Sun Kil Moon “Benji”

sun kil moon

最後に
Sun Kil Moon “Benji”は日本盤がリリースされていません。したがって日本語詩が読めません。
@D_J_Salingerさんがtwitter上で全曲翻訳したものを読みやすいように一ページに纏めました。
(@D_J_Salingerさんに許可を得ていますが、マーク・コズレクには許可を得ていません)
なにかありましたらこちらまでお願いします。

#1 Carissa
あぁカリッサ、君を初めてみたとき君はまだ可愛らしい子どもだった/最後に君に会ったのは君が15歳のとき/君は妊娠していて、自由に走り回っていたね
君のトンネルの果てには光があるのだろうかなんて考えていたっけな/だけどぼくはオハイオを離れ、君のことはほとんど忘れてしまっていた/数年前に葬式で家族が集まったときに君もいたはずだけど/親戚が多すぎてどれが君だかわからなかった
昨日の朝起きると、330番(注:オハイオの市外局番)からたくさんの不在着信が残ってた/母に掛けなおすと彼女は泣いていて、ぼくからお父さんにも伝えてほしいといった/カリッサが昨夜突然の火事で焼け死んでしまったって
ブリュスターにある庭で、パーティから帰ってきた彼女の娘が死体を発見した/彼のおじいちゃんにあたる僕の叔父さんと同じ死に方だ/ごみ箱でスプレー缶が破裂したんだ/くそったれ、なんでこんなことが起きやがるんだ
彼女はワッドソースの病院の看護婦で、深夜勤務の準備をしている最中だった/彼女は炎のなかに消えてしまった、もう彼女の人生にはなんの価値も残ってなかったかのように/みんな心の整理をするために嘆き悲しみ、ドラッグをやった
ぼくは明日オハイオへ飛び立つ、ぼくには今ハグしあうことが必要だ/答えてほしい疑問もある/何もわからないかもしれない、だけどカリッサ、何がおきたか知りたいんだ
カリッサは35歳だった/君は二人の子どもを育てなかったし、ゴミ箱を片付けなかったし、死ななかった/彼女は僕のまたいとこ、彼女のことはあまりよく知らなかった
君は誰かのために雑用をしてたのかい?/孤独を埋めるために時間をつぶしてたのかい?/ゴミ箱に可燃性のものを捨てたのはそもそも君なのかい?/もし捨てたのが君の子どもたちなら、彼らは永遠に罪を背負うことになるだろう
その景色を確かめるためにぼくはそこに向かうよ/血でつながった人たちにあって、ぼくがどういう風に形作られたのか知るためさ/そこに向かうよ、ぼくが必要じゃなくても/ほんとに胸が痛むんだ、どうしてこんな悲しいストーリーが繰り返されるんだ?
オハイオに戻る、僕の生まれた場所/いとこたちと過ごした場所に行く、そこで雪遊びや釣りをしたんだ/彼らがどんな風に成長したか見に行く/いくつかの墓を訪ねて「君に会えなくて寂しいよ」と言う/知るためにいくんだ、僕の小さなまたいとこ、カリッサのことを
カリッサは35歳だった/15歳の時から子どもを育て、突然死んでしまった/古レンガのいろりのそばで、あぁそんな些細な事実が忘れられなくなるよ
彼女は僕のまたいとこに過ぎない/だけど、それが彼女のためにぼくがここいることを否定する証拠にはならないんだ/彼女の生命に詩情をあたえる、あらゆる海を越えて彼女の名前が知られるように

