喪失の悲しみの先へ進もう。大切な人との繋がりを歌おう――Touché Amoré『LAMENT』リリース記念インタビュー

ロサンゼルスから瑞々しいエモーションを放ち続けるバンド、Touché Amoréの5枚目となる新作『LAMENT』。これがえも言われぬ(まさにエモい)というか、ハードコア/パンクの性急さをキープしつつ、よりドラマ性と情緒豊かなサウンドを獲得しており、言葉で簡単に表現できない魅力と温かみが詰まった名盤なのだ。ジェレミー・ボルム(vo)が自身の亡き母に捧げた前作『STAGE FOUR』(2016年)の続編という立ち位置ながら、ジェレミー自身の、そしてバンドのポジティブな変化が反映されている。KORNやSLIPKNOTを見出したロス・ロビンソンがプロデュースという人選の手応えも含め、アルバムリリースからおよそ2週間が経った週末、ジェレミーがインタビューに応じてくれた。

Interview by MOCHI

Translation by Miho Haraguchi

Photography by George Clarke

――Touché Amoréは2013年、2014年に日本ツアーを行っていますよね。大規模な会場だけでなく、スタジオライヴもやったそうですが、その時の思い出はありますか?

「2回のうち、1回はフェスで呼んでもらったんだよね(PUMP UP THE VOLUME FEST 2013)。日本のバンドと欧米のバンドが一緒に出ているなんて、アメリカやヨーロッパではなかなか経験できることではないから、そこに参加させてもらえたのはうれしかったよ。ほかにもいろんな場所でプレイさせてもらったけど、僕としては小さな会場でやるのが好きだね。より観客と近い距離に感じられるし、すごくパーソナルな感じがするから」

――現在も続いているコロナ禍で、ツアーやフェスが軒並み中止になるだけでなく、音源のリリースを延期するバンドも多数います。Touché Amoréとしては、この状況をどのように捉えていますか?

「自分たちとしては、今回のアルバムのリリース準備をする時間ができたと捉えるようにしたんだ。もちろん大変な状況だし、ネガティブな気持ちになってしまう人のこともわかる。でも少しでもポジティブに考えるというか、アルバムを世間に届けるにあたってどんなことをやるべきか…にフォーカスすることができると考えたんだ。MVはどんなものを作ろうかとか、どうやって情報を発表しようかとかね。で、こうして無事アルバムも世に出たわけだから、次はどうしようかな…っていう状況なわけ(笑)」

――10月13日(日本時間)に、『LAMENT』リリースを記念した無観客の配信ライヴを実施しましたね。先ほど「小さな会場で演奏するのが好き」と言っていましたが、配信はかなり勝手が違ったと思います。どうでしたか?

「たしかに僕たちのようなバンドとって、観客のいない状態で配信ライヴをやるというのは、理想的な形ではないよ。でも、少しでもこうしてやってみようと思えることがあるんだから、それには感謝しなきゃならないよね。せっかくの新しい曲を初めて披露する相手がカメラではあったけど(笑)、まず自分たちはラッキーなんだと理解すること、そして配信ライヴを世界中の人たちが観てくれたことにも、感謝するべきだと思うんだ」

――配信ライヴでは、ステージにスクリーンを設置して映像を流していましたね。

「これまたラッキーなことに、うちのギターのニック(・シュタインハルト)がデザインアーティストとしても活動していてね。これまでのアートワークやマーチャンダイズのデザインをもとに、彼がプロダクションスタッフと協力して考えて作ったものなんだ。ほかにも、アルバムのプロモーションにともなうデザインやイメージも、ニックが手掛けているよ」

――バンドとしても新しい試みだったと思いますが、将来的にまたツアーができるようになったら、続けていきたいと思いますか?

「やってみたいことではあるけど、プロジェクターの手配や映像制作で、どうしてもお金がかかるからね(笑)。僕たちはあくまでハードコアなバンドだしさ。もしまた以前と同じようにツアーができるようになるまでに、アルバムが思っていた以上にたくさん売れるようなことがあったら、そのときにまた考えるよ。みんなで祈っていてほしいな(笑)」

――Touché Amoréは作品をリリースするごとに名前が広がって、評価も高まっていきましたよね。バンドとしては、この状況はあくまで結果に過ぎないことか、バンドの名前を世界に出していくんだと、明確に目標をもって活動してきた成果か、どちらでしょうか?

