結成25周年記念ツアーに乗り出すMONO。新作『OATH』で鳴らす「歓喜のノイズ」に迫る

6月に12枚目となるアルバム『OATH』をリリースした、国産インストゥルメンタル・ロックの至宝MONO。音楽性としては近年の方法論をさらに発展させつつも、結成25周年を記念すると同時に、コロナ禍を経たTakaakira ‘Taka’ Goto(g)の人生観を色濃く反映させたアルバムとなった。かつリリースを前に、長らくプロデューサー/エンジニアを務めたスティーヴ・アルビニが逝去したことで、様々な面で重い意味がもたらされた作品でもある。

アルバムの内容やスティーヴ・アルビニとの関係について、すでにインタビューが公開されていることもあり、今回はそれらを踏まえた補完的な質問を中心に、今後行われる結成25周年を記念するツアーについて、司令塔であるTakaakira ‘Taka’ Gotoに話してもらった。

Interview by MOCHI

Photography by Teppei

Special Thanks:OGINO DESIGN

――新型コロナウィルスの影響で、2020年のMONOはライヴが7本のみ、2021年はまったくライヴができない状況になっていました。2022年春、アメリカからようやくツアーを再開できたようですが、再びツアーに出ることができた時にはどう思いましたか?
「2020年3月に行ったオセアニアが、バンドの20周年記念ワールドツアーの最終地点でした。ニュージーランドから日本に帰ってきた翌日に世界がパンデミックになったので、結果的に1年半のツアーを1本もキャンセルなくできたことを、とても幸運に思います。その後、11枚目のアルバム『Pilgrimage of the Soul』の曲を書き始めて、8月にはシカゴに行ってスティーヴ・アルビニと厳戒態勢の中でレコーディングを行いました。『Pilgrimage of the Soul』は2021年の夏にリリースしたのですが、当時はまだツアーを再開できる状況ではなかったので、また新しいアルバム用の曲を書き始めました。これが今年リリースした『OATH』です。2022年になると、またツアーを再開するバンドも出てきたので、僕たちも春からツアーに出るようになりました。どこも出入国の際にそれぞれの国でのワクチン接種証明書が必要だったし、メンバーがコロナに感染してツアーをキャンセルするバンドもいたので、感染予防をはじめ、何をやるのも大変でした。それでも僕たちは、明日さえどうなるのかわからないのであれば、今できること全力でやろうという強い決意がありました。メンバーとともに演奏できる喜び、ライヴを見にきてくれるファンの人たちと音楽をシェアできる喜び…これまで当たり前に感じてきたことが、どれほど素晴らしいことだったのかを再認識できました。その思いと感覚は今も心に残っているし、生涯忘れることはないと思います」


――7月3、4日に、東京と大阪でライヴをやりましたね。前作のツアーでは日本でのライヴがなかったので、2019年以来久しぶりとなりましたが、感触はいかがでしたか?
「5年ぶりの東京と大阪でのライヴは、とても楽しかったです。中国のWang Wengと韓国のJambinaiのアジアツアーにスペシャルゲストとして参加したのですが、どちらも中国や韓国はもちろん、あとヨーロッパで何度かいっしょにライヴをやった仲です。それに今回はいつも僕たちの通常のワールドツアーで帯同してくれている音響や照明クルー、ツアーマネージャーも日本に来ていたので、何の心配もなく、リラックスして演奏に集中できました。来てくれた日本のお客さんもとても素晴らしかったし、11月に行う25周年ツアーが楽しみです」


――『Pilgrimage of the Soul』の後、2022年に映画『私のはなし 部落のはなし』のサウンドトラックをバンド名義で手がけましたね。過去にも“Kanata”のようにドラマに使用された楽曲がありましたが、こちらはドキュメンタリー作品で、かつ楽曲もいつものバンドサウンドとは違います。こういった場合、取り組み方や作曲のやり方等、通常とはどのような違いがあったのか教えてください。
「この映画を監督した満若勇作さんは、考え方も視点もとても独特で深く、繊細で大胆な捉え方をする監督です。以前から数年に渡って交流があり、“Kanata”を提供したドラマも、彼の紹介がきっかけでした。ただ今回は、日本の部落問題と差別という、とても繊細なテーマを持つ映画の音楽制作という依頼だったので、メンバーにご家族を含めて、この映画の音楽をやってよいものか確認をしてもらったんですが、みんな“この問題をしっかりと伝えていくべきだ”と言ってくれたので、バンドとして制作することにしました。仮編集の映像を見た時、部落問題というのは、本人の意思とはまったく無関係に、生まれながらにして脈々と血の中に流れているのだと感じました。それで“動脈”という曲からスタートし“これがもし自分だったら”“自分がこんな扱いを受けたら”という視点で、1曲ずつ書いていきました。最後に書いたのが、本来人間がそれぞれ持っているべき居場所が、差別を受けているすべての人に与えられることを願った“The Place”という曲です。この映画は歴史ある2022年の『キネマ旬報』で、最優秀ドキュメンタリー映画に選ばれました」


