2022年ベストアルバム!

あけましておめでとうございます。
去年から月イチレビューを始めましたが、キリよいところということで、振り返りも兼ねて2022年ベスト10枚をまとめてみます。

ありがたいことに、去年もインタビューや対談企画などやらせてもらいましたが、月イチレビューで取り上げたか、インタビューをやったか等は基本的に考慮していません。聴いたタイミングのせいで、レビューでもSNSでも触れなかった作品も多いですしね。
また、聴いた回数に大きく差が出てしまうということで、12月にリリースされた作品は省いています。
リリース順に並べているので、順位というわけではありません。ランキングではなく、単純に特によかった/聴いた作品を並べた…と思ってください。

去年は夏フェス開催を皮切りに、ようやく来日公演も開催されるようになりましたね。
フェスには行けませんでしたが、QUICKSANDとGOJIRAを堪能しました。
今年もいろいろ見に行きつつ、来日取材なんかもできるといいなと思っています。

前置きが長くなりました。
それではいってみましょう。

■Ермак!『И​с​х​о​д』(Release:1/28)

ロシア産ポストハードコア・バンドのEP。バンド名はおそらく「イエルマーク」と思われますが、それとロシア出身ということ以外はほとんどわからないバンドです。が、そのぶんインパクト大でもありました。
音としてはUNDEAROATHあたりのポスト・ハードコアを基準としつつ、ブラストビートやトレモロといったデス/ブラック由来の要素も加味。ところどころシンセで音を加工したりと、今様のアレンジもさらりとこなしています。BOTCHやZAOあたりも引き合いに出せそうなカオティックさものぞかせ、ヒリヒリした切迫感に拍車をかけているし、そもそも曲の構成やメロディも巧み。なぜ今までこんなバンド見逃してたんだ…いやそりゃ見逃すよな…と思いました。完全に名前で損しているというか、検索させる気ないでしょこれ。
「今年初めて知ったバンド」では、これが間違いなく大当たり。もう名前さえ読めないという言語的な面は諦めるので、コンスタントに活動してほしいです。ちなみにこの他にも今年は2曲、新曲を出していますが、このEPの路線を引き継ぎつつ、よりメロディアスになっていました。とにかく今後が超楽しみな彼らを見つけたのは、2022年の収穫でした。

■FEEDER『TORPEDO』(Release:3/25)

UK、ウェールズ(日本人ベーシスト含む)オルタナバンドの11作目。
「グランジに対するUKからの回答」なんて謳い文句とともに登場し、メンバーの死にもめげず、ちょっと地味ではあるけどパワーポップ的で良質なアルバムをコンスタントに出し続けている、ファンベースが固いバンドですね。いつぞや、アジカンやELLEGARDENのメンバーと絡んでいたのも懐かしいです。
基本的にハズレのないバンドなんですが、今回もまさに安定。とにかくいいメロディしか書かないんですよね。そのうえで、一時期増やしていたストリングスやシンセの音と、ここ数作で見直したバンドサウンドとのバランスが、今回うまくまとまっています。グランジ色の濃いファズギターが、しっかりリフを弾いているのもうれしいポイント。初期から比較されてきたスマパンはもちろん、極端なことを言うと『ANTENNA』でメジャーに打って出た時期のCAVE INにも近からず遠からずな部分があります。
派手さもなければ地下臭はほぼしないですが、とにかくいい曲が聴きたければFEEDERを聴いておけば間違いないです。

■MESHUGGAH『IMMUTABLE』(Release:4/1)

スウェーデンのエクストリーム/プログレッシヴ・メタル大家の9th。
前作同様、バンドの顔役でもあるフレドリック・トーデンダル(g)が書いた曲はなし。しかも前作リリース後、そのフレドリックはツアーから一時離脱するという事態もあったので、バンド内でいろいろとバランス調整があったのかもしれません。
内容的にはすき間を生かした、彼らにしては風通しのよさが感じられるサウンド。重厚かつ難解なリズム(実は変拍子やポリリズムは使っていない…という掘り下げた話はほかの人に任せます)は相変わらずではあるものの、圧迫感はあまりなく聴いていて気持ちよいくらい。誤解を招くかもしれないですが、ドゥーム/ストーナーの耳でも聴けるというか、速くないぶん旨味がある、という感じです。
代表作である『DESTROY ERASE IMPROVE』(1995年)や『OBZEN』(2008年)のような、密度の高いガッチガチのサウンドではないので、そこは好みが分かれる部分ですね。個人的にはこの感じのほうが好きですが、方向性うんぬんを度外視しても、やっぱり格が違うバンドだと思い知らされます。

