DIYにこだわり抜いた、バンドとプロモーター二輪活動の意図。Realising Mediaインタビュー

大小問わずイベント企画を行うプロモーターは数多くいるが、中でも特殊な経歴の持ち主で、DIYな姿勢にこだわっているのがRealising MediaのHayato Imanishi氏だろう。学生時代にUKに留学し、自身の理想とする音楽を追求するプロジェクトとしてCyclamenをスタート。その後タイに移住し、日本でメンバーを迎え入れてバンドとして活動をする傍ら、Realising Media名義で海外アーティストを招聘し来日公演を企画し始めたのが、2014年のこと。SikTh、CYNIC、THE DILLINGER ESCAPE PLANをはじめとしたプログレッシヴ・メタル~カオティック・ハードコアシーンの重要アーティストたちの、貴重な来日公演を実現させてきた。

2020年から、コロナ禍によってバンドとしてもプロモーターとしても活動停止を余儀なくされていたが、今年6月から復活。すでに10月のSILVERSTEIN、12月のCYNICの来日が発表されているだけでなく、すでに来年に向けての交渉を始めているところだ。

今回はそんなHayato氏に、Cyclamenとして、Realising Mediaとしての両側面からインタビュー。「透明性を大事にしたい」という姿勢の通り、活動の意図も真意も隠さず話してくれた。

※インタビュー後、SILVERSTEIN公演のVIPチケット詳細、CYNIC公演へのEXIST IMMORTALの出演がそれぞれ発表されました

Interview by MOCHI

――2020年に新曲のリリースはありましたが、コロナ禍の間、Cyclamenとしても個人としてもプロモーターとしても、活動はほぼない状態でしたよね。

「そうですね。コロナ禍になった時点で表立った活動は基本的に休みにして、コロナ明けに向けてヴォーカルの練習やアーティスト招聘の準備をすることにしました。でも15歳くらいでギターを始めてからずっと音楽をやってきたので、この2、3年で一度音楽からちょっと距離を置いて冷静になれたんです。自分の生活を見直して、家族のことを含むプライベートを考えて、何を優先すべきなのかを考えるのにいいチャンスでしたね」

――コロナによって、メンバーも生活を見直さなければならなかっただろうし、難しい時期でしたよね。

「それぞれ結婚したり、仕事が変わったりもしましたからね。それに僕は普段奥さんといっしょにタイにいるから、コロナのせいで国を簡単に行き来できない状況ならバンドのリハーサルもできないんですよ。そんななかで他のバンドの活動を見ても仕方ないし、ここは休もうと。それにコロナ禍になる直前まではイベンターとして忙しかったこともあって、ミュージシャンやアーティストとしての進歩が止まってしまっているように思っていたんです。僕が招聘するアーティストは単独となると集客が厳しいことも多いけど、理想を言えばCyclamenだけでしっかり100人とか集客できるようになれば、かなり安心できますよね。それだけのバンドとしてCyclamenが成長していくには、バンド全体としてもメンバー個々としても、足りないものがたくさんある。コロナが明けて活動を再開したときに“このバンドはすごいぞ”“自分たちのツアーにも呼びたい”と思ってもらえるくらいじゃないと、今後続けていけなくなるとは、メンバーとも話しました。この2、3年はメンバーとぶつかり合ってでも厳しくやってきて、だいぶ成果は出てきていると思います。今年はライヴバンドとしてどうなるか大きなターニングポイントになるし、これからその成果を見てもらいたいですね」

――6/10にオーストラリアからNYU.(ニュー)を招聘して、プロモーターとしてもバンドとしても、4年ぶりに活動を再開しますね。これはどんな経緯で決まったんですか?

「もともとは日本のバンドと2マンをやる予定だったんですけど、そのバンドに事情があってできなくなってしまって。でも会場は押さえてしまったし、どうしようかなと思っているところでNYU.を見つけたんです。オーストラリアの二人組だし呼びやすいだろうとコンタクトを取ったら、Cyclamenも知ってくれていたし、話がポンポン進んで決まったという感じですね。今年でCyclamenが15周年なんですけど、結果的に海外からアーティストが来てくれて、特別な企画になったと思います。追加公演はサポートバンドのFRCTSとIn Denialが宣伝を頑張ってくれたので、会場を大きくすることができましたし」