――前作『Pilgrimage of the Soul』では、バンドの20年の軌跡を辿る内容のアルバムでしたよね。バンドとして、ある種ひとつの区切りをつけることにもなったと思います。そこからの新作『OATH』は、大切な人への想いや、日々当たり前だと思っていることへの感謝という、これまでとはテーマも違う作品となりましたし、やはり制作に取り掛かる際は、心機一転というか、それまでとは違う気持ちや感覚だったのでしょうか?
「パンデミックによって、それまでの日常が突然消え、父をはじめ、大切な友人たちを亡くしましたし、明日のことさえわからない日々の中、人生は有限であると感じ、数えきれないほどの自問自答をしました。春に曲を書き初めて、夏、秋、冬…と一年を通じて、その時に感じたことを曲にしていき、冬が終わり、新しい春がまた訪れた時に、これまで当たり前に思ってきたことも、実は当たり前ではなかったと気付いたんです。今日という日がある喜び、今日という日がいかに大切で重要なことか、今この瞬間を生きる喜び、亡くなった人たちへの想い、そして自分の魂の声を聞き、人生の限られた時間を、自らの足で無限の大地を走り抜けるという決意を表現するアルバムになりました」


――前々作『Nowhere Now Here』(2019年)は、Dahm(ダーム/ds)さんが加入する前に曲作りがほぼ終わっていた状態でしたよね。そして前作はDahmさんのドラムをイメージしつつ、それまでやったことのないビートやエレクトロニクスを取り入れることで、バンドの表現の幅が大きく広がったとのことでした。そのDahmさんが加入してもう6年になりますが、今回の曲作りのやり方などに変化はありましたか?
「思い返してみると、昔は“これをしなければいけない”“こうするべきだ”など、たくさんのエゴのようなものがあったと感じます。今はバンド活動が本当に楽しいです。『OATH』はこれまで僕たちがリリースした、どのアルバムとも違う世界だと思います。これまで僕たちが表現してきた怒りや暗闇、絶望、悲しみといった感情がまったくありません。自分が持っていないものや、理不尽なことに対しての不満ではなく、既に自分たちに与えられている豊かさにフォーカスしたアルバムになりました。太陽の温かさ、自然の恵み、平和、家族や仲間の存在…水道の蛇口をひねれば、いつだって綺麗な水が飲めることひとつとっても、どれだけ自分たちが恵まれているかが理解できます。個人的にこのアルバムを聴くと、魂が浄化される気がします。人生には色々あるけれども、ポジティブな側面に意識を向ければ、可能性は無限にあると感じられます」


――でも怒りのような負の感情を音にするのは、暴力的なノイズだったり重くて暗い音だったりで、ある程度表現しやすいし、聞き手にも伝わりやすい部分があると思います。感謝という気持ちを、歌詞なしで音だけで表現するのは、難しいことではありませんでしたか?
「合っているかはわからないですが、今作は“歓喜のノイズ”という表現が一番しっくりきます。ノイズは叫びだけれど、怒りや悲しみ以外のものもあるはずで、生命の喜び、力を合わせて問題を解決するエネルギー、ポジティブな光のようなものを表現したいと思いました。繰り返すようですが、パンデミックがなくて、以前のようにずっと絶え間なくツアー生活を続けていたら、こんな感覚にはなれなかったと思います。他人と自分を比べてしまう競争社会ではなく、誰もがそれぞれ違う個性を持って、自分らしく生きてよいと強く感じさせてくれました。有限の人生を、周りに惑わされず、自分らしく、そして愛し合い、助け合い、互いにリスペクトしながら、自分を表現し、自分の夢を追い続けることがいかに大切で、素晴らしいかということがわかった気がしています」


――『OATH』の冒頭3曲、“Us, Then”~“Oath”~“Then, Us”はひとつの曲のようにつながっているだけでなく、タイトルの付け方も示唆的と思いました。特に“Us, Then”と“Then, Us”は言葉を入れ替えることで、それぞれ違う意味を持たせていると思うのですが、何が込められているのか、教えてもらえますか?
「このアイデアは、僕たちが所属しているアメリカの Temporary Residence のオーナー、ジェレミー・ディヴァインからもらいました。ジェレミーは僕たちの音楽の最大の理解者であり、最高のパートナーです。20 年以上に渡って共に MONO というバンドを作ってきたと言っても過言ではありません。このタイトルは、パンデミック時と以後における精神の変化を表現したものです。“パンデミック時の私たち”、“誓い”、“その後の私たち”という変化です」


