暑い中、規模を問わず次々来日が決まっていって、なんかもう行く本数に対して諦める本数の方が明らかに多い人も多いと思います。贅沢な悩みなんですけど、こういうときに限ってレジェンド級が来るのが悩ましかったりします。
個人的には3件くらいはチケット買ってあるんですが、たぶん告知を見ていないとかで気付かないままのもあると思うので、たぶん突発の散財が発生しそうな予感があります。
取材も年内もう少しできないかなと思案中。とりあえずレビューいってみましょう。
■WE LOST THE SEA『A SINGLE FLOWER』

オーストラリア、シドニーのポストロック/メタルバンドの5作目。活動初期はヴォーカリストも在籍していたものの、2作目リリース後に急逝してしまい、以降は完全なインストゥルメンタル・バンドとして活動しています。また2018年にLo!として来日したカール・ウィットブレッド(g)も在籍していたりもします。
初期はCULT OF LUNAやTHE OCEANにも通じるような、メタリックなリフと獰猛なスクリームで押し通る場面も多かったのが、インストに転換してからはよりサウンドのスケール感、ドラマ性を高める方向性を打ち出してきた彼ら。手触り的には『REQUIEM FOR HELL』あたりのMONOなんかが近い気がします。
今作も基本的な方法論は変わらずですが、静動の間を揺らめきながら、徐々にクライマックスに到達していく曲展開は非常になめらかで、アルバム全体を通してみなぎる緊迫感と仄暗さ、儚さは目を見張るもの。荒々しく歪んだコードを鳴らしながら、その上をクリアなアルペジオが漂っていく等、トリプルギター編成を活かした音作りも見事。とはいえTHE・ポストロックというような破壊的な轟音はほとんどなく、どんなに重厚にレイヤーが重なっていってもどこか冷静かというか、もの悲しさが募ります。細部まで丁寧に練りこまれた音は圧巻で、どこか牧歌的な締めくくりまでトータル70分という長さながら、いつの間にか終わっています。
正直手法そのものは目新しくはないし、ここ日本での知名度はかなり低い(話題に出なさすぎる)んですが、もっと評価されてもいいバンドだと思います。特に今作は思いのほか聴きやすいので、入門にもよさそう。今年のポストロックではかなり上位に入りそうなアルバムです。
■DARON MALAKIAN AND SCARS ON BROADWAY『ADDICTED TO THE VIOLENCE』

SYSTEM OF A DOWNのダロン・マラキアン(vo,g)のソロ3作目。初期は単純に「SCARS ON BROADWAY」だったのが、一時活動休止とメンバーチェンジを経て、ダロンの名前が前に出る形の名義になった経緯があります。
もともとSOADの活動がままならない中で動き出したプロジェクトであること、SOADでもギターのみならず作曲にヴォーカルにとバンドの重要な部分を多く担っていたダロンがやっているだけあって、音楽性的にはSOADの現時点で最後の『MEZMERIZE』『HYPNOTIZE』を発展させた音楽性であり、ずっと貫かれています。ただサージ・タンキアンというバケモノみたいなヴォーカリストがいないせいもあってか、露悪的で素っ頓狂な曲展開や声の掛け合いといった要素はかなりオミットされています。代わりにダロンの嗜好がかなり強く反映されている印象です。
もちろんSOADからのダロンの持ち味である、ニューメタルにワールドミュージックを取り入れたサウンドはそのままですが、トリッキーさは少なく、むしろ曲の流れそのものは(彼にしては)かなり素直。ペケペケしたフレーズ等小技は残っているものの、むしろそれが耳に残るとっかかりになっています。かつ、実はダロンがTHE BEATLESの大ファンでもあるというだけあるポップさと、中近東的なメロディが醸すサイケな雰囲気が不思議なマッチングを見せてもいたり。言葉を尽くしても説明しきれた気がしない「変」さを保ちつつ、どこか目線が優しくて聴きやすいアルバムです。
本家SOADはライヴはやっても、ここ20年でどうにか2曲をリリースしたのみで、メンバーの発言を見てもバンド内は機能不全に写るし期待できない…というのが、広く一致する意見だと思います。ダロンのこのソロもどうしてもSOADと比べられがちだったんですが、ちゃんと独立してやる意味を示されているように感じられるし、今からでもちゃんと評価されてほしいですね。
■TIDEBRINGER『I FEEL CRUSHED BY MY OWN MALICE』