#2 I Can’t Live Without My Mother’s Love
空が上から降ってきても生きていける/君に軽蔑されたり、君が不機嫌だったり偉そうにしてても生きていける/押し出されるように独りで年老いたとしても生きていける/だけどママの愛なしじゃ生きていけない
あり得ないペースで飛び回りながらでも生きていける/この辺りの悪いエチケットの中ででも生きていける/君が僕の顔になにか投げつけてきても生きていける/だけど僕のママの愛なしじゃ生きていけない
ママは75歳/僕の人生で一番親密な友達/彼女が奪われたら、ぼくは崩れ泣き叫ぶ/そして秋の枯れ葉のように朽ちてしまう
君は思うがままに残酷になってもいいし、僕の兄弟に嫌なことを話したってかまわない/銃で穴だらけになるまで撃たれても、ぼくは文句を言わないよ/ぼくがかつての恋人たちにとった態度を激しく責めたっていいさ/だけどママへの悪口を言おうとなんてするなよ
大好きな古いボクシングの名試合を観ることができなくても生きていける/夜に恋人がそばにいなくても生きていける/君が魅力的な生活と呼べるものがなくても生きていける/だけどママが分けてくれる光がなくては生きていけない
ママは75歳/いつか彼女がここにいられなくなったら、僕は泣くだろう/彼女の去る日が来たとき/僕は雪の中のレモンの木のように塞ぎこむはずだ
行かなくてはいけない日が来たら/彼女の残したものを妹たちと手分けしながら処分する勇気は持てないよ/全ての思い出が引き起こす痛みを、耐えることなんてできない

#3 Truck Driver
僕の叔父さんは誕生日に焼け死んだ/レッドネックとは彼のことだ、あの日、庭で燃やされたゴミだ/ゴミの山にスプレー缶を投げつけた/そして彼は焼け死んだ
定年まで彼はトラックドライバーだった/冬の間はずっと仕事ででかけていて、夏の間も同じだった/僕ら子供たちはと言えば、冬はドミノピザを注文してハッピーデイズをテレビで観ていた/夏には池でカエルを捕まえて、カエルの脚を油で揚げた
叔母さんは今もオハイオの郊外で暮らしてる/秋の空気が薫る頃、彼女を訪ねた、僕を笑わせてくれた/僕が若かった頃の話を思い出した/スズメバチに刺された僕の足を気遣って、彼女はベーキングパウダーをすりこませたんだ/たぶん僕は5歳、ネヴァンの叔父の家だ
いとこの友人が庭でギターを弾いた/僕らみんな集まって彼女が歌うのを聞いた/僕は夢うつつ、彼女と同じことを同じ場所でぼくもしたことを思い出していた
僕の叔父さんは誕生日に焼け死んだ/彼の古い車のコレクションが並ぶ車庫のそばで/業火のなか、焦げきったショベルが手の近くに落ちてた/叔父さんは尊敬されるべき男として死んだ
僕は飛んでいった、そして葬式へ参列した/その日は嵐で、空は濃い紫/赤ん坊たちは泣いていて、ケンタッキーフライドチキンが出された/叔父さんが望んだとおりの感じだ、僕にはわかる
ネヴァンでの葬式のあと、みんなが集まって僕はギターを弾いた/僕が歌うのをみんな夢中になって聞いていた/外は霜が降りていて、たくさんのカマキリが群がっていた

