LIVEAGE A.D.的視点で考えるKORN対談 -後編-

ニューメタルのオリジネイターとして親玉、KORNを再考する対談、後編です。前編はこちらから

前編では、突然変異的にシーンに登場したKORNの歴史とともに、どんなバンドなのかを改めて見直しましたが、後編ではその存在感と影響力の大きさを語ります。けっこう重要な話も出てくるので、ぜひ文中で登場したバンドたちもチェックしてみてください。参加者は前回に引き続き、以下の通り。

Kyohei:arbusおよびcatrinaのヴォーカル担当。GLASSJAWのダリル・パルンボ(vo)とスニーカーをこよなく愛する男。2020年のDEFTONES、2021年のニューメタルにも参加し、もはや対談常連。

Fujita:同じくarbusのギター担当。90年代メロディアスハードとTK、ニューメタルをこよなく愛する。メロハーバンドMottleでも活動中。Twitterハッシュタグ#Numetalあるあるの創始者。

Matsuno:東京発メタルコア、PROMPTSのギターおよびリーダー。2021年にアメリカのModern Empire Musicと契約。ニューメタルTシャツコレクター。

MOCHI:年に2回くらい7弦ギターが欲しくなるが、踏み出せずにいるLIVEAGE A.D.中の人。

MOCHI「前編は、KORNに迷走期こそあったけど、制作やリリースのペースは落ちなかったという話で終わりました。今思っても、2、3年の1枚はアルバムを出して、ちゃんとツアーもやっていたからこそ、みんながKORNを忘れてなかったんじゃないかと思います」

Matsuno「本当に多作だよね。自分たちのアルバムのほかにも、『SPAWN』(97年)とか『END OF DAYS』(99年)、『QUEEN OF THE DAMED』(2002年:ジョナサン・デイヴィス/voのみ)のサントラにも参加しているし。あの頃はサントラやコンピレーションで新しいバンドを知ることも多かったな」

Kyohei「たしかにイベントとかアパレルブランドとかとコラボしたコンピレーションがあったし、レーベルもいっぱいサンプラーCDを出していたよね。それで気になったバンドのCDを、片っ端から買うみたいな」

MOCHI「僕らがそういうのを受けていた最後の世代かもしれないですね。メタルコアの第一世代くらいまでは、いろんなバンドの音源が入ったコンピレーションから掘り下げる文化があったけど」

Fujita「映画のサントラからヒットを飛ばすバンドも多かったですね。EVANESCENCEなんかも『DAREDEVIL』(2003年)の“Bring Me To Life”で一気に売れたし。そこからmyspaceが登場して、今のストリーミングの時代につながってきている感じがします」

MOCHI「KORNはオリジナル編成が崩れて以降は長く迷走していたけど、この時代の変化によくついて来られましたよね(笑)。でもみんな新作の『REQUIEM』はどう思います?」

Kyohei「それまでのアルバムに比べて、新作はすんなり入ってきた。“あれ?”って思ったくらい。これまでの集大成っていう感じもするね」

MOCHI「個人的に、ヘッド(g)が復帰した2作目の『THE SERENITY OF SUFFERING』(2016年)が、KORNで一番好きなんですよ。復帰作の『THE PARADIGM SHIFT』(2013年)は、まだそれまでの作風に引っ張られている感じがするけど、ここで一気にヘヴィな作風に戻ってきたし、その後の『THE NOTHING』(2019年)も新作も近い路線だから、バンドとしても焦点が定まったように思えるんです」

Fujita「新作、いいですよね。ギターが二人でブラッシングの掛け合いとかしていて、“今それかよ”って感じでめっちゃ面白いです(笑)。90年代丸出しのテクニックで聴かせるってすごいと思いますね」

Matsuno「俺も新作は結構好きだし、その前も好き。ちゃんとヘヴィだし、ヘッドが戻ってからはまた聴けるようになったかな。わりとメタルコアの影響を受けた感じがしますよね。ヘッドがKORNを抜けている間に始めたLOVE AND DEATHもかっこいいし。あれもモダンで、VOLUMESとかPLOT IN YOUとかにも通じる部分がある気がする」

Fujita「LOVE AND DEATH、歌ものとして聴いてもいいんですよね。ポストグランジと言えるかわからないけど、ザラついた感じのギターと、メロディックなヴォーカルが際立っていて」

