9月初頭、日本に台風が迫る中で2年ぶりの来日を果たした、アメリカはワシントンDCのメロディック・デスメタル/メタルコアバンドDARKEST HOUR。Sable Hills主催のFrontline Festival 2025出演を挟んで、新宿と大阪でヘッドライン公演を行ったが、メンバーの高いテクニックを存分に発揮したメロディック・デスメタルを下敷きにしつつ、ハードコア由来の筋肉と顎の強さをにじませたライヴのエネルギーはさすがで、いい意味で結成30年という歴史の長さを感じさせないものだった。
今回はツアー初日の新宿ANTIKNOCK公演の際に、オリジナルメンバーとしてバンドを先導する、ジョン・ヘンリー(vo)とマイク・シュライバウム(g)の2名にインタビューを実施。物静かで言葉数の少ないジョンと、ビール片手にしゃべりまくるマイクという対比が印象的だったものの、本文を見ればわかる通り、マイクが気を遣ってジョンの答えるタイミングを作る場面も。この二人のバランスこそ、DARKEST HOURは30年も続けてこられた秘訣なのではと思ったりもした。30年の歴史においてメンバーチェンジも少なくなかったバンドだが、まだまだ前線を走り続けてほしいと思った次第。
Interview by MOCHI
Translation by Sachiko Yasue
Live Photo by Leo Kosaka
Special Thanks:FABTONE Inc, Everlasting Fire & Sable Hills
――DARKEST HOURが日本に来るのは2023年以来、2年ぶりですね。その前は11年ぶりだったのが、今回はわりと早めに戻って来られてどうでしょうか。
マイク:お前が先に答えろよ。俺が補足するから(笑)。
ジョン:日本は世界の中でも気に入っている場所のひとつなんだ。カルチャーも素晴らしいし、ライヴをやればオーディエンスの反応も最高だしね。みんないい人ばかりで…とにかく大好きな場所だよ。
マイク:俺も日本は大好きだ。Sable Hillsのおかげで、こんなに早く戻ってこられてハッピーだよ。彼らは前回もいろいろと手助けしてくれたし、以前より気楽に戻ってこられるくらいの絆ができていると思う。ヨーロッパやカナダはいつも行っているけど、日本はあまりに長い間ご無沙汰してしまっていたから、これからもっと日本とのつながりを強くして、頻繁に来られるようにしていきたいね。
――今のギタリストのニコ(・サントーラ/元SUICIDAL TENDENCIES、THE FACELSSほか)は、日本語をそこそこ話せるみたいですね。言語がまったく違うので、コミュニケーションに苦労する欧米人も多いですが、日本のカルチャーを解っているだけでなく、日本語を話せるメンバーにいると、ライヴはもちろん、滞在も楽なのでは。
マイク:ニコが日本語をしっかり学んで、カルチャーを掘り下げていることは、俺たちにとってすごく特別なことだよ。ファンと話すにしても、他のアメリカ人は俺たちほど意思の疎通ができないだろうからね。ツアーのプロモーションのために日本語で直接メッセージを送れるし、何か食べるにしても代わりにオーダーしてもらえる。ニコは俺たちと日本をつなぐ、特別なピースというわけ。とはいえさっきも言ったように、俺たちは全員日本が大好きだし、言葉が通じないとしても、現地に合わせてコミュニケーションを取るのは得意なんだ。俺たちの言語はロックンロールだ…ってね(笑)。
――Sable Hillsとの関係は、2022年にヨーロッパを一緒にツアーしたことから始まったと聞いています。なので仲はもちろんいいと思うんですが、彼らのことは音楽的にはどう思っていますか?
ジョン:彼らみたいな若いバンドが、俺たちが長い間プレイしてきた音楽の伝統を引き継いでくれていることが、とてもうれしいよ。次の世代として、すごく頑張っていると思う。
マイク:今はメタルコアという音楽を、色んな視点から解釈したバンドが世界中にいるよね。でもSable Hillsのような、日本の視点で解釈したメタルコアを聴けるのはユニークなことだと思う。もちろん彼らはものすごく日本らしさを押し出しているというわけじゃないけど、モダンな要素と俺たちに近いものが融合しているのが興味深いんだ。でもSable Hillsと話していて、俺たちの昔話をしていたら「その頃は自分はまだ生まれていない」って言われて参ったよ(笑)。
ジョン:DARKEST HOURは今年で結成30周年なんだけど、Sable Hillsのメンバーは28歳くらいなんだってさ(笑)。
マイク:それなのに、同じタイプの音楽で通じ合っているのが興味深いよ。それだけ年齢差があっても、一緒にいるときは世代の違いを感じないんだ。
――数日前、ジョンが参加したSable Hillsの新曲“God Forsaken”がリリースされましたね。
ジョン:ゲスト参加の話をもらったとき、ぜひやらせてほしいと即答したよ。作詞も、どこを歌うのかも彼らが全部考えて指定してくれたし、俺はただ歌うだけでよかった。大変なところは、全部やってもらったんだ(笑)。曲の仕上がりにもとても満足しているし、すごく光栄なことだよ。
――逆にSable Hillsのメンバーが、今後DARKEST HOURの曲に参加してもらうというのは考えられますか?
