2022年11月Disc Review!

寒い!

日が落ちてからの寒さがえげつなさすぎです。毎年思いますが、地球温暖化ってどうなったんでしょうか。

気が付けば2022年も大詰めですが、年間ベストとかも考えてみようかなと思います。ようやく来日公演も復活したりと、コロナ以降変化の多かった1年だし、振り返ってみたいですね。

■L.S. DUNES『PAST LIVES』

アンソニー・グリーン(SAOSINほか)、フランク・アイイエロ(MY CHEMICAL ROMANCE)、トラヴィス・スティーヴァー(COHEED AND CAMBRIA)、ティム・ペイン、タッカー・ルール(ともにTHURSDAY)が結成した新バンドのデビュー作。2000年代中盤にオーバーグラウンドで盛り上がったエモ~スクリーモを知る世代全員が三度見しそうな面子です。
マイケミにCOHEEDという、本国ではスタジアム級のバンドのメンバーが参加していることからどんな音になるかと思いきや、いわゆるスクリーモ的な要素は薄め。むしろエモ~ポスト・ハードコアの源流に回帰しつつ、アンソニーがソロで見せる芸術性や実験性を少しだけ加えたような感じです。繊細なコードの響きを軸にしつつ、抑えきれない激情が漏れ出る様は、ジョナ・マトランガ(FARほか)の各プロジェクトやSUNNY DAY REAL ESTATEあたりに通じるんじゃないでしょうか。一筋縄ではいかないというか、キャッチーでないことはないけれどポップでもなく、人を選ぶアルバムだな…とは思いますが、聴きこんでいくと、同時に多くのスクリーモバンドが到達できなかった境地なのではないかとも感じます。
というのも、2010年代に入りスクリーモが一気に下火になっていくなか、地下シーンの支持を得て活動基盤を固めようとしたのか、プログレ/アート化を図るバンドがたくさんいたんですが、だいたい失敗していたんですよね(一方でピコリーモという延命措置もありましたが)。その答えのひとつというか、あのバンドたちってこういうことがやりたかったんじゃないか、と思えてなりません。やっぱりミュージシャンシップはもちろん、源流としてのエモや、そのルーツをちゃんと通過していないとできないことがあるということなんですかね。これが10年前に出ていたら、シーンの流れが違っていたのかも。メンバーが成熟したからこそできた面もあるだろうし、本当にたれらればですけどね。
ツアーもやっているものの、もともと家庭持ちメンバーの集まりだし、本業のバンドもあるしで、あまり活発には動かない気がします。でも1枚で終わらせず、ポスト・ハードコアのその先をもっと見せてほしいですね。日本で見るのは難しいかな…。

 

■THE SMASHING PUMPKINS『ATUM – Act 1』

※このMVの曲は収録されていません
シカゴ産オルタナ重鎮の12作目。再結成してからは6作目、ジェイムズ・イハ(g)が復帰してからは3作目です。思ったより活動そのものは順調ですね。NIRVANAほかシアトル勢とは違う大仰なサウンドで、エモ方面にもけっこうな影響を与えたバンドでもあります。
今回ですが、「Act 1.」とある通り連作のロックオペラの第一章になっており、2023年1月、4月に二章、三章がリリースされるそう。しかもこれらはバンドの代表作『MELLON COLLIE AND THE INFINITE SADNESS』(95年)と『MACHINA/THE MACHINES OF GOD』(2000年)の続編であるとのこと。ぶっちゃけその2枚だけでも作風が全然違うだろとか、この2枚は別に連なってないだろとか、いろいろ突っ込みたくなる部分はあります。旧作の続編を作るって、プログレでたまにありますが、うまくいった例も少ないし。
実際聴いてみると、オーケストラをふんだんに取り入れた壮大な『MELLON~』とも、冷徹なシンセで武装したゴス色の強い『MACHINA~』とも違います。少なくとも音楽的な続編ではなさそうです。あくまでコンセプトの続きだったり『MELLON~』と『MACHINA~』をつなげるものになるんでしょうか。
なんか文句が多いですが、作品としては全然悪くないです。音楽的には、メタリックな要素は薄く、ポップさが強くなった再結成後のスマパンらしいアルバムですね。3曲目はまぁヘヴィな方ですが、シンセをふんだんに取り入れた、浮遊感のあるポップな曲が大半。ビリー・コーガンのニューウェイヴ趣味全開です。でも後から気づきましたが、先行公開した“Beguiled”が今回は入っていないんですよね。これは若干『MELLON~』の時期に寄せた曲なので、今後の2作はもうちょっと昔のスマパンらしくなる可能性もあります。バンドとしても「まだ全体を判断するには早いぞ」というメッセージのつもりなのかも。
というわけで、来年の2作も流さず待機することになりそうです。まぁビリー・コーガンって気まぐれな人だし、この連作をちゃんと完遂できるのかという不安もないではないですけどね。

