禍々しいヘヴィネスでシーンを席捲するkokeshi、初のワンマン公演リポート!

text by 清家 咲乃
photo by SHIMAZAKI KENT

都内を拠点に、ブラック・メタルやハードコアなどのヘヴィ・ミュージックにポスト・ロックの水気を加えた、独自の音楽性を提示するバンド、kokeshi(コケシ)。彼らが2ndアルバム『冷刻』を発表したのは今年4月のこと。そのリリースに伴って敢行された「Deeply Depressed Tour 2023」のフィナーレを飾るワンマンライヴ「帝都救済Ⅲ」が、去る6月25日に吉祥寺WARPにて開催された。

本公演は彼らの初ワンマンにして、ドリンク代のみで入場できる無料ライヴ。バンドの知名度が急上昇していくなかでの発表とあって、予約は即時定員に到達。直前に発生したキャンセル分も余すことなく埋まるほどの勢いだったが、ツアーが走り始める頃はまだ、バンド自身もこうした状況は予想もつかなかったという。アルバムの評価がめざましいものであったことも手伝い、県外から足を運ぶファンも少なからずいたようだった。ツアーで各地を廻るなかで熱心なリピーターを獲得していったことも大きいのだろう。当日はスタート直前まで入場列が途切れず、フロアに踏み入れるだけでも苦心するほど。「もう一歩ずつ詰めてください」というアナウンスが繰り返されながら、ようやく開場曲であるティム・ヘッカーの『ANOYO』に導かれ、メンバーが姿を現した。

セットリストは2ndアルバムの全曲を披露しつつ、1st『憧憬』(2020年)からも4曲が織り交ぜられるという構成。ただ、アルバムごとにより分けてみると、演奏された順番はアルバム収録順とほぼ一致していた。“報いの祈り”~“わらべうた”、“The mantra doesn’t reach”~“憧憬”など、音源で並べて収録されている曲は、ライヴでもひとかたまりで披露するのが理想形とされているのではないだろうか。
また、今回はVJを含む数々のシアトリカルな演出に彩られているライヴであったため、観客・メンバー双方の盛り上がりや気持ちよさは優先されなかったとも考えられる。曲間に生まれた静寂に向かって、声援を投げかけるオーディエンスが存在しないという異様さ。ひしめきあう無音の影。サイズアウトしたフロアのドアは閉まらず、明かりの灯る外界と繋がったままなのに、誰もそのことに気付かない。

とはいえ、彼らが基盤とするハードコアの要素は、音源で聴くよりも皮膚感覚でつかまえやすいことは確かだ。例えば“系”の、ずしりとテンポを落としつつ後半にさしかかる部分などは、本来モッシュを誘発する箇所であるはず。他にも“他壊心操回路”の終盤など、ライヴで体感して初めてハードコア的なノリ方に適した部分が多いことに気付いた。もちろんそれはオリジナルメンバーの和真(ds)と亜光(g)が、ハードコアの現場でエッセンスを吸収してきたからなのだが、もうひとつの理由として、ライヴにおいては“ギター・ラインの取捨選択”がなされていることも大きい。冒頭でも触れたように、kokeshiのパーツはヘヴィ・ミュージックとポスト・ロックの静と動に大別される。しかしヘヴィなリフを弾くディストーション・ギターと、ウワモノとしてまぶされるアルペジオやクリーン・トーンのメロディの両方を、亜光ひとりで完全に再現することは叶わない。必然的にステージにおいては、常にどのフレーズを弾くかの選別が求められる。その際にヘヴィなリフを選ぶことで、ハードコアの色が強くなるのだと思う。この選択する嗅覚の鋭さが、迫力を染め出すのに生きてくる。

逆に亜光がウワモノを弾くとき、リフは純一(b)が一手に担うことになる。“彼は誰の慈雨の中で”ではフレットレスを想起させるまろやかさでうねり、“報いの祈り”ではおそらく3フィンガーで緩急を生み、要所で弦を叩くようにして、パーカッシヴに烈しさを表出させる。この日ベースの音がはっきりと聴こえていたのは、単に下手側で観ていたからではないだろう。思い返してみれば、アンサンブルに空洞が生じた場面はなかった。サウンドバランスの妙も彼らの武器だと知った。