――アルバムタイトルの『OATH』は、日本語では「誓い」という意味ですよね。Takaさんの発言のなかに「誰もが誓いを持って生まれてきた」と、自分が生まれてきた意味を求めること、自分らしくあることについての言及があります。同時に誓いというのは、なにかのきっかけで自ら立てるものでもあると思います。Takaさんのなかで、このアルバム制作にまつわる出来事を踏まえて、何か新しい誓いや指標が見つかった、などはありますか?
「この忙しい情報と競争社会の中で、多くの人が常に他者と自分を比較しながら生きていかなければならず、本来の自分と向き合わないまま、気付けば息をするのも苦しいほどの気持ちになっているのではないでしょうか。またある年齢から、人は自然と自分に言い訳をして、幼い頃から持っていた純粋さと自分の夢を失ってしまうのだと思います。このアルバムが、自分の心と向き合い、魂の言葉を聞く手助けになればと願っています。何度も言いますが、人生は有限であり、明日のことさえわかりません。肉体が死んでも、天国に持っていけるものは、地位やお金、家、車などではなく、どう生きたか、他者に何を与えられたかという誇りだけです。そのことに気付いたから、自分らしく生きることの大切さを表現したいと思いました」


――スティーヴ・アルビニとのエピソードについては、他のインタビューでも語られていますよね。加えて過去のTakaさんのインタビューを見直してみると、彼と組むのを一度やめた『For My Parents』(2012年)以降、『Rays of Darkness』、『The Last Dawn』(ともに2014年)のあたりはスランプに陥ったり、そこからどうにか這い上がろうと苦心していたりと、とてもきつい時期だったように見えます。そういった意味でも、スティーヴ・アルビニの存在は大きかったのではと思うのですが、当時彼と組まなかった理由、そしてまたいっしょにやることになったきっかけを、改めて教えていただいてもいいでしょうか?
「バンドの10周年記念の時に、Wordless Music OrchestraというNYのオーケストラとNYでのコンサートで共演したのですが、アルバム『For My Parents』でも彼らを呼んでレコーディングしたいというアイデアが浮かびました。当時NY近郊にレニークラヴィッツのエンジニアのヘンリー・ハッシュという方が教会をベースにしたレコーディングスタジオを持っていたので、彼と録音することにしたのが環境を変えた理由です(NYのオーケストラプレイヤー25人を、シカゴに呼ぶのは非現実的だったので)。その後はアメリカの友人がペンシルバニアに自分でスタジオを建てたので、そこで『Rays of Darkness』と『The Last Dawn』を録音しました。ただいつもどこか頭の片隅に“スティーヴ・アルビニだったらどういう音になっていたんだろう”という疑問というか、思いが常にありました。そんな中、スティーヴさんから突然連絡がきて“もし良かったら、日本とアメリカでShellacと共にツアーをやらないか?”というオファーをもらいました。久しぶりにお会いして、共に時間を過ごして、ここ数年感じられなかった(失っていた)コアなロック魂的なものに再び火がつきました。当時僕たちは、意識的にも、無意識的にもクラシカルミュージックに傾倒していたからです。世界にないオリジナリティを求めるがゆえに、深い深い、落とし穴に落ちて極度のスランプ状態になっていました」


――MONOは今年で結成25周年になります。以前、バンドの20周年は何年も前から意識していたとお話されていましたが、25周年というのは、Takaさんのなかでどのような意味合いがありましたか?
「MONO結成当初から、MY BLOODY VALENTINEのような美しいノイズギターと、エンニオ・モリコーネのようなシネマティックな世界を融合させた新しい音楽を創りたいと考えてきましたが『OATH』はバンド結成25周年を記念した作品にしようと最初から考えていました。2003年に初めてスティーヴさんにシカゴのヴァイオリンやチェロ、ホーンプレイヤーなどの素晴らしいクラシカルプレイヤーを紹介してもらって以来、その輪は広がり、常にリスペクトし合える仲間たちとアルバムを何枚も作ってきたので、今回は彼らを交えたアルバムを作り、オーケストラを入れたワールドツアーを行うのを前提で曲を書きました」