 

■POLYPHIA『REMEMBER THAT YOU WILL DIE』

テキサス産テクニカル・インストバンドの4作目。Djent以降一気に増えたテクニカル系のひとつですが、清涼感のあるサウンドとルックスで名を挙げたバンドです。とてもPANTERAと同郷とは思えん。
元々は「PERIPHERYに憧れていた」と公言していただけあって、変拍子使いまくったプログレメタル~Djentとして登場したんですが、わりと早々にメタルから脱却。ブラックミュージックやポップス、EDMとなんでも取り入れるようになっていきました。特定のジャンルにこだわって聴く感じではないだろうし、テクニック面でもメタル以外からのインプットに貪欲なんでしょうね。見た目はタトゥー入れまくりで、チャック・シュルディナーみたいなシェイプのギター使ってますけど。
新作ではソフィア・ブラックや$NOTといったシンガーやラッパーが多数ゲスト参加。これによってメタル要素がさらに減退し、ポップさが倍増しになっています(実際、メンバー自らメタルじゃ稼げない、という発言も)。しかし各楽器の手数はまったく減っておらず、しかもクリーンな音が大半。これによってテクニックの高さと引き出しの多さが余計に目立っており、めちゃめちゃ聴きやすいんですが、聴きごたえも十分です。メインストリームを意識したと見せかけて、むしろものすごく挑戦的な作品なんじゃないでしょうか。
とはいえ、アルバムの最大のハイライトはスティーヴ・ヴァイが参加した“Ego Death”でしょう。活きのいい後輩に花を添えてやるのかと思いきや、もう大クセも大クセのヴァイ節丸出しのソロをぶっこんでいます。若手にアンテナを張り続けるわりには、絶対に引かないいつものヴァイ先生ですね。これを聴くと、ヴァイの存在感と独創性はもちろん、POLYPHIAの音楽的な常識というか、真っ当にポップな側面を認識させられます。
同世代にテクニカル/インストのバンドは数多いものの、日本では頭ひとつ抜けて人気のある彼ら。最初から大手が招聘していたし、またすぐに来日しそうですね。ここまでゲストを迎えた作品を出したなか、どうライヴをやるのか気になるところです。

 

■Billy Howerdel『WHAT NORMAL WAS』

A PERFECT CIRCLEのギタリストによる、ソロデビュー作。2008年にもASHES DIVIDE名義でソロプロジェクトをやっていましたが、自分の名前を冠するのはこれが初めてですね。
このビリーさん、もともとはFISHBONEやデヴィッド・ボウイ、スマパン、ガンズ、FAITH NO MORE、TOOLなんかのギターテックをやっていて、その中で出会ったTOOLのメイナード(vo)に作っていた曲を聴かせたら「いいじゃん」となってA PERFECT CIRCLEを結成…という特殊な経歴の持ち主なんですよね。しかもギターはもちろん、ベースもキーボードもヴォーカルもこなすマルチプレイヤー。なぜ長らくギターテックに留まっていたんでしょうか。
そんな彼が自分の名前でリリースする今作、これまでの活動と通じる部分が多くありつつ、趣が少し違います。A PERFECT CIRCLEもASHES DIVIDEも、メタルとは違ったオルタナ由来のヘヴィさが中心だったんですが、今回はそういった要素は皆無。そのぶんニューウェイヴ、ゴス、シンセポップあたりの影響より強調されています。本人も「PINK FLOYD、THE CURE、ECHO AND THE BUNNYMENの影響を反映させた」と言うだけあり、アメリカ出身なのにヨーロッパの空気です。クレジットを見ると、レコーディングの大部分はビリー本人が手掛けていつつ、A PERFECT CIRCLEでもいっしょだったジョシュ・フリーズ(THE VANDALS、NINE INCH NAILSほか/ds)やマット・マキュンキンズ(b)が参加しているほか、スコット・カークランド(THE CRYSTAL METHOD)がプログラミングをサポート。この霧がかかったような、ミステリアスでアトモスフェリックな音像がものすごく心地よいんですね。
A PERFECT CIRCLEが好きな人であれば、今作は問題なく楽しめると思います。前述の影響源のほかにもデヴィッド・ボウイやスマパン、PORTISHEADあたりが好きならば間違いないです。関わる全プロジェクト、通じつつ違ったカラーがあるので、ビリーは今後もいろいろやっていってほしいなと思える1枚です。

 

<LINK>

L.S.DUNES
THE SMASHING PUMPKINS
POLYPHIA
Billy Howerdel