王の帰還――7年ぶりに来日したオージー・デスコアキング、THY ART IS MURDER独占インタビュー

まさに王者の風格…としか言いようがなかった、THY ART IS MURDERの7年ぶりの来日公演。家族の事情からショーン・デランダー(g)が不参加という変則的な体制(LUNEのハリソン・ミルズが代役を担当)ではあったものの、長年豪州デスコア・シーンの玉座に君臨し続けてきたトップバンドの実力を、本国や欧米ではあり得ないキャパの会場で体験するという、ものすごく貴重な機会だった。

とはいえ、彼らのキャリアが常に順風満帆ではなかったのも事実。特に大きなトピックは、2023年のヴォーカリスト交代だろう。6thアルバム『GODLIKE』リリース直前に、カリスマ的な存在感を放っていたCJ・マクマホンを解雇。元AVERSIONS CROWNのタイラー・ミラーを急遽迎え入れ、アルバムのヴォーカルパートを差し替えてリリースするという事態が起こった。欧米では現在もCJを惜しむ…を通り過ぎて、タイラーへの誹謗中傷まがいの声が根強く残っているほど。しかしそれも、衰えない王者の力でねじ伏せつつある。

今回はオリジナルメンバーではないものの、バンドのスポークスマンを務めるアンディ・マーシュ(g)にインタビューを実施。CJ解雇の影響もあってか、欧米ではここ数年インタビューを受ける機会がほぼなかったそう。せっかくなので…と聞きにくいことも質問してみたところ、慎重に言葉を選びつつ、穏やかかつ丁寧に話をしてくれた。

Interview by MOCHI

Translation by Sachiko Yasue

Special Thanks:TMMusic

取材時のアンディ。ステージでの強面とは裏腹に、終始こちらを気遣いながら会話をしてくれた

――日本に来るのは、およそ7年ぶりになりますね。昨日(東京公演前日)日本に着いて、すぐ居酒屋に行ったそうですが…。
「日本にまた戻ってこられて、本当にうれしいんだ。本来ならもう何年か早く戻って来たかったんだけど、コロナのパンデミックがあったから、なかなか実現できなかったんだよね。あれがなければ数年早く来られていたと思う。昨日けっこう遅い時間に日本に着いたけど、もうとにかく一刻も早く居酒屋に行って、ビールと焼き鳥をキメたかったんだ(笑)。今日もライヴが終わったら同じような感じになるんじゃないかな。メンバー全員日本の文化が大好きだし、特に僕個人としては、家族のルーツがある場所でもある。だからマジで最高の気分でいるよ」


――今日は前回日本に来たときにも共演したバンドがいますよね。そういった再会を果たすのも感慨深いことなのでは?
「実はサウンドチェックの後、メンバーそれぞれ行きたいところがあったから、一度会場を出ちゃったんだよね。僕はこのインタビューまで、ほかのみんなはファンとのミート&グリートまで自由行動にすることにしたわけ。だからまだほかのバンドとは話せてないんだけど、後で乾杯したいね(笑)。今日はいないけど、前回日本でいっしょにやったCRYSTAL LAKEと、その元ヴォーカルだったRyoがやっているKNOSISのことはよく知っているよ。今迄色々なバンドといっしょにツアーをしてきたけど、違った文化の人たちと交流できるのが、醍醐味のひとつでさ。例えば日本のバンドとは言語も文化も違うけど、ヘヴィな音楽をプレイしているという点ではカルチャーを共有しているよね。それがまた楽しいし、バンドをやる力になるんだよ」