#4 Dogs
ケイティ・カーランは僕のファーストキス/彼女に財布でぶたれたとき僕はまだ5歳/僕はズボンつりをつけていた、あの時は膝から崩れ落ちそうだった/ブロンドを見ると石のように硬くなってしまうのはその日からだ
おぉパトリシア、彼女は僕の初恋の人/僕から八つ後ろの席に座っていた、息のできないような恋だった/六年生のときにピンク・フロイドの『アニマルズ』をプレゼントした/日曜に彼女の家に行ったら、ターンテーブルの上にあったよ
彼女のママが外出したとき、ぼくらは「Dogs」を聴いていた/彼女は僕のパンツに手を伸ばした、僕にはまだ毛が生えてなかった/僕が彼女に触れると、彼女は花のようでとても柔らかかった/そして次の日学校の講堂で会ったとき、彼女は僕を無視した
シェリーとアンバーは僕の最初の経験/アンバーの両親の家で三人でオーラルセックスをした/バカみたいに酔っぱらって、ダーヴォン(鎮痛剤)でハイになった/彼女たちは僕を風呂にぶちこんで、僕はよろめきながらうちに帰った
メリーアンは初体験の相手/僕の足にもぐりこんで、あぁ神よ、しゃぶってくれた/最初は彼女の友達とやろうしたんだけどうまく入らなかった/メリーアンと僕が一緒にいるのを見たとき、彼女は激しく心を痛めただろう
メリーアンは冷たくなって、急に小型トラックドライバーのトレパン野郎へ乗り換えた/俺を降ろさないでくれ、いやだと懇願した/だけど彼女は手振りでもう終わりだと告げた
トラック野郎は僕をうちまで乗っけていった/ピアノの前に座ったけど、心は沈みこんでいる/だけど意識を無理矢理集中させてすこしメロディを弾いた/今、彼らの心を傷つけてるのは僕だ
デブラという女の子に会った、彼女は運河の上に住んでいた/彼女は朝食に卵料理をふるまってくれるとてもスイートな女の子だった/僕らはレッドロブスターやタンジールにいった
彼女には母性愛があって、成熟した女性で、気づかいができた/美貌で優しい心を持っていたけど、僕は離れていった/そこに恋のきらめきがなかったから
おぉ、セックスと恋のめちゃくちゃな混乱/君が最初に追っかけられていても、そのあと追っかけるのは君/コントロールを失いながらやるのはなんて気持ちいいことだろう/君が誰かのなかに入りたいと犬のように求めてる時はとくに
あぁ、手痛い拒絶/触れたいと思う人に愛されないなんて/そんなときにはいつも他の誰かがいるんだ、最悪なことに/毎夜彼らがやってるとこを想像しちまう
誰かに惹かれてしまうという性(さが)、その終わりなきサイクル/誰も正しくもないし間違ってもいない/若いときには心を揺さぶられ、時に溺れる/こんがらった場所だな、僕らのいるこの惑星は

#5 Pray for Newtown
僕が高校二年の時、テレビをつけたらニュースが/ジェームス・ヒュバーティという男がレストランに入って、そこにいた人々をマシンガンで撃ち殺した/僕と同じオハイオ出身の男だった
僕ら日が落ちるまでその事件について話した/朝になるとみんなストレッチして欠伸して、いつもの生活に戻った
セーフウェイで用事を済ませて、出口に向かってるときだった/ある男が銃を持って小島に乗り込み、ノルウェイのキッズ達を殺した/近くにいた友達何人かに電話したけど、みんなあまり気にしていなかった/だけど僕は違った、ノルウェイにはたくさんの友達がいたから
北京経由でソウルについた/一時間くらいゆっくりホテルで過ごして、それからテレビをつけた/なんて恐怖だ、CNNはそいつをバットマン・キラーと名付けた/火星から来たかのようにうつろな眼をした男/きのうまで誰でもなかった男、今日からはスター
ニューオリンズのモンテローヌホテルで休んでた/テレビをつけるまでは楽しかった/ポートランドのショッピングモールで銃撃事件/これがいつものアメリカだ/そしてここにロイヤルストリートを練り歩く一人のアメリカ人/世界の他の人々はみんな楽しく過ごしてる
12月14日、また無差別殺人/あるファンから手紙を受け取った、「マーク、ニュータウンのために祈ってくれよ」って書いてあった/僕は祈る人間じゃない、ただ僕は歌ってギターを弾く/女性のため、子供たちのため、ママ、パパ、兄弟姉妹、叔父、叔母のため
12月25日、ただゆっくり横になってた/ペンをとって、ニュータウンの男に返事を書いた/無差別殺人は本当に残念だ、殺された教師達も無念だろう/本当に悲しいよ、骨まで染みるよ、何故かはわらないけど
だからクリスマスが来て、忙しく走り回るのも少し落ち着いたら、ニュータウンで死んだキッズ達を思ってほしい/彼らはあまりに若くこの世を去ってしまった、間違った方向へ向かう僕らを止めて、正しい道を示してくれたかもしれないのに
あまりに早すぎる/雲が彼らを暗く覆っている/彼らは家に帰って、ママやパパにキスやハグをするはずだったのに
だから君の誕生日がきて、とてもいい感じで/焼いたケーキにプレゼント、美味しい食事で口をいっぱいにさせてる、そんな時には/死んでいった子供たちのことを少し調べてほしい/彼らの家族がどんな風に嘆き悲しんでいるか考えてくれれば
君が結婚することになって、ショッピングに奔走してる、そんなときには/少しでも思ってほしい、ニュータウンであまりに多くのものを失った家族のことを

