ついに日本の地を踏んだTESSERACT。創設メンバーが語るその歴史

いやぁ、すごかった。5月中旬、東京で二日間にわたって行われたUK産プログレッシヴ・メタルバンド、TESSERACTの初来日公演は、今も思い出しては余韻に浸れるほどの、ひとつの「体験」だった。リズムと構成が複雑に絡み合った曲を完璧な演奏で表現しつつ、素っ気なくならずにライヴならではの熱量も十分。音響はもちろん、照明までも曲にシンクロさせた圧巻のステージで、現行プログレッシヴ・メタル/Djentの「型」を作り上げたバンドの矜持を見せつけられた思いだった。

今回はそんなTESSRERACTを立ち上げた張本人であり、エンジニアとしても活動するアクル・カーニー(g)にインタビューを実施。初日のサウンドチェック後、ビールを飲みつつゆったりと応じてくれた(キリンが気に入ったそう)。二日間のライヴを完全にソールドアウトさせるほどの存在感を誇りつつも、これまで日本語で、メンバーの発言を目にすることがほとんどできなかっただけに、TESSERACTのことはもちろん、過去に活動していたバンド彼個人(それこそ名前の発音から)のことまで、基本的なことから確認も兼ねて話を聞くことができた。

Interview by MOCHI

Translation by Tomohiro Moriya

Live photo by Mayukh B. Banerji

Special thanks:Hayato Imanishi(Realising Media), MARINA(TMMusic)

(質問の前に)ちょっといい?今日は『WAR OF BEING』についての質問はある?アルバムのコンセプトについて質問されることが多いんだけど、あれは僕が考えたものではないからさ。細かいことには答えられないかもしれないけど、それだけはわかっておいてもらえるとありがたいな(笑)」

――わかりました(笑)。とりあえず本格的な質問の前に、ちょっと失礼かもしれないですが、名前の発音を教えてもらえますか?調べてもいまいちわからず、混乱しているファンも多いみたいで。
「アクル、だよ。子どもの頃からのニックネームみたいなものでね。アップル、と似たような発音をしてくれれば大丈夫(笑)」

――今回はアジアツアーの流れで日本に来たんですよね。欧米とは人種も文化も違う地域でのツアーは、バンドとしても刺激が多かったのではないでしょうか?
「以前、インドまではライヴをやりに来たことがあったんだけど、アジアとはちょっと違うよね。だからアジアのツアーをやったのは今回が初めてになる。タイや中国、シンガポールあたりを廻って、最後に日本に来たんだ。ヴォーカルのダン(・トンプキンズ)は、昔別のバンドで日本に来たことがあるらしいけどね(注:過去にPIANOのメンバーとして来日)。ここまでアジア諸国を廻った印象では、あまり積極的ではないというか、大人しい人が多いのかなという感じがするよ。台北でプレイした時は、僕たちにとってもかなり大規模なライヴになったし、ものすごく盛り上がったんだけどね。日本のオーディエンスについても少し受け身というか、曲の間にすごく静かになると友だちのバンドから聞いたことがあったから、今夜どんな感じかは気になるところではあるな」

――この公演を主催したCYCLAMENのHayato(Imanishi/vo)さんとは、彼がUKにいたころからの仲だそうですね。
「思えば長い付き合いになるよ。たしか2007、8年ごろかな?ロンドンで、彼がバンドを始めてからそう経っていないときに一緒にやったことがある。それから16年くらい経ってから、今度は彼の故郷の日本でまた一緒にプレイするのは感慨深いものだね」

――TESSERACTの始まりについて、2003年とする記事と、2007年とする記事を見たことがあります。改めて、これまでの活動の流れを教えてもらえますか?
「元々は僕が18歳のときに、サイドプロジェクトとして始まったんだ。自分のなかにあったプロダクションやレコーディングのアイデアを実験してみるためだった。それが2003年だね。同時期にやっていたFELLSILENTというバンドで、2003~2007年の間にたくさんのツアーを経験した。ENTER SHIKARIのツアーをサポートしたこともあるよ。そういったツアーを通してジェイ(・ポストーンズ/ds)やエイモス(・ウィリアムズ/b)、ジェイムズ(・モンティス/g)たちと知り合って、少しずつバンドという形になっていったんだ。だからTESSERACTが始まったのは2003年、バンドとして機能するようになったのは数年後、という感じだね」