――今回のツアーでは、沖縄でのライヴも予定されています。アンディのお祖父さんが沖縄出身なことも、ブッキングされるきっかけだったそうですね。
「うん。94歳になる僕のお祖父さんは沖縄出身で“自分もいっしょに日本に行きたい”と言っていたよ。すごく個人的なこともあるとはいえ、僕自身初めて沖縄に行くことになるんだけど、なんというか…すごく心に迫るものがあるんだ。第二次世界大戦のとき、お祖父さんたちの家族はハワイに移住した人と、沖縄に残った人でバラバラになってしまったらしいんだ。なかでも叔父さんは当時5歳くらいだったし、本当に大変だったみたいだよ。でも戦後にどうにかみんな再会できて、叔父さんは何年かに一度、定期的に沖縄に帰っていたみたいだけどね。しかもお祖父さんは戦後、アメリカの海兵隊に入隊したこともあったらしい。海兵隊と沖縄の間には色々な経緯があるから、すごく複雑だっただろうと思うよ。そういったバックグラウンドを持つ僕が、自分のバンドで沖縄に行くというのはすごいことだよね。ツアーが終わって家に帰ったら、沖縄のことをお祖父さんに話すつもり。さすがに年齢的にももう沖縄には行けないと思うから、せめて土産話で喜んでもらえるといいな。あと、タコライスを食べるのが楽しみなんだ(笑)」


――アンディは2010年にTHY ART ISMURDERに加入しましたよね。その後2ndの『HATE』(2012年)からレーベルもプロデューサーも変わり、バンドは一気に知名度が上がった印象があります。そんななかで、アンディがバンドに持ち込んだことや貢献したこととして、どんなことが挙げられますか?
「実は僕はバックグランドにあまりメタルがなくてね。THY ART IS MURDERに入る前は、メタルコアとかハードコアとか、今よりもう少しポピュラーなタイプの音楽をやっていたんだ。一方で、THY ART IS MURDERが当時所属していたレーベルで働いていて、メンバーとも顔見知りだった。だから初期から近くでバンドのことを見ていたし、今後の課題もなんとなくわかっていたんだ。僕が曲作りに参加したのは『HATE』からだけど、1stの『THE ADVERSARY』(2010年)ではテクニカルさやブルータルが重視されていたのに対し、次はもっとヴォーカルを前に出して、歌詞のコンセプトも明確することで、よりリスナーに伝わりやすいアルバムにしよう、とメンバーと話したよ。貢献…と言うと大げさな気もするけど、僕が入ったことで起こった変化というと、そういった点があると思う」


――アルバム制作に外部のプロデューサーも入るとはいえ、まずアンディがバンド内の意見をまとめる、ある種プロデューサー的な役割をしていると。
「そうだね。元々ほかのバンドをプロデュースしたことがあったし、普通とは違った視点でTHY ART IS MURDERに関わっている部分があるのは間違いない。プロデュースの経験が豊富だったわけではないけど、バンドの役に立ったと思う。プロデューサーというのは、一時的にバンドのメンバーになって、何が必要なのかを見極めて導いていくような立場が求められるよね。その経験から、バンドをより良くするために、少し高い位置から全体を見渡すような感覚が養われていたのは大きいんじゃないかな」


――THY ART IS MURDERのアルバムは、それぞれ多少バランスが変わりつつも、基本的な方向性は変わらないですよね。ファンもそれぞれ好きなアルバムがあると思いますが「このアルバムは駄作だ」というような意見はほとんど聞かない印象です。それもアンディあってこそですよね。
「バンドとしても、アルバムを出すごとにスタイルが変わっていくようなことはしたくないんだよね。せいぜい1、2か所にフォーカスして、変化させたり改善したりするくらい。一貫性を保ちながら、新しいことを少し取り入れたり、逆に昔のやり方に戻してみたり、その時に興味がある要素を取り入れて発展させていくようにしているんだ。まぁ、次のアルバムでいきなりブラックメタルになったりしない…という保証はないけれども(笑)。基本的にはしっかりした芯を持ちつつ、混ぜ込む要素でアルバムごとの変化をつけている感じだね。ちなみに僕たちのアルバムをプロデュースしてくれているウィル・パットニーと出会ったきっかけは、僕が他のプロジェクトに携わっていたとき、いっしょに仕事をしたことだった。そのプロジェクトで“君たちとウィルは似ているから、いっしょにアルバムを作ったらすごく良くなるんじゃないか”と周りから言われたのを覚えているよ。それでバンドみんなで、アメリカのウィルのスタジオに行って『HATE』を作った。その後ずっといっしょにやってきたから、お互いをよく理解しているし、アルバムごとに目指す方向も共有できているのもあると思うよ」


