奇跡の来日を果たしたスイスの強豪、BREAKDOWN OF SANITY。アジア初となる独占インタビュー

本当に「まさかそんなことが起こるなんて」としか言えないものだった。

2010年代にメタルコアのシーンが世界中で拡大し、スタイルの多様化も進む中で頭角を現した、スイスのBREAKDOWN OF SANITY。メタルコアというジャンルの音を洗練させる一翼を担ったが、4枚のアルバムを残し2017年に解散。そして2020年の再結成するも大規模なツアーを行わず、ライヴも本国を含むヨーロッパの近隣で、せいぜい年に10本前後。過去に作品は日本盤化されていなかったし、日本でその姿を観ること等、ほぼ考えられないタイプのバンドだったと言える。

しかしプロモーターの熱意と強固な信頼関係の元、福岡、大阪、そして東京2デイズという、起こり得ないはずだった来日ツアーが実現。しかも2024年をもってヴォーカリストの脱退も決まっている(ドラマーも病気で離脱)状態という、いろいろな意味で意味深いものにもなった。結果的に東京公演は両日ソールドアウト。まさにまだ見ぬ伝説だった彼らの実力を見せつける形になったのだった。

そんな奇跡のツアーを実現させたBREAKDOWN OF SANITYから、今回インタビューに応じてくれたのは、リーダーであり曲作りも担うオリヴァー・スティンゲル(g)。日本に来るのはもちろん、アジア圏の取材に応じるのも初めてということで、貴重なインタビューになった。

ちなみに発表タイミングの関係か、取材時には話題に出なかったものの、12月5日に現体制最後の曲となる“Perfect Enemy”をリリース。バンドを立て直した後の、再びの奇跡にも期待したい。

Interview by MOCHI

Translation by Sachiko Yasue

Photography by Kazuki Takahashi

Special Thanks:TMMusic

――バンドとしてはもちろん、プライベートでも日本に来るのは初めてということですが、数日過ごしてみた印象はどうですか?
「本当に初めてだから、すごい経験をしていると思うよ。今まで日本のイメージなんてスシとラーメン、それに緑茶くらいのものだったし、文化的なことなんて全然知らなかった。もちろん楽しみにしてはいたけど、どんな経験ができるのか、何を期待していいのか見当もつかないくらいでさ。今日で3日目で福岡、大阪から東京に来たんだけど、まずどの街も清潔で、空き缶のひとつも落ちていないことに驚いたよ。歩いていてゴミ箱も見かけないし、みんなどこでゴミを捨てているのかな(笑)。人も優しいし、安心して街に出ていけるのもよいね。コーヒーを買うのでも、店の人はすごくにこやかに対応してくれた。ヨーロッパではそうそうはないことだよ。ライヴも毎日あちこちであるみたいだし、街全体でパーティーをしているみたいな感じだね」

――福岡、大阪と巡演して、東京2日間のライヴはソールドアウトなんですよね。
「マジで信じられないね。ぶっちゃけ、日本に僕たちのファンがいるだなんて思っていなかったし(笑)。会場のキャパはそこまで大きくないとはいえ、毎回たくさんの人が見に来てくれて、東京はソールドアウトだなんてさ。僕たちとしてはこんなこと期待していなかったというか…バンドとしてしっかりライヴをやって、楽しむことが目的だったから、うれしい誤算だね。これだけの人が僕たちを熱狂的に迎えてくれるなんてすごいことだし、自分たちのやってきたことを改めて誇りに思う」

――スイスのバンドというとCELTIC FROSTとその周辺、インダストリアルのTHE YOUNG GODS、メタルコアのCATARACT、アヴァンギャルド・メタルのZEAL&ARDORが思い浮かびます。僕が不勉強な面もあると思うんですが、スイスのメタルやハードコアのシーンというのは、どんな感じなんでしょうか?
「コロナ禍の間に多くのバンドやミュージシャンが活動しなくなったり、音楽を作るのを辞めてしまったんだ。ライヴもできなかったし、モチベーションを保てなかったんだろうね。これから成長していきそうな若手のバンドも多かったんだけど、持ちこたえることができなかった。でもようやくまた新しいバンドも増えてきているし、シーンも盛り返し始めているんじゃないかな。中でも僕たちが活動していない間に出てきたPALEFACEっていうバンドがいるんだけど、スイスではかなり注目されてきているよ。彼らもだけど、近いうちにスイスから東京に来るバンドが増えるかもしれないし、そうなると期待したいね」

