メタルコアにおいて、今ではシンフォニックな要素のあるバンドは珍しくもなんともなくなった。が、そのスタイルに先鞭をつけたパイオニア的な存在のひとつが、オレンジ・カウンティ出身のBLEEDING THROUGH。屈強なニュースクール・ハードコアに、キーボードとともに邪悪なブラックメタルやゴスからの影響を注入したサウンドと、ドサ回りとも言える過酷なツアーの繰り返しで、強固なファンベースを作ってきた、叩き上げのバンドだ。
そんなBLEEDING THROUGHが2014年夏、実に14年ぶりに来日。SABLE HILLSが主催するFrontline Festival 2024および、UNEARTH、SKELETAL REMAINSとの3マンを行い、その実力のほどを見せつけたことも記憶に新しいが、今年に入り、7年ぶりの新作『NINE』をリリースした。メンバーも「バンドが生まれ変わったよう」「最高傑作になり得る」と自信を持つ力作になっている。
今回はBLEEDING THROUGH唯一のオリジナル・メンバーとしてバンドを引っ張るブランダン・シェパティ(vo)のインタビューが実現。ジムのオーナーであり、トレーナーでもある彼の仕事の関係上、実施まで少し時間が経ってしまったが、当日はおよそ1時間にわたって、ていねいに話をしてくれた。
Interview by MOCHI
Translation by Sachiko Yasue
――2024年の夏に、14年ぶりに来日しましたね。ブランダンはステージで涙ぐむ場面もありましたが、改めてどうでしたか?
「なんて言うか、こうして年を取ってくると、若い時よりもいろいろなことのありがたみを実感するようになるんだよね。もちろん昔もわかっているつもりだったけど、経験とともにすごく実感が伴うんだよ。世界のいろいろな国をツアーすることも、アルバムをリリースすることも、こうしてインタビューをしてもらうこともそう。たくさんの人からサポートしてもらって、エネルギーになっているんだ。まして日本という遠い国に、時間こそ空いたけどまた行けるなんて、改めてすごいことだと思う。それもあって、最近はステージに立つと胸にくるものがあってさ。それに日本は、何かに情熱を持つと、本当にすごく熱くサポートしてくれるんだよね。昔から素晴らしい国だと思っていたし、だからあんなに歓迎してもらえて、いろんな感情が抑えられなくなったんだ(笑)」
――少し振り返りをしたいのですが、ブランダンは2011年に、自分のジムであるRise Above Fitnessをオープンしましたよね。その後2012年に『THE GREAT FIRE』をリリースした際のインタビューで「自分のビジネスを始めたことで、バンドをより楽しめるようになったし、長くクリエイティブに活動するベースができた」という発言していました。でもBLEEDING THROUGHは結局2014年に解散することになりました。今、その理由を聞いてもいいでしょうか?
「当時、自分のジムをオープンして、これからビジネスとBLEEDING THROUGHと両立させていくぞ…と思っていたんだけど、いつの間にか自分の中で緊張の糸が切れたというか、燃え尽きてしまったようなところがあってね。それに他のメンバーも、私生活が変わっていったタイミングだった。例えばマルタ(・デンメル/key)は結婚してそろそろ子どもがほしいと思っていたし、それぞれ人生の新しい局面に立って、バンドへのモチベーションが揺らぎ始めていたんだ。ライヴをやっても、全員が100%楽しめていないことに、薄々気付いていたんだよね。だから一度バンドに区切りをつけて、それぞれのやるべきことをやろう。1年先でも5年先でも、それこそ10年先でも、落ち着いたときにまたやりたくなったら、いっしょに集まろう…ということになった。それで解散して、しばらく、俺ももうバンドはいいかなと思っていたんだけど、少し経つとやっぱりBLEEDING THROUGHを恋しく思う気持ちが、どんどん大きくなっていった。それに時間とともにみんなの生活も落ち着いて、また集まれるようになったから再結成(2017年)した、という感じだね」
――先日、長らく在籍したライアン・ウォンバッカー(b,vo)が脱退しましたね。健康面の理由が大きいそうですが、新しいメンバーを入れる等、今後については決まっていますか?