#6 Jim Wise
父さんと父さんの友達、ジム・ワイズと一日を過ごした/彼は自宅監禁中で、ぼうっと座ってた/僕らがパネラブレッドで買った食料を持ってきたとき、彼はベッドで寝転がりながら鼾をかいていた/彼は90年代製のコルベットや彼の倉庫での仕事や膝の治療の話をした
ジム・ワイズは病気から救うため病院のベッドサイドで妻を殺した/頭に向けて拳銃を撃ったけど、銃弾が詰まってて死ななかった/夏のあいだずっと裁判に出ていた/妻がどれだけ裏庭と咲き始めたバラを愛していたか僕らに話してる時、彼の目に込み上げるものがあった
父さんと父さんの友達、ジム・ワイズと一日を過ごした/大きくて太いアンクルブレスレットを付けていて外には出られない/アーミッシュ風の長く白いあご髭とカテーテルを付けている/年の終わり頃にはマンスフィールド刑務所に行くことになるだろう
戸棚は悲しいほど古ぼけていた/彼の好きなレコードはドアーズとスティーブ・ニックス/キッチンキャビネットはベイクドビーンズでいっぱい/テレビはちゃんと動いていて、彼はスクリーンに映った言葉を死んだ目で見つめていた
ジム・ワイズは愛のためにベッドサイドで妻を殺した/そして頭に向けて引き金を引いたけど、死ねなかった/判決は秋にはくだる、僕らが去っていく時に彼はため息をついた/それから僕は空っぽの水盤にとまったかわいい赤い鳥を見つけた
眩しいほど赤い鳥、空っぽの水盤/今日は父さんと父さんの友達、ジム・ワイズと過ごした

#7 I Love My Dad
僕が小さかった頃、父さんは満足して悦に浸るなと教えてくれた/僕が自尊心まんまんで家に帰ると、床で取っ組み合いになって息を止められた/だけどその事は許してるよ
父さんは中2でドロップアウトしてるし、僕もガキだった/許してるよ、本当さ/僕が父さんを愛してることは父さんもよく知ってるし、逆もまたしかりだ
僕が小さかった頃、父さんは言った、好みは人それぞれだと/「ある女性が言ったんだ、牛にキスしながら。ある人はヴァイオリンが好きだし、ある人はトロンボーンが好きだわ。私は自分のルールで生きる。あなたの旅はあなたの旅、私の旅は私の旅よ」
よし、じゃあ自分のことだけに集中してやろう/俺はオドールズを飲むし、俺の友達は今ギネスを飲もうとしてる、そういうもんだ/僕は父さんを愛してる、父さんを愛してる
あなたの息子はバークリーの私立校に黒人の男の子と一緒に通学してた/僕の子はパブリックスクールに行ってる、この前は肋骨を折って帰ってきたよ/彼が18になったら僕みたいにうちを出ておそらく自分の夢を追っかけるだろう
あなたの息子は22の時法律事務所にインターンで行ったけど、ねぇ、それもいいことだろ
僕が5歳の時、僕はアルビノの子の隣に座らされて泣きながらうちに帰った/父さんは言った、息子よ、みんな違うんだ、お前は平等にみんな愛さなきゃいけないって/それから僕を座らせて言った、お前はピンクも赤も黒も茶色も、どんな色の人もみんな愛せなくちゃ
そしてディナーの後で父さんはアルバムをかけた/エドガー・ウィンターの『They Only Come Out At Night』
僕が小さかった頃、父さんは忍耐の美しさを教えてくれた/僕らは父さんの友達、ビリー・ブリスリンのスタボンヴィルにある地下室へ遊びにいって一日を過ごした
僕らはテレビでレスリングの試合を観てたけど、ビリーは障害を持ってたから動けなかった/そして、糞みたいな意見を放り投げて、助けが必要な人を助け、敬意を示すことを僕は学んだ
僕が小さかった頃、父さんはギターを持って帰ってきた、シアーズで買ったんだって/僕は隣に住んでるお姉さんからレッスンを受けたけど、どうにもうまくいかなかった
父さんは出掛けて、いい先生を見つけた、そしたら僕はすぐにうまく弾けるようになった/今でも上手く弾けるよ/よく練習してるしね、ニルス・クラインほどじゃないけど
小さかった頃、父さんは言った、ゴシップを気にするなって/人々がお前のことを悪く言うなら、肩に乗ってきたハエのようにさっと払ってしまえ/パンチは取っておくようにな
ムキになってと、排水溝で死に様をさらすだけだぞ
僕は父さんが完璧な聖人だったなんて言いたいわけじゃない/カッとなると、マイク・タイソンがリッキー・スヴィーンにやったみたいに父さんは僕を床に叩きつけた
僕はすごい速度で床に叩きつけられたけど、ずっと前のことだし、お互いに年を取った/僕の人生は上々だし、それは父さんのおかけだ/父さんは最善を尽くしたんだ/僕は父さんを愛してる、父さんを愛してる