■GOGO PENGUIN『BETWEEN TWO WAVES』(Release:7/1)

UK、マンチェスター産ピアノ・トリオのデジタル限定EP。
ジャズ/フュージョンを土台としつつ、エレクトロニクスを取り入れたインストで、これも2022年初体験でした。ジャズ出身ならではの
超絶技巧が織りなす緊張感と、流れるように進行していく滑らかさが心地よく、何度聴いたかわからないです。いい意味で敷居も低く、フュージョンに詳しくなくともすんなり入っていける親しみやすさもポイント。エモ~マスロックはもちろん、昨今のメタル上がりのテクニカルなバンドとも、近からず遠からずな感じがします。ただ旧作と聴き比べてみると、ドラマーの交代を経た今作はより穏やかな音像が顕著になっているので、バンドとしてもまだ手慣らしといったところかもしれません。
もうちょっと早く知っていたら、来日にも行けたんだけどな…と悔やみつつ、少しずつ増えてきた来日公演のスケジュールに、名前が入ってくるのが楽しみでもあります。

■NEKO NINE『ISOLA』(Release:7/22)

ロシア産(現在はオランダ在住らしい)ポストロック・バンドの2作目。
2015年に解散し、2022年にソロプロジェクトとして復活、そして10年ぶりにリリースされたアルバムです。オリジナル活動期から好きなバンドだったんですが、久しぶりの音源でも基本路線が変わっておらず、めちゃめちゃ嬉しくなりました。
柔和なアルペジオと重厚な轟音を行き来しつつ、短く簡潔にまとめられた曲がサクサク進んでいくスタイルで、とにかくポップ。インスト主体ながら、ギターはもちろんフルートや電子音でメロディを補完しており、ギターもシューゲイザー的ではなく、ガシっとしたリフになっています。ポストロックにあるまじきポップさには眉をひそめられそうですが、とにかく聴きやすく曲がいいんですよね。
MISERY SIGNALS等、アンビエント要素も取り入れた叙情系ハードコア好きにも刺さりそう。まだ見つかっていないだけ…という感じなので、復活した今こそ聴いてほしいアルバムです。

■明日の叙景『アイランド』(Release:7/27)

東京のブラックメタル・バンドの2ndアルバム。
激情ハードコアの要素も取り入れた、いわゆるポスト・ブラックのフォーマットを取りつつ、ヴィジュアル系やセカイ系の影響を盛り込み、しかも夏をテーマにするという怪作にして傑作。
改めて聴いてみると、ブラックメタルらしい悲壮感は皆無で、わびさびだったり切なさ(エモいではない)だったりが自然と出力されているんですよね。日本のリスナーがこれを聴いて覚える寂寥や郷愁を、欧米の人はどう感じるのか非常に興味があります。北欧のマジなブラックメタルの人たちが聴いたら腰を抜かしそうですが。
ちなみに夏が終わってから秋、冬に聴いたら違和感があるのでは…?と思ったら、むしろ楽曲の強度に改めて気づかされた次第。“土踏まず”は今年1、2を争う曲のひとつでした。

■REVOCATION『NETHERHEAVEN』(Release:9/9)

