国産インストゥルメンタル/ポスト・ロックにおける頂点MONO。結成以来のメンバーチェンジや音楽以外での様々なトラブルを乗り越えた前作『Nowhere Now Here』(2019年)で、見事に殻を破ってみせた彼らだが、新作『Pilgrimage of the Soul』で、またその次のレベルへと到達。バンドの歴史を巡礼(Pilgrimage)になぞらえて描きつつ、前作での挑戦や新しい要素、以前の彼ららしさを調停した作品に仕上がった。パンデミックによる制作環境への不安こそあったものの「バンドは完全に生まれ変わった」という言葉を証明するかのように、バンドの充実が雄弁にアピールされている。前作に引き続き、今回もリーダーであるTakaakira ‘Taka’ Gotoにインタビューを実施。何度か「今後が楽しみだよ」と言っている通り、結成から22年を迎え、これまで以上にやる気だ。
Interview by MOCHI
Special thanks : OGINO DESIGN
――ある程度ワクチンの接種も進み、少しずつ状況が変わってきているとはいえ、今も世界中がコロナ禍のなかにいます。ここ2年、MONOのメンバー、周囲の人たちの体調等は大丈夫でしたか?
「みんな元気にやっているよ。バンドとしての士気も、まったく落ちていない。もちろん、誰もが感じたようにパンデミックのなかで、まるで時間が切り取られ、すべてが止まったように感じた時期があったし、先の見えない状況に戸惑った。けれども、すぐに頭を切り替えて、今自分たちがやるべきこと、今だからこそできることに着目したよ。改めて僕たちは音楽が好きなんだと感じたし、腰を据えてより良い曲を作るための実験と学びの時間にもできるとも思った。家族とゆっくり過ごす時間も、やっとできたしね。これまで20年間走り続けて気付きにくかったこと…人生は限りある時間だから、すべての瞬間、瞬間を意識的に大切にしていこうと再認識した。この気持ちは新しいアルバムの終盤に収録されている”And Eternity In An Hour”という曲にも入っているんだ」
――MONOの2020年のライヴは、3月のオーストラリアとニュージーランドでの10本に満たない短いツアーのみでしたね。通常の活動ができないなか、多くのバンドやイベントが観客を入れず、配信のみでのライヴを開催していましたが、そういった選択肢は、MONOの中にはありませんでしたか?
「バンド結成20周年を迎えた2019年1月に、前作『Nowhere Now Here』をリリースしてから、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、ロンドンでオーケストラとの20周年記念ライヴを含む長期ワールドツアーをやってきた。2020年のオーストラリアとニュージーランドは、そのツアーの最後の場所だったんだ。僕たちが無事にすべてのスケジュールを終えて日本に帰国した直後に、コロナでほとんどの国への入国が禁止されたから、とても幸運に感じたよ。でもたしかにパンデミックのなか、多くのアーティストが配信ライヴをやるようになったけれども、僕たちはあまり関心がなかった。ドラムのDahmがアメリカに住んでいることもあるし、僕たちのようなラウドなバンドは配信に向かないとも思ったし。何より無観客でライヴをやる気にはどうしてもなれなかったんだよね」
――前作の後、2019年にA.A.WilliamsとコラボEP『Exit in Darkness』を制作しましたね。これまでenvyの深川哲也さんの参加や、前作でのTamaki(b,key)さんのヴォーカル導入があったものの、外部からヴォーカリストを迎えて、共同名義での制作は初めてでしたが、このコラボの経緯と、制作の感想を教えてください。
「AAWのことは、ヨーロッパツアーのブッキングエージェントに紹介されて初めて知ったんだけど、初めて彼女の歌声を聴いたときに、その世界にすぐに惹き込まれた。そして漠然とだけど、彼女と何かを一緒に作れたら何か特別なものができると感じたんだ。実際に初めて彼女に会ったのは、2019年にオランダのRoadburn Festivalに出演したときだった。この日の僕らはイギリスのチェロ奏者ジョー・クウェイルのカルテットとの共演だったんだけど、AAWが、そのひとりとしてチェロを弾いてくれてね。そのときに楽屋で、何か一緒に作品を作りたいとは伝えたと思う。その後、お互いツアーの合間を縫って、半年間かけてメールを通じてコラボレーションし、最終的にロンドンで一緒にレコーディングしたんだ。とてもアーティスティックで、素晴らしいコラボレーションだった。今回は時間の都合で2曲しか仕上がらなかったけれど、いつかはフルアルバムを作れたら良いなと思っているよ」
――同じく2019年に、スティーブ・アルビニのElectrical Audioでスタジオライヴを行い『Before The Past』としてリリースしましたね。ここでは1stと2ndの曲のみが演奏されていましたが、どのような意図が?