マイク:昔のアルバムで色んなゲストを迎えたこともあったけど、どこかやりすぎたというか、飽きてしまったような感じがあったんだよね。例えば2003年の『HIDDEN HANDS OF A SADIST NATION』はゲストが多かったし、レーベルもそれをプロモーションに利用していた部分があった。ただ、これまでのゲストはわりとギタリストが多くて、ヴォーカリストの参加は少なかったような気がする。逆にジョンがほかのバンドにゲスト参加するのも、けっこう珍しいことだし。まぁ、そろそろゲストを迎えない…という伝統を壊してもいいころかもしれないな。今は何の計画もないけれど、何があるかわからないよ(笑)?Rict(g)をギタリストとしてフィーチャーするのも、面白いかもしれないな。
――たしかに、今話に出た『HIDDEN HANDS OF A SADIST NATION』は、バンドにとって出世作でしたよね。かつこのアルバムで、DARKEST HOURはメロディック・デスメタルに強く影響されたバンドという印象がついたものの、ごく初期の『THE MISANTHROPE』(1996年)や『THE PROPHECY FULFILLED』(1999年)といったEPでは、スローなニュースクール・ハードコア色が強いサウンドでした。アルバムデビュー前後で、バンド内でどんなことがあったんでしょうか?
ジョン:やっぱり、AT THE GATESを見つけたことが大きいね。(笑)
マイク:俺が思うに、断続的な変化だったんじゃないかな。以前も似たような質問をされたことがあるんだけど…初期のEPから最初の2枚のアルバム『THE MARK OF THE JUDAS』(2000年)や『SO SEDATED, SO SECURE』(2001年)までは、メタルとハードコアのハイブリッドのようなサウンドだった。その間に、自分たちをハードコアの棚から、少しずつメタル側に押し出していくような感じだったんだよね。『HIDDEN HANDS~』はスウェーデンのスタジオで制作したし、そこでご当地シーンのエリートたちに手助けしてもらいながら、自分たちらしい音を探していったんだ。
ジョン:あれは聖地巡礼って感じだったなぁ。メッカに行くみたいで (笑)。
マイク:その時に見出した要素を、次の『UNDOING RUIN』(2005年)でも続けるつもりだった。そうしたらデヴィン・タウンゼンドのプロデュースのおかげか、さらにメタルの要素が増して、しかもテクニカルで、クリアなサウンドになった。当時としてはかなりモダンな感じになったし、バンドの新しい特徴になってくれたんだよね。そういった道のりで、俺たちらしさを確立することができたんだ。
――例えばキャリアを重ねていくなかで演奏技術が向上したり、メンバーチェンジで腕のあるプレイヤーが入ったりで、やれることが増えた面はありますか?
マイク:そうだね。新しいメンバーはいつだって進化のきっかけになるし、新しい境地への近道でもある。メンバーが変わると、バンド内の化学反応も変わるからね。メンバーチェンジが、俺たちが今に至るまでのいいテコ入れでもあったのは間違いない。自慢するわけじゃないけれど、今のメンバーの才能やテクニックは、このバンドにすごく深く刺さっているんだ。アルバムを聴いて、これからライヴを観てくれれば、それに気づいてくれると思う。過去のメンバーも、今が最も時代を反映したサウンドになっていると認めてくれると思うよ。ライヴも日々変化していて、より俺たちの思い描く通りになっているからね。

――2000年代中盤、メタルコアという音楽が大きなムーヴメントになって、DARKEST HOURもそのムーヴメントの一部として紹介されていましたよね。ただVictory Recordsに在籍していた事実やハードコアの影響はあっても、DARKEST HOURの音楽的なスタイルは典型的なメタルコアとは違うものでした。結果的にバンドの名前が広まったとはいえ、そういったカテゴライズをどう思っていたんでしょうか?