――BREAKDOWN OF SANITYは、SNSでモダンメタルと自称していますよね。とはいえ多くのファンはあなたたちをメタルコアと認識していると思います。モダンメタルという自称には、他のバンドやシーンとの差別化を意識してのことなんでしょうか?
「ぶっちゃけ、モダンメタルっていう呼称そのものは、あんまり深く考えて決めたわけではないんだよね(笑)。僕たちをメタルコアと捉えてもらうぶんには全然かまわないし、それが間違っているとも思わない。でも自分たちをモダンメタルとしているのは、メタルコア以外からも影響を受けて、自分たちのスタイルを作っているからなんだ。スラッシュメタルとかニューメタル、ほかにもハードコアなんかの要素も混ざっていると思うし、メタルコアと近いサウンドになっているのは、メンバーが受けてきた影響をまとめた結果論だと考えているよ。それを示したいから、モダンメタルと名乗っている感じだね」

――これまでに4枚アルバムをリリースしていますが、アルバムを重ねるごとに音が洗練されていって、プログラミング等も多く取り入れる等ようになっていきますよね。後付けになるかもしれないですが、時代に迎合するのではなく、時代と呼応して進化することで、モダンであり続ける…みたいな意識はありますか?
「そう言われるとそうかもしれない。今度質問されたら、君が言ってくれたように説明すればいいかな(笑)。たしかにバンドとして、新しくいろいろなものを取り入れながら進化してきたのは間違いない。とはいえ、さっきも言ったように自分たちでも難しく考えてきたわけではなくて、世界中でメタルコアのシーンが、ものすごいスピードで進化していったのもあったと思う。僕たちもその流れに影響されて、それまで自分たちにはなかった要素を取り入れるようになったんじゃないかな。5人のメンバーそれぞれ違った人間だし、知らず知らずのうちにそれぞれの持つ違ったパーソナリティや音楽的な要素が、曲に反映されたのもあるはずだし。だからグローバルな動きとシンクロしていった部分も強い気がするよ」

――言い方は悪いかもしれないですが、スイスはメタルやハードコアという音楽において、多数のバンドを輩出したわけではないし、シーンの中心ではない場所ですよね。そのスイスという土地で活動することで、他の地域との違いが生まれたり、独自の進化をしてきたという感覚はありますか?
「そうだね。むしろそうであればよかったと思う。2007年に僕たちが活動を始めた時、スイスにはメタルコアのバンドなんていなかったから、存在をアピールするのも大変だったんだ。年上のメタルのコミュニティの人たちから“ドラムをプログラミングするなんて、コイツらはフェイクだ”なんて言われたこともあるしね。当時のスイスはニューヨーク・ハードコアに影響を受けたバンドが多かったんだけど、僕たちはPARKWAY DRIVEやI KILLED THE PROM QUEENといった、オーストラリアのメタルコアに触発されたところが大きいんだ。当時のスイスでは、本当に珍しいスタイルだった。でも後々になって“BREAKDOWN OF SANITYに影響を受けました”と言ってくれる若手のバンドも出てきたし、スイスにおいて、新しい時代を切りひらいたという側面はあると思う。メタルコアという音楽は僕たちが作ったわけではないし、最初こそアメリカやオーストラリアのバンドを模倣していた部分もあったけど、そこにスイスというシーンがない場所で、ゼロから考えながら自分たちなりのやり方で活動して、自分たちらしさをかけ合わせたことで、こういったスタイルにたどり着けたじゃないかな」

――2017年に一度解散し、2020年に再結成していますよね。それぞれどんな理由があったんでしょうか?
「2017年のことは、僕としては解散とは思っていないのが正直なところでさ(笑)。でも実際のところ、クリエイティブな面で疲れてしまったメンバーもいたし、カルロ(・クネップフェル/vo)は、自分のヴォーカルのスタイルがバンドに合っているのかわからなくなってしまっていたんだよね。僕自身も少し煮詰まっていた部分があって、いったん活動を休止したいとも思っていた。新しいインスピレーションがほしかったし、あのままだと同じ事の繰り返しばかりになってしまいそうなのもあった。それにメンバーはみんなフルタイムの仕事があるし、年齢を重ねることで、仕事での責任も大きくなっていったのもある。私生活と音楽のバランスを取る必要があったから、一度休むことにしたんだ。とはいえ、“もうバンドはこれで終わり”だと思っていたメンバーもいたみたいだから、解散だと捉えられた部分があったのかもしれない。それから時間が経って、2020年頃になると新しい曲のアイデアも出てきたし、お蔵入りさせるのももったいないから、またみんなで集まるようになった。それ以降は焦らず、曲ができたらリリースする…という方針だね。コロナ禍も明けて、カルロがまたステージで歌えるようになってきてから、少しずつライヴもやるようになった。それでも大変ではあるけれど、仕事とのバランスも取れて、こうして日本にも来られたからよかったんじゃないかな。これからはもっと新曲も作っていきたいと思っている…というところで、カルロが脱退することになったんだけどね(笑)」