連携してヘヴィネスを保つ弦楽器2人とは対照的に、和真の音作りはポスト・パンクのそれに近い。深いリヴァーヴをかけ、バスドラムは空間全域に響くように、スネアは鋭角に突き抜けるように。“涅槃欠損少女読経”から“kairai”へのブリッジとして設けられたドラムソロは、さながら深海に潜行するかのごとき圧迫感と心地良さがあった。和真が元々親しんでこなかったという、ブラストビートやツービートといったメタル領域の奏法も危なげなく、要所で発動される推進力として使われていた。

そういった目まぐるしく表情を変えるサウンドを乗りこなしていたのは、バンドのアイコン的存在の亡無(vo)だ。彼女のヴォーカルスタイルのバリエーションの幅広さ、そしてそれらをライヴでも再現できるというのは衝撃だ。誰もが日常的に使う発声という機能を、最も明確かつ大きな武器として観客を虜にする。グロウルをはじめとしたデスヴォイスのほか、“胎海”での耳をつんざくような金切り声。ごくまれに繰り出されるクリーン・ヴォーカルでのメロディ。なにより、終盤にさしかかっても、冷感のあるポエトリーリーディングを紡げる体力は貴重だ。kokeshiの“静”を司る部分であるだけに、やぶれかぶれに臨んでしまえば意味をなさなくなる。

また本公演では、VJを用いた演出も重要だった。色のない水面や、モノクロのインクが擦れたようなノイズがステージ全体に投影され、“他壊心操回路”や“わらべうた”では、経文を思わせる文字がびっしりと視界を占拠。“海馬に沈む”、“涅槃欠損少女読経”、“報いの祈り”の曲中では、キラーフレーズが文字として立ち現れる。映像がステージをすっぽりと覆うことで空間全体に注目させ、メンバーを背景化するVJは、異界を創出するための不可欠な装置だ。終曲“KONOYO”とともに始まったスタッフ・クレジットには、ホラー映画のエンドロール然としたものを感じずにはいられなかった。

そして“kairai”で登場した舞踏家、由佳のパフォーマンスは、この日のハイライトのひとつ。暗黒舞踏の作法で顔を白く塗り、華奢なつくりのワンピースをまとった彼女は、メンバーの間を彷徨う。ひたりと亡無にはりついたかと思えば、また引きつれて離れていく。虚空になにかを望むかのように悲愴な表情を浮かべ、最後はうずくまる亡無の上掛けをとり去って舞台を降りる。すると今度は、逆光を背負い薄手の白いブラウス姿で立ちあがった亡無のシルエットが、和紙に透けるように踊り始める。フリークスを笑覧あれと言わんばかりに、陰気に行進するインスト曲が演奏されるなか、クラシック・バレエの素養が垣間見られた一幕だった。
もう一つレアな試みとして、他シーンで活躍する歌姫であるDeepaを客演に迎えた“Into My Darkness -蝕-”が演奏された。おそらくこの日限りの実現とあって、オーディエンスもざわめく。スタンドマイクを持ちだして歌いはじめたDeepaの声は、芯がありながら儚げで、ドリーム・ポップにも似た夢見心地の空間をもたらした。彼女のメロディと亡無のポエトリーのバランスもしっかりとれていて、ここでも音の均衡が計られていた。

MCも一切なしの1時間。一種異様な雰囲気に包まれたライヴとなったが、さらに多くの人の目に触れ、kokeshiに観客が慣れたとき、どのように受容されていくのか。刻々と変貌する彼らを、ぜひとも自らの目で確かめてみてほしい。

 

<Link>

Official HP:http://www.kokeshi-jpn.com/

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bandcamp:https://kokeshicore.bandcamp.com/album/-

YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCCwdVtdPnxjgNp6XAb8Q2Rg

清家咲乃 Twitter:https://twitter.com/mawatamusick

SHIMAZAKI KENT:https://twitter.com/kent_shi_nk

<Live Schedule>

■7/3 (月) 新代田FEVER
SALT MONEY / SUPER DEATH Japan Tour
with SALT MONEY、SUPER DEATH、SANS VISAGE、MORERU
info:https://twitter.com/kokeshi_jpn/status/1673877062418042882

■7/5(水)新宿NINESPICES
WOOD OF HEART Presents GLDNxPAKKxUS:WE JAPAN TOUR 2023「玖」vol.3
with GLDN、PAKK、US:WE、PROM
info:https://twitter.com/kokeshi_jpn/status/1673878245979348992