「BLEEDING THROUGHを解散した後、メンバーはみんな一度音楽から離れたけど、ライアンだけはLIGHT THE TORCHに参加して、バンド活動が途切れなかったんだよね。背中の痛みには前々から悩まされていたみたいなんだけど、休まなかったこともあって、なかなか身体がついていかなくなった部分もあったと思う。そのせいか、他のメンバーとはBLEEDING THROUGHへのモチベーションに差が出てきていた。今回のアルバムには参加してくれたし、いっしょに最高のアルバムが作れたと思っているけど、ライヴは身体的にもきついということで、脱退することになったんだ。もちろんライアンは今でも俺たちの家族同然だし、バンドを離れても幸せになることを心から願っている。ただライアンの存在はすごく大きかったから、代わりにパーマネントなベーシストを探すことは、今は考えていない。今は過去にもサポートしてくれたことのあるマーク(・バッタング/CEREBELLION)がいてくれるし、ほかにもサポートメンバーを入れることはあるかもしれないけど、正式なメンバーとなると、現時点では考えられないのが正直なところだね」
――新作は『NINE』というタイトルで、たしかにバンドの9枚目のアルバムではありますが、9という数字はちょっと半端ですよね(笑)。分かれ道に立っているアートワークから考えるに、バンドがこれから節目を迎えるということが表現されているんでしょうか?
「それを指摘してくれたのは、君が初めてだよ(笑)。このアルバムの出来にはすごく誇りを持っていて、今まででの最高傑作になり得るものができたと思う。バンドが新しく生まれ変わったような感覚もあったし、それを刻み付けたかったんだ。それと、たしかに9というのはキリのいい数字ではないけど(笑)、制作していた去年が結成25周年でもあったから、今の自分たちはこれなんだ、という意味でこのタイトルにした。アルバムのテーマとしては、君の言うように人生の岐路を表現していてね。実は俺には双極性の傾向があるんだけど、いつも選択の連続というか、岐路に立たされているような感覚で、それを表現したかったのもあるよ。それにアートワークは、世の中から隔絶された中を歩いていたら、どちらの道を進むのか選択を迫られているような状況だろ。この岐路は善と悪や、美しいものと醜いものみたいな感じで、相反するものの意味がある。後から振り返ると、これも1枚のアルバムに過ぎないとなるかもしれないけれど、今はすごくリフレッシュしたような感じなんだ」
――前作『LOVE WILL KILL ALL』はメロディがありつつ、ものすごく激しいアルバムでしたよね。今回は逆に激しくもメロディアスというか、要素のバランスが逆になっているように感じました。
「今回は、今までよりももっとシネマティックというか、オーケストラのような壮大なサウンドにしたかったんだ。例えばマルタはこれまでも作曲に参加していたけど、もしかしたらキーボードの音がちょっと浮いていたというか、バンドサウンドと噛み合い切っていない部分があったのではないかという気がしていた。今回はそれを見直して、すべての音を一体化させられたし、しっかりと曲の雰囲気を作ることができたと思うよ。それもあって、前作とサウンドのバランスが違うように感じたのかもしれないな」
――たしかにマルタはキーボードだけでなく、歌も積極的に披露していますね。それで音に新しくレイヤーが加わって、より重厚な音になっているというか。
「最初にどういうアルバムにしようか話し合った時、今までやらなかったことや、やりたくてもできなかったことに挑戦したいという話になった。そのなかのひとつが、マルタの歌だったんだ。彼女はすごく才能がある人だし、もっと存在感を前面に押し出したいとは、前から思っていたんだよね。まぁ俺があまりにもエネルギッシュだから、埋もれさせてしまっていた部分もあるんだけど(笑) 。それと、今メンバーはアメリカのあちこちに離れて住んでいるから、それぞれ自分で担当パートをレコーディングしたんだけど、おかげで自分自身を見つめ直すというか、深く掘り下げることで、さらに持ち味を引き出せたと思う。それも一体感に繋がったんじゃないかな」
――BLEEDING THROUGHはメンバーチェンジを多く経験してきましたが、特にギタリストの交代が多かったですよね。それでも多少作風が違えど、どのアルバムでもBLEEDING THROUGHらしさを出すには、何かやり方が?