アメリカはボストンのテクニカル・デス/スラッシュメタル・バンドの8作目。
いやもう、めちゃめちゃかっこいい。適宜ブラストビートも交えて体感速度を爆上げしつつ、切れ味抜群のリフでかっとばしていく潔さと爽快感。変にプログレ路線に走らず、テクニックはリフの殺傷力を高めるために注ぎ込んであります。ヴォーカルはデスヴォイスというよりも、吐き捨てタイプのスラッシュメタルのヴォーカルの濁度を深めた感じ。トラックリストを見ると、半分以上が5分オーバーですが、目まぐるしいスピードと展開の多さで、一気に聴けます。
最後の曲には、CANNIBAL CORPSEのジョージ“コープスグラインダー”フィッシャーと、2022年に亡くなったTHE BLACK DAHLIA MURDERのトレヴァー・ストルナッドが参加。生前レコーディングしていた遺作のひとつでもあります。ちょっとしんみりしそうなところを、むしろアルバム中最速&最短でスパっと締めてみせるのも素晴らしい。スラッシュメタルはこうでないと…というか、やってほしいことがほぼ詰まったアルバムです。

■SLIPKNOT『THE END, SO FAR』(Release:9/30)

アイオワ産、猟奇趣味的~バンドの7作目。
ポール・グレイ、ジョーイ・ジョーディソン、クリス・フェーンが脱退もしくは急逝することで、デビュー時の編成が瓦解してから、はや3枚目。試行錯誤や迷いが見えることも少なくなかったですが、ようやくひとつの答えにたどり着いたように思えるアルバムです。
バンドのルーツのひとつであるデス/ブラック由来のブルータリティを増強し、近作では控えめだったDJやサンプリング、パーカッションの出番も大幅に増やすことで、9人編成である意味を改めて提示。全体のクオリティも底上げされており、ニューメタル上がりゆえに捨て曲でかさ増ししがちという弱点も克服されています。必殺技はないけど、全攻撃が強くなりました。
もちろん全盛期には及ばないんですが、他メンバーよりも若いドラマーが、エンジンとしてちゃんとバンドになじんだことで、まだまだやれることを証明した、キャリアでも重要な位置づけのアルバムになりそうです。このまま走り続けて、還暦になっても「人間はクソ!」と言い続けてほしいです。

■LORNA SHORE『PAIN REMAINS』(Release:10/14)

アメリカのニュージャージー産デスコア・バンドの4作目。
ブラストとブレイクダウンの落差が強烈なデスコアに大仰なオーケストレーションをブレンド。そこに人外レベルの魔獣ヴォーカルを搭載することで、ブルータルさもシンフォニックさもマシマシの超ド級破壊力なデスコア作となりました。
ただ実際完成度はものすごく高いんですが、なんというか…全曲ほぼ同じなんですよね。2曲目以降、必ず全曲で「それさっきもやったやん」となる、まさにひとつ覚えの金太郎飴アルバム。最後の3曲が組曲になっているとか、マジでどうでもいい。だってそれさっきやったやん。
でもそのひとつ覚えのパワーが強すぎるのが、今作最大のポイント。とにかくゴリ押しでツッコミもなにもかも粉砕して突き進み、そのまま全員黙らせる。逆に、このインパクトを保ったままヴァラエティのあるアルバムを作れたら、名実ともに最強になれるのかも。そのあたりの期待も込めて、注目したいです。

■L.S. DUNES『PAST LIVES』(Release:11/11)

MY CHEMICAL ROMANCE、THURSDAY、COHEED AND CAMBRIA、SAOSINのメンバーが集まったエモ・バンドの1st。
2000年代のいわゆるスクリーモを通った世代の度肝を抜いたメンツで注目を集めました。で、実際内容はどうか…と思えば、いわゆるあの頃のスクリーモ的スタイルではなく、繊細なコードを主体とした、プログレッシヴかつ実験的なサウンドが肝になっています。考えてみれば、メンバーの本業全部一筋縄ではいかないというか、王道とは違った音ばかりなので当たり前っちゃ当たり前ですが。とはいえ、各メンバーのエゴが出ておらず、いい意味で誰が主体なのかわからない曲作りがなされています。
むしろSUNNY DAY REAL ESTATEやジョナ・マトランガ(FARほか)関連といった90年代エモに回帰しつつ、2000年代のスクリーモ・バンドたちがたどり着けなかった境地を見せるのはさすが。メンバーもわりと肩の力を抜いているそうなので、作品を重ねると、その先のまた先を見られるかもしれないですね。

というわけで、今年もよろしくお願いします!

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