――そのほかには、10月にSILVERSTEINが、12月にCYNICの来日も決まっています。

「もともとは10月にHOLDING ABSENCEを呼ぼうとしていたんですけど、エージェントとの交渉がうまくいかなかったんですよね。契約書を作るところまでは進んだんですけど、サインをしないのに会場だけは押さえてほしいと言われてしまって。会場の仮押さえの締め切りを過ぎてでも粘って交渉したものの、どうにもなりませんでした。でも並行してオファーのメールを送っていたなかから、SILVERSTEINが10月ならいけると返事をくれたんです。それで収支のバランスや交渉のレスポンスを考えて、SILVERSTEINに来てもらう形になりました。そう決めてからはすごくスムーズに進んだし、お客さんからの反応もすごくいいので、結果的にはよかったですね。HOLDING ABSENCEもバンドはすごく日本に来たがっていたんですけど」

――12月のCYNICについては、2015年にオリジナルメンバーでの初来日も実現させましたよね。今回もその流れからやり取りが始まった形でしょうか?

「CYNICはコンタクトフォームに連絡をしてみたら、ポール(・マスヴィダル/vo,g)がマネージャーもCCに入れてメールをしてくれた感じですね。PROSTHETIC RECORDSがマネージメントしているみたいです。それから、マネージャーとのやり取りを常にポールが見ている、という状態で交渉していきました。ショーン・レイナート(ds)とショーン・マローン(b)は亡くなってしまったけど、またCYNICとして活動しているし、Twitterでのアンケートの反応もよかったので、需要もあるし安心だろうとは思いましたね」

――今回CYNICは1st『FOCUS』(93年)の再現ライヴをやるそうですが、この形が決定した経緯は?

「ポールから“今年で『FOCUS』が30周年だから、特別な再現ライヴをやりたい”という提案があった感じです。前回来たときは『FOCUS』の曲は少なかったし、CYNICを昔から知っているファンにとっては特別なアルバムということで、やってもらうことにしました。それに3人編成で同期も多かった前回と違って、今回は5人編成という大所帯で来るそうなので、しっかりと再現しようとしているんだと思います。この編成を冬まで保ってくれるのか、という若干の心配はありますけどね(笑)」

――ライヴ2本のほかに、ギタークリニック等は予定していますか?

「ライヴは土日ですが、当日は本番で忙しくなりそうなので、VIPチケットを用意して、金曜にアコースティックセットとミート&グリートをやってもらう予定です。それとは別に、月曜にギタークリニックをやろうと思っています」

――そもそも、最初に招聘したアーティストってなんでしたっけ?

「2014年のTHE ALGORITHMですね。彼らから日本に行きたいとオファーがあって、当時Cyclamenでベースを弾いていたHiroshi(b/現WORLD END MAN)さんが当時よく企画をやっていたので、協力してもらったのが最初です。小規模だったしソールドアウトもしなかったけど、ちゃんと知っている人は来てくれて形にはなりましたね。でも本格的に招聘をやろうと思ったのは、その後のSikThです。あれは2デイズしっかりソールドアウトして、手ごたえがありました。その後CYNICで一気に規模が大きくなりましたけど、彼らはそれまで来日したことなかったし、僕がやっていいのかもわからないまま連絡したら話が進んだんですよね。それでやってみたら、イベンターは意外と自分に向いているなって気付いた感じです。今振り返ると、出発は再結成したSikThを日本で見たいっていうことでした(笑)。おかげでCyclamenとしてサポートもできましたし」

――ほぼ毎回Cyclamenがサポートとしてつく形ですけど、それはやはりバンドの宣伝も兼ねてという感じですか?

「そうですね。SikThはバンドとしてサポートしたいっていう若いころからの夢もありましたけど、CYNICからはどうせやるのなら、自分のバンドも見てほしいなっていう感じで出るようになりました。これだけリスキーなことをやっているんだし、ちょっとくらいは得があってもいいかなと(笑)。でも2015年のTHIS WILL DESTROY YOUとenvyの2マン企画みたいに、明らかにCyclamenが合わないときはやらないようにしています。envyは世界一サポートしたいバンドではあるけど、イベントの趣旨や統一性を崩さない姿勢も大事だし。そこに来てくれたお客さんがCyclamenをいっしょに見て楽しめる組み合わせなのかを考えました。ある程度の無茶はやるけど、明らかにおかしいことはやらないようにしています」

――これまでの招聘で、特に印象に残っているのはどんなことですか?