――カルロの脱退を受けて、今は新しいヴォーカルのオーディションをしているんですよね。メタルバンドで歌ったことがあるとか、レコーディングの経験があるといった条件を出しているらしいですが、例えばカルロとはまったく違うタイプがよいとか、人物像の面で考えていることはありますか?
「カルロの脱退は、2017年と同じような理由なんだ。バンド活動に疲れてしまったのと、自分の声がバンドに合っているのかという悩みが、どうしても解消できなかった。とはいえ他のメンバーは続けていきたいし、カルロ抜きでも活動していくことに決めたんだ。それでオーディション中なんだけど、次のヴォーカリストは、むしろカルロとは違うタイプの人を迎えたいと思っているよ。カルロのクローンのような人だと、どうしても比べられるしね。僕たちの曲に、新しい要素を加えてくれる人がよいと思う。スクリームも歌もしっかりとできるのなら、多少想定と違ってもオープンに受け入れたい。でも一番大事なのは、僕たちのエネルギーに合うかどうか。それはなかなか難しいけれど、その部分でちょっと悩んでいるところでもある。もちろんとても実力のある人が応募してくれているんだけど、その中から選ぶかはまだわからないな。最後にはもう第六感というか、直感で決まるんじゃないかと思うよ」

――ヴォーカルの脱退という大きな出来事がある中で、バンドの制作意欲はどんな状態でしょうか?曲そのものは作っているのか、それとも新しいヴォーカリストが決まったら、その人の声ありきで曲を作っていくのかとか。
「オーディションでは、僕たちの“Traces”という曲を課題にしているんだ。ウィスパリングとか、いろいろなスタイルのヴォーカルが必要だから、どのくらい多彩な表現ができるのかを見極めるのにいいと思ってね。その次の審査で、ヴォーカルのないインストの未発表曲を渡して、ヴォーカリストとしてどんなアイデアがあるのかを見せてもらうつもりだよ。今のところはオーディション用だけど、改めて活動できるようになれば、その曲も聴いてもらう機会ができると思う」

――カルロとは別に、トーマス(・ランドリスバッハー/g)が病気でバンドを離れているんですよね。彼は今後どのような立場になるんでしょうか?脱退なのか、もしくは例えばアイデア出しやメンバーのサポート等、別の形でバンドに関わっていくことは考えられますか?
「トーマスは心臓の病気にかかってしまってね。日常生活を送るぶんには問題ないんだけど、もう激しい運動はできないし、メタルのドラムは辞めるべきだ…とドクターストップがかかってしまった状態なんだ。だからバンドから脱退することになるのは間違いない。とはいえカルロの脱退も決まっているし、いきなり2人も抜けるとなるとファンも混乱するだろうから、少し間を空けて発表する形にした。残念ではあるけど、トーマスも納得しているし、僕たちとしても彼の健康を第一にすべきだと思うから、仕方のないことだよね。とはいえトーマスが、僕たちのファミリーであることは変わらない。今も地元ではよく会うしね。ただクリエイティブな面については、トーマスは元々そこまでたくさん意見を出していたわけではないから、ドラマーが変わっても大きな問題にはならないと思う。それに新しいドラマーはトーマスが推薦してくれて、人間的にもプレイ的にもバンドにフィットするし、すごくよい感じなんだ。とりあえず来年ヴォーカルの件が落ち着いてから、改めて発表する予定だよ」

――今BREAKDOWN OF SANITYは基本的にツアーをやらず、ライヴは年に10本程度しかやらないそうですね。そのせいか、わざわざスイスからこの日本ツアーを観に来たファンもいるそうです。今後バンドを立て直したら、これまでと同じくらいのペースで、生活とのバランスを取って無理なく活動するのか、もっとライヴの本数を増やしたり活発になるのか、どう考えていますか?
「僕たちはそのスイスから来たらしいファンに会ってはいないんだけど、クレイジーだよね(笑)。いや、もちろんすごくありがたいことではあるよ(笑)!とはいえ今のライヴの本数とは、ヴォーカリストの交代は関係なく、仕事との兼ね合いが大きいんだ。私生活に影響が出ない範囲と考えると、これが今できる精一杯なんだよね。むしろ日本に来たのがイレギュラーだったくらい。年に1曲ずつしかリリースできていなかったのも、カルロが音楽への情熱が揺らいでいたこともあって、無理せずに作るという形になっていたしね。もし新しいヴォーカリストがバンドに新しいアイデアをたくさん持ち込んでくれるなら、今後はライヴの本数を増やすのは難しくても、曲のリリースは増やせるんじゃないかと思っているよ」

12月5日に公開された、カルロ最後の参加曲“Perfect Enemy”

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