2023年2月Disc Review!

ようやく寒さが和らいできましたが、花粉への切り替わりがエグいですね。せっかく出かけようと思っても目と鼻がすさまじくかゆい。

でも規模を問わずイベント開催も増えてきたので、薬片手に頑張ろうと思います。というわけで2月のレビューです。

■IN FLAMES『FOREGONE』

スウェーデン産メロデスバンドの14作目。いわゆるイエテボリ・スタイルを決定付けたバンドのひとつで、後進への影響力だけでなく、スタイルの変化も大きいバンドですね。
メロデス…と紹介されつつ、ここ10数年くらいはほぼオルタナ寄りのアルバムをリリースし続けて、ずっと賛否両論だったんですよね。しかし今回は先行シングルから前面に出していた通り、明らかなメロデスへの回帰が感じられます。土着のフォーク・ミュージック由来のアコースティックな音を挿入しつつ、クサ目なツインリードをキメ、スピード感のある曲も復活。ただし重要なのは「メロデスのアルバム」ではなく「メロデス要素を増やしたアルバム」という点だと思います。
というのも、歌メロはそこまでメロデスらしくないし、全体の音作りもまろやか。オルタナ要素は全体の4割くらい、ちゃんと残っています。なのでメタルコアとは違った理論で、スウェーデンらしさとアメリカ受けする音を混ぜ合わせたようなアルバムといったところでしょうか。そういう意味では名盤とされる『COME CLARITY』(2006年)的なものを目指したのかもしれないですが、メタルコアに触発された『COME CLARITY』の時と違い、今回はオルタナ作をリリースし続けてきたことが、良くも悪くも響いている印象です。
ただ、単純に曲がいいんですよね。歌をはじめ、メロディの練度は間違いなく高まっているし、細かいところまで計算/整理された隙のないアルバムです。IN FLAMES全キャリアのらしさをまとめあげているので、過去に好きなアルバムがあるなら楽しめると思います。ただここに初期ギタリストのイエスパーがいたら、メロデス時代のプロデューサーがついていたら…という気持ちも出てくるので、聴く際のマインドセットには気を付けた方がよさそうです。

■ALL OUT WAR『CELESTIAL ROT』

ニューヨークのハードコア・バンドの8作目。いわゆる極悪系のメタリック~ニュースクールのなかでも重鎮のひとつですね。
で、再生するとめちゃめちゃビックリします。とにかくブラストビートの連続で、ヒステリックなヴォーカルと相まってほとんどブラックメタル。もともとスラッシュメタルの要素も強いし、周辺と比べてもスピード感が目立つバンドではありましたが、ここにきてブラックメタル要素を思いっきり注入とは攻めの姿勢ですね。
ブラックメタル由来のギターのコード感や痛々しさはあれど、ニューヨークのハードコアシーン出身ならではのタフさは健在。というかブラストビートで体感速度が上がった分、スローパートの重量感も強調されているので、むしろブルータルさがアップしたようにも感じられます。変にポストブラックとかの方法論ではなく、スラッシュメタルの流れで取り入れているのも功を奏しているんでしょうね。考えてみたらブラックメタルの源流であるCELTIC FROSTからしてスローパートが肝だし、ハードコア・パンクの影響もあるので、ニュースクールとの相性が悪くないのも頷けます。
極悪系からブラックメタルにアプローチし、従来のブラッケンド・ハードコアとも若干違うスタイルを打ち出したという点で、ひとつの指標になるかもしれないですね。ファンからの反応も悪くないようだし、この路線を深めていく可能性もありますね。

■View From The Soyuz『Immaculate』

東京産ハードコア・バンドの2nd EP。昨年WORLD END MANの企画で初めて観ていいなと思っていたんですが、すぐに新譜が聴けてラッキーでした。
ライヴを観た印象は、ARKANGELあたりのいわゆるFury Edge/Edge Metalという印象だったんですが、音源になると、もうちょっとメロデスや初期メタルコアの匂いがします。スラッシーな飛び弦なり単音リフを刻みつつ、重量感のあるミリタントなリズムで突き進む様は、90年代末期~00年代初頭のFury Edgeとメタルコア双方の美味しい要素をしっかりと噛み砕いた、思わず手に汗握る仕上がり。クサいハモりやリードもバッチリで、洗練されすぎていないのがむしろいい味になっています。ところどころAS HOPE DIESや初期EIGHTEEN VISIONSあたりの空気も感じられるので、00年代前半が青春だった身としてはガッツポーズしかありません。
恐らくメロデスと極悪なニュースクール、Fury Edgeに影響を受けた結果、黎明期のメタルコア的なサウンドに行き着いた…というところでしょうか。アートワーク含め、伝統を引き継ごうという心意気も感じます。最後の曲ではゴシックな匂いのするピアノまで登場し、すでに将来のさらなる発展も模索していることがわかります。
今作のクオリティもさることながら、今後が楽しみでしかないバンドです。もうモッシュするのは身体的にもきついので、フロア後方からニヤニヤしつつ見つめていようと思います。

■SWARRRM『AGAINST AGAIN&偽救世主共』

関西グラインドコア重鎮の1st『AGAINST AGAIN』(2000年)と、2ndアルバム『偽救世主共』(2003年)をまとめた編集盤。アートワーク等は『偽救世主共』のものが使用されています。
「Chaos&Grind」を掲げ、現在に至るまでグラインドコアの基準を更新し続けているバンドですが、この初期2作はやはりすごい。歌謡曲やフォークにも近いタッチを見せている今とは違い、より混沌として狂ったグラインドコアを展開しています。ブラストビートを用いつつも、予測不能な曲展開や変拍子、不協和音を多用することで、脳内をかき乱すがごとくねじ曲がったサウンドは、20年以上経過しても圧巻の一言。同じ頃『JANE DOE』(2001年)で全盛期を迎えたCONVERGEと比較されることが多いですが、血反吐に塗れながら泣き叫ぶようなヴォーカルと相まって、SWARRRMのほうがエモいを通り越した切なさと痛々しさを感じさせます。HIS HERO IS GONEやTRAGEDYに触発された部分があるそうですが、ジャパニーズ・ハードコアに影響されたTRAGEDYからのフィードバックを、日本のバンドが再度受け取るという経路も、サウンドの形成に影響していそうですね。
現在のSWARRRMと通底する部分は多少ありますが、フラストレーションの吹き溜まりのようなこの時期は、突然変異にしてやはり別格。この路線を続けることはできなかっただろうし、だからこそ今の方向性に行きついたのだろうと思います。特異点にして転換点と言える、重要なアルバムですね。

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IN FLAMES

ALL OUT WAR

View From The Soyuz

SWARRRM