「CYNICは一番苦労しましたね。メンバー間のコミュニケーションがおかしくなっていたんですけど、とにかく大変すぎて、一度文字通り嫁に泣きついたくらい(笑)。でも最終的にはちゃんと終えられたし、亡くなってしまったショーン・マローンがCyclamenをすごく気に入ってくれたんです。“Veil Of Maya”の最初のセクションの楽譜を書き起こして、サイン入りでプレゼントしてくれたし、その後もCyclamenの『AMIDA』でベースを弾いてくれました。大変だったけど、形が変わってもまたこうして呼ぶことができたので、いい結果で今に繋がっていると思います。ほかにはSikThとTHE DILLINGER ESCAPE PLANですかね。SikThは2013年に再結成した時“この機会を逃したらもう次はない”と思っていたので、呼べてよかったしサポートするという夢も叶いました。まぁ、結局あの後もやっていますけど(笑)。TDEPも別次元の人間だと思っていたのに、解散ツアーを個人でやっている僕に任せてくれて驚きました。それと、2016年にPROTEST THE HEROを呼んだ後、彼らがカナダのツアーにCyclamenを誘ってくれたのは自信になりましたね。そのツアーでSILVERSTEINともつながったし。PROTEST THE HERO は2018年にもう一度呼ぼうとしたとき、ロディ(・ウォーカー/vo)が喉を潰してしまってキャンセルになっちゃったんですよね。それで一時期ちょっと関係がギクシャクしたけど、今ではちゃんと連絡を取り合っています」

――普段からTwitterでも、交渉の進捗のほかにもギャラや集客について等、いろいろ裏話をしていますよね。

「どんなにしっかり交渉しても、うまくいかないこともあるんだと知ってほしいという気持ちがありますね。営利目的の大手には公表できないことも多いだろうけど、僕みたいに個人でやっている人間が、来日が実現するまでどれだけのことがあるのかを発信することで、お客さんが少しでも理解してくれるんじゃないかなと。先日もEVPさんが、BORN OF OSIRISが来日に必要なビザを取れるかどうかわからないという状況になったとき、チケットを持っているお客さんに全部事前に説明していたんですよ。仮にキャンセルになっていたとしても、ちゃんと状況を伝えていれば、お客さんも“そういう事情ならしょうがないよね”とはなっただろうと思います。それにこうやって交渉していて“もう少しで成立するぞ!”と伝えることで、いっしょにワクワクしてもらえるといいですよね。いつか誰かから怒られてもおかしくはないけど、そのときに反省して考えようかなと(笑)」

――Hayatoさんは普段タイで生活しつつ、欧米のアーティストを日本に呼ぶという形を取っていますよね。日本にいないことでデメリットになることはありますか?

「日本の会場と、対面の交渉ができないことですかね。でもどちらにせよ、ここ2、3年はコロナで直接会うことが推奨されなかったし、僕のやりかたには有利にはなった気がしますね。オンラインで会議での会話や、オンラインでの支払いとかのインフラも整ったし。おかげで、会社ではなくgmailを使っている個人という点をマイナスに捉える人は減ったと思います。そういう意味ではメリットが多いですね。ただ日本のバンドは難しいです。海外のバンドはオンラインでの交渉しか手段がないけど、日本のバンドはやっぱり対面で会うとか、ライヴを見て評価してくれるのかを重視する傾向にあるので。それに自分たちが属しているシーンへの思い入れが強いことで、その外からのオファーにもあまり興味を示さない人もいますし。僕としてはいいと思ったバンドとはジャンル関係なくやっていきたいですが、どういうシーンの人間なのかとか、アイデンティティがしっかりしていないように見られているのかもしれないです。だから日本にいて、実際に会ったりライヴに行ったりできていれば、もっと楽にオファーができるのかなとは思いますね。僕がメインとしているのは海外のアーティストなのでそこまでデメリットではないけど、大きく感じる部分ではあります」

――イベンターとして、今後やってみたいことや呼んでみたいアーティストとかはありますか?

「フェスはやりたいと思いますね。それこそ大手がやるような規模ではなくて。例えばイギリスにUK TECH-FESTというフェスがあるんですけど、あのフェスって、ライヴをやる2つのステージとは別に、出演しているバンドのギタリストが自分の機材の解説をしたりする、小さなスペースがあるんですね。しかもメインステージが終わった後、そこで客のカラオケセッションとか、すごくゆるい感じで出演バンドが集まってLIMP BIZKITのカヴァーをやったりとか(笑)。日本だとどうしても会場の音止めや撤収時間があってなかなか難しいけど、そういうことができるといいですね。例えばサーキットイベントみたいな感じで、2つメインでもうひとつ小さなスペースでワークショップや特別なカヴァーバンドが観られるとかだと面白いと思うんですけど、日本だとアクセスがいいところで夜通し大きな音を出せるところはあまりないし。そういうことが日本でも気軽にできるようになったらいいなと思います。もちろんお金があればできることはいろいろ増えるけど、お金のためだけにやりたいことをやれなくなるのは嫌なんです。だから自分のできる規模で、大手では利益を出せないアーティストを呼び続けることでお客さんがついてくれて、徐々に規模を大きくできればいいなと思います。ニッチなエリアで、この規模でDIYだからこそできることだと思うし。自分にしかできない形で、やりがいを見つけていきたいと思います」