――「MONOを80歳までやって解散する」と決めているそうですね。結成当初と現在、これからに向けてで、MONOというバンドへの思い入れはどんな変化がありましたか?
「結成当時は自分のバンドだけで生きていく、生活していくというのが最大のテーマだったと思います。もちろんビジネスはビジネスとして重要な側面もありますが、それ以前に自分の信じる表現、アートは絶対に妥協できないという強い決意があったんです。10周年、20周年、そして25周年をこうやって迎えられるのは、これまで出会った世界中のパートナーとファンの人たちのおかげだと、本当に強く感じています。そして何よりもTamaki(b,piano)、Yoda(g)、Dahmの助けがあってのものです。みんなには心から感謝しています」


――TakaさんはMONO結成以前から、長くプロとして音楽活動をしてきましたよね。音楽に限らず長きにわたってクリエイティブな活動をしている人の中には、新鮮な感覚を失い、創作ができなくなってしまうケースも見受けられます。Takaさんは例えば音楽に限らず新しいものに触れるなど、創作を続けるために何か積極的にインプットすることは意識していますか?
「人生は選択の連続です。僕は19歳の頃からプロとして活動する機会をもらって、日本の音楽業界に絶望し、海外に出て25年経ちますが、数え切れないほどの失敗と挫折、チャレンジをして今があります。そういう意味において、当時は分からなかったけども、人生におけるすべての出来事に意味があるのだと、今ははっきりと感じています。そういったすべての経験が、全部曲の中に入っていると思うので。『OATH』の中に“Run On”という曲がありますが“走り続ける”という意思そのものが、常にインスピレーションの源だと感じます」


――11月20日には、東京でオーケストラを迎えたライヴが予定されています。日本ではこれまでN響、The Holy Ground Orchestraとのライヴを行っており、今回はおーけすとら・ぴとれ座と共演予定です。素人考えだと、同じオーケストラの人たちと組んだ方がコミュニケーションも簡単だし、曲の理解度を深められると思うのですが、毎回違うオーケストラと組む理由や、オーケストラを選ぶ基準があれば教えてください。
「今回、ヨーロッパでは、オーケストラの方々と同じバスに乗ってツアーをして、アジアとアメリカでは各国、各都市のオーケストラの方と共演予定です。その全ツアー日程で、いつもアルバムのレコーディングに参加してくれているシカゴのトランペットプレイヤーのチャド・マカローに、オーケストラのコンサートマスターとして帯同してもらいます。演奏面においての問題はありません。ただ僕にとって、それぞれの国のオーケストラの方々との共演はとてもスペシャルなことです。人種や国籍、文化や言葉を超えた人たちと力を合わせて、助け合い、尊敬し合いながら、この世界の美しさ、人生の尊さをともに表現するのは、とても意味のあることだと感じます。人は決して一人では生きていけないものですから」


――オーケストラと共演するライヴは、バンドにとって節目や記念となる特別なタイミングで行ってきましたよね。たしかにオーケストラといっしょだと、音源本来のサウンドにより近いものが表現できると思うのですが、そうした表面的なこと以外に、作曲者であるTakaさんの中で、通常の4人編成でやる場合とオーケストラを迎えてやる場合と、どのような違いがありますか?
「『OATH』では、遠くで聞こえる声や合唱のようなものが、常に聴こえてきます。これは音楽的には、様々な楽器の周波数が混じり合って生まれる倍音によるものなのですが、無意識にこの合唱のようなものが聞こえるように作曲をしていたんだと再確認しました。そしてふと、その合唱は村上春樹さんの『風の歌を聴け』のようなもので、これこそが幼い頃から変わらない自分の魂の声だと感じました。11月に東京で行うオーケストラとのコンサートでは、ぜひそれを感じてほしいと思っています」


――25周年に、日本で行われるオーケストラとのライヴになります。記念になるものとして、どんな内容になるのか含めて、ぜひ意気込みを教えてください。
「11 月の東京、大阪公演は、日本での 25 周年公演をどうしようかと悩んでいたときに、偶然出会うことができた SELEBRO Inc.の田口隼人さんのおかげで実現することができました。ファンの方々をはじめ、いつもたくさんの人に支えられて、こうして活動することができています。また共演していただくおーけすとら・ぴとれ座の協力はもちろん、みなさんのサポートに心から感謝しています。音楽でこの気持ちを伝えられるような素晴らしいコンサートにしたいと思っています。11 月にお会いできることを願っています!」

<Live Information>

MONO 25th Anniversary “OATH” Japan Tour

11/20(水)東京 Spotify O-EAST (feat. おーけすとら・ぴとれ座)
11/22(金)大阪 Yogibo HOLY MOUNTAIN

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