#8 I Watched the Film The Song Remains the Same
ツェッペリンの『永遠の詩』を観たんだ/子供のとき、深夜の映画館で/オハイオ州カントンのモールで友達たちと一緒に/暖かい夏の週末だった
ジミー・ペイジが大きくスクリーンに映った/ぼくは全てに魅了された/ピーター・グラントとジョン=ポール・ジョーンズの夢のようなシークエンスシーン/マホガニー製ダブルネックSGのクローズアップ
唸るようなレスポールの音も大好きだったけど、ぼくに一番響いたのは「Rain Song」と「Bron-Yr-Aur」だった/雷のようなジョン・ボーナムのドラムも最高だったけど、なにより「No Quarter」のフェンダーローズの音を愛していた
何が起きたか、誰がなにをやったかなんて知りやしないけど、一番古い記憶の中でもぼくはとてもメランコリックな子供だった/死んだ世界では全てがぼくと親密で、その感覚はぼくの心に死ぬまで結びつけられている
僕の友達がデカいトラックかなんかに後ろからぶつけられて、原付から吹っ飛ばされた時のように/治療を受けていた隣の席の女の子がある週末に突然なくなって、すぐに学校で忘れられてしまった時のように
おばあちゃんが亡くなったって電話で知ったとき/何ヵ月も続いていた神経の緊張がついにブチッと切れて、奇妙なことにぼくは笑ってしまった/それから寝室にいって横になった、涙をこぼしながら、重い心を引きずりながら
僕はずっと同じような男だったし、ほとんどいつも内気だったけど/小学校の校庭の隅でみすぼらしい男の子からクラックを売り付けられそうになったことが一度あった/ぼくは無防備な彼にパンチを浴びせて、彼はその場にたおれこんだ
去っていく時に、キッズ達から喝采を受けた/僕はニヤついてたけど、心の深くでは傷ついていた/だけど殴られた彼はそれとは比べられないほど傷ついたんだ/彼が立ち上がったとき、眼鏡は割れていて、顔は真っ赤だった
ぼくは決していじめっ子じゃなかった/それはたった一度のアクシデントで、いつも僕の心を蝕んだ/僕は決していじめっ子じゃなかった/君が今どこにいても、かわいそうな君よ、僕はほんとに済まなかったと思ってる
成長して、ギターを弾くことを覚えた/他のみんなかフットボールで走り回ってるときに/学校が与えたキラキラした服を着て/受け売りのフレーズとチアリーディング
僕は1992年にレコード契約を結んだ/そこから僕の名前、僕のバンド、僕のオーディエンスは大きくなっていった/その時から、とてもたくさんのことが起こった
だけど僕は気づいた、メランコリーを振り落とすことはできない/46年間、呪いを解くことはできていない/生涯ずっと引き連れていくんだろう、どっかに置いてくことができればいいけどね
墓まで僕はメランコリーを持ち込むだろう/僕の幽霊は感傷を繰り返すのだろう、永遠に
今、『永遠の詩』を観ても、昔同じように心動かされる/ただしピーター・グラントとジョン・ボーナムのシーンを除けば/彼らに降りかかった運命を考えてしまうから
サンタフェ郊外の砂漠に暮らす友達がいるんだ/今週の土曜日に彼のところを訪ねるのさ/僕の旅と彼の離婚の後では、昔と同じようにはいかないだろう/最後にあってから15年も経ってるんだ
彼が92年に僕とサインした男なんだ/彼のところへ行って、面と向かって言うんだ/「ありがとう」って/早いうちから僕の才能を見出だしてくれた/僕がずっと憧れたこの美しい音楽の世界に入っていくのを、いつも助けてくれた