「ギタリスト以外、ライアンも含めた俺、マルタ、デレク(・ヤングスマ/ds)のメンバーは、長いこといっしょにやってきたからね。BLEEDING THROUGHの何たるかをしっかりわかっているし、作り上げてきた音楽性にも自信がある。たからこそ、ギタリストが変わっても俺たちらしさはキープできていると思う。これまで参加したギタリストたちには、持ち味を出しつつもバンドに合わせてもらうような感じだったしね。実は今回は新しいギタリストが2人参加してくれたけど、今までとは違うというか、面白い関係なんだ。ジョン(・アーノルド/CEREBELLION)は、加入する2か月前までBLEEDING THROUGHを全然聴いたことがなかった (笑)。逆にブランドン(・リッチャー/元MOTIONLESS IN WHITEほか)は、ずっとファンとしてBLEEDING THROUGHを聴いて、影響を受けてきたんだよね。彼らなりのBLEEDING THROUGHの解釈がすごく新鮮だったし、それが俺たちとも噛み合ったんだ。このバンドの特徴はキーボードや、古参メンバーの聴いてきた音楽の影響が強いから、それが一貫性のもとになっていると思う。それとマインドとして、例えばラジオで流れやすい曲を書いて迎合するのではなく、自分たち自身、そしてファンに忠実な姿勢を保ってきたのもあるはずだよ」
――BLEEDING THROUGHはタイトルでも歌詞でも「Love」という単語がすごく多いですよね。ゴシック的な雰囲気と相まって、音もテーマもロマンティックだなとずっと思っていました。
「そうだね。俺もそう思う(笑)。歌詞を考える時、自然と失恋とか、そういったことを考えてしまいがちなんだよね。それに俺が曲を書き始めた頃、ハードコアというジャンルにおいて、愛がテーマのバンドはほぼいなかった。それで、こういうことを歌ってもいいんじゃないかと思ったのもある。恋愛に限らず愛という感情と、それにまつわる心が折れる苦しみや悲しみ、自分の弱さとどう向き合うか、そういったことを歌詞に織り込んでいった。愛というのは人生においてとても大きなもので、幸せをもたらしてくれる。でも愛のない人生を送っている人も、決して少なくない。それで苦しんでいる人もいるだろうし。自分自身を愛せるようになって、力をもらって、つらいときにどう戦っていくのか。他人と違うことも含めて、自分自身を受け入れることがテーマになっているから、自然と愛についての言葉が多くなっているんだろうな」
――変わらないといえば、ブランダンもステージでのパフォーマンスも声も、一切衰えないですよね。もちろん鍛えているのもあると思いますが、激しい音楽をやり続けるための秘訣はありますか?
「たしかに普段から身体をしっかり鍛えているのは大きいと思うし、メンタルとフィジカルの調子をある程度の状態に保つことで、パフォーマンスに集中できるように意識しているよ。同年代の人と比べても、かなりいい感じだと思う。ただ、自分だけでそれを実現するのは難しいんだよね。家族やスタッフがサポートしてくれているから、それがまた力になるし、みんなをガッカリさせないために、自分をしっかりキープすることを心掛けているんだ」
――今でこそメタルコアでもシンフォニックなスタイルのバンドはたくさんいますが、BLEEDING THROUGHが登場した時、女性のキーボードプレイヤーがいて、顔にメイクをして…というバンドはかなり珍しかったですよね。シーンに受け入れられてファンベースができるまで、大変だったのではないですか?