「ぶっちゃけ、ハードコアバンドということもあって、セールスの面では限界があるのはたしかだと思う。やっぱりアグレッシヴな音楽で世界に出ていくというのは、すごく難しいことだよ。ほかのジャンルでは、うまいことやって音楽で生計を立てている人もいるけどね。でも僕たちはとにかく自分たちが楽しむこと、そして作品をリリースすることを意識してやってきたんだ。できればレコードでね。アルバムが何十万枚も売れてチャートインするとか、そういうことは可能性が低いというか、意識することではないと思っていた。でも結果的にラッキーだったのは、僕たちの音楽はメタルバンドとツアーすることもできれば、もっとメロディックなロックバンドのファンにもアピールができるということ。そのおかげでバンドの名前は拡がったし、素晴らしい経験もさせてもらえたと思っているよ。自分たちだけでなく、周りの友だちのおかげでもあるね」

――また初期は1、2分で駆け抜けるような曲がほとんどだったのが、作品を重ねるごとにピアノや歌を取り入れるだけでなく、曲も長くなっていきましたよね。これはミュージシャンとしての成長とともに、ジェレミーにも表現したいこと、言いたいことが増えてきたということでもあるのでは?

「最初のころは、自分たちの集中力もあまりなかったというのかな。とにかく曲を書いて、完成したら1、2分の長さしかなかったという感じだった。でもたくさん曲を書いていくうちに、自分たちに自信がついてきたんだと思う。たとえば次々とパートが切り替わっていくばかりじゃなくて、ひとつのパートを何度か繰り返していくことの大切さが理解できるようになった。それでアレンジをより深く考えるようになった結果、少しずつではあるけど、自然と曲が長くなっていったんだ。今では曲の長さを考えずに、とにかく納得いくまで作りこんで、完成までもっていくようにしているよ。これからも制限を課さず流れに任せて新しい構成ややり方を学んでいきたいし、自然に自分たちの音楽を広げていきたいね」

――前作『STAGE FOUR』(2014)で、それまで所属していたDeathwish Inc.からEpitaph Recordsに移籍しましたよね。

「僕たちは2013年にDeathwishとの契約が終わったんだけど、じゃあ次はどのレーベルと話をしようかと考えたときに、周りの友だちのバンドの多くがEpitaphや、その傘下のレーベルと契約していることに気づいたんだ。TITLE FIGHTやDEAFHEAVEN、PIANOS BECOM THE TEETHとか、ほかにもたくさんね。だからEpitaphがホームのように感じられたこともあって契約させてもらった。レーベルが変わったことで活動フィールドに影響があったとか、そういったことはないよ」

――新作では、プロデューサーにロス・ロビンソンを迎えましたね。彼はエモ・シーンだとAT THE DRIVE-INやGLASSJAWを手がけたこともありますが、一般的にはKORNやLIMP BIZKIT、SLIPKNOT等を世に送り出した人物と知られています。どんな経緯で彼に依頼をしたんでしょうか?

「僕たちのマネージャーが、以前AT THE DRIVE-INのことも担当していたことがあってさ。ちょうど彼らが一度解散する前に、ロスがプロデュースした『RELATIONSHIP OF COMMAND』(2000年)をリリースする頃にね。それもあって、彼とは繋がりはあったんだ。で、今回のアルバム制作にあたってどんなプロデューサーと組もうかと話し合ったときに、ロスも候補の一人として名前が挙がった。そのときに、僕のなかですごくしっくり来たんだよね。ロスは曲に込められた感情をしっかりと音源に載せてくれる人だと思っていたからさ。自分としてもお願いしていいものかと緊張したけど、ロスが適任だと思ったんだ」

――でもロスはミュージシャンを追い詰める人でも有名ですよね。彼が手掛けたバンドのインタビューで「レコーディング中、何回アイツを殺してやろうと思ったかわからない」という発言を見たこともありますが、実際はどうでしたか?

「まさにそんな感じ…というわけではなかったよ(笑)。君が言ったような、いわゆるロス・ロビンソンのメソッドのようなものは僕も聞いたことがあったし、追い詰められすぎたヴォーカリストがいるらしいとも聞いていたから、彼が引き受けてくれた後も、ずっと緊張していた(笑)。でも僕たちの場合は、すごく健康的な関係が築けたと思うんだ。なんというか、お互いに理解ができていたみたいで、ロスも“こいつの本当の気持ちを引き出さなければ”というプレッシャーもなかったんじゃないかな。プッシュするというよりも、対話する時間を長く作った。曲をレコーディングする前に、それはどんな曲なのか…を何時間もかけて話し合うんだ。それでお互いに理解ができたと思えたら、ようやく作業に取り掛かる。そんな感じだったから、彼がわざと僕のことを追い詰めようとかしなかったね」