――実際、最新作の『GODLIKE』(2023年)も、非常にTHY ART IS MURDERらしいアルバムですよね。ただ個人的に、リードギターが不気味でアトモスフェリックな空気を演出していて、ブルータルさとの対比が際立っているような印象を受けました。
「すごく苦労した…というほどではないけど『GODLIKE』での不気味でアンビエント的な部分と、ブルータルでヘヴィな部分の組み合わせというのは、いろいろと実験をした部分でもある。アンビエントな要素が多すぎてもバランスが悪くなるし、かといって足りないと雰囲気が出ないからね。ちょっと不思議なことなんだけど『GODLIKE』は制作が進むにつれて、どんどんギターの音が少なくなっていったんだ。最終的には『HATE』よりも少ない音数になっている。以前はとにかく音を足して、レイヤーを重ねていくような感じだったけど、今はいわゆる“Less is more(少ない方がより豊かである)”みたいなことがわかってきたんじゃないかな。実際レイヤーが少ない方が、ムードを特徴づけやすいことにも気付けたしね。そういったムード作りのようなことが、経験とともにできるようになってきたんだと思う」


――『GODLIKE』は、リリース直前にCJが解雇され、ヴォーカルパートをタイラーのものに急遽差し替えるということがありましたよね。現在サブスク等ではCJの声が入った音源は聴けない状態(CD、アナログの初期プレスはCJのもの)です。タイラーがヴォーカルを入れる際、オリジナルから歌詞や歌い回し等、何か変更したことはありましたか?
「何も変更していないよ(笑)。ヴォーカルの差し替えはすごく早くて、1週間かそこらでやったんだ。あの時、僕はハワイの火山の山頂付近にいてさ。そこからタイラーに電話して、僕たちの事情を伝えて“バンドに入って、新しいアルバムのヴォーカルを差し替えてほしい。それもできるだけ早く”と相談したんだ。それから15分後くらいにタイラーから折り返しがあって“わかった。なんとかする”と言ってくれたよ。アルバムの歌詞はかなり前からあったから、それをそのまま採用して、タイラーにやってもらった。僕たちはいつも曲と歌詞が決まったら、ウィル・パットニーといっしょに、歌詞を曲にどのように当てはめるかのガイド音源を作っているんだ。叫んだりせず、しゃべるだけでね。タイラーには“この通りにやってくれればいい”と、そのガイドと歌詞を渡してやってもらった。そのおかげで、タイラーもすぐに作業ができたというわけだよ」


――CJの解雇については、彼のSNSでの投稿がきっかけだ…と言われています。ただそれだけが原因ではないということなので、可能な範囲でいいので、どんなことがあったのか教えてもらうことはできますか?
「実はそのことについて、法的な手続きを踏んだこともあって、公にできないことがたくさんあるんだ。だから基本的には察してもらうしかないんだけど…。ひとつ言えるのは、あのCJがポストして炎上したことが、僕たちが袂を分かつことになった原因だと思われているけど、あれは氷山に一角でしかないということ。あれはどんな角度から考えても問題だったけど、もっと裏側で色々とバンドのことはもちろん、プライベートなことも何年も積み重なった結果なんだよね。僕から言えるのはこのくらいだけど、みんなが見えている表面的なことよりも、ずっと複雑なんだと理解してもらえると助かるよ」


――もうひとつ、タイラーが元々在籍していたAVERSIONS CROWNは、現在ほぼ活動休止状態になっています。これについて、タイラーがTHY ART IS MURDERに加入したせいだ…と思っている人もいるようです。実際のところ、両バンドの関係や現状を教えてください。
「僕はAVERSIONS CROWNの『HELL WILL COME FOR US ALL』(2020年)でマネージャーも担当しているから、その視点も交えて答えるよ。タイラーはAVERSIONS CROWNに6年くらい前に加入したけど、正直言って…彼らはすごく売れているというわけではないから、活動費を捻出するのが難しいんだ。THY ART IS MURDERは、経費を賄える程度には稼げているんだけどね。タイラーはアメリカ人だけど、レコーディングのためにわざわざオーストラリアに呼ぶのもままならないくらい。それでタイラーにはウィル・パットニーのスタジオに行って、ヴォーカルのレコーディングをするように指示したんだ。その時ウィルは“すごいヴォーカリストだ。CJに何かあったときは、コイツに頼めばいい”と言っていたよ(笑)。そうやってどうにかアルバムを完成させて、2020年にリリースしたはいいけど、今度はコロナ禍が始まっただろ?その時、THY ART IS MURDERといっしょにアメリカツアーに出たんだけど、結局ライヴ1回だけでキャンセルを余儀なくされて、大金を失った。それでバンドを立て直すことために活動を休止することになって、そのタイミングでタイラーは脱退を選んだんだ。それだけコロナ禍は、中小のバンドには大変な時期だった。でもこれは初めて外部の人に話すんだけど、彼らもようやく後任のヴォーカルを見つけて動き出しているところだよ。もう少しで新しいEPをリリースする予定だし、ライヴもできるようになるんじゃないかな」