――バンドとしては、最近新曲“Ocean Moon”をリリースしたほか、昔の曲を「Revisitedシリーズ」とした再録をやっていますよね。ライヴ再開に向けての練習も兼ねて、という感じですか?

「練習もありますけど、昔いい曲を書けていても、レコーディングの技術的にも環境的にも、自分が求めているものに至っていなかったというのがあります。リリースした時のものがその曲の最高値だと思われたくないし、ライヴをやるにあたって曲の練習とともに再構築もしているから、せっかくだしということで再録しています。明らかに詰めが甘かった部分もあれば、今では忘れてしまったアプローチを見つけることもあるし、いい確認になっていますね。最近ちゃんと練習を重ねたことで、自分のヴォーカルにもすごく変化があったと思うし、今までレコーディングした曲を全部やりたいくらいです。正直、いろんなことが忙しすぎたこともあって、ずっとヴォーカリストとしていい仕事ができていない感じがあったんですよね。今はいいパフォーマンスをできるようになったし、ライヴで見てもらって、結果が出せればいいなと思っています」

――ちなみに、コロナ前は基本的にベースは同期を使っていましたが、6月のライヴではベーシストがいますよね。

「6月はSailing Before The WindのBitokuさんが参加してくれるので、楽しみですね。バンドに正式なベーシストがいた方がいいんだけど、今のメンバーだけでコミュニケーションもいっぱいいっぱいでしたから。下手に新しい人を入れて育てるよりは、ギャラを払って雇った方がいいだろうし、Bitokuさんならリスペクトされているし、百戦錬磨で安心できる人だということで、Hitoshi(ds)さんから話をしてもらいました」

――イベンターとしてもバンドとしても、コロナ禍中の潜伏を経ての活動再開、新しい試みも多くて面白くなりそうですね。

「バンドってずっとじっくりと活動を重ねて来て、それまで溜まっていたものが一気に爆発するときがあるじゃないですか。そんな空気は感じるんですよね。Revisitedシリーズを始めても評価はそれなりにいいし、しっかり自分が頭の中で考えていたことができている感じがしているし。これをしっかり届ければ、いい結果が得られるんじゃないかと思います。なんというか、お店もあるし宣伝もできているので、あとは商品を仕入れるだけ…みたいな感じですね。道筋が見えていて、うまく行きそうな予感がするって、この年齢だと珍しいことじゃないですか。面白いことが起こりそうな、ワクワクする気持ちは大切にしたいですね。今までも何度失敗して、何度ガッカリしたかという感じだったけど、諦めない図太さはあると思うので(笑)」

<各公演インフォメーション>

■NYU.

 

・2023年6月10日(土)渋谷Cyclone/一期(Ichigo):Cyclamen 15th Anniversary Show

チケット予約フォーム:https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdG67Z_zE7RtzXD-gb-e4qASIZNqG_EH5wGUPiwlLKYsDqZ1A/viewform

・2023年6月11日(日)渋谷Ruby Room/with support from FRCTS & In Denial

チケット予約フォーム:https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfWOYgHXO44wJ8aZ1JMkQuXotTia2UYPh3_R4kAFf8x8JHGbg/viewform

■SILVERSTEIN with special guest Cyclamen

・2023年10月14日(土)15日(日)渋谷Cyclone

チケット販売:6月10日(土)NYU.公演の際に会場で先行販売。11日(日)より一般販売開始予定

■CYNIC with special guest Cyclamen and EXIST IMMORTAL

・2023年12月9日(土)渋谷Cyclone

・2023年12月10日(日)代官山UNIT

チケット販売:調整中

<Link>

Realising Media(Hayato Imanishi):https://twitter.com/hayatoimanishi

Cyclamen:https://twitter.com/thiscyclamen

NYU.:https://www.facebook.com/nyusteez/

SILVERSTEIN:https://twitter.com/silverstein

CYNIC:https://twitter.com/CynicOnline