――今話に出た、あなたの前のバンドであるFELLSILENTは、ある意味伝説とされていますよね。MESHUGGAH等の影響をかみ砕いて、Djentと言われるスタイルの型を作ったバンドのひとつと言えると思います。そういった評価については、自分ではどうとらえていますか?
「FELLSILENTについては、いまだにfacebookなんかでもファンがメッセージをくれたり、投稿してくれたりしているんだよね。とても興味深いことだけど、個人的には、TESSERACTが発展するまでのステップというか、足掛かりになるような存在だったと思う。もちろんやっていて楽しいバンドだったのは間違いないよ。メンバーのクリストファー(・マンズブリッジ/ds)やジョン(・ブラウン/g)ともよく連絡を取り合っているし、今でも仲の良い友だちなんだ。FELLSILENTを再結成させるかついてはともかく、元メンバーといっしょに将来的になにかやるのも面白いんじゃないかな。そういえばクリストファーのやっているHEART OF A COWARDは、10年くらい前にアルバムのミックスを担当したよ。今度彼らも日本に来るんだってね(注:2024年10月に来日予定

――TESSERACTでは、より神秘的で複雑な音楽性を追求していますよね。自分の中のアイデアを実験してみるためにTESSERACTを始めたという話がありましたが、FELLSILENTやほかのバンドとの差別化というのも意識にありましたか?
「子どものころから、PINK FLOYDのような浮遊感のある、アンビエント的なサウンドが好きだったんだよね。で、もう少し成長してからMESHUGGAHのようなバンドを知って、ものすごい衝撃と影響を受けた。そういった要素を融合させて、自分なりヘヴィにさせたのがTESSERACTだと言えるんじゃないかな。この根幹の部分は今も変わらないけれど、初期の頃はより透明感のある、クリーンなギターの音が多かったように思う。でもそれがトレードマークのようになって、方程式というか、典型的なものになってしまったように感じたから、だんだんそれを避けるようになった部分もある気がするよ」

――去年リリースしたアルバム『WAR OF BEING』では、今話してくれた透明感のあるギターのほかに、ところどころでALICE IN CHAINSや、ストーナーロック的なリフが聞こえる場面もありますよね。
「なんというか、ちょっとしたハッピーなアクシデントっていうのかな。実はALICE IN CHAINSそのものは、ものすごく聴きこんだバンドというわけではなくて…(苦笑)。でもグランジと呼ばれるジャンルは割と好きで、いろいろ聴いている時期もあったよ。ALICE IN CHAINSは“Stone”っていう曲が好きで、以前個人的にカヴァーしたことがあるんだ。あの曲はベンド(チョーキング)を多用するリフがメインになっているよね。実は僕らの2ndアルバムの『ALTERED STATE』(2013年)でも、少し近いようなアプローチをとっていたように思う。当時は全然意識していなかったんだけど、自分の中に蓄積された要素のひとつでもあるだったんじゃないかな」

――TESSERACTはプログレッシヴ・メタルと言われつつも、派手なテクニックはそこまで多くないですよね。複雑に練りこまれたリズムと透明感のあるギターやアンビエントな要素に酩酊感があって、DREAM THEATER的というよりもTOOL的というか…。
「たぶんそこの部分にも、グランジからの影響がにじんでいるのかもしれないね。それに僕たちがプログレッシヴ・メタルと言われるジャンルにカテゴライズされているのは間違いないけれど、複雑なものが好きでこういう音楽をやっているわけではないし…そもそもDREAM THEATERの大ファンというわけでもないんだよね(笑)。テクニカルなプレイをするよりも、いい曲を聴きたいし、自分たちでもやりたいという気持ちが強いんだ。聴いてくれたみんなが思わず頭を振りたくなってしまうようなものというか、理屈や理論的な部分ではなく、直接感性に訴えかけるようなものにしたいんだ」