「2019年のツアーは20周年記念ということもあって、新旧合わせたセットを演奏しようと考えていた。TamakiとYoda(g)に意見を聞いたら、僕たち曲のなかで最もヘヴィな“Com(?)”か“Requiem For Hell”のどちらかをDahmとともに演奏したいという意見が出たんだ。それで実際にスタジオでDahmと一緒に“Com(?)”を演奏してみたら、想像していた以上のエネルギーが生まれたよ。とても良い手応えがあったから、それをアメリカのレーベルTemporary Residenceのジェレミー・ディヴァインに聞かせたら、20周年記念ツアー前に、他の初期の2曲と合わせて『Before the Past(過去になる前に)』というタイトルでリリースする案が浮かんだ。同じ年の12月に、ロンドンでオーケストラと行ったライヴとそれを収録したアルバムのタイトルが『Beyond The Past (過去を超えて)』に決まっていたから、それに合わせたアイデアでもあったんだ。実際のレコーディングは、春のヨーロッパの後、アメリカツアーが開始する前日に1日だけシカゴのElectrical Audioに行ってセッティングして、そのままスタジオライヴを収録した。さすがに時間がなくて、ミックスはジェレミーに立ち会ってもらって、ツアー中に音源を送ってもらったけどね。とにかく忙しくて、充実した日々だったよ」
――新作『Pilgrimage of the Soul』の作風は、前作で得たことを踏襲しつつ、『Hymn To The Immortal Wind』(2009年)までのMONOのスタイルも盛り込まれているように感じました。前作の前にメンバーチェンジでバンドが生まれ変わったこと、その上で過去を見直すことで、新作への方向性やバンドのビジョンが見えてきた部分があるのではないでしょうか?
「前作レコーディング前のDahm加入と長期のツアーを経て、バンドは完全に生まれ変わった。これまでで一番納得のいくライヴをやれているという感覚もあったし、バンドとして最も良い時期を迎えることができたんだ。Dahmのドラムは、まるで宇宙からのギフトのようだった。新作はDahmが加入してから初めて書いたアルバムだけど、彼のドラムをイメージしながら、とても自由な気持ちで曲を書くことができたよ。以前とはまったく違うアプローチで、例えばこれまでやった事のないビートやエレクトロニクスを取り入れても、僕たちらしいサウンドが出せたと感じている。バンドの表現の幅が大きく広がったし、この先もまだまだ変化し続けると思う。とても楽しみだよ」
――新作は2020年の夏に、やはりスティーブ・アルビニとともにレコーディングをしたそうですね。ただパンデミックという通常とは違う状況の中でのレコーディングに、困難はありませんでしたか?逆にこういった状況だからこそ、気心の知れたアルビニの存在は欠かせなかったということでしょうか?
「当時アメリカに入国できるのか色々と調べたけれども、外務省を含めて誰一人、明確に答えられる人がいない状況だった。周りの人たちでも、今はやめておいた方が良いという意見が多かったんだけど、僕たちはそんなに深刻には考えていなかった。入国できればラッキー、ダメならレコーディングを延期すれば良いと、わりと楽観的に考えていたよ。ただパンデミックが始まる前に曲は書き上げていたし、20周年ツアーを成功させたことで、バンドのモチベーションはすごく高かったから、可能であればこのタイミングでレコーディングしたいという強い思いはあったね。それに、スティーブとともにレコーディングする以外の選択肢は、僕たちにはなかった、スティーブはもちろん、テープを使用したフルアナログレコーディングができる、世界でも有数のクオリティのスタジオだし、長年アルバムに参加してもらってきたストリングスや管楽器のプレイヤーたちも、みんなシカゴの人たちだからね。最終的には、Dahmとリモートでやり取りしつつ3人で東京で練習をしてから、シカゴに入った。それでスティーブのスタジオでDahmといっしょに数日練習後、レコーディングをしたよ。色んな心配はあったけれども、すべての作業をスムーズに、予定通り終えることができて良かった。世界がどうなるか誰もわからない状況の中で、アルバム制作だけが未来への希望だったからね」
――前作は、それまでバンドを取り巻いていたネガティブな物事に対する反抗が反映されていましたよね。今回のアルバムタイトル『Pilgrimage of the Soul』は、日本語に直訳すると「魂の巡礼」となりますが、どんな意味が込められているんでしょうか?