MOCHI「たしかにLOVE AND DEATHはわかりやすいし、かっこいいよね。むしろこの要素を、ヘッドが復帰したときにKORNに持ち込んだのかなって感じがする。少し前からリバイバルというか、ニューメタルの要素を取り入れたニューメタルコアっていうスタイルのバンドも増えてきたし。MatsunoはPROMPTSで海外と絡みも多いから、そういう空気は間近で感じてきたんじゃない?」

Matsuno「KORN直系と言えるかは微妙だけど、当時WIDOWって名前で活動していたDARKE COMPLEXっていうバンドとかSYLARが、かなり早くからやっていたイメージがあるかも。ほかにはYüTH FOREVERやGIFT GIVERなんかが、ニューメタルを取り入れるのが早かったはず。当初はたしか一部の狂ったオタクしか喜んでいなかったはずだし、こんなに広がるムーブメントだとは誰も思っていなかった(笑)。それがEMMUREとかATTILAとか、今や重鎮感あるメタルコアのバンドたちへの源流作った感じもあるんじゃないかと思っています。さらに最近だと、GIDEONの『OUT OF COLTROL』(2019年)ってアルバムとかも、かなりニューメタルに接近した音になっていたり、WAGE WAR、CANE HILL、OCEAN GROVEなどなど人気のあるバンドもたくさん出てきていますね。そのへんのバンドを通ってから改めてKORNを聴くと、やっぱりかっこいいってなった。あと最近のバンドだと、PURITYってバンドにかなり喰らいました。ヴォーカルの顔に、DEFTONESの『WHITE PONY』(2000年)のタトゥーが入っていて(笑)」

Kyohei「PURITYはたしかにやばいよね。昔のCOAL CHAMBERなんかを思い出させるルックスで、MVでFamily Values TourのVHSとかポスターも出てくるし」

Matsuno「あと、CODE ORANGEの新曲(Out For Blood)が、なんの違和感もなく、完全にPOWERMAN 5000になっているんだよね(笑)」

Fujita「マイク・ポートノイ(元DREAM THEATER/ds)の息子がやっているTALLAHなんかも、ニューメタルコアの流れですよね」

MOCHI「TALLAHのヴォーカルが、めちゃめちゃジョナサンの歌い方を参考にしているよね。ようやくこういう奴が出てきたかって思った。そういう機運に加えて、作品を出し続けたKORNと、同世代のDEFTONESもやり続けているから、親玉がちゃんといてくれたというのも、リバイバルを後押ししているだろうね。そうやってKORNに影響を受けたニューメタルコアに、またKORNが影響された部分はありそう」

Fujita「去年出たLIMP BIZKITの新作もけっこうよかったし、それもあったんじゃないですかね。リバイバルに加えて往年のバンドも頑張っているから、ニューメタルがまた盛り上がっているんだなって思います」

Kyohei「だからこそ、KORNの新作がすんなり聴けたんじゃないかな。新しい世代のバンドも懐かしい空気の音を出しているけど、むしろ時代が回って新しい感覚でやっているのかもしれないし」

MOCHI「そう考えると、意図してかはわからないけど、KORNはうまいこと波に乗りましたね。ヘッドが復帰して、ツインギターでヘヴィな音をまた出せるようになったのも、ちょうどよかったのかも。『THE SERENITY OF SUFFERING』以降は、スピード感があってライヴ映えする曲が多いし」

Fujita「たしかに、バンド編成でちゃんとかっこいい曲をやっているのはありますよね」

MOCHI「バンドとして、あんまりパフォーマンスも衰えてないし、現役感はちゃんとありますよね。ジョナサンも前より動けないとか、高音がキツそうとかはあっても、昔に比べて全然歌えてないとかはないし」

Kyohei「アルバムを聴くと、前ほど多彩な歌い方はしていないけどね。堂々としているけど、やっぱりある程度落ち着いてしまっているんだと思う」

MOCHI「インタビューを見ると、『THE NOTHING』はジョナサンの奥さんが亡くなった時期だったけど、新作はわりと落ち着いた精神状態だったみたいなんですよね。そういうのが出やすいタイプなのかな」

Kyohei「1stからして、情緒不安定だしね。レコーディングブースで泣きわめきながら録るって、聞いたことないし(笑)。もちろん初期衝動っていうのもあったかもしれないけど」