――以前カナダのSILVERSTEINにインタビューした際“カナダは国土が大きいけど大都市の間が離れているから、ツアーをやるのが大変”と言っていました。オーストラリアも似たような感じなのではと思うんですが、どうでしょうか?
「オーストラリアでバンドをやるのは、世界で一番大変かもしれないね(笑)。まずすごく国土が広いのに、人口は約2700万人しかいない。それも少子化で少しずつ減っている状況なんだ。都市の間も離れているからツアーを組むのが難しくて、全豪ツアー!なんて大見得を切ったはいいけど、5本しかライヴができないなんてこともあるくらいだよ。たしかにカナダも大きな国だけど、なんだかんだアメリカと地続きだろ?でも他の大陸から隔絶されたオーストラリアは、パフォーマンスのチャンスそのものが少ないし、バンドとしての個性の確立やスキルアップにも時間がかかる。よく“オーストラリアのバンドは、みんな演奏が上手くてすごいよね”と言われるけど、とんでもない間違いだよ。他の国の人たちには、レベルが高いバンドしか知られていないんだ。アメリカやヨーロッパのたくさんツアーをやっているバンドと渡り合えるようになるまで、すごく大変なんだよ。だからこそ、本当に実力のあるバンドだけがのし上がっていくということだね」


――そういう状況だと、拠点は離れていても、バンド同士のつながりや結束は強いんでしょうか?
「ツアーで行ける街も限られているからね。よほどスタイルやジャンルが違わなければ、そのうち一緒にやる機会があるし、友だちになるんだ。実際、THY ART IS MURDERはシドニーで結成されたバンドだけど、僕は加入した時ブリスベンに住んでいたよ。今ではタイラーとジェシー(・ビーラー/ds)はアメリカ人だし、以前以上にバラバラな感じだね(笑)」


――去年、シングル“Through Blood I Purify”をリリースしましたよね。『GODLIKE』はタイラーはあくまでヴォーカルの差し替えのみでしたが、次はタイラーの声ありきでの制作になるわけで、何か今後について、見えてきたことはありますか?
「そうだね。『GODLIKE』ではすべてこちらの指示に従ってもらったけど、今度はゼロの状態から、タイラーがどんなものを見せてくれるのか楽しみだよ。ライヴを観てもらえばわかると思うけど、タイラーはステージでCJがやっていたことを踏襲しつつ、得意な低いグロウルやハイピッチのスクリームも取り入れて、自分らしさを表現してくれている。これからいっしょに制作をしていく中で、もっとタイラーのことが理解できたら、色々な挑戦をするように背中を押してみるのもいいと思う。CJがいた頃、どうしたらいいのか、どうしてほしいのかがお互いにすぐにわかるコードネームというか、合言葉のようなものがあった。これからタイラーとも、そういった阿吽の呼吸を作り上げていかないとね。制作では自分たちをすごく追い込むところがあるから、タイラーも自分では思ってもいなかったようなものが出てくるかもしれない。CJも15年間、毎回アルバムごとに新しいチャレンジをしていたし、どこに行くのかわからないことにワクワクしたものだよ。とはいえ、次のアルバムをどうしようか…と考え始めたのが2週間くらい前でさ。いつも考え始めてから実際の作業に取り掛かるまではおおむね半年はかかるし、まぁ、これから頑張るよ(笑)」

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