編集Y氏もサジを投げた!Wilco新譜、徹底解剖!(当社比)

wilco

text by 酒い♨大明

かつての僕はBob DylanとBlack Flagしか聴かない、器の小さい男闘呼(おとこ)だった…。

しかし編集のY氏に「Wilcoを是非聴いて欲しい。試して欲しい。」と強く勧められ、アッと言う間にドハマリした数年前…。

そんな恩人である編集のY氏から「Wilcoのニューアルバムを聴きましたか?ちょっと僕には理解不能なので、レビューを書いてくれませんか?」と依頼が来た。

「理解不能?そんなおかしなアルバムなの?」

「う〜ん…こういうのをパブロックつうんすかね…?」

「Nick Lowe化してるってこと?最高じゃん!レビュー書くよ。何文字?」

「2000文字以上す」

「あ、あぁ…(なげぇな)」

さて、パブロックというのは音楽のジャンルであって、ジャンルではないので、Wilcoのニューアルバムはパブロックでもあるしパブロックでもないと言える。

というワケで予備知識として「パブロック?」しかない状態(笑)で『Schmilco』をアナグロ盤(DLコード付)で聴いてみた。

 

wilco "Schmilco"

wilco “Schmilco”

結論から先に言うと、Wilcoの『Schmilco』は、彼ら初のフォーク・アルバムだ!と言ってしまっていいでしょう。この際。

Wilcoの特徴って何だろう?

平たく言うと、ギターサウンドを中心に大なり小なりのノイジーかつ美しいサウンドが周りを固め、そこに心揺さぶるメロディ、歌声がのる…といったところか。
かなり平たく言ってしまっているが、大体こんなところだ(当社比)。

その「ギターサウンド」が、『Schmilco』に関してはアコースティックギターが前面に押し出されているのだ。

もちろんWilcoの核にフォークやカントリーと言った音楽があるのは周知の事実ではあるのだが(デビュー当時はオルタナカントリー等と呼ばれていましたね)、アコギが全曲に渡ってここまで前面に出ているアルバムは初めてだ。

でもその予兆はあった。2015年8月に「Notorious Wilco Brothers」(もちろんByrdsのアルバム名のパロディだろう)名義でフル・アコースティック・ライブを執り行っている。

前のアルバム『Star Wars』の衝撃の発表は2015年7月だったので、次のアルバムは「アコースティックな感じでイキますかね〜」なんてジェフ・ツイーディー(作詞作曲歌ギタープロデュースまでやる中心人物)は考えていたのかも知れない。

と、アレコレ考え出したのはアルバムを4〜5回聴いてから…最初の印象は正直言って

「地味」

である。

もちろん「Wilcoのアルバムとしては」という注釈付きではあるのだが。

Wilcoというバンドは「力の入ったアルバム」と「リラックスしたアルバム」が聴いてて分かりやすい。

例えば、現行のメムバーが集まって作った最初のスタジオアルバム『Sky Blue Sky』は世間の評価は(もしかしたらメムバー内の評価も)低い作品だが、僕にとっては彼等の今のところ最高傑作だと思うし、緩急もよくまとまっている「力の入ったアルバム」だ。

次の『Wilco(the album)』は、まさにリラックスした余裕のあるメロディアスな佳作だった。

自分達のレーベルdBpmをANTIの傘下に立ち上げて放った『The Whole Love』はポップさもアバンギャルドさも同居した「力の入った」傑作アルバムだった。このアルバムを引っさげての日本ツアーも本当に素晴らしかった。

突如リリースを発表し、フリーダウンロードで世界中にバラまき、Wilcoファン以外にも衝撃を与えた前作『Star Wars』は「リラックスしたアルバム」…だと思ったのだが、『Schmilco』を聴いた後だとかなり力が入ったアルバムだったんだな…と思うくらい、『Schmilco』は地味なのだ。

このサイトは別にレコード会社のスポンサーが付いてるワケでもないので好きなことを書けるのだが、正直言ってWilcoの最初の一枚としてはオススメすることは出来ないアルバムだ。

一聴して「ハッ」とするようなジェフらしい美しいメロディも無い。
聴きこまないと印象に残らないのだ。

でもWilcoファンとして擁護するとすれば、彼等はまだ自分達のスタイルに胡座をかいてないというところか。
常に挑戦していくという余裕があるのだ。
それが「進化したフォーク・ミュージック」なのか、「退化したオルタナティブ・ロック」なのか…聴く人によって、聴くタイミングによって変わってくるのだろうが…。

『Schmilco』を「フォーク・アルバム」だと僕に印象付けたのは…多分意識的にだと思うのだが…「Quarters」のイントロのギターフレーズだ。
フォーク・ソングではよく使われるフレーズ。
Side2の2曲目にこのフレーズが聴こえて来た時、僕はこのアルバムが腑に落ちたのだった。

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