#9 Richard Ramirez Died Today of Natural Causes
リチャードラミレスが今日死んだ、自然死だった/スピードを上げて、家々に突っ込み/人々を虐殺して、彼らの顔にクソを塗りたくった男/最後彼は捕まり、サンクエンティン刑務所へ連れていかれた
彼の最後の殺人はサンフランシスコの南/サンマテオの街から来たピーターパンという男/テンダーロインの少女が最初の被害者/ランドリールームで彼は少女が握りしめていた人形を引き剥がした
彼の最後の日々はブリストルホテル/僕がナイトストーカー(リチャードラミレスの通称)を読んでいたとき、ベルがなってドアに向かった/ブザーを鳴らしたドアマンがキーをくれた/黒猫がぼくを広間の下へと連れていった
今日僕は飛行機でボストンからクリーヴランドへ向かう/家族が死んだから、弔いにいく/関係が失われていき、僕を蝕む/酷く痛むんだ、ささやかでも愛が欲しい
リチャードラミレスが死んだ、自然死だった/あの事件は時代に刻みついている、ぼくらは立ち止まらざるを得ない/窓の外の足音に怯えるキッズを想像して欲しい/ベッドの下、枕の下には何があるのか
ジムジョーンズは僕らの頭に大量虐殺がどういうものか植え付けた/テレビはエルヴィスプレスリーの死をヘッドラインで報道した/アヤトラ(シーア派の指導者)は人質をとり、ロナルドレーガンは銃弾を避けた
僕がそこに着いたら古い近所の家を廻ってみよう/リックスタンは僕と同い年、今もママと暮らしているはず/ストーカーや偽手形やコカインで捕まっていなければ
マークデントンは美しい笑顔の持ち主/いつも家の入り口に座って時を過ごしていた/ビールを飲んで、タバコを一箱吸って/そうやって生きてきた、ある日可哀想なマークが心臓発作で倒れるまでは
僕の友達ベンは電気技師としていい仕事をしていた/彼の妹は卑怯ものジムエヴァンスと結婚した/僕の隣の家の人たちは大好きだったし、彼らも僕のことが好きだった、でもそれもずっと前の話
スタールの街を数ブロック歩けば、近隣の人たちを恐怖に陥れた家がある/「売り出し中」のサインが小さくかかれている/教会の子供たちにとって、人生は地獄だった
僕は真実を語っているけど、もし信じないのなら、ローウェル・コフィエルの『House of Secret』という本を手に取るといい/クリーヴランドからサンフランシスコ空港まで行かなきゃ/次のライヴまで三ヶ月の休暇だ
彼女とゆっくり過ごして、夏のうちにレコードを一枚つくる/キッチンをきれいにしよう、配管工を雇わなきゃ/ニュースのヘッドラインはすごい速さで変わっていく/スタジオに行って、なにか素敵なものをつくるのさ
ジェームス・ガンドルフィニのニュースを見たんだ、ラーメンを食べて緑茶を飲んでるときに/あのソプラノの男は51歳で亡くなった/ドラムを叩きにきた男と同い年だ
年を取ることは全然好きじゃない/1日に50回も小便に行かなきゃいけないなんてあんまりだ/前立腺に悩まされ、背中は痛くて/ファックしすぎたときは心臓発作を起こすんじゃないかと気が気じゃないんだ
今朝目覚めてヘッドラインを見た/飛行機事故で二人亡くなった/僕は今サンラファエルでバーベキューしてる/みんな酔っぱらってていい感じに楽しんでる
リチャードラミレスは53歳で亡くなった/だけど83年から彼はずいぶんと長く生きた/殺人犯の中でも最も恐ろしい男だった/彼は手の甲の真ん中に五芒星を書いていた
みんなパラノイアに陥った、リチャードラミレスが南カルフォルニアの郊外を歩きまわっていたとき/みんな覚えているだろう、ナイトストーカーが捕まったとき自分がどこにいたかを/僕が覚えているのは、リチャードラミレスが自然死したとき僕がどこにいたかってこと