――新作『LAMENT』は、ジェレミーの亡くなった母親への追悼を込めた『STAGE FOUR』の続編的な作品だそうですね。

「たしかに今回のアルバムは『STAGE FOUR』の第二章と言えるけど、それは『STAGE FOUR』をリリースした後の人生において、僕が感じたことを表現しているからなんだ。自分と観客やリスナーとの繋がりだったり、バンドメンバーとの繋がりだったり、スタッフとの繋がりだったり…。そういった関係のなかで感じたことや思ったことが、このアルバムのテーマの大部分を占めているよ。だからいろいろな感情がこもったアルバムになったと思う」

――Lamentという言葉は、日本語に置き換えると「嘆き」や「悲観」となります。温かみやポジティブな空気が詰まったアルバムとは相反する部分があると思ったのですが。

「アルバムのタイトルにはいくつか候補はあったんだけど…たとえばバンドのセルフタイトルにしようかとか、1曲目の最初の歌詞を使おうとかね。でもどれもしっくりこなくてさ。それでアルバムのトラックリストを見たとき、2曲目のタイトルが目に留まって、単語ひとつだけで、すごく力強さを感じた。世の中にはもっと長いタイトルのアルバムがたくさんあるけど、僕たちも今回でもう5枚目のアルバムになるし、この力強い言葉に、アルバムにこめたいろいろな思いが集約されているように思えたんだよね。それでこれでいこうと決めたんだ。もっとうまいこと説明できたらいいんだけどね(笑)」

――今回、ジェレミーのヴォーカルはよりメロディアスな歌が増えており、表現の幅が広がりましたね。

「自分では特に“歌を増やそう”と意識していなかったけど、バンドの音楽そのものもメロディックになってきたし、ヴォーカルも自然と曲に寄り添っていったんじゃないかな。活動し始めたばかりの頃は、シンガーとしての自分に自信が持てなかったし、がむしゃらに叫ぶことに頼っていた部分があったんだよね。でもせっかくこうしてバンドも成長してきているんだし、以前よりもいい曲が書けるようになった。だからこそ、それをしっかりと聴かせるようにもしたいとは思っているよ」

――バンドサウンドも、多彩なエフェクトを使いつつナチュラルなサウンドにこだわっているように思います。過剰にディストーションをかけるのではなく、感情に任せて激しくプレイしたら歪んでしまったような感じというか。

「うん、人間らしいオーガニックなサウンドというのが、そのまま僕たちの持ち味になっていると思うね。メンバーそれぞれが自然と鳴らしている音があって、それが合わさることで僕たちならではのサウンドが生まれているんじゃないかな。ギターは明るい響きのコードを鳴らしているけど、ドラムはものすごくアグレッシヴに叩きまくっている、とか。たとえば街中でふと曲が流れたときに“お、これはTouché Amoréだな”とすぐにわかってもらえるようなものになることは意識しているよ」

――繰り返し聴くことで理解が深まり、新しい発見もあるアルバムになったと思います。ジェレミーからアルバムを聴きこむヒントや、ここに注目してほしいというポイントはありますか?

「そうだなぁ…僕から特にここ!と言えることはないかな。むしろ、アルバムを聴いたことで何かが心に残って、その人がアルバムや僕たちとの繋がりを感じてもらえたらいいなと思う。それが、僕が歌っていることとまったく違うことでもかまわないよ。僕自身、そうやってつながりを感じられるアルバムが好きだからさ。それぞれ、自分が感じたことを大切にして、楽しんでほしいね。でもひとつだけ、メッセージとして伝えたいことをあげるとすれば… “大切な誰かを亡くしてしまったとき、悲しみから立ち直るためにどれだけの時間が必要なのかは誰にもわからない”ということ。悲しみを克服するのにはとても時間がかかるものだし、もしかしたらその後の人生で、ずっと心に傷として残り続けるかもしれない。悲しいなら、いくら悲しんだっていいんだ」

――またツアーを再開し、Touché Amoréのライヴが見られることを祈っています。もちろん狭い場所で(笑)。

「以前行ったとき、日本はお世辞抜きにとても素敵な場所だと思ったし、僕たちも大好きな国になったよ。前のツアーからずいぶん時間が経ってしまったし、まだ大変な状況が続いているからなかなか難しいけれど…また必ず戻りたいと思っているよ。そのときにぜひ会おう。今日はありがとう!」

<各種リンク>

Official HP:https://www.toucheamore.com/

twitter:https://twitter.com/toucheamore

facebook:https://www.facebook.com/ToucheAmore

Epitaph Records:http://epitaph.com/artists/touche-amore