MOCHI「そういう意味でも、掘1stは本当に突然変異だし、時代が変わった特異点だったのはありますよね。後追いの視点でも、衝撃的な存在だったことがよくわかるというか」

Matsuno「俺たちは、ニューメタルというものがある程度確立された段階で、KORNを聴いたわけじゃないですか。でもリアルタイムで、KORNが完全に新しい存在だった状態で聴いた人からしたら、1stは相当衝撃的だっただろうね。不協和音なんかやっちゃいけないって言われるなかで、いきなりやっているし」

Kyohei「たしかに俺も、何も知らない状態で初めて『FOLLOW THE LEADER』(98年)を聴いたときは、なんていうか衝撃的過ぎて、わけが分からないってなったからね」

Matsuno「当時だったら、ALICEIN CHAINSとかHELMETとかが激しいバンドとして先にいたけど、そのあたりはグランジ寄りですからね。その辺と比べると、KORNはむしろBIOHAZARDとかのほうが近い感じはする。『JUDGMENT NIGHT』(93年)で、ヒップホップとハードコアやメタルがいっしょにやっていたりとか、ああいうの」

Kyohei「KORNの作品って生々しいというかドロドロしているというか、粘っこいよね。まとわりついてくるような感じで、ニューヨーク・ハードコアの急ぎよいバンドよりもねちっこくて。ジョナサンの陰キャなところが出ているんだろうけど」

Matsuno「KORNって、ゴシック調の曲もありますよね。暗さの表現が独特だし、よくイメージされるニューメタルとは全然違う」

Fujita「その視点だと、ヴィジュアル系とも通じてくる部分がありますよね。DIR EN GREYが2006年のFamily Values Tourにも出ていましたけど、KORNに近い暗さがあるような気がしますし」

MOCHI「前編で触れたように、KORNはヒップホップの解釈が独特だけど、ジョナサンがニューウェイブとかインダストリアルからめちゃめちゃ影響されているからね。でもKORNの単純なフォロワーは、そういう音楽を間接的にしか知らないわけで。その部分で表現力とか深みが変わってくるのかも」

Matsuno「欧米だと、やっぱり日本とはルーツ的なものが全く異なっているんだな~、と感じるときはありますね。例えばTHE CUREとかTHE SMITHとか、いろんなアーティストが影響を受けたバンドとしてやたらと名前を出すよね。日本だと知ってはいるけど…ってなりがちだけど、向こうの人は本当に好きなのがわかるし、そういうことなんじゃないかな」

Kyohei「知っていればいいみたいな、ファッション的な要素が日本ではあるかもね。やっぱりニューメタルのバンドって、KORNとDEFTONESが突出しているというか、レベルが違うように思う」

Matsuno「本人たちも、自分たちがニューメタルだっていうつもりでやっていないよね。後から勝手に言われるようになったっていうだけだし」

Kyohei「KORNは、なんだかんだいって表現がわかりやすかったんだろうね。あのジャンルのなかではキャッチーというか。全部ひっくるめて、いい意味でポップ。しっかりと耳に残るから。結局、ポップな要素がないと売れないからね。バンドとしてはポップじゃないと売れないのは間違いない。人の耳に残らない限りは…というか、売れるか売れないかの境界線って、単純にポップかどうかっていうだけの話だと思う。ポップっていうのは、大衆に受けるっていうことで、イコール人の耳に残るっていうことだし、人の耳に残って、繰り返し聴かれるっていうことが、売れるっていうことだからね。それがわかっていたところで、そうそう作れるもんではないんだけど(笑)」

MOCHI「KORNだけでなく、METALLICAしかりNIRVANAしかりNINE INCH NAILSしかり、スタートは明らかに売れようとしていない音楽だったのが天下を取ってしまうあたり、根本的な才能なのかもしれないですね。なかでも、キャリアを通して音楽性が一番変わっていったのはKORNだと思います。新作含めて、ここ最近は近い作風が続いていたから、3年以内に出るであろう次のアルバムは、またガラっと変わるかも。そういう意味でも、目が離せないバンドではありますね」

<Link>

arbus:https://twitter.com/arbusjp
catrina:https://twitter.com/catrina_tokyo
Mottle:https://twitter.com/JpMottle
PROMPTS:https://twitter.com/promptsofficial