#10 Micheline
マイカリンは僕の家まできてドアをノックしたことがある/父さんはこう応えただろう「なにかお望みかい?」彼女はこう言った「マークとお風呂入ってもいい?」/父さんは「息子は今いないよ」と言って彼女をうちに返し、ドアを閉めたあと僕らは二人で笑った
そしてマイカリンは目を輝かしながら通りを歩いただろう、まるでポール・マッカートニーのサインを持ってるかのように微笑んで/彼女の脳みその働きは少し遅くて、いつも縁の厚い眼鏡をかけていた/彼女は他の子とは違うバスで通学し、他の子とは別のクラスにいた
彼女が大人になった頃、隣に住んでた悪党が家にやって来て彼女の生活保護のお金を取ろうとした/銀行まで連れていき、お金を下ろさせて、盗ってずらかろうとした/警察はそいつを捕まえた、彼は一瞬の出来事でその後数年間を不意にした
今彼はフロリダ刑務所にいて、そこには殺人でつかまった彼の父親もいる/マイカリン、マイカリン、マイカリン/みんなと同じように愛を欲してた/マイカリン、マイカリン、マイカリン/みんなと同じように夢を描いてた
僕の友達ブレット、僕の友達ブレット、僕の友達ブレットはギターを弾くのが好きだった/だけど彼はコードの抑え方が変で、人差し指と中指の間が広がりすぎていた
ある日バンドの練習中に彼は撃たれた鹿のように倒れ、魚のように痙攣しだした/彼には動脈瘤があって、指を広げることで神経を痛めつけていた
彼に会いにオハイオまで行った/彼の頭部には馬の蹄のような傷跡があり、彼は本当にゆっくりと喋った/10代の頃みたいにビリヤードをした、彼は頭を剃っていて、いまだにベルボトムのジーンズを履いていた
99年にツアーでスウェーデンにいるとき、家に電話をした/母さんに映画に出ることになったと伝えようとしたとき母さんがいった「マーク、貴方に言わなきゃことがあるの」
「ブレットがこの前亡くなったの、彼の両親に手紙を書いてあげてね」/マルモで列車に乗ってるとき、外で雪が降りだした/僕は喜びと悲しみの中間地点から雪を見ていた
僕の友達ブレット、僕の友達ブレット/彼には奥さんと息子がいた/僕の友達ブレット、僕の友達ブレット/ただギターを弾くのが好きで、誰も傷つけたりしなかった
おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん/彼女が世を去る前に叔母の家まで見舞いにいった、僕はまだ小さかった/おばあちゃんの状態が見ていられなくて、車道の真ん中までいって車に座った
ある日、ふざけ回っていた僕はリバースにレバーをいれたまま転げ落ちた/車が後ろに進むのを今でも覚えている、心臓がバクバクして今にも気絶しそうだった/別の車がやってきて、どちらの車もぐちゃぐちゃに/僕は本当に打ちのめされたよ
おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん/最初に会ったときはLAにいた、たしかハンティントンパークだったはず/そこで僕はマルソーという子と友達になった、サイラス・ハントという子もいた
僕らはダウンタウンでアイスを買い、鳩にフレンチフライをあげ、ヴェトナム帰りの傷をおった老兵と話をした/ハミングバードやヤシの木やトカゲを初めて見たのはその頃/海を見たのも、ボウイのヤングアメリカンを聞いたのも、ベンジーという映画を見たのもその頃だ
おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん/彼女の人生にはつらいことが多かったと聞いた/だけど最初の夫と死に別れたあと、カリフォルニアから来た男は彼女をとても大事にあつかった
おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん/62歳のときに病気になった/彼女の子供たちは病院の看板のところまでいって、ずっとそこで無事を祈っていた