「まぁ、今でもシーンにフィットしきらない感覚はあるけどね(笑)。でも活動を始めたばかりの頃は、本当に同じようなバンドがいなかった。さっきの一貫性の話ともつながるけど、自分たちが信じる音楽をやり続けて、自分たちらしくあり続けたのが大きいと思う。例えば今日俺たちのライヴを初めて見た人が気に入らなくても、次のツアーで行ったときは違うかもしれない。そういう気持ちでひたすらやってきたんだ。いろんなバンドとツアーすることで、同じようなジャンルに留まらない人にアピールできたのもあった。もちろんすごく大変だったし、ライヴの数も相当重ねなければならなかった。流行と同じようなスタイルに寄せていくこともできたとは思う。でもその結果が今なんだ。ずっとブレずにいると、最終的に誰も否定できない存在になるんだよね。昔、まだ駆け出しのMOTIONLESS IN WHITEとツアーしたとき…観客は彼らを見てもまったく盛り上がらず、みんな床に座ったままみたいな感じだった。それでメンバーもすごく落ち込んでいたんだけど、ちゃんと続ければわかってくれる人がいるはずだ、と励ましたんだ。それで彼らは今、すごくビッグになっているだろ?AVENGED SEVENFOLDも同じだったよ。お互い駆け出しだった時、客のウケはすごく悪かった。でも、とにかくめげずに続けていくことが大事なんだ」
――いわゆるメタルコアという音楽は、KILLSWITCH ENGAGEやUNEARTH等を輩出したマサチューセッツが一大産地と見られがちですよね。でもBLEEDING THROUGHの出身地であるカリフォルニアのオレンジ・カウンティは、AVENGED SEVENFOLDやATREYU、EIGHTEEN VISIONSやTHROWDOWNといったバンドがいました。ブランダンから見て、オレンジ・カウンティのシーンはどんなものですか?
「あくまで俺の見解だし、バンドによって多少は違うとは思うけど…いわゆるメタルコアというのは、東のマサチューセッツと西のオレンジ・カウンティの2か所が中心地だったと思う。マサチューセッツにはAFTeR SHOCKやOVERCASTが早くから活動していたし、そこからKILLSWITCH ENGAGEとかに発展したよね。東西の大きな違いとしては、東側は古典的なメタルの影響が強いバンドが多いと思う。一方で西側のバンドは、ハードコアの要素とメロディックな要素が多い傾向にある。そのせいか、東側の連中は髪が長くて、俺たちは短髪がなんだ(笑)」
――西海岸というと、メロディックなパンクロックのイメージの方が強いですよね。そういったことも関係しているんでしょうか?
「たしかに。俺自身もFAT WRECK CHORDSや初期のEPITAPH RECORDSのバンドをたくさん聴いてきたから、無視できない要素だと思う。PENNYWISEやBAD RELIGION、NOFXなんかの影響は確実にあるだろうね。それと、こっちは東よりも日照時間が長いから、もうちょっとハッピーな人間が多いんじゃないかな(笑)」
――ブランダンはBLEEDING THROUGHのほかにもバンドやプロジェクトをやったことがあるし、今はジムのオーナーという側面もあります。いろいろと紆余曲折がありつつも、BLEEDING THROUGHにこだわり続ける理由はなんでしょうか?
「正直、このバンドでこういった活動ができるなんて、信じられない部分もある。いろんな国をツアーしてたくさんの友達ができて、日本にUNEARTHといっしょに行けたし、こうして日本からインタビューのオファーももらえた。自分たちで頑張った結果でもあると自負しつつ、本当に恵まれているとも思うよ。いい時もあれば悪い時もあったけど、一番自分らしくいられるのがこのバンドだし、ほかのキャリアも全部、BLEEDING THROUGHから始まったんだよね。だから俺の自分の人生で一番大事なものが、BLEEDING THROUGHなんだ」
――長く日本で読めるインタビューがなかったので、昔話も聞けてよかったです。今日はありがとうございました。
「こちらこそありがとう。実は2026年にまた日本に行けるよう、プロモーターと話をしているところなんだ。まだ具体的なことは言えないけど、絶対に実現させたいと思っているよ。次に日本に行ったら、今度はちゃんと顔を突き合わせてインタビューしてほしいな(笑)」
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