マイク:これの答え方は、二通りある気がするな。ジョンに先に答えてもらおうか。
ジョン:いやいや、先に言ってくれよ(笑)。
マイク:仕方ないな(笑)。変な話だけど、昔の俺たちは、自分たちが作っているものをちょっと否定しているというか…何とかシーンに自分たちを合わせよう、ハマろうとしている部分があった。自分たちとしてはスウェーデンのメロディック・デスメタルバンドになりたかったのに、実際のシーンはアメリカ的な、メタルの影響を受けたハードコアが大きな波になっていたからね。今はそれがメタルコアって呼ばれているんだけどさ。当時は他のバンドと違うことをやっているせいで批判されることもあったし…でもあの頃アメリカでメタルコアと言われていたバンドは、みんな同世代の仲間なんだ。GOD FORBIDとかWITH HONOR、SHADOWS FALL、KILLSWITCH ENGAGEにTHE DILLINGER ESCAPE PLAN…みんな一緒に育ってきた素晴らしい仲間であり、あの頃存在していたサウンドの一部だった。近い音楽性なのに、メタルコアというムーヴメントに関連付けられていなかったバンドもいたけど、そんなのは関係ない。結局はこれぞ俺たちのプレイするものだと言えるようになるべきだし、あの時代がどうだったとしても、結果的に誰かの記憶に残るものを作れたことに、誇りを持っているよ。
ジョン:ジャンルは難しいと思う。メタルコアと呼ばれたら、特定のサウンドを期待されるからね。俺たちは昔からいわゆるメタルコアなサウンドではなかったせいで、メタル畑の人たちからはメタルらしさが足りない、ハードコア側の人たちにはこんなのはハードコアじゃないと言われてきたよ。
マイク:でも後から考えると、俺たちはいつも時代の先を行っていたと思う。若い頃は、みんなジョンのヴォーカルをクレイジーだと言っていた。作品を重ねて、少しずつヴォーカルにメロディを混ぜ込むようになると、さらにクレイジーだと言われたよ(笑)。でも今シーンを見るとGOJIRA、MACHINE HEAD、BEHEMOTH…いろんなバンドが、デスヴォイスとクリーンをミックスしたヴォーカルをやっているだろ?一方でLORNA SHOREみたいなバンドも出てきた。いわゆるヴォーカルの幅が、ものすごく広がったんだ。この何年かで、シーンの方が俺たちのスタイルに寄ってきたような感じがする。俺たちがDARKEST HOURを結成したとき、大半のノーマルな人たちは俺たちがやっているような音楽を聴いたこともなければ、ジョンみたいな歌い方をするヤツもいなかった。でも30年経った今では、昔は俺たちに見向きもしなかったようなラジオ局が、俺たちの曲をかけていたりする。俺たちは世の中に合わせる必要なんかなかったんだ。
――他と違うことをやっていたからだと思いますが、DARKEST HOURのことをメタルコアというよりも「限りなくメロディック・デスメタルなハードコアバンド」とか「ハードコアバンドがメロディック・デスメタルをやっている」と表現しているのを見たことがあります。そういった評価についてはどう思いますか?
ジョン:まぁ、俺は単に「メタル」って呼ぶけどね(笑)。知らない人からどんなバンドをやっているのか聞かれたら、シンプルに「メタルバンド」って答えるよ。でも人がどう呼ぶかをコントロールはできないよね。みんなカテゴライズするのが好きだし。
マイク:サブジャンルっていうのは、人々が学ぶためにあるんだと思う。メタルの新しいスタイルが生まれては、時間とともにいわゆる「ノーマル」なメタルの血の流れに合流してきただろ?DARKEST HOURは、初期はハードコアとメタルのユニークなハイブリッドと言われていたけど、メタルが時代とともに変わって、俺たちは今「メタル」をやっていることになる。同時に俺たち自身も10枚アルバムとともに、色んな音楽の道を探索してきたから、ある意味自分たちのバンドのサウンドという殻を打ち破り続けてきたってことにもなるね。それが30年間やってこられた所以というか、唯一の方法だったんだ。うん…「メタル」!ワンワードだ (笑)!ワンワードで説明するのは難しいとよく言われるけど、結局はシンプルなことなんだ。
――ところでこの間BLEEDING THROUGHのブランダン(・シェパティ/vo)にインタビューしたとき「東海岸のバンドはメタルの影響が強くて髪が長い。西海岸のバンドはパンクの影響が強くて髪が短い」と、地域の傾向の違いを端的に説明していたんですけど、ワシントンDC出身として、西海岸の人のそういう意見をどう思いますか。
マイク:たしかにそうだね(笑)。西海岸のやつらは、もっと大きなロック・シーンの中で差別化を図る必要があったからじゃないかな。
