先月はしれっと休んだ月イチディスクレビュー企画(ARCHITECTSのインタビューがあったので)、今月はしれっと元気に更新します。
年内、あと1、2件はインタビューとかやりたいと思って仕込み中です。これから年末に向かって忙しくなりますが、頑張りましょう。
■SLIPKNOT『THE END, SO FAR』
アイオワ産、猟奇趣味的激烈音楽集団の7作目。グロテスクなマスクとブラストビート混じりのサウンドで天下を取りつつも、2010年にポール・グレイ(b)が亡くなって以降、バンド内のパワーバランスがゴチャゴチャになりつつ、なんとか活動を続けてきた彼ら。
個人的な意見ですが、ポールが亡くなり、ジョーイ・ジョーディソン(ds)を追い出してからのSLIPKNOTって、正直微妙だったんですよね。前作、前々作も悪かないけど、普通のグルーヴ・メタルというか、大所帯である意味がなくなったような感じがして。その間にクリス・フェーン(per)を裁判沙汰の末クビにしたし、もう1枚岩のバンドじゃないんだなと。なので今回も「まぁ聴いとくか」くらいであんまり期待していなかったんですが、これがすごかった。
デス/ブラック譲りの要素はそのままに、サンプラーやDJの装飾を大幅かつ自然に増量。パーカッションの手数も手伝って、9人いるからこその土石流のようなグルーヴが復活。加えて歌メロもここ最近なかったポップさで、総括的な、SLIPKNOTにしか作れないアルバムに仕上がっています。クレジットを見ると作曲はすべてバンド名義なので、バンドをちゃんと立て直したんでしょうね。「これという曲がない」という意見もありますが、たしかに必殺技みたいな一発がないのは同意。でも自分としては、バラエティを持たせつつ、全体のクオリティを均等に上げたように思いました。そのへんが評価の分かれるポイントかも。
邪推ですが、昨年ジョーイが亡くなったことで、バンドとして背水の陣になったんじゃないかと思います。ジョーイを呼び戻してリユニオン!という道が絶たれ、これはちょっとやそっとじゃあかんぞと。まぁそこまでいかなくても、ジョーイの死は少なからず影響していそうです。
さすがに全盛期には及ばないものの、ここ3枚では最高の出来。まだまだやれますね。
■LAMB OF GOD『OMENS』
アメリカ、ヴァージニア出身のメタルバンドの9作目。前身のBURN THE PRIEST時代を含めるともう28年選手で、初期はTODAY IS THE DAYのスティーヴ・オースティンがプロデュースしていたりと、地下臭がすごかったんですが、今や現代メタルの顔役のひとつですね。
デビュー以来、キャリアそのものは順調だったのが、前作でドラムがクリス・アドラーからアート・クルーズ(元WINDS OF PLAGUEほか)に交代。うまいしかっこいいんですが、シンバルやタムの使い方が独特だったクリスに比べると、アートのドラムが普通過ぎて、なんか噛み合ってないな…と複雑な気持ちになるアルバムが前作でした。
今回はツアーを重ねた結果か、アートもだいぶ馴染んだように思えます。バンド側もアートがどういうドラマーなのかちゃんと理解して、バランスを取ったような仕上がりですね。むしろクリス時代の機械的なグルーヴが減退する代わりに、より生々しい音質になっているようにも思えます。とはいえ従来のLAMB OF GODらしい、独特の引っ掛かりを持つリフは健在。ランディ・ブライ(vo)もここ最近ちょくちょく披露していた渋い歌メロは控え、野蛮なガナリ声に終始しており、音を引っ張っています。
ちゃんと新旧メンバーがお互いに歩み寄って、バンドをアップデートさせたことがよくわかる新作です。日本ではまだアートのお披露目がまだなので、そろそろ来日してほしいですね。ランディも親日家だし。
■老人の仕事『老人の仕事(2nd)』
未来からやってきた3人組が、ボロ雑巾かモップかのような衣装でステージに立つ、東京のドゥーム/ストーナーバンドの2作目。その強烈な見た目と楽曲で、死ぬほど検索しにくい名前ながら話題を集めたバンドです。ジャケットは前作が爺さんだったので、今回は婆さんでしょうか。
呪術的な雰囲気満載の鈍重なドゥームリフをタメのきいたリズム隊が支える、超ドープな長尺曲が並ぶという意味では、前作と変わらずですが、バンドとしてのスタイルはもう確立したということでもあると思いますが、これがかっこいい。ただ「遅くて重い」だけではなくて、微妙な緩急で加速度をつけつつ、リフそのものが超キャッチーなんですよね。加えて呪術的と言いましたが、妖しさたっぷりながら空気感は重々しくなく、シリアスになりすぎていないのもポイント。聴いていてめちゃめちゃ楽しいアルバムです。
前作も一時期入手困難になっていた(今は多少復活しているらしい)ので、今回もうかうかしていたら見つからなくなった…なんてこともあり得そうです。ドゥームに付きまといがちな敷居の高さに惑わされず、一聴の価値大アリ。ライヴも重量感倍増しで楽しいですよ。
■NEKO NINE『ISOLA』
ロシア産ポストロックバンドの10年ぶり、2枚目のアルバム(再録2曲含む)。2014年に日本のTHE CREATOR OFとスプリットを出し、2015年に解散したものの、2020年にセヴァ・シャポシニコフのソロとして復活、現在はオランダを拠点に活動しているようです。政治的なことは置いておくとして、ロシアっていきなりいいバンドが出てきますよね。
バンド時代から、誤解を恐れずに言えば親しみやすい、ポップなポストロックを身上としていましたが、8年ぶりの音源となる本作も、基本路線はまったく変わっていません。アルペジオと轟音を行き来しつつ、適宜ストリングスやセヴァの歌も盛り込んだ、簡潔で短い曲が並んでいます。轟音パートもシューゲイザー的な包み込むようなものではなく、しっかりと輪郭のある「ギターリフ」がメインです。恐らくパンク/ハードコアも影響源にあると思いますが、ポストメタルにはなっていない。これによるメリハリも、聴きやすさの一端を担っているのかなと。
いわゆるポストロックをいろいろ聴いてきた人だけでなく「ポストロックは意識が高くてちょっと…」みたいな、苦手意識を持っている人にも入りやすいバンドだと思います。復活はけっこう驚き&うれしかったので、今後も期待したいです。
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