレーションを頼むことになったんだ。どんな感じにするのかもお任せでね。リッチー・アレンはニュージーランドどころか、世界でも指折りのギタリストだけど、オーケストレーションで音を豪華にすることについても、ものすごい才能の持ち主だ。もう、彼かハンス・ジマー(パイレーツ・オブ・カリビアンほか)かってくらい(笑)。そのセンスを注入してほしかったから、僕らからはどういう風にしてほしいとか、そういったオーダーは一切していないよ」

――アルバムタイトルの『SYNÆSTHESIA』は「共感覚」という意味だよね。

「スティーヴが共感覚を持っていて、音を聴くと、色がついているような感覚になるみたいなんだ。“この音は青だね”とか、よくそんなことを言っているよ。いい曲だけに見える色があるらしくて、曲作りのとき、彼がその色を感じられたかどうかが、完成の判断材料になることもある。それで今回のタイトルになったんだ。ブックレットやYou Tubeで公開しているオーディオヴィジュアルも、その色をみんなにも見てもらえるように作っている。スティーヴとしては、このバンドの曲はいろいろな音が組み合わさることで、複雑な色ができあがっていくのが好きみたい。そういった意味では、例えばDEFTONESなんかは、チノ・モレノの声も音のレイヤーのひとつとして機能しているよね。そういった部分でも、影響を受けているんだと思う」

――アルバムリリース前、3月に地元でDEFTONESのサポートをやる予定だったけど、新型コロナウィルスの影響で延期になってしまったね。その後、ニュージーランドの状況はどう?

「ニュージーランドの日常は、ようやく戻りつつあるよ。僕たちも8月から国内でツアーを再開する予定なんだ。まだ海外から戻ってきた人が感染したり、油断はできないけどね。ニュージーランドはほかの国からは隔離された場所にあるから、元々ウィルスもそこまで多く入ってこなかったのは幸運だったと思う。それにニュージーランド人はとても適応力がある。おかげでコロナによってロックダウンになっても、自分たちなりに楽しみを見出していられたから、今の状態があるんじゃないかな」

――今言ったように、ニュージーランドはほかから隔離された、小さな島国だよね。でも過去にはSHIHADをはじめ、BLINDSPOTTやIN DREAD RESPONSE、ULCERATEといったバンドが国外でも活躍しているけど、どんな音楽シーンがあるの?

「ぶっちゃけ、僕は田舎町で育ったから、10歳くらいまでAC/DCしか聴いたことがないような子どもだった(笑)。だから一般化することはできないけど、ニュージーランドのリスナーの傾向としては、幅広い音楽を聴いているように思う。でもだからといってアーティストも多彩かというと、また別だね。アウトプットが少ないのかな。メタルやパンク、ロックといったジャンルに限っても、そもそもバンドの数が少ないし。ある程度国外で売れたバンドも、どこかのんびりしているというか、ニュージーランドらしいバンドっていう感じがするよ。僕たちとしては、ニュージーランドの少ないロックバンドのなかで、先頭を走れるような存在になりたい。いろいろなスタイルを混ぜ合わせて、たくさんの人に気に入ってもらえるようなね」

――いわゆるパンク/ハードコアとかメタルにおいて、シーンというかコミュニティみたいなものはある?

「近いスタイルのバンド同士の、すごく小さなシーンはあるよ。でもやっぱり、ジャンルというよりも音楽をやっている人同士が繋がっているような感じのほうが強いね。それこそ、ひとつのジャンルしか聴かないしライヴも行かないんだったら、年に2本くらいしか見るものがないからさ(笑)。だからみんな、ひとつのジャンルにこだわっているというよりは、いろんなものを聞いたりやったりしているね」

――CITY OF SOULSのメンバーだけでも、いくつものバンドを掛け持ちしているよね。これはニュージーランドでは普通のことなの?

「そうだね。バンドメンバーの掛け持ちはすごく多い。さっきも言ったようにバンドが少ないから、ステージでもフロアでも、同じ人間をライヴで見かけることが多いんだ。それで顔見知りになって、多少ジャンルやスタイルが違っても“ちょっといっしょにやってみない?”って誘うことは多いし、そこからクロスオーヴァーしていくこともあるよ。その結果、ニュージーランドではヒップホップと掛け合わせたスタイルのバンドが、以前よりも増えているね」

――8月から国内ツアーを再開するということだけど、ほかにはどんな予定があるの?

「実はCITY OF SOULSの活動と並行して、IN DREAD RESPONSEのアルバムのアイデア出しを始めたところなんだ。まだ状況はわからないけど、2021年から2022年にかけてアルバムを完成させて、CITY OF SOULSとしても、IN DREAD RESPONSEとしてもまた日本に行きたい。日本の人たちは本当に献身的にサポートしてくれるし、行けばまた最高の経験ができると約束されているからね。以前僕たちを観に来てくれた人たちも、最近僕たちを知った人も、ぜひ待っていてほしい。今回のコロナ禍でわかったのは、組織じゃなくて、個人として、いかにしっかりした絆を作っているかが重要かということなんだ。その点、僕たちはどのバンドでもずっとDIYな活動をしてきたし、ニュージーランドにも日本にも、信頼できる友だちがいる。お互いに助け合えば大丈夫だし、楽しいことができるはずだよ」

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