ジョン: うん、マイクが言っているのは正しいよ。あっちは気候も暑いし、髪が長いとMOTLEY CRUEとかと間違えられるんじゃないかな(笑)。
マイク:こうして言われるまで、改めて考えたことなかったなぁ(笑)。でも、メタルコアの美しいところはそこだよな。ハードコアにもメタルにもなれるっていうか、髪が短くたっていいし、長い時期があってもいいんだ。
ジョン:俺たちも、昔は髪が短かった時期があったしな(笑)。
マイク:そう、今の俺は髪を切る自由を保持しているってわけ(笑)。

――DARKEST HOURの基本的なスタイルは『HIDDEN HANDS~』以後はあまり変わらずにいましたが、8枚目の『DARKEST HOUR』(2014年)ではメロディックなアプローチが、9枚目の『GODLESS PROPHETS & THE MIGRAN FLORA』(2017年)ではエクストリームな要素が強くなっていて、それまでとはアプローチの仕方を変えたように見えました。この時期は、バンドにどんなことが起こっていたんでしょうか。
マイク:色んなことを実験して、進化しようとしていたのは間違いないね。
ジョン:それまでとはできるだけ違うものを作ろうとしていたから、そのために色んなことにチャレンジしてみたんだ。実験してみたかったというか、新しいものを試すように自分たちをプッシュしていたんだよね。
マイク:『DARKEST HOUR』は、これまで俺たちがリリースしてきたどのアルバムよりも曲数が多かった。2枚組になってもおかしくないくらいだったね。でも、もし削るだけ削って8曲入りくらいにしていたら、ほかのアルバムとあまり変わらない感じになっていたんじゃないかな。でも実験のために曲をたくさん書いたし、レーベルも喜んで俺たちにたくさんトライできるだけの自由時間をくれたから、ああいう形になった。ただ完成したときは、曲が多すぎたかもしれない…と思ったのも正直なところでもある(笑)。曲が多いことからして前とは違う気がしたけど、やっぱりDARKEST HOURの曲だなって気がするんだよね。今日もあのアルバムの曲をやるけど、他の曲ともしっくりと合うとわかってくれると思う。
――去年出した最新作の『PERPETUAL | TERMINAL』ですが、これに関しては今話してくれた、実験した時期よりも前の感じに戻ったような気がします。『THE HUMAN ROMANCE』(2011年)に近い、静かで落ち着いたパートやメロディックなパートが際立っている印象です。色んな実験をして戻ってきたら、以前やっていたことの表現力が増して、深みが出てきたような感じというか。
ジョン:バンドとしては、いつだって自分たちを再定義しようとしているんだよね。最新アルバムは、ここ2作よりもDARKEST HOURらしい音にしようという気持ちが強かったように思う。
マイク:どんなことがあっても、DARKEST HOURのアルバムっていうのはひとつ前の作品の反動からできているんだ。そうじゃないものを作ろうと、どんなに頑張ってもそうなるんだよね。もちろんDARKEST HOURらしいアルバムを作ろうという気持ちで臨むわけだけど、自分たちではコントロールできない部分があるから、いつも少し実験をして成長できるようにしている。5人がただ集まっただけじゃ意味がないし。今回は前作から7年ぶりだったから、俺たちにとってのDARKEST HOURを凝縮した形で解釈しながら再定義して、前に進み続けている感じかな。
――30年のキャリアの中で、いろいろ変化したことや挑戦してきたことが多かったと思います。今後40年、50年に向かうにあたって、どうしていきたいとかはありますか?
マイク:このバンドを、時代性のあるものにし続けていくことかな。俺たちはいつだって「モダンなサウンドのバンド」だけど、モダンという言葉が意味するものは常に変化し続けてきたし、俺たちも進化し続けてきた。ひとつユニークな点があるとすれば、俺たちは30年やっているバンドではあるけど、若手バンドみたいに聞こえることもあるってところなんだ。モダンな若手のバンドがやっていることを、たくさんやってきたからね。
ジョン:気持ちは今も若いよ(笑)!
マイク:そう、死ぬまで若いままでね(笑)。だからDARKEST HOURの未来は、常に今の流れにいられる力を磨くところにある。そして同時に自分たちらしさを保つことだね。
<LINK>
DARKEST HOUR:https://x.com/darkesthourrock
FABTONE Inc.:https://x.com/FABTONE_Inc
Everlasting Fire:https://x.com/EverFireTokyo
Sable Hills:https://x.com/sablehillsjp
Leo Kosaki:https://x.com/LeoMoment_