「新作は、僕たちの20年間の旅を描いたものなんだ。2019年、長く続いたワールドツアー最終日に、ロンドンで20周年記念のライヴを終えた夜、まだ興奮していたせいか、ホテルの部屋に帰ってからもなかなか寝付くことができなかった。そのときふと、これまでの20年間が走馬灯のように浮かんできた。そしてこの日、無我夢中で走り続けてきた僕たちのひとつの旅が終わったと感じた。それをまるで巡礼のようだったと感じたんだ、パウロ・コエーリョの『アルケミスト – 夢を旅した少年』の主人公のようにね。それで、次のアルバムは僕たちの20年間を描いてみようと思った。僕たちはいつも流れに逆らって泳ぐことで強くなってきたし、どんな人生を夢見るかは自分で決めることで、何よりも大切で価値のあることだと思ってきた。これまでのように心の奥底にある怒りや、先の見えない暗闇を表現するのではなくて、この20年間の旅を通じての、世界とすべてに対する愛と、感謝の気持ちを表現したいと思ったんだ」
――人の顔を模した地球と月が向かい合うアートワークについて、どのようなコンセプトがあるんでしょうか?
「現在の自分と、未来の自分との対話がテーマだよ。バンドを結成したときから、ずっと部屋のバルコニーから、月を見ながら自分が望む未来を想像してきたんだ。今作も前回同様、PINK FLOYD等のカヴァーを手がけているエジプトのアハメッド・エマッド・エルディン というアーティストによるものだよ。レコーディングのためにシカゴに到着した夜に、アハメッドがこのアートワークを、インスタグラムにポストしたんだ。それを見た瞬間、すぐに彼に“これを次のアルバムのカヴァーに使いたい”って連絡をしたよ」
――アルバム終盤に配置された“Hold Infinity in the Palm of Your Hand”は、今作のハイライトのひとつだと感じました。主題のメロディを繰り返しつつ膨れ上がっていく、これまでのMONOの魅力がすべて詰まった曲だと思います。
「“Hold Infinity in the Palm of Your Hand”は、旅の最後の終着地点に向かう様子を描いたものなんだ。様々な試練を乗り越え、諦めずに、自分たちが夢見て、想像してきた場所へ辿り着く瞬間を表現したかった。僕たちは20年をかけてNowhere (どこにもない)から、ついにNow Here (今ここに)という感情を持つことができたからね」
――MONOを始めたとき、「ロックとクラシック音楽、それぞれの持つエネルギーを融合させたい」という思いがありましたよね。ご自分のやっていることに悩むこともあったかと思いますが、活動歴が20年を越え、新メンバーを迎え入れて2枚目のアルバムを作った今も、結成当初の思いは今も変わりませんか?当時から変化したことや、新たに加わったことがあれば教えてください。
「影響を受けてきたベートーヴェンやエンニオ・モリコーネのようなクラシカルミュージックと、MY BLOODY VALENTINEのような美しいギターノイズを融合した、自分たちなりのスタイルを見つけることに、とても長い歳月を費やしてきたと感じるよ、まるで火と水を合わせるような感覚だった。単純に曲の中にゲストでオーケストラを入れたようなものではなく、それ自体が新しいひとつのサウンド、もしくはジャンルになるようなものを見つけたいと思ってきたんだ。今は、何をやっても世界のどこにもない、自分たちならではのサウンドというものを手に入れたと感じている。これまで書いてきた作品に当然自負もあるし、納得もしているけれども、もっともっと音楽を追求したい、より良い曲を書きたいという気持ちは、若い頃と何ひとつ変わっていないんだ。常に進化し続けたいと思っているし、いつだって、これまで聴いたことのないような、斬新で、ユニークでオリジナルなサウンドを目指している。今後がとても楽しみだよ」
――2022年は2月のノルウェーを皮切りに、すでに夏までツアーが組まれていますよね。2021年はライヴがなかったので久しぶりとなりますが、バンドのコンディションや意気込みを教えてください。
「改めて、パンデミック前に20周年記念のワールドツアーを最後までできたこと、そして何よりサポートしてくれている世界中のパートナーとファンのみんなに、心から感謝しているんだ。今は、次の新しい旅の準備をしているよ。早く世界が正常で安全な場所に戻って、またファンの人たちとライヴを通じて音楽をシェアするのが待ちきれないよ!」
<アルバム情報>
Temporary Residence Ltd. / Pelagic Records / New Noise
01. Riptide
02. Imperfect Things
03. Heaven in a Wild Flower
04. To See a World
05. Innocence
06. The Auguries
07. Hold Infinity in the Palm of Your Hand
08. And Eternity in an Hour
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