2023年1月Disc Review!

2023年も早一か月。年々体感速度が速くなっていくって本当ですね。

今回取り上げたアルバムと同じくらい結束バンドも聴いていたんですが、話題がすごすぎたし作品について触れるにはなんか一番熱い時期を逃した感があるので見送り。2期やるのかな。

というわけで今回も月イチレビュー、いってみましょう。

■COCOBAT『DEVIL’S RONDO』

国産ハードコア/メタルバンドの新EP。単独作としては2009年の『SEARCHING FOR CHANGE』以来となるそうです。昨年夏にリリースされていたのを、やっと入手できました。
内容は2021年にリリースした7インチシングルの2曲(SABRABELLSのカヴァー含む)、2nd『STRUGGLE OF APHRODITE』から1曲再録、そしてインストの新曲を2曲で構成。COCOBATといえばスラップ・ベースを主軸にした「ザッカザカで超ブリブリ」なサウンドのイメージですが、これを聴くと、このバンドがただのハードコアやメタルでは片づけられない存在だと改めてわかります。
注目すべきは“Discipline”、“Tetrad”、“Dolphine Ear Bone”の3曲。たしかにスラッシュメタル的な切れ味の鋭さに、ムダなく引き締まったアンサンブルが光るんですが、さらりとテクニカルな小技やLED ZEPPELIN的なグルーヴを忍ばせており、バンドの力が一切緩んでいないことを思い知らせる仕上がり。特に15分に及ぶインスト“Dolphine Ear Bone”がすごい。YESやKING CRIMSONばりの緊張感と躍動感をみなぎらせながら、一気に聴かせます。もはやプログレですね。この1曲だけでも、本作を手に取る価値があります。
COCOBATって、一時はメタルやハードコア系のバンドが来日公演行えば高確率でサポートを務めていたし、メジャーからのリリースを含めて、日本のうるさい音楽の礎を築いたバンドだと思います。でもその音楽性を引き継ぐというか、ポストCOCOBAT的なバンドが出てこないのは、奥深いバックグランドと高いミュージシャンシップゆえでしょうね。
1月のライヴと本作を体感して、今一度評価を改めなければと思った次第。発売後すぐに聴いていたら年間ベスト入りでしたね。本当にすみませんでした。

■WORLD END MAN『SUFFER LEADER』

国産デスメタル・バンドの2nd。もう暴虐、凶暴、残虐、凶悪…と、物騒な言葉がいくらでも出てくる1枚です。
メンバーも強調している通り「デスメタル」であることは間違いないですが、リフのキメがハッキリしており、曲の要点も明確で、とにかくわかりやすい。どの曲も短く簡潔ですが、ハードコア由来のモッシーさも搭載しつつ、ブラストからビートダウンまで滑らかに行き来し、加速度と重量感を対比させて強調する構成の巧みさも見事です。そのブルータルなサウンドを引っ張る図太いデスヴォイスは、ヒップホップの影響も垣間見られる言葉の詰め込み方。これがまた全体のいかつさというか、治安の悪いストリート感をまた増幅させています。
とにかく甘さやクサさ、難解さを極力排除し、デスコアや極悪系のニュースクールとは似て非なるスタイルの「キャッチーなデスメタル」に仕上げるという離れ業を実現した、聞きごたえ十分のアルバムです。全編戦闘的というかケンカ腰だけど、力技では決してない。試行錯誤の末にたどり着いたことがよくわかるし、音楽的なボキャブラリーと計算能力がものすごく高いことが伝わってきます。
現編成になってからのライヴも何度か見ていますが、アルバムの万倍野蛮で、フロアにいる全員を肉片にせんとするステージを展開する彼ら。3月にはインドネシアのHAMMER SONICに出演予定です。たぶんこのアルバムとツアーで、日本のデスメタルのトップ争いを大きくリードすることになると思います。後々、シーンにおいてターニングポイントだったアルバムと見なされるかも。ぜひリアルタイムで体感しておきましょう。

■AHAB『THE CORAL TOMBS』

ドイツ産ドゥーム・デスバンドの5作目。
バンド名の通り、もともとはメルヴィルの小説『白鯨』をコンセプトにしたアルバムで話題になったバンドですね。フューネラル・ドゥームに分類されることが多く、たしかに絶望感や寂寥感を強く漂わせるサウンドですが、葬式的というよりも、荒れ狂う海を思わせる雰囲気なのはコンセプト故でしょうか。とはいえ3、4作目は『白鯨』とは関係ないコンセプトで、その後音沙汰がなかったので解散したのかと勝手に思っていましたが、8年ぶりに帰ってきました。今回は『海底2万マイル』がベースになっているようです。
いきなりブラストビートが吹き荒れる冒頭(同郷のULTHAが参加)に驚きますが、以降は長い時間をかけて、じっくりと展開していくドゥーム・メタルという基本路線を踏襲しています。これまでもアルバムを重ねるごとに歌メロの比率が増えてきていましたが、今回も雄大かつゴシック的なメロディをさらに増強。アルペジオ等まろやかなパートも適宜挟み、ドラマ性もあるので聴きやすく、7曲中4曲が10分オーバーという長尺さも気になりません(最短は6分半)。
個人的はこの手のジャンルとしては初めて触れたバンドなので思い入れがあるんですが、もっと救いのない、本物のフューネラル・ドゥームを求める人には物足りないかもしれないです。とはいえ聴きやすいバンドなので、ポストメタルとかの流れで触れるにはアリじゃないでしょうか。

■✝✝✝(CROSSES)『PERMANENT.RADIANT』

DEFTONESのチノ・モレノ(vo)と元FARのショーン・ロペス(g)のプロジェクトのEP。メインのDEFTONES以外にも複数プロジェクトを抱えているチノですが、特に活動が盛んなのはこれですね。
ニューメタルを出発点とするDEFTONES、ポストロック/シューゲイザー色の強いTEAM SLEEP、ISISのメンバーとともにポストメタルを表現したPALMSと、それぞれ方法論が違いますが、共通しているのはチノのルーツであるニューウェイヴ/トリップホップ、ゴス、シンセポップ等の影響を反映しているということ。で、そのルーツを最も色濃く表出させたのが、✝✝✝(CROSSES)です。
今回もその基本路線は同じで、チノのぬるりとウェットな歌声を軸に、打ち込みを多用したサウンドが続きます。メタルやハードコア色は一切なく、打ち込みやシンセの割合がぐっと増えたDEFTONESの『WHITE PONY』ともタッチが違うので、DEFTONESのファンはちょっとふるいにかけられる部分があるかもしれません。とはいえチノの特徴的なヴォーカルは堪能できるので、彼の声が好きだというのなら、触れてみる価値はあると思います。逆にこれが、前述のルーツの音楽に触れてみる試金石になることもあるでしょう。これに慣れれば、DEFTONESのこともより深く理解できるはずです。
なんでも✝✝✝(CROSSES)として、2023年中に新しいアルバムをリリース予定だそう。その準備にもピッタリなEPですね。

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HELLO FROM THE GUTTER(リリースレーベル)

WORLD END MAN

AHAB

✝✝✝(CROSSES)