――最初に、自分は『WAR OF BEING』のコンセプトはわからない…とのことでしたが、そもそもコンセプト作を作ることになったのは、どんな経緯があったんですか?元々はダンの制作したゲームのストーリーが下敷きになっているとのことですが。
「コンセプトを考えたのはエイモスだからね。僕は彼が持ってきてくれたものを見て“へぇ、いいんじゃない?”って言っただけなんだ(笑)。もともとは新しいアルバムのためにスタジオに集まることになったとき、いくつか曲のアイデアを持って行った。それをもとにどんな感じで進めようか…と話しているなかで、ゲームのコンセプトはどうだろうか…という提案があったという感じ。だからストーリーに合わせて制作していったという形ではないんだ。エイモスも、以前からコンセプトそのものは考えていたみたいだけど、ある程度曲ができることでアルバムの方向性が固まってから提案してくれた形なんだ。微調整はしたけどね」

――過去作品では何度か組曲を作っていましたが、それとは全く違う流れだったということですね。
「以前組曲を作ったときは、まず1曲ができあがってから、それにつながっていく前章やインタールードになるものを作っていった感じだった。そうやって流れがあって全体でひとつのものとして聴けるのは大切だと思うし、重視していることでもあるよ。いろいろ実験してみたい性分でもあるから、本当にしっかりとコンセプトと連動した作品を作ってみるのも、面白いかもしれないね」

――TESSERACTは一時期ヴォーカリストがなかなか定まらずにいましたが、現在のメンバーになってから10年近く経ちます。活動はもちろん、作曲の流れ等も固まって、安定した活動ができるようになったのでは?
「そうだね。ダンといっしょに作曲するのは、かなりスムーズになったと思う。彼と初めて一緒にやったのは2008年だったけど、お互い離れている間に別の人といっしょにやったり、アーティストとしていろいろな経験を積むことで、だんだんやりやすい方法が固まっていったような感じがするよ。以前は僕が曲の95%を作って、ダンに歌詞をつけてもらってから残りの5%を仕上げて完成、という形がほとんどだったけど、今ではダンは僕がアイデアやリフを作って渡すと、自分のアイデアを足したうえでフィードバックしてくれるんだよね。それにまた、僕がまた肉付けしていく。その間に、最初に考えていたものとはまったく違った形になることも珍しくないけど、最終的にはよりよいものになるんだ。ほかにも今回“Legion”という曲では、僕は2分くらいのアイデアの段階でスタジオに持って行ったものの、どうやって展開させようか悩んでいたんだよね。で、エイモスとジェイといっしょに、3人でワインを飲みながら軽い気持ちでジャムセッションをしていたら、曲としてまとまったんだ。“最初の頃はアルバムの曲をこうやってジャムって作っていたよね”なんて話しながら、いっしょにアイデアを展開させていったよ。ほかにも“Echoes”も同じように短いアイデアの段階で止まっていたんだけど、アルバムのヴォーカルをプロデュースしてくれたエンジニアがアイデアを提供してくれた。だから以前よりも、ところどころでコラボみたいな形で僕とダン以外のアイデアを盛り込むことができるようになっていったと思うよ」

――今後は以前のようにアクルが一人で大枠を作ることもできれば、他のメンバーのアイデアを発展させることもできると、手の内が広がりそうですね。
「今回のアルバムは、これまでになかった形を取ることができたおかげで、バンドをフレッシュな状態にしてくれた部分はあるんじゃないかと思う。もちろん過去のやり方も、今回のようなやり方も両方できるけど、どちらがいいというわけではないから、曲や状況に合わせた方法を採用していきたいね。それでなくても、リフやデモは常に作り続けているし、メンバー全員、しっかりと曲に関与して作っていきたいという気持ちはある。だからいろんな方法を持っておくのが、ずっと同じ方法で続けていくよりも面白いし、メリットも多いだろうし、さらにバンドとして進化していけるんじゃないかな」

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TESSERACT:https://x.com/tesseractband
Acle Kahney:https://www.instagram.com/appleacle
Realising Media:https://twitter.com/hayatoimanishi
Mayukh B. Banerji:https://twitter.com/forzadelpassato