#11 Ben’s My Friend
目覚めた、今日は8月3日/ゆったりとした、特に何の事件も起きない夏/友達に会いにサンタフェまでいった/ニューオリンズにいって両親に会った/朝起きて、なにか調子が悪い/レコードを仕上げるのにあと一曲録音しなきゃ/燃料切れで、なにも感じられなかった
ベッドにねて、ぼけーっとして、ちょっと落ち込んで/彼女に会って、ユニオンストリートを歩いた/僕は脅えてて、頭にたくさんの場所が浮かんだ/350ドルでランプシェードのペアを買った/ペリーズに行ってクラブケーキを注文した/青いクラブケーキ
彼女が言うには僕は取り乱してるように見えてこれからどうなってしまうか恐いと/僕は言う、説明はできないけど中年になったせいだろう/彼女はオッケーと言ってエッグベネディクトを食べた/ぼくはスポーツバーのごみで一杯の壁を見ていた/スポーツバーのごみ
電話で母と話す/父とも話して妹とも少し/妹に新しい彼氏ができて、そいつは鹿狩りだ/鹿肉の臭いにも慣れてきた/父はパネラブレッドの女の子といちゃついてたことでガールフレンドとまた喧嘩だ/母が元気だったが息切れしていて/心配になった/彼女の死を思った
別の夜にはポスタルサーヴィスのライヴを観た/ベンは僕の友達、だけど会場に行くまでが最悪/駐車場を探しに丘のほうまで運転して、携帯を凝視する酔っぱらいキッズの間にスペースを見つけた/8000人の観客のうしろで
ぼくは2000年にスペインのフェスでベンに会ったことを思い出していた/小さなステージにいて、彼の名前をそのときまで知らなかった/今彼はギリシャで歌ってる、独特な胸の動き/僕の足は付け根からつま先までくたくた
後で彼に会いにいった/バックステージでのハイタッチは遠慮しておくよ、でも良い音楽、いいライヴをありがとう/ぼくらは笑いあって、すごくたのしかった/すごくよかった
バックステージパスを持った中年の男とバカみたいにこうしてガットギターを持ってうろついてる男との間に明確な線引きができるね/そこにいる人たちは僕より20歳は若かった/少なくとも最良の思い出とはいえないね
ぼくは退席したよ、ステージパスはキュートなアジア系の女の子二人組にあげた/タホ湖近くの自宅まで車でかえった/バスタブに浸かってこれからどうなるのかなんて考えた/辺りは静かで、クリケッツを聴いていた/今もベンはたくさんのチケットを売ってるだろう
僕たちの間にはライバル意識があるように思われてるけど/ベンは僕の友達、かれはうまくやってる
そして僕のメルトダウンな日々も数日後には過ぎ去り/スタジオに戻って、12時間こもりきり/なにかしらについての歌を歌って/マイクロフォンのうしろで夏が過ぎていく/このテンダーロインの夏/テンダーロインの夏

レコードレーベル:Caldo Verde Records/US
カタログNo:CVCD029
リリース日:2014/02/11

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