去年来日も果たしたカナダのポスト・ハードコア/メタルコアバンドのEP。メンバーの写真を見るとメンバーチェンジがあったみたいですが、インタビューでも「メンバー構成の制約に縛られないようにしたい」と言っていたので、コアメンバー以外は参加できる人がその都度…といった感じでしょうか。またメンバーとしてはクレジットされていないものの、前作でもプロデュースにヴォーカルにと参加していたジョーダン・チェイス(SECRET & WHISPERほか/vo)が、引き続き全面的にバックアップしています。
昨年のアルバムではニューメタルの影響も色濃い、図太くブルータルな音と浮遊感のあるメロディを組み合わせたスタイルが持ち味でしたが、今回はニューメタル要素が減退。そのうえで、曲の流れそのものは2010年前後あたりのポスト・ハードコアに近いサウンドに先祖返りしたような印象です。とはいえブレイクダウンは標準装備されているし、音が軽くなったというわけではなく、モダンで頑強な音作りを踏襲しつつ、より浮遊感のあるメロディを磨き上げたという感じ。まだ試行錯誤の段階というか、各要素を使いこなし切れていなかったアルバムの弱点が払拭されており、正当かつ大幅なレベルアップを遂げています。トレンドではないかもしれないけれど、改めてお里が知れたというか、あるべきところに戻ってきたというか、枝葉を伸ばすための土台が固まったのでは、という気がします。
ちなみにイントロ的な1曲目以外の3曲に、オフィシャルで映像が作られていますが、これが全部昔懐かしいAMV(アニメのコラージュ)という、親日&懐古仕様。親日&オタクっぷりは相変わらずだし、色んな意味で今後に期待です。
■ABIGAIL WILLIAMS『A VOID WITHIN EXISTENCE』

アメリカのブラックメタル・プロジェクトの6枚目。以前はバンド編成だったのが、途中から正式メンバーはケン・ソーセロン(vo,g)のみになっています。2008年のデビュー作で「本当にアメリカのバンドか?」というほどの北欧式シンフォニック・ブラックメタルをかまして話題になったのを、覚えている人も多いと思います。その後メンバーを変えつつポストブラック路線に走ったりと、ブラックメタルという大枠の中にいるとはいえ、いまいち音楽性が定まり切らないイメージになってしまった部分もあったり。
そんな印象のせいか、今作も「あ、出たんだ」くらいの感覚で、なんなら前作も存在を知らなかったくらいだったんですが、どうせならと両方聴いてみたらこれが予想外の出来栄え。前作がポストブラックの匂いを残しつつ、寒々しく邪悪な、初期とは違ったドラマ性をたたえたブラックメタルだったのが、今回はよりアウレッシブに変化。前作にあったミステリアスさは後退し、ブルータルなブラストとリフでガンガン飛ばしていきます。BEHEMOTHのようなブラッケンドデス…とまでいかなくとも、デスメタル要素でビルドアップされた音は、冷たさよりも汗や筋肉のきしみを感じさせるもの。ポストブラック期は長尺曲が多かったのが、今回は(彼らにしては)わりとコンパクトにまとめられており、攻撃性を集中させているのも高ポイントです。控えめながら効果的なオーケストレーションやアルペジオを織り込んだドラマの演出力もさすがだし、クリーンヴォーカルも取り入れた最後の曲がまた泣けるんですよね。
ただまぁ、今回もまた過去作のどれとも違う作風なので、昔から知っている人ほど評価が分かれるのではとも思います。とはいえエクストリーム・メタルとして見れば完成度は相当だし、イメージを頭から外して聴けるかどうか、次第ですかね。個人的には彼らの中ではベストを争う出来。ライヴ映えしそうな曲だし、また日本に来てほしいです。
<LINK>
WE LOST THE SEA:https://www.instagram.com/welostthesea
DARON MALAKIAN AND SCARS ON BROADWAY:https://x.com/daronmalakian
TIDEBRINGER:https://x.com/TidebringerCA
ABIGAIL WILLIAMS:https://abigailwilliams.bigcartel.com/