2025年9月Disc Review!

9月頭にDARKEST HOURのインタビューをやったので、8月分レビューはお休み…というか、8月~9月にかけててよく聴いたアルバムをピックアップしました。

今年もあと3ヶ月を切りましたが、年内取材等は外部で1件ちょっと大きめのがあるほか、あともう1件相談してみたいな…があったり。まぁ後者はこれからだし、並行して年間ベストとかも考えたいですね。

というわけでいってみましょう。

■明日の叙景『Think of You』

日本のポストブラック・メタルバンドの3作目。2022年の前作『アイランド』が大きな話題を呼んだことで、もはや名前を見ない日がないのでは、と言えるまでの存在になりました。
前作が夏をモチーフにした、ノスタルジックでどこか寂寥感も覚えるような作風だったのに対し、今回は冬がモチーフ。たしかにブラックメタルといえば雪深い北欧のイメージ…と思いきや、寒々しさや冷たい酷薄さといった要素は一切なく、全編温かみと優しささえ感じさせるアルバムです。エクストリームメタル由来の刺々しいスクリームやトレモロが全編を貫きつつ、前作以上にJ-POP要素が増える&溶け込むことで、楽曲にはメタルから大きく乖離した、華やかなポップさがあふれています。J-POP要素でメタルを、メタル要素でJ-POPを、互いに強調していくような形が取られており、どちらでもあるしどちらでもない不思議な手触りです。「君が笑ってくれるなら、僕はJ-POPにもメタルにもなる。」とコピーが付けられていますが、言い得て妙というか、こちらの聴くときの気分次第でJ-POPにもメタルにもなる…という感じで、つまりいつでも聴けるんですよね。
中途半端にどこかに寄せるのではなく、各成分を混ぜたうえで突き抜けさせたうえで、9曲36分強という、決して長くはない尺にまとめ上げたのも見事。ちゃんと前作から地続きでありつつ、違うアプローチで手の内の広さを見せる手腕にはほれぼれするし、聞き手としては今後も安心して追いかけていられるバンドだと思います。

■Vision of Fatima『愛の綴化』

「京都が産んだ最大の過ち」と称されるカオティックハードコア・バンドの1st。シングルやスプリット等はリリースしていても、結成から15年にして、意外とフルアルバムは初だったりします。
メンバーがリファレンスとしてスクリーモ(メジャー、Skramz問わず)、ブラッケンド、叙情派、マスコア、パワーヴァイオレンス他といったバンドを挙げている通り、不協和音と入り組んだ構成がキモではあるものの、曲自体は整理されているし、行き届いた緻密なアレンジが感じられます。音のテンションの高さに対して、どこか冷静なんですよね。一方で近年ライヴで導入されたノイズは無遠慮に耳に刺さってくるので、キレたらなにをやらかすかわからない不気味さが強調されています。同時にメタルからの影響が薄く、敢えて低音を削ぎ落としたような音作りも特徴で、小刀を振り回すような身軽さがまた怖い。またヴォーカルはマッチョさ皆無で、喚くような嘆くような、仄暗い感情をトレース。カオティックなりマスコアなりの先達と一味も二味も違う、極端な統制と無秩序のコントラストが書かれています。
元々高い演奏力を下敷きにした狂気的なライヴ(演奏中、近くに寄るのがめちゃくちゃ怖い)に目がいきがちでしたが、こうしてアルバムでようやくどんなバンドなのかがちゃんとわかったような気も。ライヴを観たらアルバムで復習できるし、ライヴ前にアルバムで予習もできる。これを機に見られ方も変わっていくんじゃないでしょうか。

■DEFTONES『PRIVATE MUSIC』

アメリカ、カリフォルニアのニューメタル/オルタナティブメタル・バンドの10作目。前作『OHMS』の後、セルジオ・ヴェガ(b/QUICKSAND)がバンドを離れての、5年ぶりのアルバムです。
前作では初期4作を手掛けたテリー・デイトがプロデュースを担当することで、足元を見直しつつ新境地にも向かった感がありましたが、今回はバンドの評価を押し上げた『DIAMOND EYES』と『KOI NO YOKAN』をプロデュースしたニック・ラスキュリネッツとのタッグが復活。そのおかげか、明らかに分かりやすく、輪郭のハッキリしたテクスチャーになっています。全体的に曲が短めなのに加え、チノ・モレノの歌メロも起伏が激しく、言葉を選ばなければ過去最高にメロディアスでポップなアルバムです。濃密でヘヴィなのに、足取りが軽やかなんですよね。とはいえコマーシャルになったということはなく、弾いてみると単純だけどやけに耳に残るギターリフや、雰囲気を彩るプログラミング、独特の間の取り方で曲を引っ張るドラムは健在。即効性が十分ながら、曲や各パートを掘り下げる余地があるし、聴くデバイスや環境、気分、音量で印象がかなり変わりそうでもあります。ここ数年で急増したフォロワーが、いかに彼らの表面しかなぞっていないのかを知らしめる、さすがの貫禄です。
長らく同世代のKORNらに比べると地味な存在とされてきたのが、前作あたりからどういうことかTikTok等で話題を集め、いつの間にかスタジアム規模のバンドになってしまったDEFTONES。一方日本での人気は上がらずのままで来日は絶望的ですが、2025年の大物来日の波に乗ってくれないものですかね。

■LORNA SHORE『I FEEL THE EVERBLACK FESTERING WITHIN ME』

アメリカのニュージャージー出身のデスコア・バンドの5作目。ウィル・ラモス(vo)のバケモノじみたヴォーカル・パフォーマンスを中心に話題を集め、今年2月に実現した来日公演もソールドアウト(あのコピーは結局なんだったんだ)し、今やデスコアの中で最も売れているのではと言える存在になりました。
ブルータルなサウンドに、映画音楽もかくやというほどのオーケストレーションを大々的に導入したシンフォニック・デスコアといった趣きのスタイルは相変わらず。細かく精緻に刻みながら爆走したかと思えば、一気に叩き落すようなブレイクダウンに雪崩れ込む、落差の激しい曲構成と、派手で豪華なオーケストレーション、ウィルの人間離れしたヴォーカルとすべてハイレベルで、勢いを殺さず残虐さを引き立てる叙情性の混ぜ込み方も見事。ブラックメタルやプログレデス等が好きな人も弾きこめる、エクストリーム・メタル全般を統合したかのような出来栄えはさすがです。また2022年の前作は「全曲ほぼ同じでは?」という声も少なくなかった(個人的にもそう思っていました)んですが、今回は明らかに曲のバリエーションが増えています。いつになくアンセミックな曲や静かなパートも盛り込んでおり、以前よりも聴かせようというか、全体の流れや構成への気配りが見られます。まぁ言うても、同じように聴こえちゃうパートはあるので、唯一そこが弱点ですかね。
無事実現した初来日公演は行けなかったんですが、今度は大きめのイベントで来てほしいですね。今様エクストリーム・メタルの最先端として、もっと間口を広げる役目を負えるバンドだと思うし、ぜひリーダー格に君臨し続けてほしいです。

<LINK>

明日の叙景:https://x.com/asunojokei

Vision of Fatima:https://x.com/visionoffatima_

DEFTONES:https://x.com/deftones

LORNA SHORE:https://x.com/LornaShore